第8話
桃香から余計なお世話をされたその日の夕方。
城崎が案内してくれたのは、おしゃれ過ぎない、でも小綺麗な居酒屋だった。
確かに、お酒の種類は沢山だ。
「店主が、焼酎好きなヤツでよ、全国の焼酎取り寄せてんだ。俺は芋でいくが、雪乃は何がいい?」
「種類いっぱいありますね。わ、何ページもある!探せない!」
雪乃はメニューを見ながらはしゃぐ。
「お、女連れっすか」
城崎と雪乃の席に、若い男がやってきて話しかけた。
「雪乃、こいつが店主だ」
「えっ!若い!私とそんな変わらない感じですね!」
雪乃は目を丸くした。
「そんな若くてこんなキレイなお店やってるんですか?」
「はは、城崎さんに色々手伝ってもらってるんですよ。お金のこととかお役所への手続きとか、俺苦手だけど、色々やってもらって」
「仕事だ仕事。別にテメエの為にボランティアしたわけじゃねえよ」
「わ、ツンデレ」
雪乃は茶化すように城崎を見て笑う。
「で、何飲みます?」
「俺は黒霧島の濃い目の水割り。雪乃は決まったか?」
「えっと、しそ焼酎あります?」
「お、しそ?なら、鍛高譚でいいっすか?赤の鍛高譚もありますよ」
「じゃあ赤の鍛高譚水割りでお願いします」
店主は注文を取ると、「サービスっす」と言ってチーズの何かを差し出していった。
「事務所にお客さん来たことないなんて言ってたのに、ちゃんとお仕事してるんじゃないですか」
「たまにな、たまに」
城崎はチーズの何かをつまみながら素っ気なく言った。
「あ、それに城崎さんて、本当に慕われてるんですね」
雪乃もチーズの何かをつまみながら言った。城崎は本気で嫌そうな顔をする。
「慕うとかそんなんじゃねえよ」
「城崎さん照れてらっしゃいますね」
「アホか」
城崎はそう言って、雪乃を指差した。
「そういやあテメェ、『城崎さん』やめろよ。他人行儀すぎる」
「え?じゃあ……楓さん?」
「『さん』もいらねえ」
「……楓」
「ああ、それだ。っておい、何そんな真っ赤になってんだよ」
城崎に言われて、雪乃は慌てて自分の頬を触る。思った以上に熱い。
「いや、だって」
雪乃にもよくわからなかった。
「おい、まさか名前呼び捨てにしただけで照れてんのか?」
ニヤニヤと笑いながら城崎は雪乃の顔を覗き込んだ。
「ち、違……」
雪乃が言い訳しようとしたとき、焼酎が運ばれてきた。
「ほら、雪乃の分だ。テメエの顔みてえに赤い焼酎だな」
「うるさいっ」
雪乃は更に赤くなりながら、赤鍛高譚の水割りを受け取った。
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