第5話  子供

「おはよう」と翌日、瞬に挨拶をして佳代子はご飯の支度をしようとしていた。その直後、気持ちが悪くてトイレに駆け込んだ。洗面台でゴホッと咳払いをして吐き気がしたので婦人科に今の状態を電話で話し、産婦人科を紹介して貰った。ここでは、麗華もお世話になっている産婦人科であった。レディクリニックで「あの、すみません。今日はどうされましたか?」と看護師さんが状態を聞いて来たので、「今日は気持ち悪くて吐き気がして辛かったので夫の瞬さんに車で連れて来て貰いました。お願いします」と少し頭を下げて診察をするように頼んだ。看護師さんから「佳代子さん、お入り下さい」と診察室に呼ばれて、医師が「それじゃ、今からエコーを掛けてお腹を診ますので、処置室のこちらの部屋で寝て貰って良いですか?」と案内されて処置室のベッドに佳代子が横になった。エコーを掛けるとドクドクと心臓の音のようなものが聞こえて、佳代子は驚いていた。医師から「診察の結果、お子さんは双子で女の子ですね。おめでとうございます」と声を掛けられて佳代子は、瞬の子供が出来た事を嬉しく想っていた。佳代子は医師の言葉に「はい。ありがとうございました」と返事を返した。

瞬は「大丈夫だったか?結果は、どうだった?」と佳代子の身体を心配して訊ねた。佳代子は「子供で女のお子さんが双子ですって言われたわ」と話をしていた。瞬が「おぉ、良かったじゃないか。でも、身体だけは無理をしないで大切にしてな」と素直な気持ちを佳代子に伝えた。佳代子が「瞬さん、気遣ってくれてありがとう」と瞬に感謝の気持ちを伝えた。それからの佳代子は、身体の事を気遣い、飲み物はカフェインの無い麦茶や、食べ物の量を考えるようにしていた。佳代子は八月十五日の土曜日の午後十五時に子供がお腹を蹴って来たので驚いていた。八月十七日の午後十五時と昨日と同じ時間に佳代子は、お腹を抱えて苦しみ始めた。瞬が「早く病院へ行こう。このままじゃ、早く産まれそうだ」と言ってタクシーに電話を掛けた。タクシーを呼んで、タクシーの運転手に瞬が「レディクリニックまでお願いします」と行き先を伝えて頼んだ。産婦人科のレディクリニックに着く間、佳代子は「はぁ、はぁ」と苦しそうにしていた。タクシーの運転手が「レディクリニックに着きました。降りられますか?」と声を掛けて、タクシーの扉を開けて瞬が佳代子を支えて分娩室へと看護師から案内されて子供の様子を見て頭がすでに出ている状態だった。「今から、赤ちゃんをお尻から出しますので、呼吸をしてゆっくりとして下さいね」と助産師から声を掛けられて、佳代子はゆっくりと呼吸を整えて無事に双子の女の子が生まれた。名前は瑞穂と夏海である。ガラガラと佳代子の病室のドアが開いた。佳代子の父親の明郎と母親の愛莉だった。赤ちゃんの姿を一目見たいと佳代子の病室に入って来たのだ。母親の愛莉が「あら?可愛いわね。この子は?」と佳代子に尋ねた。佳代子は「う~ん。子供は右が夏海で左が瑞穂ね。」と指を指して佳代子が母親の愛莉に子供の名前を教えていた。明郎が「何時かの君か?最近どうした?小説の方は」と聞かれて、瞬が「出版社に小説を辞めたいと話して、出版社からは「これからもきっと活躍すると想っていたのに残念だ」と言われて、佳代子に子供が出来たことも話したので小説を続けることは無理だと伝えました。これからは子供を育てて行く事だけに専念したいと思います」と明郎に今までの状況を詳しく説明した。明郎が「そうかぁ。そうなるよね?まぁ、仕事熱心なのは良いが、家庭も子供も大事にしてくれ」と瞬にここぞとばかりに念を押して言った。瞬は明郎に「心配して頂いてありがとうございます。今度は父として頑張って行きます。よろしくお願いします」とお辞儀をした。明郎が瞬の肩を叩いて「よろしく頼むよ」と声を掛けて佳代子の病室から現在、住んで居る自宅へと帰って行った。瞬は、スランプを経験して初めて小説を書けないことがこんなに寂しく、悲しい事なのだと感じた。




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