フラグ 6 なんか似てる二人

 天上界


「レティシアお姉様〜〜〜♪」


 穏やかな天上界に、フローラの嬉しそうな声が響く。

 その声にレティシアはスッと振り返った。

 フローラはメッチャ嬉しそうな顔で興奮している。


「ねぇ見た? 凄いよ彼! あの子抱えてビューンって飛んでっちゃったもん」

「そうね」

「しかも魔力∞だよ!」

「えぇ。五大悪魔王と戦う、光の勇者の助っ人にするハズでしたからね……」


 レティシアは翔と沙紀にチート能力は授けておいたのだ。


「あっ……! そうだったね……ごめんお姉ちゃん」

「まぁ、仕方ないわよ。もうどうにも出来ないし、光の勇者ならきっと勝つわ」

「うん、そうだよね。彼の魔力クリスタルの力ならきっと……!」

「えぇ……私は信じてるわ。彼の心の輝きを」




 てな感じで、天上界ではなんやらちょっとシリアスな展開が繰り広げられてるけど、雰囲気を戻そう。

 前にも言った通り、こっちはポップで明るい冒険譚だから。


 いやいや、俺はシリアスな話が読みたいんじゃい。

 と、いう方は、


『ゼロの輝き─無魔力追放からの反逆』


 もしくは、それのリメイク完結版、


『◆呪宝戦記◇ 無魔力クリスタルからの成り上がり。少女を救った少年は最強の力を手に入れる! ざまぁだけじゃ終わらせない』


 ってのがオススメです。


 けど、シリアスを期待してこの話には来ないと思うんで、このままいきます♪




 ん? で、ああそうそう。

 俺は令嬢ちゃん……じゃなくてレイを抱えて、文字通りぶっ飛んで逃げてきたんだけど、今レイに怒られてんのさ。

 助けてやったのになぜかって?

 それは……



「ねぇ、ここどこ?」

「知らん」

「知らんじゃないでしょ! ここ何にも無いじゃない!」

「いや、そ~言われてもさ……」


 ビョーンと飛び跳ねてきた先は山の中。

 見渡す限りの大自然が広がってる。

 やっちまったわ。

 メッチャ高く飛べるのが気持ちよくて、ついついこんなとこまで来ちゃった。


「確かに王宮からは大分離れたわね……」

「だろ?」

「でも私、こんな何も無いとこイヤよ! こっからどうすんのよ! マジでありえないんだけど!」


 ったく。止まらんなこの子は。

 普段こんなギャーギャー言われたら、メンドクセーって気になっちまう。

 けど、今日の俺は魔力∞とビョン飛びで気分がいい。

 やっぱ人間、余裕があるのは大事だね。


 魔力持ち、うるさくされても、喧嘩せず by 翔


「まあまあレイ、そー怒らずに見てみろよ。この大自然を。いーもんだろ♪」

「レジャーで来たならね。でも、これからどーすんのよ。あーもーー喉乾いた!」


 全く、ワガママ言いやがる。

 さっきの俳句を取り消したくなってきた。

 けどまあ仕方ないか。メッチャ走ったし騒いだし、そーいや俺も喉乾いたわ。


「ねぇリュート、アナタ魔法使いなんでしょ。水出してよ」

「水? そんなん出せねぇよ」

「はっ、なんで?」


 レイは嫌味じゃなくて、信じられないって顔で俺を見てやがる。

 アレだ。

 北海道って言ったら、全部同じ距離だと思ってるあの類いの顔。


「なんでって、俺は補助魔法使いだぜ。火も水も出せんて」

「なにそれ? 魔法使いなのに、全然役に立たないじゃない」


 レイはかなりイラッとした顔で俺に暴言を吐いてきたが、俺の方がよりイラッとしたわ。


 あんま言いたくないけど、助けてやったじゃん。

 それにさ、役立たずって言われるとアイツらから言われたのを思い出すんよ。

 あ〜〜ぁ、せっかく気分上がってたのに、マジで凹んだわ。


 レイはそんなリュートの顔を見てハッとした。




───あっ、ヤバっ。


 今のは私が悪いわよね。

 これ読んでくれてるアナタも、きっとそう思ってるんでしょ。


『助けてもらっといて、ありえねー』

『クソわがまま』

『リュートも、こんな女放り出しときゃいいんだよ』


 とか言ってるんでしょ。


 分かってるわよ、今のは私が悪いのは。

 でもイライラしてるの。

 ……けど、きっとリュートの方が傷ついたハズだし、イライラしてるわよね……

 

 なんて考えてたら、リュートが私に手を伸ばしてきたわ。

 えっ、何? 怒られる? それとも怒りに任せて私やられちゃうの? ちょっと待ってーーー!




 怯えた表情でリュートを見上げていると、リュートはレイの頭にポンッと片手を乗せた。


「悪かったよ。こっからちゃんとすっから」

「えっ、怒ってないの……?」


 恐る恐るそう尋ねたレイに、リュートは軽くため息を吐いた。


「別に、怒りはしねぇさ。まぁ、ちっと悲しかったけど」

「ご、ごめんなさい」

「ん? どーした、レイ。いきなりキャラ変か」

「べ、別にそんなんじゃないわよ! ただ、酷い事言っちゃったから、悪かったなって……」



 レイはちょっと頬を火照らせて、軽くプイッと横を向いた。


 それを見た俺は、何かマジで気にならなくなったわ。

 正直さっきは、ちょっと頑張って心立て直したとこあるけど、もういい。

 出会ったばかりというか、メチャクチャな出会いをしたばっかだけど、多分レイはいいヤツな気がするから。

 それに、気のせいなのは分かってるんだけど、何かレイはさ……



「レイ、別にいいよ。俺だってムシャクシャしてる時は思ってもねー事言っちゃう時あるし、人間なんてそんなもんだろ」

「リュート……」

「でも、ちょっと悲しくなったのは本当だからな。それは覚えとけよ」

「分かってるわよ。 ……ごめんね」

「はい、じゃーこれはここれで終わりだ♪」


 俺はニカッと笑ってレイの顔をジッと見つめた。


「な、なによ」

「いや、なんか似てる気がして」

「えっ、誰に?」


 俺は何か感じたんだ。

 もちろん、見た目は違うし口調も違うけど、なんかレイは似てるんだよ。

 俺が前世、てか、前世ってもんなのかも分からないけど、あの世界で奇跡の出会いを果たした沙紀に。


 いやだから、分かってるって違うのは。

 けど、メッチャ大変な状況なのに泣かずに気を張って頑張ってるとことか、気が強いのに本当は優しいとことかが、何か沙紀と同じだなって思って。


 だから、思わずジッと見つめちまったんだ。 


 けど、その事言うのはやっぱやめた。

 せっかく収まったのに、こんなん言ったらレイの奴まーた顔しかめて文句言ってくるに違ぇねーから。

 何度も言うけど、俺は争いは嫌いだしゆっくり暮らしたいの。


 てな事を考えると、レイが俺を見つめたまま痺れを切らしてきた。


「ねぇ、だから誰に似てんのよ」


 ここで、こっちの世界の有名人とか言っときゃいいのは分かってる。

 けどダメだ。

 俺の性格上ムリ。


「あーー……ひよこに」

「はあっ? ひよこって何よ、ひよこって」

「ピヨピヨピヨピヨうっせーから。ニャハハッ♪」


 俺がニヤッと笑ってそう言うと、レイの奴可愛く口を尖らせてきやがった。


「ひよこじゃないから! 私は……フェニックスよ! そう、大空へ羽ばたく不死鳥」

「へいへい、分かりやしたよ。不死鳥さん」

「ムカつくーーー見てなさいよ!」




 私はそう言って口を尖らせて彼を見ていたけど、彼……似てるのよね。

 もちろん口調も違うし、顔だって違う。

 けど彼、なーんか似てるの。

 前世かなんか分からないけど、そこで大好きだった翔に。


 分かってるわよ、気のせいなのは。

 でも、何ていうのかしら、上手く言えないけどそう感じるの。

 感覚なんだから仕方ないじゃない。

 それに彼、さっきいきなり魔力が∞って言ってたけど、私を助けようとしたのはそれが分かる前でしょ。

 その前は、パーティから追放されちゃうぐらいの落ちこぼれだったのに。


 前に言ったでしょ。

 私、イケメンとか力がある人から迫られても魅力感じないの。

 ダメダメなのに助けようとしてくれる男の人の方が真に強いと想うし、とっても愛を感じるわ。





 奇しく互いにも同じ事を感じた翔と沙紀。

 直感というか愛というか、そーゆーのって凄いもんですね。

 もちろん、二人はまさかとすら思ってないから、勝手に教えちゃダメですよ。

 え? どーせ、どこかでお互い気づくんでしょ?

 いつ気付くの?


 ちょちょちょ、なーんで勝手に決めてんの。

 ダメダメですよ。

 さーー、気付くんですかねー? 気付かないかもよーー


 まあ、とりあえず見守って下さい。

 今言えるのは、この物語はひたすら上げて上げて、さらに上げてのハッピーストーリーだって事です♪


 ほら、そんな邪推してる間にリュートとレイが見つめあってるよ。

 何かあるんじゃないでしょーか。




───沙紀に似てるよな。まさか……いやいやありえんて。

───翔に似てるわね。もしかして……あーーそんな訳ない。けど……



「ねぇリュート」

「ん? どーしたレイ」


 レイがジッと見つめてきたから、いきなり愛の告白でもすんのか? と、思ったけど全然違った。

 なんでレイが婚約破棄されて、あまつさえ断罪までされそうになったかの話だった。

 

 婚約破棄されたのは、王子ともう一人の姫に対する暴言があったからだって。

 でも、内容聞いてみたら全然違うのさ。

 確かに口調はキツかったけど、全部レイが王子と姫、そしてこの国の民の事を考えて言ってる事ばかりで、間違ってる事は何一つなかった。


 けど、あのバカ王子にはその心が全く通じなかったから、レイを遠ざけ、それどころか処刑しようとしたんだ。

 姫から言われた話を真に受けてさ。

 レイが自分に酷い事をしてきたっていう完全なホラ話を。


 レイは姫にちゃんとしてほしくて色々言ったんだ。

 けど、姫はそれを王子に何十倍も膨らませて話したあげく、やっても無い話も混ぜた。

 あまつさえ、自分の命を狙ってきたって嘘の話を王子にしたんだと。


───まったく、とんだバカ王子だな……


 レイとはまだ会ったばっかだけど、そんな事しないのはちょっと話せば俺だって分かんのによ。

 しかも、その王子以外にも数人レイを慕ってる若い侯爵達がいたんだけど、それも騙されちまってレイの周りは全員敵になっちまったんだと。


 で、この話を全部聞いた時、俺はもう認めざるをえなかった。

 この世界はあの乙女ゲームの世界で、目の前にいるのは俺が救いたかった悪役令嬢のクロスフォード・レイだって事を。


───なんでこーなったか意味不明だけど、ちゃんと守んなきゃな。レイの事、絶対断罪なんかはさせねーから!


 俺は心でそう決意したが、レイには直接言わなかった。

 恥ずかしいからさ。

 けど、そんかわしレイの事をジッと見つめた。


「レイ」

「なによ?」

「行くぞ」

「どこによ」

「決まってんだろ。まずは……」

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