第3話

 へー……おぉ!凄い!……うわ!こりゃ高価いわ……あーコイツも良いな……


 え?こんな奴も呼べるの?……すげぇ、コイツ絶対強いわ……


 俺は今寝転んでディスプレイ、否、色々出来るから操作パネルとしようか。

それに表示されている魔物リストを眺めながら、今後に想いを馳せている。

今現在、俺が召喚できる魔物はスライムしかいなかったのだが、リストには古今東西の魔物、悪魔、妖精、妖怪等、数えきれない程の名前が並んでいた。


 名前と共に画像も表示される親切設計で、見ているだけで楽しめる。

最初は‘’あ‘’から順番に見ていたのだが、検索窓があることに気が付き、思いついた魔物の名前を入力してはニヤニヤと眺めていた。


 そして……とある魔物に意識を全て持って行かれる。


 サキュバス


 ステキな魔物の代表格。立派なダンマスになる為にも是非彼女には副官として、公私ともにサポートしてもらいたい。

できれば複数呼び出し、側近衆として公私ともにサポートしてもらいたい。

脳内を咲き乱れるピンクのお花畑に浸食されながら、震える指先でサキュバスを選ぶ。


 2億5千万P


 脳内のお花畑が一気に萎れていくのを感じながら現在の保有ポイントを確認する。


 10P


 確認する前から判ってはいたが、何度見ても10pしか持っていない。

もしかしたらと期待を込めて、グレーに反転表示されている召喚ボタンを何度も押してみるが、まぁ当然の事ながら何も起こらなかった。


 ごろんと床に大の字に寝転がる。

ポイントの稼ぎ方は今のところ明言されていないが、想像はつく。

ヒト種族とやらを殺すことでポイントが入るのだろう。

それで得たポイントでサキュバスを召喚し、俺のほとばしるリビドーをぶつけるってのは、人としてどうなのか……今は亡き両親に顔向けできるのか?

と、脳内で善い俺が囁く。


 でも、俺はもう人間じゃないみたいだしなぁ……物騒な世界に足を踏み込んだ様だし、少々ピンクのお花畑で特殊イベントを発生させても良いじゃないか。

ダンマスとして魔物を召喚するのは当然の事。優秀な魔物を側近として公私ともにサポートしてもらうのも至極当然。その魔物が女性だったら俺のガッツが石松になるのは必然じゃないか。

と、脳内で俺が囁く。


 脳内の俺達、良い事言うなぁ……と聞き流しながら、未練がましくサキュバスの画像を眺める。

そこで気付いた。気付いてしまった。


 カスタマイズ


 ポイントを追加する事によって、得意属性や弱点属性、その魔物自体の特性等を設定出来るようになる。

スライムを例にすると、無個性の奴を毒スライムやメタルスライムへと変化させられる。

その上で更なるポイントをお布施すれば、名付けが開放され、ネームドとして外見や性格、好きな食べ物、カッコ良いと思うものまで自由に選べ、オンリーワンの魔物が召喚可能となる。

通常召喚したノーマル魔物も、少し色を付けた追加料金を払う事で後からネームドに出来るので安心だ。


 どうやら開発者はこのシステムを俺の為に実装してくれた様だな。


「こいつぁ、忙しくなってきやがった!」


 俺はペットボトルのおいしい水を飲み干し、ラベルを剥がした後、薄く笑みを浮かべて握りつぶした。






「フ……フフフ……フフフフッ……ック……ククク……やべぇな……こりゃすげぇ。フフ……信じられんくらい……嫌なサキュバスが出来た……フフフ……」


 薄暗い四畳半の部屋で操作パネルから溢れる、あまり眼に優しくない光に照らされている俺は、クスクスと笑いながら、少しでも今までの時間が無駄では無かった事を証明する為に、良かった事を必死で探していた。


 最初は普通に好みの女性をメイキングする為にアレコレやっていた。

手間も時間もかなり必要としたが、設定のコツや技術が驚くほど向上し、満足のいくキャラメイクが出来るようになった。

寧々ちゃん、君の設定は忘れない。必ず君を取り戻す。285億p、借金してでも稼いでやる。


 楽しくなった俺はその後、ゲームやアニメ、漫画等のキャラを再現する事に全力を傾ける。

実在の女優やモデル、アイドルなども本物さながらに再現できた。


 それなのに、画面にはとても嫌な感じのサキュバスが表示されている。

名前はバッテン荒川。

好きな食べ物は肉と飯。身長2mで凄い福耳がチャームポイントのコケティッシュな人気者だ。

通常の3倍のスピードでそばを啜り、汁を零したときは「ええぃっ」と苛立ちの声をあげる。

力は小さな女の子の2倍。赤ん坊なら一撃で倒せるぞ。


 180億か……コイツはいつかダンマス保護の会に送り込んでやろう。

せいぜい俺が真面目に働かない事を祈っておくがいいさ。


 さて、さっさとクエストをクリアして話を進めようか。


 画面には古き良きファンタジーのスライムが表示されている。

でろーんとした本来の強い方のスライムだ。

しかしこの四畳半の部屋に、こんなのがいたらちょっとアレなんで、追加のポイントを支払いネームド化、JRPG的な婦女子にも人気のスライムとして、ふれあいコーナーとかで小銭を稼いでもらいたい。

初めての召喚だし、コイツとは長い付き合いになるだろうからな。


 名前は鳥取。

行った事の無い県名にした。見た目もスライムと聞いたら思い浮かぶ青い奴そのもので、マスコットとしての活躍が既に約束されている。

一通り見直し、不備がない事を確認し、コストが3pから10pに値上がりしている事に気付いて怯んでしまう。

全財産……くぅぅ……それでも……折角設定した時間を無駄にしない為にも!


「ポチっとな」


 チュートリアルではカスタマイズした魔物を召喚する事はできません。


 潰してあるペットボトルを、更にぺったんこに踏み潰す事で怒りを鎮める。

裸足で踏んだ為にけっこう足の裏が痛くて後悔したが、気を取り直してドロッとした奴を召喚する。


 ぶわっと部屋の中心に魔法陣が広がる。複雑な模様でカッコいい。

ちかちかとコアの奴が明滅し始める。もとから薄暗いので見てなかったら気付かない。

魔法陣からぶっとい光の柱が立ち上る。天井が低いので迫力が半減している。

操作パネルから軽快なミュージックが流れ始める。キャラメイク中に聴いていた、ふーみんの『だっこしてチョ』だ。


「しまった!」


 ノルマ達成時のファンファーレが気に障るので、なんとか停止できないかと設定をいじっている時に、ミュージックの項目に気が付いた。

総楽曲数1億曲以上の中から好きな曲を選べるとの売り文句。

キャラメイクに忙しかったので、あなたへのおすすめコーナーを垂れ流していたのだった。


 召喚時にはそれっぽい曲が流れる様に後で設定しよう、と思っていたことを忘れていた。

自分が忘れっぽい事を忘れていたよ。

小学生の時、俺に忘れ物の帝王という二つ名をつけ、その後の俺の地位に多大な影響を与えた、美人で優しいのに俺にだけは当たりの強かった大谷先生を思い出しながら、設定をいじってミュージックをオフにする。

くそぅ、初召喚が台無しだ。後でちゃんとした曲を選ぼう。


 召喚はいつの間にか終わっており、俺は魔物の登場シーンを見逃した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年10月4日 21:00
2024年10月5日 21:00
2024年10月6日 21:00

四畳半のダンジョンマスター どんぐり @nofriends

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ