第25話

 コンビニで酒を買い、道中で缶を開けながら城崎と宮間は歩く。


「あのね、実はずっと、俺達のことを付けてきているストーカーがいるんだ」

 二人の後ろを歩いていた千草が、困ったように切り出した。そして、後ろを振り向いて、曲がり角の死角に向かって声をかける。


 曲がり角から顔を覗かせたのは、雪乃だった。

「城崎喧嘩してるからついてきちゃ駄目っていったんだけど、付いてきちゃって。で、実はずっと付いてきてたんだよ」

 千草はそう言いながら困ったように雪乃を呼び寄せた。

「千草さんについていけば城崎さんに会えると思って。二人で会うとまた頭突きしちゃうかと思って」

 雪乃はバツが悪そうに近づいた。

「雪乃、昨日の今日で何しに来た。怒ってたんじゃねえのか?」

 城崎が威圧的に言ってくるので、雪乃はビクッとする。千草は慌てて雪乃の前に庇うように立った。

「城崎、脅さないで」

「脅してねえよどけよ。なあ雪乃、話があるんだろ?」

 千草の肩越しに、城崎は雪乃に呼びかけた。

「あの。昨日あれからよく考えてみたんです。楓の言ってたこと」

 しどろもどろながら、しっかりと城崎の顔を見つめて雪乃は言った。

「私と別れること前提に話してると思ったら腹が立ったけど。でもよく考えたら、それで『うん』って言ったから楓はすぐにスムーズに別れ話ができたわけで。

 それを見越してたなら、私早合点して頭突きしちゃって悪い事したなぁって思ってすぐにでも謝りたくて」

「見越して……?」

 城崎は、雪乃の言葉を聞くと、少し考え込んだ。

 そして、ウンウンと何度も頷き、笑ってみせた。

「ああ、そうだ!それを見越して言ったんだ。わかってくれりゃいいんだ」

「なんかわかんないけど、絶対に見越してない顔してる!」

 千草が突っ込んだのを、城崎はギロリと睨んだ。

 そして、素早く雪乃に近寄った。

「まあ俺も言葉が足りなかったな。雪乃が機嫌治ったならいい。

 なあ雪乃、これからうち来ねえか?」

 雪乃の肩を抱きながら、城崎は上機嫌で言った。

「今コンビニで色々買ってきたからよ。一緒に飲もうぜ。大丈夫、何もしねえから」

「絶対に何かするよ。下心ありまくりだよー」

 千草が雪乃に注意する。

 宮間が面白がってぶりっ子しながら声をかける。

「えー、城崎ー、俺も行ってもいい?飲み足りないなぁ」

「何でだよ。宮間は帰れよ」

「ひどっ」

 ケラケラ笑う宮間を無視して、城崎は雪乃に笑いかける。

 雪乃もニッコリと微笑んだ。そしてスルリと城崎の腕から抜け出して言った。

「今日は帰ります。明日の午前中実習があるので早く寝ないといけないので。とりあえず謝れて良かった」

 では、とスッキリした顔で雪乃は言った。


「おいっ!……くそ。……あー……じゃあ家まで送っていくか?」

 城崎が食い下がると、雪乃は首をふった。

「さっき中学生の子に言ってたじゃないですか。これから酒を飲む重大任務があるって。私のことは気にしないでごゆっくり」

 そう言って、あっという間に雪乃は立ち去ってしまった。


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