第27話
※※※※
「先日はどうも」
後日、雪乃はまた城崎の事務所にいた。
大学の近くの美味しい鯛焼き屋で鯛焼きを買って、城崎に差し入れに行ったのだ。
城崎はその日、珍しく仕事をしていた。
「すみません、今日は忙しいみたいですね」
訪れた時に、城崎はなにやら真面目な顔で図面とにらめっこしていたので、雪乃は少し申し訳ない気持ちになった。
「邪魔なら帰りますけど」
「邪魔じゃねえよ」
城崎は、鯛焼きにかぶりつきながら言った。
「たまの仕事なだけだ。急ぎでもねえし。前みてえに逃げられる方がムカつく」
「逃げた?」
雪乃は首をかしげた。
「前にテメェが千草をストーカーして来たときだよ。実習だから早く帰るとかいいやがって」
「だって、本当に実習だったんですもん。怪我とか病気の応急処置の実習だったんですよ。楓にも教えましょうか?」
「別にいらねえよ」
「えー、私が倒れたらどうするんですかー」
「テメェ倒れんのか?頭突きされていつも倒れそうになってんのはこっちじゃねえか」
「うふふ。そうなったらちゃんと応急処置してあげますからねー」
雪乃は飄々と言った。
「ともかく、テメェが逃げたから、血迷って危うく千草と浮気するとこだったじゃねえか」
「なにそれ、聞き捨てならない!」
「未遂だ。つーか冗談だ」
「冗談なのか……」
「何でちょっとガッカリしてんだよ」
城崎は呆れたように言った。そして今度は、少し真面目な顔になった。
「まあ、俺もちょっとヤることばっかり考えてて焦ってたかもしれねえ」
急にそんな事を言われて、雪乃は目を丸くした。
「ど、どうしたんですか急に」
「その日に、宮間に説得されてな。アイツはいつも俺の事を甘やかす癖にたまに真面目に説教してくんだよ」
城崎は顔を顰めながら、しかしなにやら優しい顔で言った。
「雪乃の事を少し考えてやれって。こう何度もうまくいかねえんだから、落ち着けって。ヤる以外にも雪乃としたいことあるんじゃねえかって言われてな」
「宮間さん、いい人……」
雪乃は思わず感心した。城崎も自慢げに「だろ?」と笑った。
「そんなわけで、おい、雪乃、テメェバイト今してねえんだよな?」
「はい。……ん?そんなわけでって?」
「うちでバイトしねえか?」
城崎の言葉に、千草はポカンとした。
「え?バイトって……バイト?」
「ああ。そしたらずっと一緒にいれる」
城崎はニヤリと笑った。
「雪乃としたいことっつーか、俺が雪乃にしたいことなんだが。俺は雪乃を常時手元に置いておきてえ」
「は」
「いつも雪乃が千草を頼ってんのがムカつく。同じ大学生だからって何かと一緒にいんのが腹が立つんだよ。バイトに雇ってやるから、千草じゃなくて俺の近くにいろ」
「し、職権濫用……!!」
突然の示された独占欲に、雪乃は思わず真っ赤になった。
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