フラグ 14 側近ちゃんとレイからのお手紙

「リュート! テメェなんでこんなとこに……!」


 イグニス達は俺を見てビックリしてる。

 けど、こっちこそ驚くぜ。

 冒険者のクセに一般人のクロエに殴りかかろうとするとか、マジでありえねーだろ。

 頭沸いてんのか?


 あーホント、こんな奴らと一緒にいたんだと思うとうんざりだ。


「別に俺がどこにいよーがいいだろ。お前達から追放されたんだからよ」


 俺がそう言うと、周りが騒めき立った。


 まあそうなるわな。


「おいっ、アイツ逃亡補助犯のエデン・リュートじゃん!」

「ホントだ! ヤバッ」

「アイツ捕まえれば、逃亡令嬢も捕まえられるっしょ」


 みんな俺に大注目。目立ってるーーーー♪

 人気者だぜ!


 な、訳ねぇか。


 あーーあ、俺は別にこーゆー形で注目浴びたかった訳じゃないの。


 注目は、狙った所で、されてみたい by・翔


 まったくままならねぇもんだ。

 まっ、別に狙い通りだからいいんだけど。


 俺はそんな事を思いながらクロエに軽くウインクした。

 するとクロエはビックリして、固まってた表情から一転。

 バッと身を乗り出してきた。


「リュート! アナタ、本物?」

「あたりめーだろ。まずそれの確認するって事は、さてはクロエも本物だな~~~ニャハハッ」

「当り前でしょリュート。私はいつも本物よ」

「そいつは安心したわ。おひさっ♪」


 俺はニカッと笑って、クロエに片手でごめんの挨拶ポーズを取った。

 けど、やっぱちょっと軽すぎたかも。

 クロエは軽くプンスカしている。


「まったく……おひさっ、じゃないわよ。どれだけ心配したと思ってるの!」

「いやーーー悪ぃ悪ぃ、ちょっと色々あってさ」

「なによ色々って。ちゃんと話しなさいよ」


 クロエがそう告げた時、俺の周りに冒険者達が集まって来た。


 そりゃあ焦る気持ちも分かるけどさ、あんまドカドカ足音立てて来ないでほしい。

 その足音だけでちょっと緊張すんのよ。マジで。


 まあ、ドラゴンちゃんと戦ったから前ほどではないけどさ、イヤじゃんこういう音。


 でもコイツら、追放した時はさっさと消えろみたいな顔してたのに、今は俺を捕まえようと必死な顔しちゃってら。

 コイツらには恥ってもんがねーのかね。


「クロエ、悪ぃ。今度ちゃんと話すわ」

「今度って、何よそれ」

「いや、今日は久々にクロエの顔見に来ただけだからさ。騒がしちゃってごめん。てなわけで……」


 俺はイグニスの方へ顔を向けるとニッと笑った。


「俺の事捕まえに来たんだろ。だったらこのままアイツの所に連れてけよ」

「はあっ? テメェ、どーゆーつもりだ……それにあの女はどーしたんだよ?」

「俺がここで答えると思うか? 第一、俺を連れてってレイの居場所吐かせないとマズいんじゃねーの? 後がねーんだろ」

「なっ? テメェ、なんでそれを……!」


 イグニスは驚いてるけど、内心俺も驚いてる。

 今のはハッタリで、レイの言った通りだったからだ。


 レイが言ってたのさ。

 あの王子の事だから、自分を逃がしたイグニス達の事を絶対詰めるハズだし、見つけないと冒険者の資格剥奪するとか言ってくるハズだと。


 それに加えて、俺の近しい人に尋問する奴もいるかもって言ってたからクロエのとこに来たんだけど、それもドンピシャ。


───レイ、お前やっぱスゲーわ。後は任せてちょーだいな。


◆◆◆


「カイン陛下! 逃亡補助犯エデン・リュートを連れてきました!」


 イグニスの奴、ここぞとばかりに張り切ってら。

 まっ、無理もねーよな。

 冒険者でいられるかどうかが、これにかかってるんだからさ。


 けど、王子さんの顔は冷たいままだわ。

 

「フンッ、とりあえずはよくやったと言いたい所だが、本当にお前が捕まえたのか?」

「いや、まぁ、もちろんでして……」


 イグニスの奴、自信なさげに答えてやんの。

 俺を追放した時はあんなにイキってたんだから、ここでも堂々としてりゃいいのに。


 軽く呆れてると、王子は俺をギロッと睨んできた。

 イグニス達に対するのとは、また違う敵意が瞳に宿ってる。


「よく来たな。エデン・リュート……!」

「どーも。名前を呼んで下さって光栄です」

「ハッ……心にも無い事を。第一、キサマの魂胆は見えている」

「へっ?」

「とぼけるな。レイを差し出す代わりに、逃亡補助の罪を許してくれとでも言いにきたんだろ」


 ニヤリと黒い笑みを浮かべた王子。

 下賤げせんの者の考えなど見抜いてるわ! と、言わんばかりの傲慢な表情だ。


 そんな王子に、俺は軽く呆れたように笑った。


「ハハッ……これはこれはカイン陛下。何ともな事で」

「キサマの考える事ぐらい、私が見抜けぬワケがないだろう。クククッ……」

「ハハハ……王子さん、アンタおもしれーな」


 俺がそう告げると、王子の側近達が無礼者だと何だと騒いできた。


 多分、クソ生意気な態度に腹も立ってるんだろーけど、俺はあんまおべっか得意じゃないんだ。

 身分が遥かに上の人間だろうと、感じ悪い奴にはそういう態度になっちまう。


 王子はそんな俺を冷徹な瞳で見据えてきた。


「キサマ、何がおかしい」

「いや、なんて言ったいいのか……カイン陛下、あまりにもレイの言った通りだから笑えてちゃって」

「なんだと!」


 その瞬間、俺は紙をサッと取り出して王子の前にフワッと放り捨てた。


「それ、読んでみろよ」

「キサマ、私に向って放り捨てるとはいい度胸だな」


 カインは俺を睨んでるけど、これで充分だ。

 レイの事を処刑しようとしてるバカ王子に尽くす気持ちなんてねぇから。


 俺がそんな態度取ってるから、むしろ側近が慌てて紙を拾い上げた。

 バカ王子さんの怒りが爆発しそうなんで、側近ちゃんも慌ててら。


 けれど、その紙に書かれている事を読んだ側近ちゃんの顔はサッと青ざめた。


「こ、これは……」

「おい、何て書いてあるんだ?」

「い、いえ、こ、これは……」


 真っ青な顔で震えている側近ちゃんに、バカ王子はイラついている。


「さっさと読め」

「し、しかし……」


 戸惑う側近の事を王子はギロッと睨みつけた。

 腕に捕まってるアリーシャも不安げな顔を浮かべてるから、尚更なんだろう。


「貴様……俺の命令が聞けないのか!」

「い、いえ。決してそのような事は……」


 側近ちゃん、アンタも拾わなきゃよかったのに。

 でもまあ、読んじまったもんはしゃーねーよな。


 もしここで破り捨てたりしても、今度はバカ王子に怒鳴られるだろうし。


───あ~~もしこの世界に朝のめざましテ〇ビの占いがあったとしたら、側近ちゃんの今日の運勢は最悪って出てたろうな。ご愁傷様です。


 俺がそんな事を思ってると王子はアリーシャを腕から離してツカツカと側近に近寄り、サッと手紙を奪い取った。

 うじうじしてる側近ちゃんに業を煮やしたんだろうね。


 でもダメだって。そーゆー事するとロクな結果にならないよ。


 案の定、バカ王子はそれを読み始めると同時に怒りに震え始めた。


「こ、これは……!!」


 紙に書かれた文字を目を大きく見開きながら見つめている。

 それを見て、俺はニヤッと笑みを浮かべた。


「なんて書いてあったよ、カイン王子様♪」

「……おのれ!」


 カインは怒りを爆発させて紙をバリッと破いた。


 ん? なんでかって。

 そう。勘の良い読者なら分かってると思うけど、手紙にはこう書いてあったのさ。


〜『レイを差し出す代わりに、逃亡補助の罪を許してくれとでも言いにきたんだろ』←王子は必ずこう言うわ♪〜


 ここまで完璧だと笑うしかねぇわ。

 レイはマジで賢くていい女だ。

 でも、この王子さん分かってねぇだろーなーー。


 レイが王子アンタの事をどれだけよく見てたかって事をさ。


───レイ、もうちょっとだからな。待ってろよ。


 俺は心でそう呟くと、王子を強く見据えた。




 って、ちょっと待ちさいよ! なんか、リュートばっかり喋ってるじゃない。


 しかも、なんか締めるとこはちゃんとしてるし。


 まあ、ちゃんと私の事を褒めてくれてたからいいんだけど……

 いえ、ダメよ! この物語はダブル主人公なんだから!


 だからここからは私も……って、えっ? 次回?

 一話が長すぎるとweb小説には向かないから?

 

 あーーーーーもうっ、仕方ないわね。


 じゃあ、次回は私のターンなんでよろしく♪

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