第6話  趣味としての小説

瞬が「あぁ~、アイディアが思い浮かばない。どうして今になって書けなくなってしまったのだろう」と言いながら、一、二時間、三時間、下手すれば一日中思い付かない事も有ったくらいだ。あんなに楽しく小説が書けて居たのに、瞬は、もはや書けなくなった自分に未来はないと失望したような顔をしていた。佳代子が「さっきから、どうしたのよ?顔色悪いし、頭抱えて」と瞬に心配して声を掛けていると横から夏海が話し掛けて来た。「お父さん、変な顔をしている。まるでピカソみたいだよ。可笑しいよ」と笑って夏海が瞬を笑っていた。佳代子が「そうだよね?可笑しいわよ。もう少し落ち着いたら」と瞬に話をしていた。瞬が「お前たちは良いなぁ。暢気でそんなに暢気だと何時か豚になるぞ」と声を掛けた。佳代子たちが「失礼よね?こんなに可愛い女性なのに何処が豚なのかしら?」と少しムッとした顔をして夏海も瑞穂も佳代子も瞬に顔を向けた。佳代子が夜になって来て「本当に瞬お父さんは減らず口ばっかりね。寝ましょう?」と言って佳代子は、瑞穂と夏海を寝床へと誘導し、佳代子もお風呂に入って寝てしまった。瞬が拗ねて「僕も寝るわ」とお風呂に入ってその日は、ぐっすり眠った。その夜の事、夏海が瞬の近くでお漏らししていた。瞬の周りには水溜りのようにお漏らしした後がシーツや布団にくっきりと跡がついていた。瞬がお漏らしの冷たさに驚いて起きた。佳代子が「何か臭い。これは、何?誰がお漏らししたの?」と洗濯をして干している時に夏海と瑞穂に問い詰めた。「ごめんなさい。今度はお漏らししないよ」と夏海が手を挙げて佳代子に謝っていた。佳代子は夏海の反省した様子を見て「しょうがないわね。今度からは寝る前にトイレに行ってね」と注意をしていた。瞬は、夏海がお漏らしをして佳代子に注意されている姿を見て、自分も小説家の下積み時代に注意されて書き方の説明や評価を受けていた事を思い出していた。

瞬は、あんなに大変で辛かった事、苦しかった事、将来への不安があって自信が無くて何をやって居ても駄目な時が有ったはずだ。瞬が、その時代に一人で困難な仕事をやり遂げて来たのかと言う疑問が駆け巡っていた。瞬は、「僕が書いた小説を楽しいと想ってくれた人達、本を取って読んでくれてファンになってくれた人達、僕が困難な時もずっとそばで支えてくれた人達が居てくれたからだ」と素直に想えた。瞬は「僕は傍で支えてくれた人達の事を当たり前だとか当然だと想っていたことが欠点だった」と思い出していた。瞬は「僕を支えてくれた人達に素直にありがとうと感謝の言葉を言うべきだった」と今になって実感していた。瞬は、小説を呼んでくれた人達の事もプロになって当たり前だと思う事が良くないと気付き、初心に戻って周りの人達、協力してくれた人達に改めてありがとうと素直に伝える事が大事だった事に気付いた。初心に戻ると、瞬は読者にとって何を求めているのか、どういう物が楽しいと想って貰えるのかを改めて考えさせられた出来事だった。

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