第20話
城崎の自宅の方の部屋の前まで来ると、城崎は雪乃に向き合って、再度たずねた。
「本当に、怖くねえな?」
「いや、怖いとかは無いんですよ。ただ、前の事もあったから来ちゃっていいのかなぁってちょっと考えてて……」
「なら大丈夫だな」
城崎はまた雪乃の言葉を遮る。
雪乃はため息をつきながら後に続いた。
「何食べる?嫌いなもんはねえな」
部屋に入って、雪乃をソファに座らせるなり城崎は聞いた。雪乃は頷いた。
「適当にのんびりしとけ。飲み物は勝手に冷蔵庫から出せ」
「はい」
雪乃は言われた通り、冷蔵庫に行く。
冷蔵庫の中身は案外充実していた。
「自炊結構得意な方なんですか?それともこの中身も彼女の影響……?」
雪乃はたずねると、城崎は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「前の女の事は言うんじゃねえよ。普通そういうの嫌なもんじゃねえのか?」
「まあ」
「テメェの言う通り、他の女は全員切ってやったからな。これで俺の女はテメェだけだ。その自覚は持てよ」
城崎の言葉に、雪乃は目をパチクリさせた。
「時間かかるって言ったのに。私が言うのもなんですが、大丈夫だったんですか?」
「ああ。案外皆あっさりしたもんだ。ちゃんと切ってきた」
城崎はそう素っ気なく言いながら、台所で料理の支度をしだした。
「これで文句はねえだろ?」
「ま、まあ文句はないですけど」
雪乃はしどろもどろになりながら頷いた。
「正直、こんなに早く行動してくれるとは思いませんでした」
雪乃の言葉に、城崎は勢いよく包丁を動かしながら険しい顔で言った。
「正直、あの時はムカついた。その後連絡取れねえのも気に入らねえ」
「だって私もムカついたんですもん」
雪乃は言い返した。
「まだ他の人キープしたまま私に手を出そうとしてるんだと思ったらイラッとしちゃって。それに、それより!黙って突っ込ませろ、とか言われたのが一番ムカつきました」
「それは謝らねえからな」
城崎はフライパンを用意しながらあっさりと言った。
「テメェがごちゃごちゃ煩かったのが悪い」
「はぁ!?ご、ごちゃごちゃ!?」
雪乃は食ってかかろうとしたが、城崎のフライパンで炒める音で、文句はかき消されしまった。
いい香りが漂ってくる。
「中華好きか?」
「……好き。でもあんまり辛くはしないでほしいです」
「分かった」
何事も無いように城崎が言うので、雪乃は思わず普通に味のリクエストをしてしまう。
「紹興酒あるぞ。それとも酒はやめとくか?」
「お酒は今日は、やめておきます。今日はちゃんと話をしたくて」
「じゃあ俺もやめとくか」
そう言いながら、城崎は、雪乃の前に麻婆豆腐とチャーハンを出した。
「ほら、食え。胃もたれとかの苦情は受け付けねえからな」
城崎はそう言いながら、烏龍茶をコップに注ぐ。
「頂きます」
素直に雪乃はチャーハンを口にする。
「やだっ美味しい」
「だろ?俺昔中華料理屋でバイトしててよ。ほら、そこの路地の裏の中華料理屋」
ドヤ顔で城崎は笑いながら自分も食べ始める。
「雪乃は今バイトとかしてんのか?」
「私、就労みたいなストレス抱えると死ぬんですよ」
「なんだそりゃ」
城崎は笑う。雪乃も笑った。
「まあ、今までなんやかんやでバイトする余裕無かったんですけど。ちょっとやりたいんですよね。楽して稼げるバイト」
「テメェ闇バイトとかに手を出すなよ」
城崎は笑いながら言った。
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