フラグ 7 レイと魔法と妖精ちゃん

「決まってるって……まさか、いきなり仕返しに行くの?」


 レイはちょっとワクワクした顔で俺を見つめてる。

 けど、俺は逆。

 ちょっと引いてる。


「いやいや、気持ちは分かるけど、なんでそんな好戦的なんよ」

「えっ、違うの?」


 レイは俺を見ながら、ちょっと不満げな顔を浮かべた。

 まるで、今から乗り込むのを期待してたような感じだったから。


 けどさ、それはさすがにナイナイ。

 だって、今逃げて来たばっかじゃん。

 ちょっとはゆっくりさせてくれよ。


───何より作戦考えずに突っ込んだら、レイが断罪されちゃうから。


 それこそ、じょーだんじゃないって。

 何の為にビョーンと飛んだのよ。


「まっ、もちろんこのまま黙ってる訳にもいかないけど、まずはさ……」


 俺は聴力をアップさせる魔法を発動させる事にした。

 さっきレイが喉乾いたって言ったから、川を探そうと思ったんだ。

 

 喉が乾いたのは俺も同じだし、山の中にはワインは無いだろう。

 仮にあったとしても、俺はワインよりも水の方がいい。

 あんま酒は飲めないから。

 紅茶だったらいいんだけどさ。


 コスモティー飲みたいっ!


 ん? なんだか、某ユーチューバーみたいな事を言っちまったな。まあいいや。


「『プログレス・オーディオ』!!」


 俺は聴覚が一時的に高まる魔法を発動させた。


 けど、すぐに解除したわ。

 なんでかって? 

 いや、色んな音がメチャメチャ聞こえてきて、脳がパーンと破裂するかと思ったから。


 犬とかヤバいんじゃないかな。

 キャイン! ワンワン! って暴れそう。

 あっ、あれは鼻か。


 まあとりあえず、ボリュームの調整が必要だ。

 その上で、川のせせらぎの音に意識を集中させるんだ。

 よしっ、やってみよう。


 で、もう一度やってみると、今度は何とかうまく出来た。

 よかったー

 やっぱバランスが大事だね。

 

「レイ、あっちだ」

「あっちって、なに?」

「あぁ、あっちに川があるから」

「川?」

「そうだよ。喉、乾いたんだろ」

「そうだけど、川って……」


 リュートの気持ちは感じるけど、私、川の水を飲むのは抵抗があるわ。

 レイとしての記憶じゃなくて、沙紀としての記憶がそうさせるの。

 都会で暮らしてると、川の水を飲むとかないじゃない。


 レイはちょっと引いている。

 方やリュートは、以前趣味でアウトドアをしてたから問題無い。




 えっ、誰と行ってたかって? 

 あぁ、まあ背後霊様とお二人で。

 いけませんかね? ボッチですよ。はい。

 彼女とキャンプ?

 ハハッ……んなもん、都市伝説だろ。

 アナタ、陰謀論者ですか?


 てか、冒険者になってからもそうです。

 まあ、社畜の日々の時は行ってすらなかったけど。

 けど、知識はまだ覚えてるよ。


「川の水は、ちゃんと沸かしゃ大丈夫だって」

「そーなの?」

「もっちろん♪」



 リュートがそう言ってニカッと笑うから、まあいいかなと思って私ついて行ったわよ。


 けど、まさかあんな事になるなんて……



 しばらく歩くとリュートとレイは川に辿り着いた。

 サラサラと流れていて、本当に綺麗な水だ。


「着いたーー」

「あっ、本当にキレイ♪」


 リュートとレイは安堵したが、それもつかの間。


「きゃっ!」


 レイが悲鳴を上げた。

 なんとそこに、エルフが倒れていたからだ。

 若い女のエルフで、全身傷だらけで血を流している。


「ちょっとアナタ、大丈夫?」


 レイはエルフにタタッと駆け寄り抱きかかえた。


 え? そんな事するように思えない?

 なんでそー決めちゃうのよ。

 普通、倒れてる人がいたら助けるでしょ。


 それに、初級回復魔法なら使えるんだから。

 魔法使いじゃないけど、昔頑張って覚えたのよ。

 なんでって、それは……とりあえず今は早くこの子治さなきゃ!


「精霊よ。我を通じ癒しの力を現せ! 『ヒール Lv:1』!!」


 その瞬間、私本当にビックリしたわ。

 だって、手からパァァァッと放たれた光がLv:1のそれじゃなくて全回復のLv:4だったんだもん。

 こんなレベルまで極めてないのに、なんで……


 そう思って後ろを振り返ると、リュートが私の肩に手を添えて気持ちいい笑顔を浮かべてたの。

 だから私、ピンときたわ。


「ねぇ、もしかしてこれが強化魔法?」

「はいな。そーゆー事」

「凄いじゃないリュート♪」

「いや、むしろレイのお陰だよ。俺自身は回復魔法使えないからさ。令嬢なのに覚えるなんて凄ぇじゃん」


 俺は本当にそう思ってる。

 普通、王族は魔法とか使わないからだ。

 理由は簡単。

 自分が使えなくても、使える奴らにやらせるから。


 令嬢なんかは特にそう。

 魔法は華やかに見えるけど、覚えて使いこなすようになるまでは泥臭い練習がいるんだ。


 火とか氷とか雷とか色々大変だから。

 間違えて自分の腕燃やしちゃったり、寒すぎて固まっちゃったりとかさ。

 俺は自分に雷を当てちゃってから、こっち系は断念した。


 あん時のビリビリは、シャレにならんかった。

 マジで死ぬかと思ったわ。


───だから不思議なんだよな。レイが魔法使えるのって。


 王族が魔法使うとか、一般的には泥臭くて下品だと思われてるから。


「令嬢で回復魔法使える奴なんて、俺初めて見た」

「だ、だって、覚えといたら役に立つと思って……」


 俺はその瞬間、まさかと思って尋ねる。


「もしかして、あの王子の為に?」

「わ、悪い? だって仕方ないじゃない。役に立ちたかったんだもん!」


 顔を火照らせ軽く口を尖らせたレイに、俺は軽く微笑んだ。


「悪い訳ねーだろ」

「……本当にそう思ってる?」

「まっ、世間はどーか知んないけど、俺は素敵だと思うぜ」


 リュートがそう答えた時、エルフがパチリと目を覚ました。


「私もそー思います♪」

「きゃっ」

「おっ」


 そのエルフはニコッと微笑むと、スッと体を起こしレイを見つめた。

 大きく美しい瞳がキラキラしている。


「助けてくれたのはアナタ?」

「う、う〜ん、一応そうなんだけど、この人が手伝ってくれたのが大きいかな」


───おいおい、自分でやったって言えばいいのに。レイは本当いい奴だな。


 俺がそう思ってレイを見つめてると、エルフの子は俺達を見ながらニコッと笑った。


「じゃあ、お二人が助けてくれたのね♪ ありがとう。私、エレミアっていうの」

「エレミア……私はレイで、この人がリュートよ」

「レイとリュートか。よろしくっ♪ でも二人ともなんでこんな場所に?」



 エレミアからそう尋ねられたリュートとレイは、お互いサッと顔を見合わせた。

 特にレイは言いにくそうだ。

 悔しそうに体を小刻みに震わせてる。

 


───だよな。あんなん、思い出すだけで悔しいに決まってら。


 そう思った俺はエレミアに向き直って、片手で軽く頭を掻いた。


「いや、濡れ衣着せられて逃げてきたとこなんだわ」

「濡れ衣?」

「そう。やってもねぇ事でっち上げられてさ」

「えっ、そうなんだ……酷いね」


 エレミアは俺とレイの事を哀しそうに見つめてる。

 自分だって色々あったろうに、優しいエルフだ。

 あのクソ王子にも教えてやりてぇわ。 


「ちなみに、エレミアこそどうしたんだ? メッチャ傷だらけだったけど……」


 俺がそこまで言った時、エレミアはスッと顔を青ざめさせた。


「実は私もね……逃げてきたの!」

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