第19話
※※※※
次の日の昼休み、桃香がバイトでいなかったので、雪乃は一人で学食でラーメンを食べていた。
次の授業の準備のために、教科書を見ながらラーメンを啜っていると
「よお、ずいぶんとお行儀のいい食べ方だなあ」
「か、楓!?」
目の前に城崎が現れて、雪乃は目を丸くしてラーメンを吹き出しそうになった。
「よーーーーやく捕まえたぞ」
「何でここに?」
「テメェが電話出ねえから、直接出向くしか無かったんじゃねえか!千草にしろ凛子にしろ、保護者面しやがって邪魔してくるしよ」
城崎は文句を言いながら雪乃の前に座った。
「今から学校サボって来いよ」
「まだ授業あります。楓も仕事あるんじゃないですか?」
「滅多に仕事はねえよ。授業も一日くらいサボれ」
「嫌です」
雪乃はキッパリと言った。
「私は、真面目に授業受けます。サボりません」
「おい」
「それは譲れません。私のポリシーです。何事もサボりません」
姿勢を正し、はっきりと言う雪乃に、城崎は大きなため息をついた。
「終わるのは何時だ」
「4時10分ですが」
「どの校舎に教室がある?」
「そっちの教育棟Bです」
「なら、4時10分に、教育棟Bの入口で待ち構えてるからな」
そう言って、城崎はさっさと立ち去って行った。
「やば。やっぱ怒ってるかなあ」
雪乃は困惑しながら城崎の後ろ姿を見送った。
授業が終わり、雪乃が教育棟から出ていくと、宣言通り、チャラい男が待ち構えていた。
「よーし、捕まえた。さあ行くか」
城崎が怒っているかと思っていたが、特に不機嫌ではなさそうだ。
「行くってどこへ?」
「どこでもいいんだが。俺の自宅でもいいか?」
「あー……」
雪乃は少し悩んだ。前の事があったし、昨日の凛子との電話で『次は絶対にヤる』とか言っていたらしいし、自宅は良くない気がした。
「怖いか?」
悩んでいる様子を見た城崎がそうたずねるので、雪乃は思わず首を横にふった。
別に怖い訳では無い。
「怖いとかじゃなくて、何がベストなのか考えてて……」
「怖くねえなら、来いよ。夕飯作ってやる」
城崎は雪乃の言葉を遮るように、ニヤリと笑った。
「なんか楓、今日はご機嫌ですか?」
「俺が雪乃の前で不機嫌だったことあるか?」
城崎が心外、といった顔をした。
そんな城崎の表情が、雪乃にとっても心外だった。
「え?昨日凄い不機嫌だったじゃないですか。高校生に詰められてるときに会った時も」
「はあ?雪乃にようやく会えてご機嫌だったが?」
「あれがご機嫌?」
雪乃は混乱するように言った。
「それに、凛子さんと逃げた時も、怒鳴る声が電話から聞こえましたけど」
「はあ?テメェがまたどっかでトラブルに巻き込まれてるんじゃねえかと心配してやったんだろうが」
「あれが心配する態度?」
雪乃は顔を顰めた。
「えーっと、とりあえずじゃあ不機嫌じゃないんですね?」
「ああ」
「お酒も飲んでない?」
「まだ時間早えだろうが。飲んでねえよ」
「てことは、今日は気性の荒い冬眠明けのクマではない?」
「は?」
「いえ、こっちの話です」
凛子の言う通りなら、今日ならちゃんと話し合えそうだ、と雪乃は思った。
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