フラグ 8 ドラゴンちゃん襲来
「に、逃げてきた?!」
俺はちょっとビックリして、思わず声を上げちまった。
いや、いきなり逃げてきたとか言われたら、ねえ……
───けど、確かにさっき傷だらけだったし嘘ではなさそうだな。
そんな事を思う俺の隣で、レイはエレミアの事を心配そうに見つめてる。
何よ、見ちゃいけないの?
だって、逃げてきたとか言われたら心配になるじゃない。
私と一緒だし。
大体ね、女の子が逃げる時は相手の方が悪いのよ!
「あんなに傷だらけだったし、もしかして……誰かに暴力でも振るわれたの?」
エレミアは、レイを見つめながらゆっくり口を開いた。
「ドラゴン……」
「えっ?」
「額に真っ黒なクリスタルつけたドラゴンから、逃げてきたの……!」
「ウソでしょ?!」「マ、マジかよ!」
レイもリュートも、思わず目を見開いている。
いやいや、仕方ないだろ。
ドラゴンだぜドラゴン。
分っかりやすい最強のモンスターだぞ。
しかも、額に黒いクリスタルって何それ?
ヤバそうな匂いがプンプンするわ。
そうよ! そんなのに襲われたって聞いたら、誰だってビックリするに決まってるじゃない!
私を追っかけてきたのは人間だけど、この子を追っかけてきたのは怪物なのよ!
レイは俺の隣で、エレミアを見つめたまま薄っすら涙を浮かべてる。
確かにドラゴンに襲われるなんてかわいそうだ。
けど俺は、その時イヤな予感にハッとした。
「ちっと待ってエレミア。それって、この山でだよな」
「そう。だから、早く逃げなきゃ……」
エレミアがそこまで言った時、俺は思わず顔をしかめて片手で頭をクシャっと掻いちまった。
いや、本当に聴覚強化すぐに解除すべきだったわ。
昔から、使った物はすぐに片付けなさいって叱られたけど、本当にその通りだ。
ごめん母さん。
お片づけ、するのを忘れて、怒られた by・翔
だって聞こえちまったから。ドラゴンがバッサバッサ羽ばたく音がさ。
しかもそれ、急速に近づいて来てる。
───あ~~~もう、解除しなくても同じだわ。
俺がそう思った瞬間、レイはエレミアと一緒に空をハッと見上げた。
そこにいたんよ。
でっけぇ羽をバッサバッサさせて宙を漂いながら、こっちを睨んでる赤いドラゴンちゃんの姿が。
「レイ……あれ、お前のペットじゃねぇよな」
「リュート、私をなんだと思ってるの。飼うならもっとモフモフがいいわ」
「だよな。俺も飼うなら、可愛い小鳥とかの方が……」
俺がそこまで言いかけると、ドラゴンちゃんの奴が俺らをギロッと睨んできやがった。
「リュート、さっきのビューンで逃げれるわよね」
「悪ぃレイ。同じ場所には一時間経たなきゃ使えんのよ」
「ハアッ?! 嘘でしょ!」
「マジなんだな~~~だから……逃げろーーーーーーー!!」
「最悪ーーーーーーーー!!」
なに? ワガママ? 仕方ないじゃない!
だってドラゴンが目の前に迫ってきてるのよ!
全速力で逃げるしかないし、つい文句だって言っちゃうわよ。
えっ? エレミアはどうすんのって?
もちろん、一緒に逃げてるに決まってるでしょ!
むしろ……
「リュート、レイ、こっちよ! エルフの隠れ里まで逃げれば大丈夫!」
「でも、ドラゴン連れてっちゃマズイんじゃなくて?」
「大丈夫! 里の中は異空間になってるし、ドラゴンは入れないから」
「それならいいけど……ハアッ……ハアッ……」
レイは俺と並んで走ってたけど息を切らしてきた。
無理もねぇよ。
動きにくいドレスにハイヒールだし、レイは俺みたいに曲りなりにも冒険者でもなければ、エルフでもない。
体力で言えばただの女の子なんだから。
「ハアッ……ハアッ……もう……ダメ、走れない」
足手まといなんて言わないでよ。
これでも、一生懸命、走ってるん……だから……!
───レイ、お前はスゲーよ。こんにゃろ、ドラゴンなんかにゃやらせねぇっ!
俺はレイの体をガシッと抱えて走り始めた。
「ニャハハッ、お前さんをエルフの里まで配達してやるよ」
「ちょ、ちょっとリュート、私荷物じゃないんだけど」
案の定レイはそんな感じで言ってきたけど、離す訳にはいかねぇ。
体張ってでも守ってやる!
「まっ、確かにこんなうるせー荷物はねーよな」
「ハアッ? マジでムカつくんだけど! それに、私抱えてたら貴方の体力だって……」
そこまで言って、レイはハッとした。
「まさかリュート、アナタ……」
「そーゆー事。体力に補助魔法かけてんのさ」
「やるじゃない♪」
「だろ♪ けど、やっぱ筋力強化した方がよかったかも……」
「ハアッ? どーゆー意味よ! もう降りる! 降ろして!」
ったく、じょーだんの通じない女だ。
全然重くねぇっての。
仮に重くても関係ねぇ。
後、強化魔法は一回につき一箇所だけだ。
まっ、そんなん今言っても、怒らすだけだから言わないけどさ。
それに体力増強って後で反動くんだよ。
でもまあ、レイを助けられるなら安いもんだ。
俺はそんな事を考えながら、レイに向かって一瞬笑った。
「着いたらな」
「う〜〜〜リュート、覚えてなさいよ!」
「へいよ」
そんなこんなしてると、ドラゴンちゃんの額にある黒いクリスタルがギラギラ光ってきちまった。
なんなんよアレ。
しかもアイツ、大っきなお口開けたよ。
お口の中で燃え盛ってるのは何だろね?
「グガアアアアッ!!!」
ドラゴンの口から炎がリュート達に向かって放たれた。
やっぱそれきますかーー! ドラゴンといえばそれだよなー!
「熱いのは苦手なんで!」
「きゃあっ!」
「きゃっ!」
俺達は何とか躱したけど、アイツまた打ってきやがった。
頑張って躱してるけど、あんなん一発でも喰らったら二度と熱いとか言えなくなっちまう。
骨も残らんよ。
───さてどーする? エルフの里ってとこまで逃げきれんのか?
俺が走りながら考えてる中、レイはドラゴンの事をジッと見つめていた。
───もしかしてあのドラゴン……
私だってギャーギャー言ってるだけじゃないの。
ちゃんと見てるから。
今訳の分からない状態に巻き込まれてるから騒いでるけど、私は悪役令嬢よ!
何か起こった時、相手を冷静に観察するのは基本なの。
「ねぇリュート」
「なんだ?」
「貴方の補助魔法って、あのドラゴンまで届く?」
「へっ?」
「届くかどうか尋いてるの!」
「そりゃまあ、届くけど……アイツに補助魔法かけてどーしろっての?」
俺がそう答えると、レイの奴ニヤッと自信ありげに笑いやがった。
なーにを考えんのか分からんけど、全くいい顔しやがるぜ。
クソみたいなピンチの中で最高の笑顔を輝かす。
これが悪役令嬢って奴なのか。
───さっすがだよレイ。なんかお前さんいれば、ドラゴンにも負ける気がしねぇわ。
ただ、レイから作戦を聞いたら俺、思わずマジかよって顔しちゃった。
「マ、マジで言ってんのかレイ!」
確かに勝てる可能性はある作戦なんだ。
けど、メッチャ疲れそうなんよ。
何度も言ってるけど、俺はゆっくり暮らしたいの。
───あぁ、でもまあムリか。このドラゴンちゃんは、楽に勝てる相手じゃねぇし。
なんか今俺がチキったのを見透かしたかのように、レイは俺をキッと強く見てきた。
「当たり前でしょ! エレミアも協力してくれるわよね」
「……いいわよ。レイは命の恩人だし」
「ありがとう♪ じゃあいくわよリュート」
「マ、マジかいーー!」
エレミアちゃんも何で賛成しちゃうのよ。
キミが反対すれば、2対1じゃん。
でもムリか。
多数決っていうか、レイが言ったら聞くしかないもんな。
───やるっきゃねぇか!
俺はレイをサッと降ろすと、上空にいるドラゴンちゃんに向き合った。
「いくぜ! ドラゴンちゃん!」
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