第9話

 とりあえず乾杯をしてお酒を飲む。


「雪乃は酒強えのか?」

 城崎の問いに、雪乃はブンブンと首を横に振った。

「全然。すぐに酔っぱらっちゃいます。だから、色んなお酒を少しずつ、色んな種類を飲むのが好きです」

「んな、色々ちゃんぽんしてるから酔っ払うんじゃねえのか?」

 城崎は呆れたように言った。

「だって、色々試したいんですもん。これも、飲んだら次は別なの試したい。でも、逆に、ソーダ割とかロックとか、割り方を変えたい気がするし……悩みますね」

 真剣に言う雪乃に、城崎は自分の焼酎を差し出した。

「なら、俺が自分が飲むもん色んな種類頼んでやるから、俺のを一口づつ飲んでみるか?」

「えっ、いいんですか?」

「ああ。ほら、まずこれ飲めよ」

「わあい、いただきます」

 雪乃は城崎から黒霧島を受け取ると、口をつけようとして、そしてピタリと止まった。

「どうした?」

「いや、あの」

 雪乃はみるみる真っ赤になっていく。

「何だ、もう酔ったか?」

「その、楓と、間接キス、だなあと」


 雪乃の言葉に、城崎は吹き出した。

「ああ、そうだ。そうだな。間接キスだ」

 城崎に笑われて、雪乃は更に真っ赤になった。


 ――城崎さんに性知識を、なんて言われて快諾したくせに、自分がこんな事で照れるなんて。


 雪乃は自分が思った以上に恋愛慣れしていないのに愕然としてしまった。


「参ったな。これぐらいで真っ赤になられちゃ、先が思いやられるぞ」

 全く参っていない、むしろおもしろそうな口調で城崎は言った。


 ――くそ、偉そうな!


 雪乃はそう思いながら、思い切って城崎の黒霧島のグラスに口をつけた。


 そんな雪乃を、ニヤニヤしながら城崎は眺めていた。


 ――――


 しばらく二人は焼酎を楽しんだ。


 雪乃は、何度も城崎の頼んだ色んな種類の焼酎をチビチビともらったので、ちょうどよく上機嫌に酔っ払って店を出た。


「なんか、全部払ってもらっちゃって、ありがとうございます」

「ああ、店主がサービスで半額にしてくれたからな、大体割り勘したみてえなもんだから気にしすんな」

「大体割り勘みたいなもん?」

 違う気がしたが、酔って頭があまり働かない雪乃は、まあじゃあいいか、とヘラリと笑った。


「酔っ払いの顔してやがるな」

 城崎は笑いながら雪乃に言った。

「千草と同じ大学生っつってたな。明日は早いのか?」

「んーと、明日は一限目が無いからあんまり早くは無いです」

「なら」

 城崎は、雪乃の耳元に口を寄せた。

「俺ん家、来るか」

「行く!」

 雪乃は即答した。

「これには全く照れないのな」

 城崎は呆れたように言った。


 照れるどころか、雪乃はノリノリだった。

 なにせ、別にセックスすることは無いと分かりきっているので心配も無い。


 ――この人は、小学生以下の性知識で、恋人にどんな風に接するんだろう。


 もちろん馬鹿にしているのではない。単純にとても興味があった。

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