フラグ 5 戦うよりも跳んで逃げろ!

「な、何で剣が折れんだよ!」


 イグニスはパキンッとへし折れた剣を見ながら、メッチャ慌ててやがる。


 けどまあ、そりゃそうだ。

 俺自身が驚いたんだから。

 剣がへし折れるなんて、普通ありえない。

 よくてバインっ! ぐらいだ。


 それは多分この無限の魔力ってのがポイントだ。

 魔法の威力ってのは、魔力の量に比例する。

 魔法に込めれる魔力がデカきゃデカい程、その威力はデカくなるのさ。


 もちろん、初級魔法〜上級魔法まで分かれてるけど、魔力の総量がデカい奴が放つ初級魔法の方が、魔力の弱い奴の中級魔法を凌ぐのはありえる話だ。


───いや、でもこれ防御魔法でよかったわ。もし攻撃魔法なんて全力で打ってたら、街ごと吹き飛ばしてかもしんねぇし……


 俺がそんな事思ってると、イグニスがギロッと睨んできた。

 いや、普通ビビッて逃げると思うんだけど、剣がなまくらだったと勘違いしてるみたい。

 いや、マジでそこは気づこうよ。


「リュート、テメェこの剣弁償してもらうからな!」

「いやいや、斬りつけてきたのはイグニスだろ。そんなの無茶苦茶じゃねーか」

「うるせぇっリュート! テメェのせいだ」


 あーーマジで話が通じない。

 意地になってるのか頭が悪いのかどっちか分からんけど、これ以上面倒なのはもうたくさんだ。

 今日どんだけ色々あったと思ってんだよ。


 ん? じゃあ、うっぷん晴らす為にドカッとやっちまえばって?

 ダメダメ。そーゆーのはしないの。

 俺はこれでも平和主義者だから。

 まあでも、あんまうるせーようなら……





 てか、何なのこのリュートって人。

 補助魔法って、そんな効果高いの?

 だってあの剣、ミスリル製のかなりいい剣よ。

 彼らは分かってないのかしら? 

 もしなまくらだと思ってるとかなら、彼らの頭がなまくらなんだけど。


───なまくらを、見抜けぬ頭、かわいそう by 沙紀


 なんて一句詠んでる場合じゃないわ。

 確かにたまたまかもしれないし、何より、もう一人のデカい戦士は斧を振りかぶってるし、魔法使いの子は何か呪文唱えてる!


 健康体操や独り言じゃなさそうよ。

 だって、目がマジだもん。

 報奨金とランクアップがかかってるからって、本当に容赦ないわね。


「リュート、ワシが叩き斬ってやるぞ!」

「私の炎で灰になれー♪」


 コイツらマジでヤバ。

 叩いたり焼いたり、お料理かよ。

 それに、すんごい勢いで斧振り下ろしてきてるし、炎の方は消し炭になりそうな勢いじゃん。

 

───ん? でも何かちょっといつもより火力低くね? しかも、斧もなんかのろいな。こんなんだっけコイツら。


 俺は自分の魔力が∞になったせいかと思ったけど、そうじゃない事に気付いた。


───あっ、そっか。俺が補助魔法かけてねーからだわ。

 これならちょっと見切りの力に補助魔法使うだけで充分かも。

 いや、いくら魔力∞でも、やるのはその分疲れるわな。

 俺はゆっくりしたいの。


 そんなこんなで俺がアイツらの攻撃をヒョイヒョイ躱してると、ギャラリーの反応が変わってきた。


(あれ? なんかアイツら弱くね?)

(あんなもん?)

(今までイカサマでもしてたんかな?)


 そんなヒソヒソ声がギャラリーから漏れてくる中、レイだけはハラハラしながらリュートを見ていた。

 戦いの経験の無いレイは、リュートが追い詰められてるように見えたからだ。




───ちょっとマズいわよ、このままじゃ! あーーもう、どうするのよ。彼がやられたら私連れてかれちゃうし、それに……いいの? 彼は出会ったばかりの私を守ろうとしてくれてるのに……


 そう思ったレイは、イグニス達を見据えてスッと表情を変えた。

 悪役令嬢の記憶と共に。


「フフッ♪ ダサいわねアナタ達。よってたかって攻撃してるのに、一撃も当てれないなんて」

「んだと?」

「もういっそ紅蓮の刃なんて名前辞めて『愚者の肉球』にでも名前変えたらどうかしら」

「テメェーー!」

「あっ、猫ちゃん怒った。怖いニャーー♪」

「ぶっ殺す!!」


 イグニスは、レイの挑発に乗ってブチ切れた。

 そして、もう一本の剣を振りかざして向かってくる。


 これはリュートを守る為のレイの決死の作戦だ。

 けれど、当のリュートは目を丸くした。




────ちょちょ、なーにやってんだ令嬢ちゃん!


 俺は余裕でイグニス達の攻撃を躱してたんだけど、令嬢ちゃんはどーやらそうは思わなかったらしい。

 今の挑発も俺を守る為なのはすぐ分かった。


 まあいい子だけどさー、そーゆーの、先に言ってよ〜〜

 あの名刺管理のCMのオッサンの気持ち、今ならよーく分かるわ。


 けど、悠長にそんな事思い出してる場合じゃない。

 イグニスの怒りの矛先は、令嬢ちゃんに向いちゃってんのよ。

 これで令嬢ちゃんがやられたら、マジで目覚めが悪すぎる。

 ってか寝れんわ。

 

───でも時間がねぇ。こーなりゃ一か八か。


 俺は令嬢ちゃんに、ありったけの力で補助魔法をかける。


「『プロスタージア』!!」


 その瞬間、イグニスの剣はまたしてもパキンッとへし折れた。


「はっ? またかよ! どーなってんだ!」


 イグニスが目を丸くしてる間に、俺は令嬢ちゃんをサッと横向きに抱きかかえた。

 令嬢ちゃんをお姫様抱っこだ。


「きゃっ! なに? なんなの?!」


 令嬢ちゃんは顔を火照らせて文句言ってる。

 けど、そんなん無視だ。

 俺は、跳躍力がメッチャ高まる補助魔法を自分にかけた。

 死なせらんねーだろ。こんないい子。


 ん? そんな魔法かけるぐらいなら、何で攻撃しないのって? 

 だから、無限の魔力で攻撃なんてしたら、街ごと消し飛ばしちゃうかもしれないんだって。

 けど、その力を跳躍力に当てたら……


「令嬢ちゃん、マジでちゃんと捕まってろよ」

「はっ?! アナタなにする気?」


 令嬢ちゃんは顔を火照らせて強く見つめてくるけど、俺だって恥ずかしいつーの。

 けど、まごついてる暇はない。


「いいか令嬢ちゃん、時間がないからどっちか選べ。アイツに捕まって処刑されるか、俺に捕まって逃げるかを」

「なによ偉そうに。絶対に逃げれるの?」

「うっせぇ。どっちだ?」





 何これ? 意味不明だけどマジでドキドキするんだけど。 

 でもダメ。

 こういうのを見せたら、男はすぐ調子に乗るんだから。

 だから私、強気な態度は絶対崩さないわ。

 

 性格がひねくれてる? 

 そう思ったアナタは男でしょ?

 女はね、男以上に舐められたダメなのよ。

 だから気の強そうな女の子ほど、本当は辛いのを我慢してるだけなの。

 

 たがら私、彼の事をキッと睨んでやったわ。


「あーーもう、分かったわよ! その代わり、失敗したら承知しないから!」

「よっしゃ! その意気だ令嬢ちゃん♪」

「なによ令嬢ちゃんって! 私は……」


 思わず前世の名前を言いそうになって、私は口をギュッと閉じたわ。

 だって、また変なヤツだって思われたらイヤだもん。

 それに私は、もう沙紀じゃない。

 処刑回避をしてあのバカ王子と腹黒い姫をギャフンと言わせる……そう『最強の悪役令嬢』なんだから!

 だから堂々と言ってやるわ。


「私は、クロスフォード・レイよ!」


 すると、リュートはニッと嬉しそうに微笑んだ。


「オッケー! 俺はエデン・リュート。いくぜレイ! 最高の跳躍を見せてやる! 『ハイ・クラウディア』!!」


 その瞬間、大地に大きなクレーターがバコンッ! と、出来た。

 すんげぇ衝撃だわ。


 近くにいる奴らは、その衝撃波から悲鳴を上げて身を守った。


「うおっ!!」

「きゃあっ!!」

「ぬうぅぅぅっ!!」


 だってさ、俺がバシュンッ!! っていう物凄い威力で飛び上がったから。

 いや、マジで最高だ! 何だこりゃ! 想像の斜め100倍は気持ちいいぞ!!


「ヒャッホウ♪」

「きゃあああああっ! 何よこれ!!」

「高っけーだろー♪ ドンドンいくぜ。ほいもう一丁♪」

「やめてーーーーーーー! ……って、あれ? なんか慣れてきたら楽しいかも♪」

「だろ? もう慣れちまうとは、さっすが令嬢ちゃ……いや、最強の悪役令嬢、クロスフォード・レイ!」

「当たり前じゃない! ここから反撃開始よ!」




 と、まあ、何ともドタバタな出会いを果たした、翔と沙紀もとい、リュートとレイ。

 ここから二人の快進撃が始まっていく。


 だがその頃、王宮内ではとある者がこの光景を魔力を通してジッと見ていた。


「へぇ、やるじゃない……でもムダよ。必ずアナタを処刑に導いてあげる。クロスフォード・レイ……!」

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