第10話
仲良いな、コイツら。
暗黒にじゃれ付く鳥取を涅槃仏の体勢でぼんやりと見守っている。
平和過ぎてこのまま入滅してしまいそうなので、暗黒に気になっていた事を尋ねる事にした。
「なぁ暗黒よ、なんでお前が地球の、日本の男子学生の宿業を知ってんの?」
楽しいひと時を邪魔するなと、煩わしそうな顔で暗黒がこっちを向く。
その拍子に暗黒の顔に纏わりついていた鳥取が吹き飛ぶ。
「ああ、召喚された折に主の知識がある程度流れてくるのだ。
我々は種族が違う、常識はおろか思考等も全く異なる故、知識をすり合わさねば主の指示を理解できまい?」
なるほど確かに……誰が考えたのか良く出来てる。頭の良い奴は居るもんだなぁと感心した。
「お?戻ってきおったぞ」
暗黒が湖に顔を向ける。ちょっと首を動かしただけで鳥取は吹き飛び、大気が震えた。
ビキッと音がして、ガラスの様な亀裂が湖上の空間に走る。何度も音が響き、その度に亀裂が激しくなっていった。
あ、割れると思った瞬間、バリンと粉々に砕けて大きな穴が開いた。
そして、神滅龍が現れた。
討ち入りの時はそれどころでは無かったが、改めて見るとデカくて長くて太い。
暗黒で慣れたと思っていたが、甘かった。巨大というだけで恐怖を助長される。
「初めましてマスター。管理者気取りの神族共を根絶やして参りましたよ。第二階位の者も居たので、それなりに手応えがあり楽しめました」
やっぱり罪悪感とか無いんだな。魔物だから当然か……それにしても暗黒の奴より若いのかな?
声の感じが好青年ぽい。好青年過ぎて逆に、実は黒幕でした的なイメージがする。
「お、おう、ご苦労様。俺は宮田。ダンジョンマスターだ。お前の主で良い?」
やっぱり心配で訊いてしまう。だってコイツら神々し過ぎるんだもの。
「えぇ、勿論ですよマスター。末永くよろしくお願いいたします。ところで、ノンビリしていて良いのですか?
そろそろこの世界、消えますよ?その前にポイントに還元して別の世界に行きましょう」
大変だ。コイツが何を言ってるのかさっぱり解らん。
ニコリとステキな笑みを浮かべる俺を見て暗黒が溜息を吐く。
「我がこの世界のヒト種を全て喰らい、神滅龍がこの世界の管理者共を全て喰らったのだ。
世界を維持する者が居なくなった故に、崩壊すると言う事だ。さっさとコアを出せ。出せば分かる」
暗黒先生の教えに従い、コンビニ袋からゴソゴソとコアを取り出す。
暗黒と神滅が揃って呆れ顔を浮かべるが――――
目指せ!最悪のダンジョンマスター!
おめでとう宮田。あなたはダンジョンマスターに……
出たよまた。コアの奴は、ほんと忘れっぽいなぁ。バックアップの電池が切れているのかも知れない。
今はそれどころではないので、チュートリアルを開始しない、を選ぶ。
俺はノーと言える日本人だ。あ、元日本人だ。
「あの……マスター?コアをその様な粗末な袋に入れるのはどうかと思いますよ。
あなたにとって、心臓と同格の存在なのです。もっと丁寧に扱わないと……」
「あー……入れ物がコンビニ袋しかなくてなぁ……やっぱり、たいせつな物だったのか……薄々そんな気はしていたよ。
スマンかったなぁコアよ。もう間接照明扱いは止めるから、今までの事は気軽に許して欲しい。あ、鳥取に食わせたら鳥取兼コアにならんかな?」
魔物たちが溜息を吐いた。
気を取り直して操作パネルを見る。
世界及び管理界を滅ぼしました。
掌握したエネルギーをポイントに変換しますか?
はい いいえ
あぁ、神滅が言っていた事はこれか。魔物たちに一応確認して、‘’はい‘’を選んだ。
変換中と表示され、結構長いゲージが現れる。
ゲージの下に猿が現れ、お手玉を始める。
おお、待機中のユーザーを退屈させない様に工夫しているんだな。
無言で猿を見つめる。
ゲージが止まると猿も止まる。ゲージが進むと猿も動く。
この世に存在するモノは、大なり小なり意味がある。
だが、この猿には意味が無い。無価値だ。
何故この様な悲しい猿が生み出されたのだろうか。
お手玉が出来る位だ、それ相応の知能がこの猿にもあるはず。
自分の存在の無意味さを知っているのだろうか。
この猿にも家族が居るだろうに……出勤する前、子供に「父さん、今日も意味の無いお手玉をしてくるよ」とでも言うのか……いや、仕事の事は子供には内緒にしているのかも知れない。時に子供は残酷な事を平気で言うしな。
そもそも猿は給料を貰っているのか?だとしたら猿に賃金を払ってる奴が――――
ピーと操作パネルからポイント変換修了のアラームが鳴り、我に返る。
あれ?終わった?結構時間かかるかと思ってたけど、あっという間だったな。
「220兆?」
変換ポイントはアホみたいな額になっていた。世界滅亡で100兆、管理界滅亡で120兆らしい。
更にプレゼントボックスに1800と表示されているので、神滅が管理界で暴れた分も増える。
現実味の無い額、しかも自分で稼いだ実感のないポイントなので、どうにも他人事の様に思える。
とりあえずプレゼントを開封する。
前半の通知は暗黒分の残りだった。
パラメキア帝国とやらの滅亡に関する内容で占められ、合計で1千億pほど。
暗黒の奴はトータルで、100兆4千億pほど稼いだ事になる。
神滅分の最初の通知は女神スカビオーサを討伐と記されている。
あの別嬪だけどちょっと残念な女神さまかな、1千億pか……
神族は人数が少ないがポイントは高い様で、神滅の奴はトータルで、120兆6千億pほど稼いでいる。
「暗黒、そして神滅。お前たちのお蔭で所持ポイントがバカみたいに増えた。
そして鳥取、お前が居たからここまで来れた。皆、ありがとう。
このアホみたいなポイントで、でっかいダンジョンを創るよ」
俺は仲間達に笑いかけ、仲間達も笑っている様だった。
「ん?何?もうそろそろヤバイ?何が?」
鳥取が伸びたり縮んだりして、ヤバイと俺に訴える。
「ああ、確かにもう時間のようですね。マスター、コアに世界移動の指示を」
「急いだほうが良いぞ。このままでは主だけ死ぬ」
俺は慌てて操作パネルを見る。
新たな世界へ5千億pで移動可能です。移動しますか?
はい いいえ
俺はでっかいダンジョンを創る為、ニヤリと笑って‘’はい‘’のボタンを迷いなく押した。
――第一部完――
四畳半のダンジョンマスター どんぐり @nofriends
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