第3話
※※※※
「昨日合コンどうだった?イケメンお持ち帰りできた?」
次の日、大学の学食で、友人の
桃香の言葉に、雪乃は昨日の事を回想した。
「ああ、合コン。そういえば合コンしたわ」
「はあ?合コンしたこと忘れるとか、脳大丈夫?どんだけ印象薄い相手だったのよ」
「いや、その後のことのほうが印象残っちゃって、なんか合コンの事すっかり忘れてたよ」
「また何かに巻き込まれたの?本当危なっかしいんだから」
桃香はグリグリと雪乃の頬を引っ張る。
「痛いよぉ。そんな危なっかしいことないもんー」
そんな話をしながら学食でごはんを食べて、桃香と別れ、午後の授業まで何をしようかと背伸びしたときだった。
「雪乃ちゃん」
馴れ馴れしく呼びかけられて振り向くと、知らない、メガネをかけた地味な男が立っていた。
「えーっと、私?ですか?」
「あれ?昨日会ったばかりなのにつれないなぁ」
そう言って、地味な男は、メガネを外し、髪をかき上げて耳を見せた。
「あー!千草、さん?え?もしかして同じ大学だったんですか?」
「そうそう。昨日はどうもー、ここ座ってもいい?」
「どーそ、どーぞ」
千草は雪乃の前に座った。
千草は、ピアスのついた耳を隠し、ダサいメガネをかけて不揃いの前髪を顔の前に垂らしていた。
「大学では仮の姿、実はあのチャラ男が本当の姿です、ってやつですか?」
雪乃は面白がってたずねた。
千草は苦笑いして首を横に振った。
「逆だよ。これが俺の本当の姿。今日は雪乃ちゃんにわかってもらうためにわざとピアスつけてきたんだよ。ほら、これシールなの。俺全然空いてないんだよ」
そう言って、千草は耳からピアスを一つ取ってみせた。
「ところで、教育学部教育学科養護教諭育成課程2年、
「え、私の素性すっごく知ってる……」
雪乃は少し嫌そうな顔をした。
「あはは、俺も同じ教育学部だから見たことあるんだよ」
そういって千草は学生証を見せた。
「俺は教育社会学課程4年の、
「先輩でしたか!すみません、知らなかったです」
「俺も、見たことあるなあ、位のレベルだったけどね。昨日これ落としてたから」
そう言って、千草は、雪乃の学生証を差し出した。
「あれ?落としてたの気づかなかった」
雪乃は慌てて学生証を受け取った。
「昨日城崎と君がいた近くにこれ落ちててさ。あ、同じ大学のヤツじゃん、と思って」
「だから、昨日私の名前わかったんですね。カラクリわかんなかったから、ちょっと不審でしたよ」
「正直だなぁ」
千草は苦笑いを浮かべた。
「ところで雪乃ちゃん、ちょっとお願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」
千草はそう言って、どーぞ、と缶コーヒーを差し出さした。
雪乃は遠慮なく缶コーヒーを受けとった。
「俺、卒論関係で、少年非行グループについて研究してるんだけどね」
千草は話し始めた。
「それで、去年くらいから、ちょっと派手な格好で夜の街に調査に出かけてたんだ。非行少年たちに警戒されずに溶け込めるようにね。
そこで話を聞くうちに、『
ある子は畏怖して、ある子は崇めてて。なんていうかカリスマ?みたいな男が、この街の夜に、非行少年たちを牛耳ってるみたいだってことがわかったんだ」
「それが、あの昨日の銀髪のチャラ男?」
「そ。会ってみて、色々話をして仲良くなって。
それで、ああ、この男が非行少年たちのカリスマなのはわかるなぁって思ったんだ」
雪乃は昨日の事を思い出した。確かに見た目も派手で体も大きくカッコよかった。オーラはある。
それに喧嘩も強いのは、非行少年たちのリーダーとして最低条件だろう。
「喧嘩っ早いし、すぐ手が出るし、口も態度も悪いけど。でもマジの悪い事は絶対しないし、弱い者を助けるし。案外ちゃんとした大人でね。
彼に憧れて本当に悪いこと辞めた子も多いんだよ」
「へえー。カッコいいですね!」
雪乃は素直に感心した。
「ま、すぐ喧嘩するからいつも警察に注意されてるみたいだから手放しに賛美できないとこもあるけどね。でも彼のおかげで、この街の非行少年たちが他の街と比べて落ち着いているのは確かなんだ
でも一つ不安事項がある」
千草はそこで話を区切り、雪乃に顔を近づけて、小声を出した。
「昨日も言った通り、彼の性知識は小学生並、いや、それ以下だ」
「それ、昨日も言ってましたけど、本当の事なんですか?」
雪乃は困惑して聞き返した。
千草は頷いた。
「どうやら本当らしい。彼の古くからの友人たちからも聞いた。
それで俺は心配しているんだ。
もし彼が、正しくない人物から、正しくない性知識を教わってしまったら。そしてそれが彼の常識になってしまったら大変な事になるのではないか」
千草の言葉に、雪乃は首を傾げた。
「大げさにじゃないですか?別に、ちょっとマニアックな趣味になったって、個人の自由じゃないですか」
しかし千草は首を横に振った。
「もし彼が、女のコをモノ扱いするような性知識になってしまったら。彼に憧れている子たちも追従してしまうかもしれない。
彼には、正しい性知識を身につけてもらいたい」
余計なお世話な気もするけど、と雪乃は思った。
しかしまだ千草の話が続きそうだったので黙っていた。
「そんなわけで雪乃ちゃんにお願いです。
城崎の彼女になって、彼に正しい性知識を教えて上げてほしいんです」
「は!?」
雪乃はコーヒーを吹き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます