フラグ 11 竜の子の微笑み

「うっそだろ……!」

「レイ、かっこよすぎ……!」


 ドラゴンを従えたレイを見て、リュートとエレミアはあ然とした顔を浮かべている。

 無理もない。

 レイがドラゴンをひれ伏させてるその姿は神秘的ですらあり、神話の光景ようにも見えてしまうから。


 そんな中、レイはドラゴンの顔にそっと触れた。


「フフッ♪ いい子ね。ちゃんと分かってくれれば危害は加えないわ」


 私はドラゴンの頭を微笑みながら撫でたわ。


 まあ、リュートとエレミアから見ればきっと余裕のある女に見えてるんでしょうね。

 けど、全然そんな事ないから!


 度胸とハッタリでこうしてるだけよ。

 ドラゴンが恐いのはもちろんだけど、そもそも私は爬虫類とか苦手だし。


 まあ好きな子もいるかもしれないけど、私はモフモフが好きなの。


 でも、こうしてないとリュートが心配しちゃうから頑張るしかないじゃない。

 さっきみたく、あんなボロボロなのに無理させる訳にはいかないし、それに……困るのよ。


───あんなんカッコよすぎ。反則よ。


 私がそう思った瞬間、ドラゴンの身体が一瞬白く光り輝いたの。


「きゃあっ!」


 思わず片腕上げてガードしちゃった。

 けど、全然そんな必要無かったわ。

 ドラゴンは攻撃してきた訳じゃなかったの。

 

 なんと、人の姿に変身したのよ。


「いやーーーまいったまいった♪」


 少年はサラサラの赤い髪を軽く揺らしながら、少し釣り目の目を細めて笑った。




 俺はコイツ見た時、ちょっと嫉妬しちゃったよ。


 ポップな口調とは逆に、かなり、いや、そーとーイケメンな部類だから。

 俺が前世に住んでいた日本。


 そこでよく流れていたアニメに出てくるような、ちょっとヤンチャ系のイケメン。

 頭から軽く生えてる二本の角が可愛らしいし。

 

 それにさ、今さっきまでドラゴンの姿だったのに、カッコいい服まで着ちゃってる。



 俺がそんなこと思って見つめる中、少年はレイを見つめてニカッと笑った。


「オイラにここまで言ってきたのは、父ちゃんと母ちゃん以外にはいねーからさ」

「お父さんとお母さん?」

「うん。あっ、今いねーと思ったっしょ。いるに決まってんじゃん。俺も人の子……てか、竜の子よ」


 自分で竜の子って言うなんて可愛いじゃない。


「竜の子って事は、やっぱり本当の姿はドラゴンなの?」

「まあね♪」


 ニカッと笑った竜の子と、それを興味ある目で見つめてるレイ。


 そんな二人を見て、俺は一瞬ついていけなかった。

 いや、かなり急展開で整理しねぇとマズいっしょ。

 だからちょっと話しかけてみるわ。


 なんかドラゴンちゃん、言葉ペラペラだし。


「あのさ、俺はエデン・リュート。まあリュートでいいんだけど、ドラゴンちゃんって名前あんの?」

「どーぜんじゃん。オイラは『ディオネア・ニーズヘッグ』長いからディオでいいよ」


 なんかメッチャいい奴じゃん。

 しかも、その見た目でオイラとかズリーぞ。

 まっ、でも良さげな奴だからいいや。


 気のいい奴はみんな友達よ。


 ただ、さっきまでガーガーやってたアレは何やったの?


 つーか、なんか安心したら体がまたクソ痛くなってきた。

 まあでもここは我慢だ。


「りょーかいディオ。ちなみに、この可愛い妖精ちゃんがエレミアで、こっちの気の強ーーーい女がレイだ」

「私エレミア。よろしくね♪」


 ニコッと笑ったエレミアの側で、レイはリュートに向けて口を尖らせた。


「ちょっとリュート、何よその紹介のしかた!」

「いや、間違っちゃいねぇだろ」

「さいっっってーーー! もうちょっと言い方ってモノがあるでしょ」

「悪ぃ悪ぃ」


 俺は怒鳴られながらも安心してた。

 いやいや、そーゆー趣味な訳じゃなくてさ、さっき一瞬レイが聖女の光を放ったろ。

 だから、もしかして何か色々変わったのかと思って軽く確認の意味で言ってみたんだけど、やっぱレイはレイだったわ。


 でも、そうなるとやっぱ色々と気になるわな。


「にしてもディオさ、なんであんな真っ黒なクリスタルはめてたんだ?」

「それが、よく分かんないんだ」

「分かんないって……」


 お前さんがが分からなきゃ、マジでこっちはお手上げなんだけど。

 いや、原因をちゃんと分かっとかないと、またいつガーガーなるか分かんないじゃん。


 俺がそう思う中、ディオは話を進めてゆく。


「なんかいつも通り岩の上で寝てたら、急に嵌められててさ。で、なんか殺意っていうのかな……すごく黒い気持ちが出てきちゃって、それで……ごめん」


 ちょっとシュンとしたディオを、レイは優しく見つめている。



 悪い? 確かにさっきはさっきは凄い啖呵きったのは認めるわ。

 でも、なんかこの子可愛そうなんだもん。

 本当はいい子なのに、誰か知らない人に黒いクリスタル嵌めこまれてたんでしょ。


───誰だか知らないけど、こーゆー事するの本当にムカつくわ。


 でも、怒りと同時に気になるわね。


 誰が何の目的でこの子にこんな事をしたのかが。



 レイは色々考えつつも、ディオの事を華美な瞳でジッと見つめた。


「気にしないで。確かにあのクリスタルからはすっごくたくさん黒いオーラ出てたし、もうそんな気は無いんでしょ」

「もちろんだよ! オイラ、遊ぶのは好きだけど暴れるのは嫌いだから」

「フフッ♪ じゃあ問題ないわね」


 私、別に強がってる訳じゃないのよ。

 本当にそう思っただけ。

 もちろん、リュートの私の紹介の仕方に腹が立ったのも本当よ。


 ホント、デリカシーないんだから。


 でもいいわ。それよりも……


「ちなみに、心当たりはないの?」

「う~~~~ん、特に無いんだけど、少なくとも凄い魔力を持った奴だとは思う。じゃないと、オイラが寝てる時にあんなん着けるなんて出来ないし」

「そうよね……」


 静かにそう零したレイ。


 俺はその顔が何となく気になった。


「もしかしてレイ、誰か心当たりあんのか」

「……無いわよ」

「そっか。じゃ、いいんだけどよ」



 リュートはそれ以上追及してこなかったわ。

 けど、確かに私の脳裏には一瞬ある人の顔が浮かんでたの。

 王宮にいたとある人の顔が。

 でも、多分気のせいよ。

 私に突然聖女の力が現れたから、もしかしてって思っただけだし。


 私ははちょっと考えてから、エレミアの方へ顔を向けた。


「ねぇ、エレミア。この力が聖女の力って本当なの?」

「うん、間違いないわよ。私達エルフは人間よりもずっと寿命が長いから、昔見た事あるし」

「そうなの?!」

「だから間違いなくそれは聖女の力、ホーリィ・アーク。究極の癒しの力よ。ねっ、ディオ」


 エレミアが顔を向けると、ディオは軽く微笑んだ。


「ああ、間違いない。オイラの黒いクリスタル壊せたのが一番の証拠さ」


 ディオは話を合わせてる様子はない。

 なんか、フツーに当たり前という感じだ。


 ただ、そうなるとレイは当然疑問に思う。


「でもなんで急に……」


 レイがそう零すと、エレミアがリュートに向かいニコッと笑ってきた。


「リュートの力のお陰よ」

「へっ? 俺の?」


 今まで軽く蚊帳の外だったのに、いきなり俺かい。

 まあ、この物語は視点がバンバン変わるから今さらっちゃ今さらだけど、今のはちっと驚いたぞ。


 エレミアは俺見ながらニコニコしてるし。

 うん。でもいいニコニコだ。


「そうそう♪ リュートさっき限界超えた魔力放ったでしょ。あの時に溢れ出たリュートの魔力が、レイのホーリィ・アークを目覚めさせたんだと思うわ」

「そーなのか」

「うん。二人ともさすが付き合ってるだけあるわね」


 エレミアが笑顔でそう言った時、俺とレイは同時に顔を見合わせた。


 で、二人どーじにエレミアの方へ振り向いた。


「付き合ってねーよ!」「付き合ってないわ!」

「えっ、そーなの。てっきり二人とも恋人同士かと……」

「んなわけねーだろ。こんな気の強い女と付き合ってたら、いくら魔力が無限でも俺もたねーよ」


 俺がやれやれのポーズを取ると、レイがキッとした顔を俺に剥けてきた。


 あーヤバいヤバい。

 怒られるーーーーーーー


「あのね、それはこっちのセリフよ。こんなデリカシーない人といたら、聖女の力あってももたないわよ!」


 ほらね、やっぱ怒られた。


 そりゃ、レイの事はいいと思ってるよ。

 マジで一緒にいればいる程、あの沙紀に本当に似てるから。


 けど、口が動いちゃうんよ。


「けっ、なんだよ」

「フンッ、そっちこそなによ!」


 あーもう、なんでこう素直になれないの。

 リュートの事、本当にいいと思ってるのに。


 なんかね、一緒にいればいる程に思っちゃうの。


 翔にスッゴイ似てるって。

 見た目じゃないわよ。


 見た目だけで言ったら、翔よりも断然イケメンよ。


 けど、前にも言った通りそこじゃないの。


 本気で一生懸命な所が凄く似てるし、いいなって思ってる。


 けど、舐められちゃダメなの!

 私、これからが本番なんだから!




 同じ気持ちなのに、互いに顔を軽く赤くしてプイっとそっぽを向いた翔と沙紀もとい、リュートとレイ。


 エレミアはそんな二人をちょっと困りながらなだめてる。

 頑張れエレミア。

 キミがいい緩衝材になるのを期待してるぞ。



 そんな光景を目の当たりにして、ディオがちょっと不思議そうな顔をしている。

 コイツら、メッチャ好き同士なのに何してんだ?

 ってな顔だ。


 そんなディオに見つめられながら、リュートとレイは思ってた。


───ったく、あーーーなんでこう思ってもねぇ事言っちまうんだろうね。俺は。けどよ……


───もうっ……また思っても無い事言っちゃったわ。でも……


 二人は心の中は同じだ。


───こうしないと、好きなのバレちゃう。


 心で同時に同じ事を呟いたリュートとレイ。

 転生前からもそうだが、ここまで息が合ってるというのもなかなか珍しい相性だ。


 そんな二人を見つめながら、ディオはニコッと笑みを浮かべた。


「二人とも仲いいなあ♪ けど、なんでこんな山の中にいるんだ?」

「そーそー、私もまだちゃんと聞いてなかったし」


 そう問いかけられると、リュートとレイはお互いを一瞬チラッと見て、ディオとエレミアに向かってこれまでのいきさつを話し始めた。


◆◆◆


 それを全部聞いたディオとエレミアは、それぞれ驚きを隠せない顔をしていた。

 まあ当然といえば当然で、色んな事が立て続けに二人に襲い掛かってきてたから。

 こんな事はなかなかあるもんじゃない。


「はぇ~~~~」

「ヒドい……!」


 特にエレミアは悲壮な顔をして二人を見つめてる。


 リュートにもそうだが、同じ女の子としては、レイが受けた理不尽な婚約破棄と断罪にメッチャご立腹。


「そんなん絶対許せないわ! そのバカ王子、絶対ギャフンと言わさなきゃ!」

「そうね、私だってそうしたいわ。けど、ここからどうしようかまだ分かってなくて……」


 すると、ディオがニッと笑ってレイを見つめた。


「だったら、オイラ使えばいいじゃん」

「えっ、どういう事?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る