第6話
「あ、鳥取、おはよう。いやぁびっくりしたなぁ。死ぬかと思ったよ。お前痛いところないか?」
短期間に何度も気絶したんだ。覚醒後の対応も慣れたものさ。俺は元気良く目覚めの挨拶を鳥取にした。
ホント何度目だ、酷い目にあうのは。厄年半端ないな。
厄払いをちゃんとしてもらうべきだったよ。小銭をケチるんじゃなかった。
それでも外に出られた事は喜ばしく、少し焦げ臭い空気を大きく吸い込む。
空を見上げると、どす黒い雲で覆われており良い天気とは言えないが、外に出られた事で鳥取も喜んでいる様に見えなくもない。
周りを見ると、元は長閑な景色だったのかもしれないが、今は土砂で木々がなぎ倒され、地面も荒れに荒れており見る影もない。
立ち上がり大きく伸びをする、コキコキと背骨が鳴り心地良い。と、地平線の向こう、海だか湖だかを挟んだ対岸は更にどす黒い雲が立ち込め、その雲が所々チカチカと不定期に光っているのが見えた。地面もなにやら真っ赤に燃えて煙も昇っている様な……
光っているのは雷か?燃えているのは火焔山みたいな土地なのかしら。火を消したくば芭蕉扇を持って来いや!とか……フフフ
異世界って期待していた程、綺麗な世界じゃないのかもなぁ……天気も薄気味悪いし、台風でも来そうな不穏な感じ?そういう季節なのかしら。
異世界の天候に想いを馳せていると、鳥取がヌトヌトと移動を始めた。どうやら俺達が吹き飛ばされた謎の爆発、その爆心地に向かおうとしている様だ。
「あーそうだな。爆心地、見に行ってみるか。よし、鳥取、俺の背に張り付け。おんぶしてやろう。素肌には触れるなよ?触れて良いのはジャージだけだ」
俺の敏感肌は鳥取に触れると、溶けはしないがとても痛い。
だけどこの謎ジャージ、触れても溶けない防御力を誇る一品だった。吹き飛ばされて鳥取を掴んだ時に気が付いたのだ。
これで鈍くさい鳥取と一緒に移動する時、密かに懸念していた事柄が解消された。
爆心地まで4~500m位か、よく考えたらこの距離を暗黒流れ星の様に吹き飛ばされたって事になる。ホント生きてて良かった……
爆心地の外縁部に到着。直径2~300m程のクレーターになっている。
埋まっていた不発弾でも爆発したのかと思っていたが、どうやら隕石的な奴が落ちてきて地中深くで爆発。その衝撃で俺達が吹き飛ばされたって事になるのかな。専門家じゃないので適当だけど……
クレーター内部は所々赤熱化しており、今もヌラヌラと光っている部分が多々ある。
ガラス化している部分も有り、もう少し着弾場所がズレていたら、地中に埋まっていた俺達も男坂を登る事になっていただろう。
地面のえぐれ具合から飛んできたのはこっちかな?と、雑な予想と共に振り返ると、対岸の火焔山?の方向だった。
ひょっとして、ここからは見えないけど、ほんとに火山があるのか?それが噴火して噴石が飛んできた?
じゃあ、今あそこは大惨事?なんてこった、まさに対岸の火事だ!
俺が金持ちなら、惜しみなく財をばらまき復興に役立ててもらうのだが、今の俺は裸足の無一文、しかもダンマスなのです。
今度募金しているのを見かけたらちゃんとします。と、心に刻んだ。
また噴石が飛んで来たら、俺の盾となった鳥取が死んでしまうので、さっさとここから離れよう。
「鳥取、移動しようぜ。こんな瓦礫とゴミしかない場所に長居は無用だろう」
いつの間にか俺の背から降りて周辺をウロウロしていた鳥取に声を掛ける。
しかし、アイツ何やってるんだ?穴掘ってるみたいだが……まさか、石油?
石油王となった鳥取からおこぼれが貰えるかもしれない!
ウキウキしながら近づくと、丁度うす汚れたピンポン玉を掘り出したところだった。
「あ!コアの奴!すっかり忘れていた!すまん!そうかぁ、お前も無事だったか!良かったなぁ!」
鳥取が掘り当てたのは、俺の半身、ダンジョンコアだった。そういや地中で探してくれって頼んだな。
「素晴らしい働きだ鳥取よ。ホントお前が居てくれてよかった。マジで。ありがとなぁ。この調子で頼むよ」
もう鳥取がダンジョンマスターをやればいいのに。そう思いながらコアの奴を摘まみ上げる。
不意に操作パネルが出現する。
目指せ!最悪のダンジョンマスター!
おめでとう宮田。あなたはダンジョンマスターに成り下がりました。
・
中略
・
さぁ、さっさと始めましょう。どうせ他にする事もないのです。
チュートリアルを始めます。
はい いいえ
冒険の書が……消えている?……まさか……やり直し……なのか?
あの大混乱の最中、とてもコアの奴のリセットボタンを押しながら電源を切る暇はなかった。
ま……まぁ……データが消える悲しみは何度も、何度も、乗り越えている。
心機一転やり直すか。次はもっと上手くやってやろう。
とりあえず、色々縁起の悪いこの場でダンジョンは創りたくない。
クレーターを再利用する考えも浮かんだが、また何か飛んできて大爆発でもされたら困るので、俺に相応しい俺の場所を探す事にした。
コアの奴をコンビニ袋に入れ、鳥取を背負った俺はトボトボと歩き出した。
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