第7話  最期まで生きて

「夏海、瑞穂。起きなさい」と佳代子が起きてから夏海と瑞穂を起こしていた。「う、うぅ。おはよう」と朝の挨拶をして夏海と瑞穂は、まだ眠そうな顔をしていた。佳代子は隣に瞬が居ない事に気付いた。佳代子は「あれ?瞬さんは、何処に行ったのかしら?」と疑問に思い、台所へ行くと顔に粉が付いた状態で揚げ物をしていた。ジュワジュワと揚がる油にチクワブを揚げて、その後、かき揚げ、豆腐の厚揚げを揚げる準備をしていた。佳代子は油が跳ねて熱そうにしている瞬を見て「じゃぁ、菜箸を貸して?私も手伝うわ」と言って台所にエプロンを付けて立った。瞬が「手伝ってくれてありがとう。僕は小説ばかりで料理は殆どしたことが無いの。何から手を付けていいのか料理は良く分からない事ばかりだ」と佳代子に手伝って貰えて助かったと想っていた。佳代子は「そうね~。皆最初は、料理が分からなくて立ち往生しちゃうかもしれないわね。でも、たくさん料理をしていれば馴れてくることもたくさんあるから、すごく不安になる事もないし、心配する事もないわ」と言って瞬の事を想って気遣いの言葉を掛けた。佳代子が「天ぷら終わったから、皿に盛るね。そっちはどう?」と瞬のウインナーを焼いている姿を見て声を掛けた。瞬は「まだ、焦げ目付いていないから、もう少ししたら皿に盛ってテーブルに持って行くよ」と話をした。佳代子が「天ぷら、出来たわよ」とテーブルに持って行くと夏海と瑞穂は今にも食べたそうな顔をしていた。夏海と瑞穂は「わぁ~、天ぷら食べていい?」と聞くと、佳代子が皿を持ってきて、テーブルに置くと「良いわよ」と佳代子が夏海と瑞穂に声を掛けた。夏海と瑞穂は、瞬や佳代子が来たことを確認して「頂きます」と味噌汁やご飯を持って来て夏海と瑞穂は御飯を食べ始めた。玉子焼きに、メロンに、ウインナーに天ぷらを瞬と佳代子と夏海と瑞穂も「ご馳走様でした」と挨拶をして御飯を食べ終えた。食器とおかずを片付けて、夕飯が終わって瞬はまた書斎の部屋に行きデスクでノートを広げ、物書きを始めていた。瞬が、書斎に行く前に何時も電源コードに足を引掛けないのに今回だけは、足を引っ掛けて躓いてしまう。佳代子が「大丈夫?気を付けないと身体の何処かにぶつけるわよ」と話をしていた。瞬が「うん、大丈夫だ。今度から気を付けるよ」と返事を返していた。その後で瞬が何か頭がよろめいて突然倒れて意識を失ってしまった。書斎の近くに佳代子が居たので「大丈夫?ちょっと、瞬さん、瞬さん」と声を掛けても何も応答がない。佳代子が「すみません。救急車をお願いします」と救急車に電話を掛けて応援を呼んだ。救急車の音が近くに来て、ストレッチャーを出して「患者さんは何処ですか?こちらに身体を載せて救急車に同乗して下さる方は、救急車に乗って下さい」と言われたので、娘の瑞穂と夏海と佳代子は、父の瞬の容態が心配で一緒に救急車に同乗して病院へ向かった。書斎に有った小説の原稿用紙の山が、瞬の書斎のデスクに載って居た。瞬が佳代子たちと一緒に住むようになり、こっちに来た事を知っていた出版業者の編集担当者の塚本さんがピンポンとチャイムを鳴らし「あの、すみません。誰かいらっしゃいませんか?」と声を掛けたが誰も出て来ない。近所の方から「あぁ、さっき此処の家の人達は救急車に乗って病院へ行ったよ」と編集担当者の塚本さんに瞬達家族の居場所を教えた。ある日の事を思い出していた。編集担当者の塚本が瞬から「此処の書斎の部屋は僕の部屋だから、ダブルクリップを付けて原稿用紙の書類が書斎の机の上に有るから持って行ってくれ」と言う伝言を聞いて居たので、瞬の書斎の机の上から小説の原稿用紙を編集担当者の塚本が持って行った。塚本が「あ、そうだ。メモ書きして置いて行こう。瞬さん、小説の原稿用紙の書類は、お預かりしました。次回の原稿用紙の小説の話も楽しみにしています」とメモ書きの付箋を瞬の書斎の机の上に付けて置いた。塚本が「これでよしっと」と呟いて瞬の書斎部屋を後にした。それから、瞬は病院へ行って「ガンですね。きっと遅れて居たら、身体中に転移している可能性もありますね。身体の状態からしても弱っていますし、そんなに永くは生きられないかと思います」と医師から瞬の身体の状態を告げられた。瞬はゲホゲホッと血を吐いていた。すごく辛くて、気の遠くなるような病棟生活、髪の毛も抗ガン剤で抜け始めていた。ウイッグを付けたり、帽子をかぶって毎日を暮らして居た。その間だけ少し小説をノートに書き留めていた。でも、血を吐いて居たので血がノートに滲む事もあった。そんなある日の夕方、瞬が「僕はもう永くないかもしれない。ごめん。永く生きて居られたら今以上に小説を書けて居たかもしれないなぁ。最後に伝えたい事が有る。僕が居なくなっても瑞穂と夏海を頼む。それから僕の小説は捨てないで、僕が生きて居た証を残して書いた分の小説を出版社に出して欲しい」と瞬は最後の力を振り絞って佳代子に言葉を掛けていた。佳代子は「瞬さん、瞬さん。目を開けて」と瞬に声を掛けて手を握ったが瞬の手が冷たく、その後息を引き取った。佳代子は「さようなら。瞬さん。楽しい思い出をありがとう」と涙を流し最後に瞬に言葉を掛けた。




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