第7話

「実は俺、町とか作るゲームが昔から大好きなんだよ。

そこに住む人たちの動線を考えて施設を建てたり、お洒落な感じにしたりさ。

すげー色々やったんだ。遊園地とかも作ったな。

ジェットコースターのコースをデザインしたり、従業員の賃金を下げたり、楽しかったなぁ。


 だからな、ダンジョンマスターになって、ちょっと期待していたんだ。

罠とか宝箱を設置したり、休憩所作ったりしてな。ちゃんと女性に配慮したトイレとかも考えてたんだぞ。

それがこんな事になるとはなぁ……


 鳥取、ちゃんと聞いてる?でな、洞窟は生き埋めになったりして危ないじゃん?

今度は塔にしようかと思うんだ。どう?塔。60階くらいでさ。

プロジェクト・バベルって感じでどうよ。

因みに前回の洞窟はプロジェクト・ラビリンスだったんだけど、開始する前に破綻したよ。ハハハ」


 新天地を求めて、現在森の中をウロウロしている。

似たような景色で暇を持て余した俺は、鳥取相手に今後の展望を語っていた。


「ちょっと休憩しよか」


 大木の根がせり出して良い感じに座れる場所を発見したので、へこたれた俺はすぐさま一服と洒落こんだ。


「ん?散歩?良いよ、あまり遠くに行くなよ?呼んだら帰って来いよ?」


 木の幹にもたれながら、周りを見回す。

天気が良ければ絶好の森林浴スポットだろうが、天気が悪いので薄暗く、富士の樹海の様に異様なプレッシャーを感じる。

魔物でも出てきそうな雰囲気なのだが、魔物どころか鳥や動物、虫すらも居らず周囲は静寂に包まれている。異世界の森として、こんなに安全で良いのかと正直思う。


 頭を空っぽにしてノンビリした時間を過ごしていると、鳥取が戻ってきた。

もう少しこのまま黄昏ていたかったが、不本意ながら探索を再開した。


 もうここで良いじゃんと、何度も妥協しそうになりながらフラフラ森の中を徘徊していると、開けた場所に出た。


 そこそこの大きさの湖が近くにあり、休日には舟遊びも出来そうで、ソロキャンデビューには絶好のロケーションだ。鳥取も喜んでいるに違いない。


 コンビニ袋からコアの奴を取り出し、設置場所を決める。

地面に直接置くのは流石にはばかられるので、トイレットペーパーの芯でも有れば地面に立てて台座にするのだが……どうしたもんかと悩んでいると、コアの奴浮かび上がりやがった!

ちょっと驚いたけど、よく考えたらコイツ最初から浮いてたな。


 気を取り直して――――


「いいか?コアよ、先程の会話を聞いていたと思うが、今回は塔だぞ?

ブリューゲルのバベルの塔をお手本にしようと思っているんだ。そのつもりで頼む。

上手く出来たら他のコア達に自慢できるぞ」


 操作パネルを久しぶりに呼び出し、チュートリアルを開始する。

前回と同様に画面が切り替わり、その1クリアになった。

さくっと水と5pをゲットしてやろうと、プレゼントアイコンに目を向けて、驚いた。


 通知が2500件を超えている……しかも呆然としている間にも勢いよく増え続け、3000件に届きそうだ。


 噂に聞くバズったって奴なのか。バズってなんだ?バズライトイヤーと関係が?

訳の分からない状況に、意識が無限の彼方へ行ってしまいそうになるが、覚悟を決めてプレゼントボックスを開く。


 最初の2件は前回と同じ、水と5pだ。ガサっとコンビニ袋が落ちる音が後ろから聞こえた。

驚かす為に必ず背後に現れるんだなと、イラっとする。

しかし、その後の大量の通知メールが笑って済ませる内容ではなかった。


 急いでチュートリアル その2もクリアする。


 コアの奴は俺の意思を汲んでくれた様で、見事な円形の部屋が出来上がった。

俺は壁際に座り込んで、改めて通知内容を見る。


 ○○を殺しました。○○の町を壊滅させました。○○国を滅ぼしました。ダンジョンマスター○○を倒しました。勇者○○のパーティを全滅させました。


 暗黒竜、あの黒い奴が大暴れしている訳だ。当然、今も。


 ゆっくりと身体を倒して仰向けになる。


 現地人に関しては全て伝聞の情報なんだよな。一人も遭遇していない。

実際に出会ってから俺のスタンスを決めようと思っていた。


 一応悪の陣営?に組してはいるが、現地人が関わってこないなら、このまま‘’宮田と愉快な仲間達‘’って感じで、キャッキャウフフと過ごすのも悪くないって思ってたんだよなぁ。

覚悟完了する前に、覚悟極まった状況になってしまった。


「あぁーもう!暗黒の奴、来て早々はっちゃけ過ぎだろ!鳥取!ちょっと行ってアイツの逆鱗溶かしてやれ!」


 無茶言うなって感じで鳥取がこっちを見る。


「兄貴は間違っていない?敵は倒す、当然の事?

いや、まぁ分るけどさ、現地人の事を何も知らないから……ん?兄貴?兄貴って呼んでんの?暗黒を?

お前らそんな気安い間柄だったの?」


 俺の知らない間に魔物同士交流していたらしい。


「ああ、ちゃんと褒めるさ。怒ったりしなよ。それにほら、コレ見てみろよ。現在のポイント、2千億p超えてるんだぜ。こうしている間もギュンギュン増えてるし……ちょっと怖いわ」


 通知を見る。

勇者一人で100億pか……あ、300億pの勇者も居る。強敵であろうに、なんとまぁ……

他にも錚々たる肩書の人物が続く。英雄や騎士団長、守護者ってのもある。

村や町の壊滅ボーナス、どこそこの王族殺害ボーナスに、国滅亡ボーナス……

その中で気になるダンジョンマスター殺害の通知を開く


 ダンジョンマスター・地獄戦士★魔王を倒しました。

彼の全保有ポイント 32pを奪いました。


 地獄戦士★魔王くん、32pって……苦労してたんだろうな……あ、ヘルズ・ウォリアーって読むのね。

しかし、ダンマスも対象になってるのか。同胞だと思ってたんだけど、どうなんだろう。

怒られたりしないのだろうか。


 必要な情報が全くなく、全てが手探りの現状、正直イライラする。

勝手にダンマスなんていう種族にされて、説明もなく放り出され……気付いたら大量虐殺者の黒幕だ。


 そもそも暗黒竜、あんな最終兵器みたいな奴がガチャで出てくるか?

この決まった道筋を歩かされてる感じ、少なくともこんな状況にしてくれた奴が居る訳だ。

神的な存在なのか……もうどうすりゃいいんだ……


 チラッと鳥取を見る。

そういえば、コイツはさっき敵を倒すのは当然だと言っていた。

俺は鳥取にヒト種を倒そうぜ、なんて言った事は無い。当然暗黒にも。


 つまり、アイツらヒト種を敵だと認識してるんだよな。

それなら……俺もそのつもりで動こうか。

実際、鳥取が誰かと戦っていたら、相手が誰であろうと俺は鳥取に手を貸すだろう。


 大量虐殺の件でナーバスになっていた様で、ダラダラと同じことを何度も賢しらに考えている事に気付いた。

フッと知らぬ間に張っていた肩の力を抜く。


 俺は俺の出来る事をやろう。


「鳥取!チュートリアルを進めるぞ!新たな仲間を召喚する!」

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