フラグ 4 痛い出会いと無限の魔力
「ちょっと待てって! いきなり守れとか、どーゆー事だ……って、あれ? もしかして……」
俺は目をパチクリさせて、思わず言葉が止まっちまった。
だってさ、この綺羅びやかな服に巻かれた長い髪。
瑠璃色の綺麗な瞳と気の強そうな目。
そして、ヒール履いてるのに全力疾走で人にぶつかっての命令口調、っていうか命令。
「アンタまさか……」
「なによ」
「お尋ね者の令嬢?」
「はっ? 何でアナタ、私が追われてる事知ってるのよ!」
令嬢ちゃんは俺の質問に質問で返すどころか、怒鳴りつけてきやがった。
マジでもう、俺が温厚なヤツだからいいけど、もし気の荒いヤツだったらヤバい事になってるよ。
オイラでよかったねぇ。
───ってかさ、やっぱ間違いなくここあの乙女ゲームの世界じゃん。
だってこの子、まんまだもん。
ひえ〜〜〜どーなってんの?
って、あーーもううるさい!
てかなんなの。
彼ばっか喋って、私全然喋ってないじゃない。
一旦交代よ。
さっきからうるさい? 最初とキャラが違う?
仕方ないじゃない。
いきなり転生させられて、しかも断罪必須の悪役令嬢なのよ。
慌てない方がどうかしてるわ。
私はね、シャカとかキリストじゃないの。
ただのOLよ。
しかも、社畜で喪女。
なのにいきなり何の準備も無しに、婚約破棄+断罪のシーンからってありえないでしょ!
だから考えたわよ。あの瞬間。
どーやったら断罪ルートから逃れられるのかって。
だって、あのゲームと同じなら普通にしてたら断罪されちゃうんだもん。
しかも全く理不尽な理由で。
で、やってやったの。
ゲームには無い選択肢を自分で作って、あのバカ王子に手袋投げつけてやったわ。
怒りを思いっきり込めてね。
そしたらバグか分からないけど、一瞬動きが止まったからその隙に逃げてきたの。
でも、後からすぐに兵士達がガシャガシャ足音鳴らして追いかけてきたから、もーー気が気じゃなかったわ。
だから誰でもいいから、早く守ってもらいたかったの。
これってそんなにダメな事?
じゃー私、一体どうすればよかったの?
まあ、二人とも何やら大変そうだけど、今は特にレイの方がヤバそうだ。
それに……
あっ、次は俺の番か。
で、とりあえずキッつーい令嬢ちゃんに、魔力ポータルに載ってる記事を見せたんだ。
すると令嬢様ちゃんはマジで目を大っきく開いた。
そんな開かなくても、充分大きくて綺麗なお目々だよ。
と、言いたいとこだけど、どうやらそんな事を言える雰囲気ではなさそうだな。
「な、なによこれ……!」
令嬢ちゃんは俺の前で顔をサーッと青ざめさせ、俺を不安そうに見つめた。
「ちょっと待って……アナタも、もしかして冒険者?」
「まぁ……一応」
「最悪!! どっか行ってよ!」
「いやいや、そっちがぶつかってきたんだろ」
「アナタがそんなとこにいるのが悪いのよ!」
あっ、さすがに今のはちょっとカチンときた。
「はっ? お前さ、動揺するのも分かるけど、それは無いだろ」
「なによ! アンタは追われてないから、そんな事言えんのよ!」
ぐっ、そー言われちゃ弱い。
けど俺だってまあまあ大変なんよ。
でも、ここは抑えよう。
女の子に怒っちゃダメダメ。頑張れ俺。
「ハァッ……まっ、確かに。俺は追い出された身だから、分かんねーや。ごめんな」
「えっ? 追い出されたって、どういう事よ……」
令嬢ちゃんは少しトーンが下がり、俺に心配そうな顔を向けてきた。
俺が甘いのかもしれないけど、こうなると実はいいヤツなのかもしれないって思っちまう。
───まっ、おっかねぇヤツラに追われたら、そりゃ気も動転するわな……
そう思った俺は、とりあえず令嬢ちゃんをどこかに隠れさせようと思った。
やっぱ追われてんのは辛いだろうし。
「まっ、俺はパーティをクビになっただけだよ」
「えっ、クビ?」
「とりあえず、今は隠れよう。まずは……」
けど俺は次の瞬間、大きなため息と共にうつむいて片手で顔を支えた。
だって、令嬢ちゃんの後ろにヤッばいのがたくさんいるんだもん。
「悪い、令嬢ちゃん。隠してやりたかったけど、ちょっと遅かったわ」
「えっ?」
私が声を漏らして後ろを振り返ると、最悪な光景が広がってたわ。
明らかに私を捕まえる気満々の顔した大勢の冒険者達が、こっちをニヤニヤして見つめてるんですもの。
よく、言葉はいらないなんて言うけど本当ね。
でも……何でこんな事でそれを分からなきゃいけないのよ!
こういうのは、もっとロマンチックな場面で分かりたかった!
あっ、でもまだ希望はあるわ。
この男もクビになったとはいえ、冒険者だもん。
もしかしたら、凄く強いかも……
レイはそんなうっすい希望を抱いたけど、すぐにそんな可能性は微塵も無い事を知る。
まず、大勢いる冒険者の一人の強そうな男が、他を差し置いてザッと出てきたからだ。
その男は他の冒険者達をギロッと睨んで、一瞬で黙らせた。
彼はリュートを追放したイグニスだ。
(やばっ、あれ『紅蓮の牙』のリーダーじゃん)
(んだよーー。アイツら今火力重視のメッチャ勢いあるパーティだよな)
(火力も強ぇーし、防御力もバカ高くて有名だもんな。しかも、魔力も半端ないし)
そんな嘆きにも似たつぶやきを背に受け、イグニスはリュートにズイッと近寄った。
「おい、リュート。まさかお前が捕まえた訳じゃねーよな」
「いや、捕まえた訳じゃなくて、むしろ捕まったというか……」
俺は面倒くさそうに
だって、説明すんのも大変じゃん。
「ハッ、相変わらず意味不明だな」
「私達のパーティから追放されて、頭おかしくなってんじゃないのーーって、前からか。キャハハハっ♪」
「うむ。その可能性は高いな」
この会話を聞いて令嬢ちゃんは落胆してる。
そりゃそうだわな。
唯一自分の味方になってくれそうな男が、パーティから追放された落ちこぼれなんだから。
けどイグニスは、落胆してる令嬢ちゃんの前で俺にズケズケと言ってくる。
「リュート、お前分かってると思うけど、テメェの手柄にしようとすんじゃねぇぞ」
「はっ? 何言ってんだ」
「とぼけんじゃねーよ! テメェみたいなヘボ補助魔法使い、その女捕まえて金とランクアップ狙ってんのは分かってんだよ!」
イグニスの言葉に、俺は思いっきりため息を吐いた。
マジで呆れたからだ。
こんなヤツラとパーティを組んでたと思うと、マジでウンザリするし怒りが湧いてくる。
パーティも追放されたんだから、ランクアップのチャンスって、コイツ本気で言ってんのか?
「お前らに追放されてよかったわ」
「はぁっ? なーに言ってんだオマエ」
「何言ってんだはお前らだろ」
「んだと?」
「お前らさ、何の為に冒険者になったんだよ」
俺は怒りに任せて言葉を続ける。
ちょっと止まんねぇわ。
「冒険者になったのは、スゲーダンジョンをクリアする為じゃねーの? それか魔物討伐したり、冒険したりする為じゃねーのか?」
「チッ、リュート。テメェ何が言いたいんだよ」
イグニスは俺を睨みつけてきた。
けど、関係ない。
俺はイグニスに向かい身を乗り出した。
「ダセェって言ってんだよ……冒険者がよってたかって、一人の女捕まえようとしてんのが!」
ちょっと、なんなのこの人……いきなり泣かせにくるなんて。
思わず両手で口に手を当てて、ウルッとしちゃったじゃない。
だって私、前世だってコッチだって、ずっと敵しかいなかったんだもん。
なのにこの人は……
あーー、令嬢ちゃんは何か感動してくれてるっぽい顔してるけど、これはやっちまった。
アイツら今ので完全にブチ切れモードだわ。
けど仕方ねぇのさ。
こういう性格は変えられないし、俺は今さら変える気もない。
全くもって損な性分だ。
転生じゃなくて、完全に生まれ変わらなきゃ無理だわ。
なんて思ってる間に、アイツら完全に臨戦態勢だ。
てか、今にも飛びかかってきそう。
───どーしたもんか。とりあえずありったけの補助魔法で、この令嬢ちゃんを守らなきゃいけないけど……
俺はその時ふと思い出した。
クロエの言葉を。
『そーいえば転生する際って大体なんかスキル貰えるみたいだけど、リュートはどうなの?』
んな都合のいい事ある訳ねーだろ。
そんなん、口座に知らんとこから金が入るのを期待するようなもんだ。ありえねー
でも、このままじゃ……
「リュート、テメェぶっ殺す!」
ほら来た。
イグニスの奴、すんごい顔して剣振りかぶってきたよ。
あっ、これマジで殺しにきてる。
「死にやがれ!!」
「イヤなこった!」
俺はダメ元で魔力を振り絞って、防御力強化魔法を唱えてみる事にした。
俺の補助魔法じゃたかが知れてるが、やらないよりはマシだ。
「ええいっ『プロスタージア』!!」
俺がそれを唱えたと同時に、イグニスの剣が俺目掛けて勢いよくビュッっと振り下ろされた。
剣が俺に向かってくるよ。
───痛ぇのは覚悟しないと……!
が、パリンッという金属音と共に剣はへし折れた。
「なっ?!」
イグニスは自分の剣がへし折れて目を丸くして驚いてたけど、俺の方がもっと驚いてるって。
目の前に表示された自分のステータスに書いてあるんだ。
スキル増えてはない。
けど、魔力の表示がヤバいんだって。
「お、俺の魔力…… 『∞(無限)』になってる……!」
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