第30話
「気にすんじゃねえよ。つーかあいつ、俺の歴代彼女の事何も知らねえくせにな」
城崎は雪乃を慰めるようにポンポンと頭を叩いた。
そして、一也の忘れていった保健体育の教科書を覗き込んだ。
「はあー、金玉とか書いてるページか。あいつもまだガキだな」
城崎は肩をすくめた。
「まあ、覚えがあるぜ。こういうので騒いでた頃。まあ男子はそういうもんだからな」
「まあ、普通そうなんですよね。それなのに私はつい余計な説教を……」
雪乃はガックリと項垂れた。
「楓は、このページ、何だとおもいます?」
雪乃はふと城崎にたずねた。
城崎は首を傾げた。
「何って……生殖器の」
「命のページなんですよ」
雪乃は真剣な表情で言った。
「命が生まれる仕組みのページなんです。精子、卵子、それぞれが出会うための」
そう言って、雪乃は恐る恐る城崎に言った。
「どうやって、キスで、ここにある卵子と、ここにある精子が出会うことができると思いますか」
「どうって……」
城崎は突然言われて黙り込んだ。考えている。
雪乃はドキドキしながら城崎の答えを待った。
「そりゃあ」
城崎が声を出したその時、事務所の電話が鳴った。
「はいシロサキ事務所。ああ?何だテメェか。ああ、ああ、はっ?何で数値違うんだよ。……ああわかった。しゃあねえ、俺が行く」
城崎は舌打ちをしながら電話を切って、出かける準備をした。
「わりぃ。ちょっと仕事の件で出てくる。すぐに帰るつもりだが、遅かったら時間になったら勝手に帰っていいからな。合鍵作っといたから渡しとく」
そう言って、城崎は雪乃に鍵を渡した。
雪乃は慌てて鍵を受け取り、バタバタと出ていく城崎を「いってらっしゃい」と見送った。
「性的な事を話し合うタイミング、うまく掴めないなぁ……」
残された雪乃は、教科書を閉じて、パソコンの前に座り直した。
結局事務所の終業時間まで、城崎は帰ってこなかった。
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