フラグ 10 強すぎだよ令嬢ちゃん
「誰っ?!」
私、思わず声を上げて周りをキョロキョロ見渡しちゃったわ。
だって、仕方ないでしょ。
いきなり声が聞こえてきたんだもん! 私の頭の中に知らない人の声が。
正直、こんな状態じゃなかったらビクンッとするレベルよ。
下手したら卒倒もの。
だから、じっとしてる方が不自然でしょ。
でね、その声が聞こえた瞬間、私の体から白い光が溢れ出してきたの!
その姿を見て、リュートはハッと目を丸くした。
「レイ、どーしたんだそれ……!」
「分かんないわよ。でも……」
私はリュートにそっと触れた。
なんでそんな事したのか分からないわ。
何となくそうしたかったの。
で、その瞬間、私の光がリュートの放つ光と交わったの。
リュートもビックリしてるわ。
「な、なんじゃこりゃ!」
俺はビックリして声上げちまった。
いや、俺がメッチャ頑張って放ってる補助魔法の色が、白から虹色に変わっちまったから。
「レイ! な、何したんだコレ!」
「だから分かんないって言ってるでしょ!」
「いや分かんないって、明らかに何かあったろ」
リュートとレイがそんなやり取りしてる中、エレミアは目を丸くしている。
「凄いよレイ! これは伝説の力』ホーリィ・アーク』だもん!」
「エレミア知ってるの?」
「もちろんよ。だってその力は、あのフロラキス……」
エレミアがそこまで言った時だった。
ドラゴンの額の黒いクリスタルが、ピシピシピシッ……って、音を立ててヒビ割れ始めた。
「レイ、なんかこれいける感じがするぞ! うっおおおおお……!」
「フフッ……♪ と、とーぜんでしょ……! 誰がついてると思ってるのよ……!」
リュートとレイは互いに魔力を放ちながら、一瞬チラッと見つめ合った。
───ったくレイ。お前さん、最高にいい目してるぜ。
───無限の魔力とかあってもなくてもリュート、アナタは最高よ。
二人が一瞬微笑んだ瞬間、エレミアが叫んだ。
「二人とも、いっけーーーーーーーーーーー!!」
「オオオオオオオオッ!! まかせとけ! ドラゴンちゃん、俺達の……」
「ハアアアアアアアッ! 私達の……」
リュートとレイは同時に最高潮の魔力を滾らせてゆく。
「勝ちだ!!」「勝ちよ!!」
その瞬間、ドラゴンの額のクリスタルが遂にパリンッ!! と、音立てて砕け散った。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
耳をつんざくような巨大な咆哮だ。
額の砕け散った黒いクリスタルから漆黒の闇が空に霧散していき、ドラゴンは上空でもだえてる。
マジで耳がヤバかったけど、俺もレイもエレミアもなんとか一安心だ。
「ぷっはぁ〜〜〜〜〜〜」
「はあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「ふうっ〜〜〜」
俺達はおのおの大っきなため息を吐いた。
いや、マジで疲れた。
こんな全力出したのは生まれて初めてだ。
体もクッソ痛い。
けど俺はすぐドラゴンを見上げた。
こーゆー時なんだよ。いっちゃん何かあんのは。
勝ったのはそりゃ嬉しいよ。
けど、油断した時にヤベーのが来んだって。
これに限らず、人生なんて大体そんなもん。
まっ、最悪俺だけならいいんだけど、今はマジでまだ気を抜けねぇ。
守んなきゃいけない可愛い子ちゃん達がいっからさ。
リュートやるわね。流石じゃない。
私、思わずリュートの事を横からジッと見つめちゃった。
もちろんドラゴン倒した事もそうだけど、勝ったのにドラゴンの方見てるなんて凄いと思ったからよ。
きっと、こういう時に油断しちゃダメなのを知ってるのね。
こんな優秀な人はなかなかいないわ。
───まったく……この人を追放したパーティは、控えめに言って超おバカね。
バカな人、追放してから、大後悔 by・沙紀
レイがそんな事を思ってると、エレミアが興奮しながら話しかけてきた。
「レイ、凄いね! まさか聖女だったなんて!」
「せ、聖女? 私が?」
「そうよ。あの力はホーリィ・アーク。聖女の光だもん」
「でも私が聖女って……」
「間違いないわ。聖女にしか覚醒されない究極の癒しの力なんだから。さっきのは、レイのその力がリュートの無限の魔力に乗っかったのよ!」
エレミアが興奮しながらそう告げた時、闇の力から開放されたドラゴンがリュート達の前にドスンッ!! と、音を立てて降りてきた。
そして、うなり声を上げながらリュート達をジッと見ている。
「グルルルルルルルルッ……!」
いやーーどうなっちてんのコレ?
俺、ドラゴンちゃん倒したよな。
でも、なんかドラゴンちゃん元気にこっち見てるんだけど。
元気な事はいいけどさ、ちょっとタンマタンマ。
黒いクリスタル破壊しただけじゃダメだったん?
───ここから相手すんのは、さすがにキツイわ……
俺がハアハア息を切らしてそんな事を考えてると、レイの奴が、なんとドラゴンちゃんの前にズイッと近づいたんだ。
そりゃもうビックリよ。
気が強いのは分かってるけど、それはシャレにならんて。
「レイ! 危ないから下がってろ!」
でも、レイは俺の言う事聞かない。
なんでなんマジで。
俺の話を~~~の、歌を歌いたくなっちゃう。
でも、歌っても意味ないよね。
あーーーもう、どう言ったら止まるんだ。
ドラゴンちゃんは口の横からフシュフシュ熱い蒸気みたいな吐息漏らしてるよ。
湿気に当たったら綺麗な巻きが取れちゃうよ~
とかかな。
いや、無視される可能性があるな。じゃあ……
リュートがそんな事を考えてる間に、レイはドラゴンの真正面まで近寄って睨み上げた。
えっ、何考えてんのって?
せっかくリュートと力合せてドラゴン倒したんだから、そのまま逃げればいいじゃないのって?
確かにちょっと前までの私ならそうしてたかもね。
正直、今だって怖くて堪らないもん。
目の前にいるのはワンコやニャンコとじゃなくて、ドラゴンなんだから。
でも見くびらないで! 私は今逃げる訳にいかないの。
だって、リュートが助けてくれたんだから。
いくら魔力が無限だからって、いえ、むしろ無限でリミットないからこそ、体への負担は半端ないハズよ。
だから……
「ドラゴン! アナタいつまで見下ろしてるのよ!! 呪いから救ってあげたのに、その態度はなんなの!!」
「レイ、なにやってんだ! お前だけでもいいから、さっさと逃げろ!」
いや、マジでシャレにならん。
レイの奴なにを四天王。
俺はもう全身ギッチギチで今動けないんだから、お前さんだけでも逃げろって。
頼むよ。
俺はお前さんに死んでほしくねーーんだ。
「おいこらドラゴンちゃん! そんな女どーでもいいだろ! お前さんの真っ黒いクリスタルを壊したのは俺だぜ! かかってこいや!! あっ? ビビッてんのかぁ?」
まあ、実際ビビッてんのは俺よ。
もう動けねぇし、防ぐ力なんざ残ってねぇ。
魔力無限だろって?
だから、体力がもうねぇの。
けど、レイの身代わりになる事は出来んだ。
俺の気持を代弁するかのように、エレミアもレイに身を乗り出した。
「レイ、危険すぎるわ!」
てか、俺はエレミアにだって死んでほしくねぇ。
死ぬのは俺みたいなやさぐれだけで充分なんだよ!
さっさと逃げろ!
「エレミア、お前も一緒だ。さっさとレイの事を里に連れてってくれ。後は俺がやる」
「リュート、私にとってはレイもリュートも命の恩人よ。貴方だけ置いてくなんてできないわ」
「気にすんな。エレミアもさっさと……」
俺がそこまで言いかけた時、レイが背を向けたまま俺らに告げてきた。
「フフッ♪ リュート、エレミア、私を誰だと思ってるの?」
レイはそう言うと長く綺麗な髪を片手でファサッとかき上げ、体から溢れ出す光をより強く輝かせた。
よく分からないけど、何か力が沸いてくるのよ。
なんで私みたいな女にホーリィ・アークの力が覚醒したのか分からないわ。
でも、使える物は使わせてもらうから。
だって、リュートから伝わってくるんだもん。
自分を犠牲にして私とエレミアだけ逃がそうとしてる気持ちが。
そんなの許さない。
命をかけて私を守ろうとしてくれてるアナタを、私は絶対見捨てない!
必ず守り切ってみせるわ!
レイはドラゴンを目の当たりにしながが、堂々と胸を張っている。
「ドラゴン、よく聞きなさい! この力は聖女の力。そして彼は無限の魔力を持ってるの。これがどういう事か分かるわよね!」
ドラゴンに見つめられる中、レイはさらに話を続けてゆく。
「聖女だから攻撃はしないとでも思ってる? だったら、見当違いもいいとこだわ。今すぐ私の前にひれ伏しなさい! だって私は聖女じゃない……聖女の力を持つ悪役令嬢よ!!」
俺もエレミアもマジで見入っちまった。
レイのあまりに気高く美し過ぎる姿に。
いや、だからこそ死なせたくねぇんだ!
コイツには生き延びて、クソ王子をギャフンと言わせてやりたい。
てか、もうそんなんどうでもいいから幸せになってほしい。
だから頼むぜ俺の身体!
もう出し渋ってる場合じゃないんだ。動け! ぶっ壊れてもいいから動け! レイを救え!!
「レーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイ!!!」
俺は気絶しそうなほどシャレにならない痛みを全身に感じながらも、レイの前に飛び出した。
「さっさと逃げろ! バカヤロウ!!」
けれどレイは俺を見ずに、ドラゴンちゃんを見据えたままだ。
危険すぎる状態なのに、まるで退く気配がない。
けどその瞬間、ドラゴンは大地にズズンッと腹を当てて倒れ込んだ。
俺とエレミアはそれを見て、メッチャ大きく目を見開いた。
「ええっ?!」
「ウソでしょ?!」
ドラゴンちゃんが取ったポーズは誰が見ても一目瞭然。
レイに対しての服従のポーズだからだ。
信じられないかもしれねぇど、レイは魔力云々じゃなくて勢いっていうか何だろう、存在その物でドラゴンを服従させちまったんだよ。
その光景を前に俺とエレミアが目を見開く中、レイはドラゴンの事をフフンとした眼差しで見下ろした。
「フフッ♪ それでいいわ。よくできたわね」
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