第5話

 あ……あぁ……なんとか……生きてるのか?……

瓦礫に押しつぶされて動く事は出来ないが、何故か怪我は無さそうで、とても良かった。


 鳥取は大丈夫だろうか。スライムって奴は身体を一気に潰されたりしたらすぐ死にそうだものなぁ。

折角部屋の隅っこで待機が出来るようになったのに……


 あとダンジョンコア。

作業を全部操作パネルで出来るから、最近影がどんどん薄くなってすっかり忘れていた。

今回の様にダンジョンが破壊されそうな時は、ダンマスとして最優先で保護せにゃならんのではないだろうか。


 ネットのダンジョン物の小説では、コアが破壊されたらダンマスは死ぬって設定が多かったし。

俺が今元気ハツラツなので、コアの奴も大丈夫だと思うが……


 とりあえず頼みの綱は操作パネルだ。アレがあればなんとか出来るだろう、と思っていたのだが呼び出せない。コアから離れているから使えないと言う事はないと思う。

ダンジョンが広くなると、コアから遠く離れて作業をすることもあるだろう。

その為の操作パネルだと思うので、今はスペースがないから呼び出せないのではないかと思う。

スペースを作る為にはどうするか……


「おーい、コア―、とっとりー、黒いやつー、俺はここだぞー。助けてくれー」


 顔の周辺の瓦礫を取り除くしかないのだが、面倒だったので恥も外聞もなく仲間に助けを求めてみた。

身体が圧迫されて大声が出せないが、出来うる限りの声を何度も何度も張り上げる。

ついでに、手足をモソモソ動かしてスペースを作り出せるよう頑張ってみる。


 しばらくジタバタしていると、不意に右手がなんか柔らかい物に触れる。

その瞬間、歓喜に包まれると同時に右手に激痛が走る。


「いぎゃぁー!鳥取!痛い!痛い!ホントに痛い!俺に触れるな!頼むから!ちょっと離れて!良いからちょっと離れて!離れろって!」


 お利口な鳥取がなんとか離れてくれて一息つく。まだ右手はズキズキと凄く痛むが気軽に許そう。


「鳥取、よく無事だったな。来てくれて助かりそうだよ。このまま生きた化石になる所だった」


 鳥取は瓦礫の隙間をにゅるっと通って俺の目の前に来る。

あぁ、こうやってここまで移動してきたんだな。お利口さんだな鳥取は。


「この辺の瓦礫を消化できるか?俺の顔周辺を溶かして欲しいんだ。俺の顔じゃなくて、俺の顔の、周辺にある瓦礫を溶かす。OK?瓦礫だぞ?俺の顔じゃなくて瓦礫」


 作業に取り掛かる鳥取をぼんやり眺めながら、打開策を練る。


 1.ダンジョンクリエイト。

俺を中心に四畳半の部屋ができるのが理想だが、恐らくコアを中心にできると思われる。

黒い奴に弾き飛ばされた時、俺はコアの前に立っていた。

だからコアの奴も近くに埋もれている可能性が高いと思うので、運が良ければコア中心の部屋の中に俺と鳥取も含まれるかもしれない。

希望的観測ばかりで、あまり期待できないな。そもそも何度もダンジョンを創れるのかも分からないしなぁ……


 2.今の状態もダンジョンであるとしたら?

土の中にダンジョンコアとダンジョンマスターが居るのなら、それってダンジョンなのでは?

宮田の奴ってぇ自分のダンジョンで瓦礫に埋もれて死に掛けてるらしいよ!とクラスの皆に馬鹿にされる状態だとしても、それなら穴を掘り進める事が可能だと思う。

操作パネルから出来ると信じたい。あと、全く役に立ってないチュートリアルに関して、運営にバッテン荒川と共に苦情メールを送ってやる。絶対だ。


 3.メール

苦情メールで思いついたが、運営に現状を訴えて助けて貰う。

保護の会と銘打っているからには保護してくれるのではないか。

関わりたくないので、全く気が進まないが……意外と良いかもしれない。


 4.鳥取強化

ポイントを全部つぎ込んで鳥取の消化能力を強化させる。

追加ポイントをどれだけ搾り取られるのか分からないし、強化できても地上までの距離が分からないので時間が掛かる。でも、この案が一番期待できると思う。

色々頑張ってくれている鳥取をネームドにしてやりたいってのもあるな。


 5.諦める

このまま鳥取と死ぬまで過ごす。

そのうちマンションの基礎工事とかで、現地人が俺を掘り起こしてくれるかもしれない。

掘り起こされた後に目を抉られるかも知れないが……


 他には……あー……4番の案で良いじゃないかと、脳内の俺が囁くせいで他の案が出なくなったな……


「あ!鳥取、その辺崩れそうだぞ。慎重に行け。慎重に」


 ん?今気づいたが、光源も無いのに周囲が結構見える……俺は鳥目気味だったのだが、ダンマス効果なのかな。

身体も頑丈になっているし、生理現象もない……のどの渇きと空腹具合も、有ったら食べるけど、もうちょっと後でいいかな?って感じがずーっと続いているんだよなぁ……ダンジョンマスターねぇ……


 うーん、そろそろか?これくらいスペースがあれば……


「出た!操作パネル出たよ!ありがとう鳥取!休憩だ、休憩しろ。ゆっくり休んでくれ。お前はよくやった!」


 パネルから漏れ出る光で目をやられそうになったので、おやすみモードに切り替えた後、メニューをじっくりと調べる。


 1.ダメだった。流石にダンジョンを創る時はマスターがコアの側に居る必要がある。


 2.今はダメ。コアにポイントが蓄積されていれば、穴掘ったりはできた。コアに触れないとポイントの蓄積はできない。所有しているポイントとコアのポイントは別カウントってのが意地悪だ。


 3.保護の会と関わりたくないので後回し。メールは送れそうなので最後の手段となる。


 4.今から試す


 あぁ……もう!目線での文字入力が難しい……がぁ!イライラする!


「なぁ鳥取、お前の名前、豚トロで良い?あ、ダメ?そうか」


 予測変換が積極的に仕事をするせいで入力に手間取ってしまったが、再設定の追加料金と名付け代を差っ引いた、全力の8pをつぎ込んで鳥取の消化能力を底上げする。

JRPG的な外見にしようかとか、かしこさも上げようかとも思ったが、今の微妙な感じが俺の心の支えになっているので次の機会にした。

一通り見直して……よし、決定っと。


 現在ダンジョンコアとの接続がされていません。再接続の後、もう一度お試しください。


「ド畜生がぁあああ!またか!またこれか!いつもこれだ!ド腐れがぁああああ!」


 長々としたり顔で考察していた事、全部無駄じゃねぇか!これ、メールもダメっぽいな。

試しに保護の会に『死ね』と書いたメールを送ってみるが、先程と同じ文章が表示されてダメだった。


 マズイ。答えは5番なのか……否、コアだ……コアがあれば……


「なぁ鳥取、コアの奴の場所わかる?コアが居ないと俺達このまま――――」


 ズンッと大地が揺れた。


 なんだ?と思った瞬間、激しい炸裂音が鳴り響き、凄まじい衝撃で土砂と共に俺と鳥取は空に投げ出された。

空中散歩を楽しんでいる様な鳥取を慌てて掴んで抱きしめる。

自分が叫び声を上げているのかも分からない。上も下も分からない。


 共に跳ね飛ばされた土砂が、ガシガシと身体に当たる痛みに耐えながらくるくると中を舞う。


 地面に叩きつけられる前に、俺の意識は無くなった。

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