フラグ 13 王子の命令と焦るイグニス

「だが私は寛大だ。あの忌まわしきモンスター共を討伐し、クロスフォード・レイをこの場に連れてきたら許してやる。それまで処分は保留だ」


 カインからそう告げられた瞬間、イグニスはバッと頭を下げた。


「あ、ありがとうございます!」


 地獄の一歩手前から引き上げられたイグニス達は、ホッと胸を撫で下ろしいる。

 だが、カインはその隙を見逃さない。

 こういう瞬間が、命令するのに一番効果的だと知っているからだ。


「喜ぶのは早い。今日から一ヵ月だ」

「えっ?」

「この度のクロスフォード・レイの捕獲についてはAランクパーティまでであったが、このモンスターの討伐は特別だ」


 緊張した空気が走る中、カインは真顔で言い放つ。


「一ヵ月で決着が付かなければ、Sランクのアイツらにも参加してもらうからな」

「そ、そんな! Sランクといえば……」

「キサマら冒険者達が使えんのであれば仕方なかろう」


 Sランク。それは別名『王宮魔導士』と呼ばれる、王国最強の戦士達だ。

 魔力の総量も戦闘力も、Aランクまでとは格が違う。


 王に次ぐ身分で普段は滅多に動かない。

 ただ、国の有事の際には一気にそれを解決させる絶大な力を持っている。


 絶大な力を持つ魔王軍からの侵攻を防いでいるのも、彼らの力だ。


 ならばさっさと彼らに任せればいいと思うかもしれないが、そうはいかない。


 王宮魔導士達が戦うのはあくまで魔王軍とのみ。

 そこから派生するモンスターの討伐は冒険者達の仕事だ。


 なにより彼らは、それぞれが天才ゆえにマイペースなのだ。


 王子からの命令といえども、気分が乗らなければ決して動かない。

 特にこの王子のバカさ加減には呆れている。


 もちろん、魔王軍が攻めてきた時は全力で戦うが、それ以外は本当に彼らは自由だ。


 けれど逆に、もし彼ら王宮魔導士達が動けばBランクのイグニス達の出る幕など欠片も無い。

 

───万一あのお方達がこの件で動いたら、もう俺達は終わりだ。剥奪は免れない……!


 その事に震えるイグニス達に、王子は片手をサッと伸ばした。


「お前達の犯した罪はそれだけ重い! 分かればサッサと行きここに連れて来るがいい。ドラゴンの首と……クロスフォード・レイをな!」


◆◆◆


「ハァッ……リュートの奴、どこに行っちゃったんだろ」


 クロエはカウンターの中で仕事をしながら、ちょっと切ないため息を吐いた。

 リュートが無限の魔力に目覚め、レイをお姫様抱っこして飛び去る現場をクロエも見ていたからだ。

 目の前で見たクロエ自身、あの光景は未だ信じられない。


───あのリュートがね~~~。それに……


 クロエがそう思った時、目の前の男が飲んでたグラスをタンッと置きクロエをジロっと見てきた。

 それはイグニスだ。

 リュートと仲の良かったクロエなら、きっと何か知ってるハズだと考えているのだ。 


「なぁ、アンタ知ってるんだろ。リュートのヤツがどこにいんのかよ」

「ハァッ……知る訳ないでしょ。私が知りたいぐらいなんだから」


 クロエはグラスを布でキュッキュッと拭きながら、イグニスに呆れた眼差しをに向けた。

 そんな眼差しにイラっとしたイグニスは両手をカウンターにバンッ! と叩きつけて立ち上がると、クロエにグイッと身を乗り出した。


「おい! 庇うとロクな事になんねーぞ!」


 また、仲間達も同じだ。

 自分達の冒険者の資格がかかってる為、クロエをキツく睨んでいる。


「そうだ! さっさと言わんと主の為にならんぞ」

「そーよ! 早く言わないとやっちゃうわよ」


 そんな彼にクロエはうんざりだ。


「だから、知らないって言ってるでしょ。アナタ達、人の話聞いてる?」

「テメェ……だったら今すぐアイツに連絡取れや。アイツは逃亡補助犯なんだぞ!」


 ギロッと睨みつけてきたイグニスの事を、クロエは冷静に見つめ返した。

 本当に知らないし、彼らの尋き方も気に入らない。


「逃亡補助犯だから捕まえようとしてるの? 違うわよね。ランクアップと報奨金の為でしょ」

「ああん? 悪ぃのかこのアマ!」

「ハアッ、呆れた。例え知っててもアンタみたいな奴に教える訳ないじゃない」

「なんだとテメェ……第一、リュートあんなヤツのどこがいいんだ。犯罪者なんだぞ」


 その言葉にクロエはキレた。


「何言ってんの! アイツは……リュートは悪い事はしないから!」


 クロエはちゃんと分かっているのだ。

 リュートがどんな人間なのかを。


 お店をしているクロエは、人を見る目は人一倍ある。


「アイツはバカでお調子者だけど、真っすぐなヤツだから! そんなリュートを追放したアンタの方がよっぽど犯罪者よ!」

「テメェ……! いい加減にしやがれ!」


 イグニスはクロエの言葉にブチ切れ、拳を振り上げクロエに殴りかかった。

 思わずギュッと目を閉じたクロエに、イグニスの拳が迫る。


 だがその拳は、クロエに当たる事なくガシッと止まった。


「おい、いい加減にするのはお前だよ。イグニス」

「なっ、テメェは!」


 イグニスがハッと振り返って見上げたのは、もちろん俺。

 ん? なんでこんなとこに堂々と出てきたのかって?


 話したいだけど、それは……次回っ!

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