第23話

「ああ?」

 城崎は思った以上に低い声を出した。

 雪乃はビクッとして思わず顔をそらした。城崎はその雪乃の顔をグイッと掴んで無理やり自分の方を向かせた。

「それにしては、ずいぶんとウブな反応じゃねえか?」

 城崎の言葉に、雪乃はしどろもどろになって答えた。

「だ、だって。その。昔したことのある、でぃーぷきす、は、なんかこんな楓みたいに色気のある感じじゃなかったから……。なんていうか、昔したのは、冥途の土産にキスでもくれてやらあ!、みたいな感じだったし」

「何だその喧嘩腰のは」

 城崎は呆れ顔になった。そしてハッと気づいたように言った。

「そういやあ、テメェなかなか気が強いし、頭突きも手慣れてたな。さては雪乃、元ヤンだな」

「ち、違います!か弱い女のコです!」

 雪乃は慌てて否定した。

「と、とにかく!歯ブラシとかはコンビニで買えても、着替えもないし、すみません、今日は帰らせてもらいます」

 雪乃はとりあえず断って立ち去ろうとした。


 しかし城崎は諦めない。

「男物で良ければ新しいのあるぞ」

「良くないですね」

 雪乃は即答する。

 城崎は舌打ちをした。

「誰も気にした事ねえぞ」

「今までの彼女ですか?」

 少し雪乃は機嫌が悪くなる。

「すみませんね、ワガママで」

 プイッと雪乃はそっぽを向いた。

「別にワガママだなんて思っちゃいねえよ」

 城崎はそういいながらも、雪乃から少し身体を離した。

「もっとワガママな女なんていっぱいいたしな」

「それにしては、別れ話は素直に皆聞き入れたんですもんね」

 雪乃は嫌味を言った。

「ああ、まあ確かに皆すぐに別れ話に了承したな。『じゃあその雪乃って子と別れたら次は私とまた付き合ってね』って皆に言われたが」

「はっ!?」

 雪乃は思わず険しい顔になった。

「……それに楓は何て答えたんですか?」

「『おう分かった』って答えた」


 城崎のその言葉に、雪乃は再度、頭突きをお見舞いすることになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る