第6話
「ま、とりあえず今夜は別な女と約束があるからな、また今度ゆっくりしようぜ」
「別な女?」
雪乃はポカンとした。千草も慌てて言った。
「え?前の彼女とは別れたばっかりじゃなかった?」
「つい最近また別な女が出来たんだよ」
「……一応きくけど、今何人と付き合ってる?」
千草が恐る恐る尋ねると、城崎は悪びれもなく答えた。
「んな多くねえよ。今は3人だ。あ、雪乃をいれりゃ4人か」
「多いよ!」
思わず雪乃と千草は同時に突っ込んだ。
「うん、いや城崎そう言うやつなのはわかってたけどさ。今はフリーだとてっきり思ってた」
千草は大きなため息をつき、申し訳なさそうに雪乃を見た。
城崎は完全に開き直っている。
「全員、別に彼女になれるなら構わねえって言ってっし。何が問題だ?」
そう言って、雪乃の方を見て言った。
「雪乃も構わねえだろ?」
「冗談じゃないです」
雪乃はキッパリと言った。
「全員、切ってください。今すぐに」
「雪乃ちゃん!?」
千草は慌てて雪乃を引っ張った。
「雪乃ちゃん、ここは堪えて。どうせすぐに別れるんたわから。今までも何股もしたことあるけど、たいてい一週間も保たずに別れてるんだ」
城崎にきこえないように小声で注意する千草に、雪乃はムスッとしながら答えた。
「でもヤダ」
「雪乃ちゃん!」
「おい、全員切れってどういう事だ」
低い声がして、雪乃はビクッとなった。城崎が怖い顔で見ている。
しかし雪乃も怯まない。
「それで構わない人もいるかもしれないけど、私はダメなタイプなので。てか、それで構わないって言ってる娘たちだって、本当は自分一人だけ見てほしいと思ってるはずです」
ふうん、と城崎は冷たい目で雪乃を見下す。そして短く「わかった」と答えた。
「全員切って、雪乃だけにしてやる」
「ほんと?」
「マジ?城崎」
あっさりと答えた城崎に、雪乃と千草は目を丸くした。
「ただ何日か待て。ちゃんと話をつけるから。俺から別れ話したことねえからなぁ」
「いつも振られる側なんですか?」
ズケズケと言う雪乃を、千草は黙って睨みつけた。
しかし城崎は大きな声で笑ってみせた。
「確かににそうだな。
なあ雪乃、俺はテメエのために、したこともねえ別れ話して、今いる彼女全員切ってやるんだ。だから」
城崎は雪乃の顎を軽く掴んで顔を上げさせた。
「雪乃はちゃんと責任とって、俺を楽しませろよ」
――顎クイ、ナチュラルにやる人いるんだな。
雪乃は城崎に顔をのぞきこまれながら、イケメン凄い、と謎の感動をしていた。
結局雪乃は千草に送ってもらった。
「全く、ハラハラしたんだからね!」
千草は雪乃に文句を言った。
「城崎の彼女になれなかったら元も子もないんだから、我の強いこと言わないでよ」
「そうは言いますけど、千草さんは、城崎さんにちゃんとした性知識をつけてほしいんですよね?」
雪乃はキッパリと反論した。
「いいですか?正しい性知識の前に、自分のことを大切にして、そして相手の事も尊重することが大切です!何股もして、それを当り前としている時点で、正しい性知識にはたどり着けません!」
「うぐっ、正論……」
千草は怯んだ。
「雪乃ちゃん、意外にちゃんと考えてくれてたんだね」
「ええ、今日までにいっぱい専門書読んだし、恋愛マスターのインフルエンサーもフォローしたりしました!」
「恋愛マスターのインフルエンサーはともかくとして、そんなに勉強してくれたんだね。ちょっと雪乃ちゃん見直したよ」
感心する千草に、雪乃は胸を張った。
「やると決めたらちゃんと全力尽くしますよ。経験の無さは知識でカバーしてみせます」
「ありがとうね」
お礼を言ったあと、あ、と思い出したように千草は雪乃に向き合った。
「あ、そうそう。この計画のこと、つまり、雪乃ちゃんが城崎とお付き合いするのは正しい性知識の為って事、本人にはもちろん、誰にも言わないでね」
「うん?」
雪乃は首をかしげた。
「ほら、何か余計なお世話っぽいし、他の人から城崎の耳に入ったら気悪くされるだろうし」
「余計なお世話って自覚あったんですね」
雪乃は苦笑いした。
そして、ふと立ち止まり、真面目な顔で千草に宣言するように言った。
「別に言いませんよ。ていうか、千草さん一つ勘違いしてます」
「勘違い?」
「私、別に正しい性知識だけの為に、城崎さんとお付き合いするわけじゃありません。
真剣に、イケメンとお付き合い出来るこのチャンスをモノにするつもりでいます」
「はあ。そう?ならいいんだけど……」
「命短し恋せよ乙女。私、今とっても楽しくて仕方ないんです」
微妙な顔をする千草をよそに、雪乃はニコニコとほほえんだ。
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