第十六話「銀嶺の裏側で」




 世界は災厄の炎に包まれていた。

 文明を灼く機械の群れ。人と似たようなシルエットを持つ軍団が一切の感情を見せず、人を、建物を、国を、そこに在ったありとあらゆるモノを焼き尽くしていく。

 それらはかつて世界を震撼させた怪人ではなく、そこまで戦力を持ってはいない。しかし、文明を滅ぼすのにそこまで戦力は必要ないと証明しているようでもあった。

 一体一体はさほど強くなくとも、戦闘員程度の能力があれば普通の人間に太刀打ちできるものではない。身体能力は一流のアスリート並、作戦遂行能力はベテランの軍人並、少々の傷などモノともせず四肢が一、二本飛んだところで修繕可能。加えて、個体同士で情報補完を行い、すべての個体が戦闘・作戦行動の最適化を行うという恐怖の軍団。

 人間でも倒せない事はない。損害を無視すれば、兵站を大量消費すれば、非人道的な作戦を行使すればそれは可能。しかし、その儚い事実が尚更被害を拡大する原因となった。

 それは正に数の暴力という言葉を体現しているようでもあった。


『ふはははははっ!! 行けいミナミロボ軍団よっ! 人類を駆逐し、世界に終末をもたらすのだぁー!』




-1-




「……なんでやねん」

『は?』


 稀に時々起こる数秒の睡眠。平時、別に寝なくても問題はない俺でも、長時間覚醒状態が続くとこうした生理現象が起きるのは以前から変わらない。

 以前、誘拐事件で常時張り込みしてた時も似たような感じで白昼夢のような夢を見る事はあった。その時は幼少期のクリスの夢だったが……。


「なんか、ミナミがロボを操って世界征服する夢を見た」

『なんでやねん』


 まるっきり同じ言葉で返されたが、本当にそうである。……まさか、これが正夢だというのか。


「ミナミが悪堕ちして世界征服するって展開は、なくもないと思ってはいるんだが」

『本当になんでですか。別にそんな願望持ってませんよ! 絶対面倒ですし』


 本当にそうだろうか。なんか藪蛇になりそうで怖いから深くツッコみたくないが、ミナミならやろうと思えばやれる気がするのは気のせいか?


「でもお前、やろうと思えばできそうじゃん」

『いやいや、無理ですって。マスカレイドさんがいる前提ならともかく! 私、か弱い女の子! はいっ、復唱!』

「はっ! ミナミ総統閣下はか弱い女の子でありますっ!」

『命令で言わされてる感がすごい……』

「はい、いいえっ! そんな事は決してないと思われますっ!」


 マスカレイドの力が上乗せされれば余裕で、今の超常権限だけを使える前提でも無難に、なんなら素の状態でも立ち回り次第でワンチャン成し遂げてしまいそうな怖さがあるのが南美波という女なのだ。だって、倫理観云々ではなく面倒だからという理由が真っ先に出てくるあたり、常人の思考ではない。

 具体的に検討されても怖いので、話題逸らししたくなる程度には現実味がある。


『大体、ロボってなんですか。世界征服もそうですけど、ロボに乗りたいなんて願望はありませんけど』


 でも、逸らさせてくれなかった。というか、大型ロボならむしろ俺が乗りたい。


「でも、パイロットスーツには興味あるじゃろ?」

『な、ない事もないような気がしなくも……』


 ミナミさん、そこまで明確でもないが、目の前にコスがあったら着たくなるくらいにはコスプレ気質があるらしい。

 ミナミに言わせれば妹のほうがその気質が強いとの事だが、どちらも見栄えのいい容姿してるから本人たち的にも普通に楽しいのだろう。

 ちなみにウチの妹はその手の趣味はまったく興味なさそうだ。洋服自体は普通に興味あるみたいだし、そこそこ衣装持ちではあるようだが。


『でもまー、乗って動かしたいとは思いませんねー。このビルに入ってるゲーセンでそういうゲームもやってみたりしましたが、多分適性ないです』

「そのビル、そんなのもあるんだっけ?」

『大体小規模ですけど、町にあるような施設は一通り。最近はちょっと慣れてきたのか、ちょこちょこ利用してるオペレーターも出てきた感じで。大型筐体のロボットゲームもそれにつられてプレイしたんですが、何がなんやらって感じで終わりました』


 それはちょっと興味あるな。外出ないって事はゲーセンに行く機会もないので、その手の大型筐体には縁遠いのだ。

 今なら設置を検討するのもアリか? 避難所の娯楽施設として……じゃ、俺が利用し難いから、メイドたちと共用の施設が現実的か。隣だからそんなに距離ないし、引き籠もりの移動圏内だ。

 ……いや、思考が脱線している。なんで俺が話を逸らすんじゃなく思考を逸らされてるんじゃ。


「いや、お前が乗るんじゃなくミナミロボな。こないだ大量に配備したやつ」

『あの子たちが大型ロボに?』

「大型ロボは忘れろ。奴ら自体が暴れてたんだ」

『あの子たち、なんも武装ありませんけど』

「夢の話に整合性を求められても困る」


 大体、意味ないから色々オミットしたのは俺だし、ミナミも同意している。

 あいつらはロボットっぽい外見してるのに、その実ただの端末だ。自発的に歩いたりはできるものの運動能力は下の下だし、武装なんて一切積んでいない。悲しい事に、外見がロボットなだけの動くパソコンくらいの存在なのだ。その基準で初期設定しているので、今から武装を追加するくらいなら新規配備のほうが現実的なレベル。

 夢の中のように腕がドリルだったり、目からビーム出したり、おっぱいミサイルで敵を蹂躙するのは完全な解釈違いである。


「どっちかというと、武装を検討するならメイドたちだしな」

『マスカレイドさん自身の武装案は?』

「今のところいらないし。インプロージョン万能過ぎ」


 今じゃ、飛び道具の代わりとしてすら使えてしまうのだから不思議。


『万能なのはマスカレイドさんだけじゃないですかね。影分身同様、他のヒーローが使っても同じ結果にはならないかと』

「創意工夫というやつだ。ヒーローが物理法則を超えるなんて今更だろ」

『マスカレイドさんのそれは、創意工夫の範疇を激しく逸脱していると思うんですが』


 初期の頃はヒーローメカやら必殺技やらで色々検討もしたが、何事も使いようって感じで、《 マスカレイド・インプロージョン 》一つあれば、大抵の事は残虐演出含めてなんとかなってしまうのだ。普通、必殺技本来の効果を逸脱したらその分燃費が悪くなったりするらしいが、あんまり影響はないし。

 上位カタログにある必殺技や能力の改良サービスを使えばまた別なのかもしれないが、なんかインプロージョンは対象外らしいし。

 膨大なヒーローパワーと、ミラージュ、あとは《 影分身 》あたりを組み合わせれば大抵の事はどうにかなってしまうのが今の状況である。


『以前、網を改造したところから届いてる試作武装も興味ない感じですか? 数は多いですけど』

「ない事もないんだが……必要がないのに突飛なコンセプトの武装はちょっと」


 こんなのが用意できますって建前に覆われた、あなたの金でこんなのが作ってみたいですって内面が透けて見える文章である。

 試作武器だから当然信頼性なんてない上に実費がかかるとなっては、ちょっと手は出し難い。ポイントは有り余っていてもためらう程度には。

 いや、一応目は通してるし、ひょっとしたら使えるかもって案はなくもないのだ。本当に必要かって聞かれると首を傾げてしまうだけで。

 実際、余裕のない他のヒーローがアレらの武装を使うだろうかってくらいにはネタ武装である。以前依頼した網だってネタ武装じゃねーかと言われれば、その通りですとしか言いようはないんだが。

 そもそも、運営側の用意した業者をどこまで信用していいのかも疑問だ。こちらの資金であまり変なネタやノウハウを提供して、怪人側に流されても面白くないし。

 立ち位置的にはカメラマンと似たようなモノのはずだ。つまり奴らは武器商人のようなもので基本的に中立。こちらに過剰な配慮をする必要はないのである。


『ちなみに、メイドたちからは支給装備の希望が出てますよ』

「ほう、メイド本来の業務じゃないから自己主張しないと思ってた。どんな武装が欲しいんだ?」

『主にスカートの下に隠せる暗器関係が……』

「間違ったメイド教育の賜物だな」


 いや、別に俺たちが教育したわけではないのだが、日本で無制限に情報収集できるとそんな事になってしまうのかもしれない。

 戦闘メイドだなんだといって、メイド服の下に色々隠しているのは創作のメイドさんあるあるだ。


「まあ、普通に必要そうなら検討するし、なんなら定期予算決めてもいいぞ」

『そのほうが早いですかね。余計なモノが含まれるかもしれませんけど』

「多少逸脱しようが別に構わんだろ。別に汚職してポイントをガメたり横流しできるような設定でもないし」


 他所と比べてかなり変なのは否めないが、基本的にロイドであるのは変わらないのだ。命令すれば可能な限り実行するし、枠を決めればそこから逸脱する事はない。ロイドの可能性を探る意味でそこまで厳密な命令はしてないし、かなり自由にさせていると思うが、それでもこちらの意図を汲み取って動いてくれるくらい柔軟性に富んでいる。

 アンドロイドだとこうはいかないと一方的に張り合っているくらいだ。


『それもそうですね。じゃあ、マスカレイドさんの入手ポイントの1%を自動プールするようにしましょうか』

「少ねえだろって言いたいが、それでも別に少なくないんだよな」

『かなり無茶な量を稼いでますしね。むしろ多いです』


 なんなら、その1%でも喉から手が出るほど欲しいヒーローだっているはずだ。一般人なら更に。

 そりゃ上を見たらキリはないが、本格的な強化をしたいというのでもない限り、足りなくなる事はないはずだ。大型強化はこちらから提案するか、普通に稟議上げてもらう事になるだろう。


「なんなら、給料代わりにそこから分配してもいいな。ポイントは無理だから、実物支給か金になるが」

『今は、欲しいモノからあったら申請しろって事になってますが、そのほうがいいかもしれませんね。なんなら、プールできる仮のポイント扱いでもいいですし』

「独自のポイントを内部で管理するわけか。普通にアリだな」

『名前はメイドポイント』

「名称はなんでもいいんだが……」


 ブラック企業や漆黒怪人ブラック・キギョーもびっくりな労働環境だが、ほとんど本人たちの意思で決めているからな。こっちとしては別に改善してもいいのだが、不満らしき声は上がってこない。

 報告として上がってくるのは、いつもメイド同士の些細ないざこざである。バチバチに張り合っているように見えなくもないが、あいつら絶対仲いいだろって感じの。


『政府の予算案もこれくらい簡単ならいいんですけどね。主にポイント関連』

「無茶言うな」


 通常予算だって簡単に決まらないのに、新規の、それも曰くつきまくりのポイント予算なんて簡単に決まるわけがない。

 病気完治やら、若返りやら、欠損部位の再生やら、そんなモノは誰だって欲しいに決まっている。

 極上の食材や酒、嗜好品の数々、逆に量だけ増やせば一地域から飢餓が消滅するほどの食料だって手に入る。

 エリアカタログに直結した各種施設はともかく、ヒーロー装備やロイドは高額過ぎてまず手は出ないだろうが、不可能というわけでもない。

 そこまでいかなくとも、未知のテクノロジーが駆使された物品だって、国家規模の収支なら買えない事はないのだ。正に宝の山である。

 しかも、それらに使用するポイントは、これまでの収支とはまったく別系統から入ってくるのだ。表面上だけみれば超お得。


 しかし、あくまで国として得たという事になっているポイントを勝手に使うわけにもいかず、取り扱いに困るのも当然だろう。

 俺個人としてはそんな端ポイントくらい好きにしろよ言いたいところではあるのだが、そんなわけにいくはずもないのは分かる。国全体の総量で見てもミナミとすら比較できないほど、カタログで手に入る価格差まで考慮するなら別次元の差となるほどのポイントでしかないのにだ。


『表立ってではないですけど、地元に支持基盤がある政治家さんたちは、引退コースに入っているとかなんとか……』

「自分の権利やポイントでも、議員って立場があると公にし難いよな」


 なんなら、個人所有の土地とか、完全無欠に自分の権利で手に入れたポイントを使っただけでスキャンダル扱いされかねない。いくらマスコミが大人しくなってきたといっても、今の世情ではむしろその手の話題は燃え上がる事だろう。

 以前、長谷川さんと近藤さんが顔合わせした際に話題に上がった癌治療の薬だって、公的な立場があったらよほどの覚悟がないと使えない。

 あの時指示を出した大物さんとやらはよほどの覚悟だったのか、すでに辞職済である。なんだかんだで表に出ない権力は残っているだろうが、政治生命より身内の健康をとったというわけだ。

 届くかどうか分からないのに俺宛てで送られてきた感謝の動画メッセージを見て、私情を優先しやがってと悪態つく事はちょっとできそうにない。結局、俺も人間なんだなと思いもしたさ。

 ……つまり、分かり切っていた事ではあるが、その手の感情が挟まると一筋縄ではいかない問題って事を再認識させられたわけだ。


『とりあえずは国家防衛に必要な施設やら設備やら装備がメインで、あとは技術投資関連で謎物質を確保したりとかはすんなり決まったらしいですが、細々としたポイントをどうするかのほうが焦点が当たってるみたいですね』

「そんなに悩むなら俺のポイントやるよと言いたいところではあるが、無理だよな。ポイントの受け渡しができないって問題じゃなく」

『賄賂みたいなもんですからね。あるいは施し。議員全員に配ったとしても、それ以外が国民含めて納得しません』

「その辺の問題は、全国民に配ったところでどこかに生まれるからな。最悪外国まで飛び火する」


 さすがに世界すべての人類に向けて色々配布しますよとはいかない。そんなもの、管理できるはずがない。


『というか、やってるところあるじゃないですか。反面教師になりそうな例がたくさん溢れてますよ』


 そうなのだ。政府がポイントの扱いにここまで慎重になるのは、ただ想像できる懸念だけが原因ではなく、世界各国で大絶賛炎上中だからというのが大きい。どう考えても隠せる規模ではなく、アトランティスネットワークを見れば一目瞭然で、普通のニュースでも毎日どこかでやっているくらいには炎上祭だ。

 実のところ、エリアから算出されるポイントだけ見れば、日本はそこまで多くない。苛烈な火花が散っているのは国土が大きいところが主で、こういったニュースもそういう国から流れてくるモノが多い。算出ポイントの計算には人口や構造物なども含まれるが、単に土地が広いだけでも十分に評価は上がるのだ。

 ここまで問題が起きるなら、公的な用途以外で使わなければいいって結論に達する者も多いはずだが、そうもいかない。

 何故なら、世の中にはなりふり構わないレベルでポイントを使って超常の力を手に入れたい人が溢れているからだ。

 アトランティス・ネットワークで流出してしまったカタログ情報には嘘も多分に含まれているが、少しでも可能性があれば藁にすがりたい者はいくらでもいる。ましてや、コレは本物だ。

 どうにかしてポイントを使える環境を手に入れたい勢力が関わってくると、政府側も公的なポイントを単なる余剰や繰越用として扱うわけにもいかなくなってくる。

 ならどうしろって話になるわけだが、答えは今のところないっていうのが答えである。


「お前も分かり易い用途で家族を支援したりするのは自重しろよ」

『そりゃもう。妹に渡してるシャンプーとかも、容器を誤魔化したりしてます』


 シャンプーくらいじゃ、直接使ったところでバレないと思うけどな。慎重になり過ぎるくらいでちょうどいいだろう。

 というか、ご両親は見ていないが、ミナミ姉妹って若返りの薬使ってもバレなかったりするような気がしなくもない。元から普通じゃねーもの。

 ……でも、ウチの母ちゃんとかも違う意味で怪しいな。親父と並んでたら通報されかねないレベルで年相応に見えないし。意外とそういう人は多いのかもしれない。




-2-




「そういえば、専用のロイドを出向配備する案ってどうなった?」


 ポイントの利用方法とは別に、日々影響が大きくなってきた超常パワーを使う各種問題……主にテロ対策も大きな議題となっている。

 その対策の一案として、政府に対して極秘裏に専用のロイドを配備しませんかって案は以前から挙げていて、近藤さん経由で話を進めているのだが……。


『色々と問題も多そうですが、水面下で調整している限りは通りそうって報告が上がってます』

「正直、通らないと思ってたんだが、マジで?」

『多分、メイドたちが活躍してるのが前向きになった理由じゃないかと。自衛隊ではむしろ歓迎ムードって話すら』

「あー、なるほど」


 いや、実をいうなら、コレも世界各地でのロイド導入事例を見て不安視していたのだ。

 どうも予想以上に人間以外に対するアレルギーのような意見が多く、賛否が分かれているらしい。ほとんど人間にしか見えないロイドでも、むしろそれが怖いというイメージになってしまうのだとか。

 下手にエンタメ重視でAIが反乱する映画とかを作りまくった影響な気がするが、それだけが理由かは分からない。案外宗教的な問題……たとえば偶像崇拝的な理由が根底にあるのかもとも思う。

 これまで主に怪人対策しか機会が少なかったから表に出なかっただけで、実はヒーローもそういう扱いなのかもしれない。

 しかし、何事にも例外はあるものだ。


「そういえば、ここ日本だったな」

『その納得の仕方はどうかと思いますが、私も似たような意見ですねー』


 なんか良く分からないが……いや、本当は良く分かっているのだが、多分この国はそういうモノを受け入れる土壌が完備されている。なんなら潜在的に刷り込まれるレベルで。

 少しでも普及したら、ロイドなら結婚したいとか言い出す奴さえ出てくるだろう。ロイドでも、じゃなくロイドならだ。


「ミナミロボと違って曲りなりにも表に出る存在なんだから、お前がデザインするとか言うなよ」

『言いませんよ。基本的にはランダムにするかどうかも含めて政府にぶん投げ。今のところ、日本人基準の容姿って前提でいろんなタイプを検討しているところです』

「容姿とか体格とか?」

『それもありますが、どっちかというとロイドと分かる部分をあえて付与するかって話がポイントみたいです』


 ああ、区別し易いようにって事か。


『ロボっぽい部分があったほうがむしろ萌えるという勢力が意外に強いようでして……』

「ああうん」


 そういえばこういう国だったわ。……おかしいな、俺ってむしろその手の話には敏いほうだと思ってたのに。


『可能なら、むしろデザイン案を出すと言い出す人も出てきて、コンペが開かれかねないという事態に』

「さすがにそれは予想外。……というか、あくまで水面下で調整している段階なんだよな?」

『はい。そのはずです』


 扱いは政府に一任しているわけだから、極秘裏だろうが大々的だろうか構わないといえば構わないんだが、ただ漏れなんじゃねーか。

 自衛隊にその手の人材が結構いるとは聞いているが、なんでデザイン始める奴まで出てきてるんだよ。それ、絶対上層部じゃねーだろ。


『ちなみに、人型以外の案は極々一部以外は却下されました。どうしても人型がいいと』

「完全に海外と真逆を行ってるな。その一部もどうせ業が深い理由なんだろ?」

『普段はロボットアームとかの十八禁同人誌を描いたりしてる人らしいです』

「想像以上に業が深かった」


 まだ巨大ロボ同士のそれだったら理解できなくもない感じがするのに。性癖の細分化が行き過ぎてて脳が理解を拒んでいる。

 なんだろ……最初はフェミニスト団体さんたちが棒持って近付いてくる事を懸念していたのに、むしろ人型のほうが健全な気さえしてきた。


「どこに配備する気か知らんが、この際アイドルみたいな存在になってもらうほうがいいのかな」

『それはそれで問題もあるでしょうけど、なんだかんだでそのほうがいい結果になる気がするようなしないような……』

「展開の予想がつかねえ……」


 元々俺が想定していたのは、自衛隊の経歴が隠せるような部隊に秘密裏で入隊してもらって、徐々に認知した上で公開ってプランだったんだが、なんか別物になりそうだな。いきなり投げ込んでも上手くいきそうな気さえしてきた。

 俺って、どっちかというと悲観的かつ性悪説で物事を考える傾向があるから懸念が多かったんだが、どこ吹く風って感じだ。


「だとすると、下手に人間臭いところを出すんじゃなく、突き抜けるレベルのスーパーマンを用意すべきだろうな。最初から認知されるなら、むしろ現実味がないほうが恋愛感情的な問題は起きないだろ」

『あえて設定するのでもない限り、最初から弱点とかはないんですが、追加方面ですか?』

「ああ、現場に合わせて調整したエキスパートになってもらう」


 どの道、投入する場所的にドジっ子などにするわけにもいかないが、性格的にも能力的にも隙がない感じにすべきだろう。

 人間味溢れて意味が分からなくなってるメイドたちとは真逆の方向で。


『周囲の性癖歪みそうですねー』

「新人には青少年って年齢の奴もいるだろうが、自制心の問われる環境だから大丈夫じゃね? 知らんけど」

「あんまり同意できないのがなんとも」


 ぶっちゃけ、こっちとしては投入するだけで責任負う気もないし。よっぽど問題ある用途や待遇じゃなければ口出すつもりもない。

 実務だろうが広告塔だろうが好きに使ってもらっていいのだ。ソレ目当てで自衛隊への入隊希望者が出るような未来でも別に問題ない。


『ちなみに、あくまで一案ではありますが秘書として配備できないかという意見も出ているらしく』

「事務能力だけ見てもずば抜けてるからな。別にいいが、下手な事はできなくなるって認識しろとは言っておく」


 地獄を見ているらしい政治家さんたちの業務がそれで捗るというのなら、俺的には許容範囲内である。ついでにボディーガードにも使えるだろう。

 ロイドを通して厄いネタを掴んだところで行使する気もないし、そもそもその手のネタは画面向こうにいるミナミって奴が大量確保済だ。だから導入する場合の狙いは主に不正の監視、そして純粋に労力補助になるはずだ。相手がどう思うかは別として。


『常時じゃないにせよ監視されているようなものですし、買収も効きませんからね』

「どの道、先行試験必須で、いきなり大量導入するわけにはいかないから、そういう用途は後回しになるだろうな。配属数が増えるのは別にいいし」


 こちらの持ち出しになるような案でも、基本的には許容範囲である。大っぴらに支援するのは問題でも、そうだと分からないよう上手く誤魔化してくれればいい。なんなら偽装自体にポイントがかかってもいいくらいだ。


「というか、長谷川さんや近藤さん向けにテスト配備するか。元々はメイドたちがその予定だったが、想定以上に忙しいみたいだし」

『予定自体はありましたが、テストケースとしてはアリかもしれませんね。どうせならアリーレザー……カルロス氏にも』

「彼は直接雇用じゃないが、アリだな」


 海外で情報収集をしている関係から、どうしても危険が多くなるのだから、ボディーガードは必要だ。


「だが、出入国の問題はどうする?」

『暫定でいいなら対策はできますが、法整備や国同士の調整が必要ですね』


 テストケースって事もあって、とりあえずは国内限定か。リモートのサポート要員でも役には立つ気はするが、片手落ちだな。


『一応ですが、その手のボディーガードサービスを構想・準備しているヒーローチームはあります』

「そうなのか。どんな感じなん?」

『現地に要人ボディーガード用のロイドを用意しておいて、その国に行く際にレンタルしてもらうんです』


 ボディーガードサービスをヒーローが用意するわけか。上手く回るのか分からないが、内容次第では噛んでもいいな。

 人数は用意できないだろうし、すべてにおいて人間のボディーガードを上回るとは限らないが、それでも確実に有能だから要人テロ対策としては重要だろう。


『ハニトラ対策用として女性ロイドのサービスを策定する段で揉めているようなので、正式に動き出すのは少し先かと』

「あー」


 ありそう。しかし、人間ならどうしたって対策必須な問題で、古来から使い古されている常套手段である。対策は必要だ。

 ロイドに入れ込むとか、人間相手……奥さんと疎遠になったりするかもって懸念は当然あるが、ハニトラにかかるほうがよっぽど問題である。その点、ロイドなら現地の風俗サービスよりもはるかに安全だ。

 とはいえ、感情的な面で容易に納得できない層がいるのも理解できる。女性向けのサービスとして男性ロイドを用意すればいいじゃないって話では解決しない問題だ。


「しかし、アレだな。……なんか、急に世界がSFじみてきたな」

『数年前から特撮ではありましたけど、確かに』


 人工生命体のボディーガードサービスなんて、ちょっと前までだったら創作ネタくらいでしかなかったはずだ。

 ひょっとしたら、将来的に要人はみんな専用のロイドが付くような未来が待ってたりするんだろうか。

 漠然と時代が進んでいくよりは心躍る未来観ではあるが、それなりに問題も付随するんだろうな。急速な時代転換についていけない人は今の時点でいるわけだし。




-3-




 そんな感じで、水面下で色々と物事が進みつつ、俺たちは特に表に出る事のないまま時計の針は回っていき、四月。

 これまでも内々で仕事をしていたクリスが正式に表に出たり、例の銀嶺機関とやらの発足時期がやってきた。

 といっても、こちらで何かするような事はなく、ミナミでさえ各種調整、俺に至っては特に変わらない日々が続いている。

 ミナミがロボで世界征服を始める夢も、今のところは実現する様子はなかった。


『いやー、荒れましたね』

「クリスの記者会見の事か? それとも銀嶺機関の顔合わせの事か?」

『両方です』


 聞き返しておいてなんだが、残念ながら同意せざるを得ない。

 いや、銀嶺機関の顔合わせのほうは一部現実がまだ見えていない人材が紛れ込んでいたせいで、半ば無理矢理のように脱線したあげく今更そこに言及する奴がこの場にいるのかって展開になったあとで俺が登場して、渦中の人が粗相してしまう事態になったくらいで済んだのだが、クリスのほうは割と深刻な荒れ具合だったのだ。

 ちなみに粗相してしまった人は当然除名処分になったし、再度厳密な洗い出しをした結果、関係者に相応しくない人が多数出てきて近藤さんが頭を抱える事になった。……俺的にはこれくらいで済んで良くやったなって感じなんだが、担当者としては胃が痛いだろう。

 ただ出ていっただけの俺としては大した事ないが、関係各所的には荒れた認識でいいのかもしれない。

 こちらから提供しているスキャンダルブックで相当改善されたはずなのに、未だこんなのが出てくるとかどうなってんだって感じだ。


 一方のクリスの記者会見は、また違った方向性で問題が噴出した。そう、事前に大体想像ついていたマスコミさんである。

 元々、この広報機関はマスコミを通す事を想定していない。情報発信はあくまで自分たちが行うので、それ以外は完全に二次ソース扱い。それでもいいなら取材してもいいよってスタンスだった。そして、その通知は政府を通して全国に周知され、今では学生でも知っているほどだ。

 発足直後とはいえ記者会見を行う必要も本来はないのだが、各社マスコミや、その息がかかったお偉いさんたちがどうしてもというから仕方なく開催しますっていう体である。

 しかし、既定路線のようにルールを守らない記者が続出。関係者には知ってたって顔をする人も続出。

 事前登録してIDを発行された人しか入場できませんと通達しているのに、IDを持たない者や代理人を名乗る者が多数現れ、ホームページで記載している回答集にあるような質問は受け付けませんと言っても、そんなモノは知らない読んでないと言わんばかりに、勝手な論調で分かり切った質問を繰り返す記者が続出。挙げ句の果てに、クリスへの個人攻撃、記者会見自体を潰す事が目的だったらしい奴が暴れ出したりもした。

 そういう資格のない者、ルールを守れない者は謎のパワーで強制退出、物理的に再入場できないように処置した事で横暴だと騒ぎ出す。

 会場の様子は常時中継され、参加者の情報は誰でも閲覧できるように掲載、退出などのペナルティを受けた者は個人情報まで含めて公開しますと通達してあるのにこの始末である。面の皮が厚いなんてレベルじゃない。

 一時は記者会見取り止めすら検討されたものの、クリスは無表情で継続を固辞。今後のマスコミ向け定期記者会見も、各所から頭を地面に擦り付ける勢いで懇願された結果、辛うじて継続する事となった。


『すごかったですねー、クリスさん』

「ウチの妹にはあれ以上を想定してたから大丈夫って言ってたみたいだが、ダメージないわきゃないよな」


 ただでさえマスコミに人生壊されたのだ。ここ一年で成長したというも、追加ダメージを受けて無視できるほどメンタルは成熟していないだろう。というか、そんなメンタルを持った奴はそうそういない。

 コレで、大手を振ってリベンジする口実ができたと喜ぶくらいならむしろ安心できるのだが、そういうのは一部の特殊な人間だけである。


『とりあえずやらかした記者や会社を中心に、色々とスキャンダルネタをバラ撒いておきました。いろんなところで炎上してるので情報の出処は分からないようになってますし、擁護する空気も皆無です。来週あたりには物理的に何人かいなくなりそうですねー』


 ……一部の特殊な人間だけである。


 直接話したわけではないが、会見終了後のクリスはお世辞にも良い状態ではなかったらしい。

 リアルでざまぁ展開されてもすっきりなどしないし、その上失ったモノは一切戻ってこないとなれば当たり前の話だ。

 別に高校から戻って来いと言われたわけではないから、もう遅いとも言えない。別の意味でもう遅いのは間違いないが。


「何かしらのメンタルケアは考えておいたほうがいいだろうな。これがミナミだったら、平然と乗り切ってしまいそうな気はするんだが」

『マスカレイドさんは私の事をなんだと思っているのか。そんなわけないんですけど。私、か弱い女の子ですよ』

「はっ! しかし、同じ状況になったら絶対に報復するのが総統閣下かと」

『当たり前じゃないですかっ!?』


 強烈な後ろ盾があって、周りに味方がいる状態だろうが、大量の記者相手の記者会見なんてメンタルダメージがないわきゃない。それはミナミだって同じだろうし、なんならテンパって上手く進行できない可能性だって高い。

 ただ、こいつの場合は自分由来の報復手段を保持していて、いつでもそれを使う事ができるという武器がある。行使するかどうかは別として、それだけでかなり違うはずなのだ。そして、ミナミはライン越えしたら平然とその武器を行使するし、クリスとは土台からして違うのである。


「ミナミとしては、なんかいいケア方法ある?」

『ケアですか? え、えーと……』

「ミナミに聞いたのが間違っていたのか……」

『その判断は早過ぎるっ!? え、えーと、その……プレゼントとか?』


 あら、超普通。


「明日香経由で何が欲しいか聞いてみるか。あいつの分もなんか買ってやれば文句言うまい」

『え……と、そのー、そういうのはちょっと良くないかなーなんて』

「なんでや」

『ほら、サプライズ的な?』

「……なるほど。さすが、ネタに体張ってるミナミさんは違うな」

『いや、そのイメージは甚だしく解釈違いというか……ああもうっ!?』

「なんでお前がテンパってるんじゃ」

『こっちにも色々あるんですっ!』


 そんな事言われても、お前そこまでクリスと接点ないだろ。サプライズを喜ぶような奴かなんて……喜びそうやな。


「せっかくヒーローが後ろ盾になってるって公言してるんだし、普通じゃないモノにするか。……< 無限ティッシュ >とか喜ぶかな」

『受け取った瞬間に真顔になりそう』


 昔の事は忘れてないから安心しろって意味合いに取れなくもないと思ったんだが、鼻垂れのイメージが強過ぎるか。


「じゃあ、お前が愛用してるシャンプーとかどうよ。なんかいい感じのやつなんだろ?」

『あー……って、だ、駄目ですっ! 絶対ダメ!』

「え、そんなに?」

『お、おのれ……なんで私がこんな目に……』


 実績あるんだから、ハズレがなくていいと思うんだが。あの手の商品は相性があるが、それこそ使ってみないと分からないだろうし。


「美容系はアリだと思ったんだけどな」

『あー、それはいいんじゃないですかねー。私の使ってるのじゃなければシャンプーでも』

「それ、なんか問題あんの?」

『問題は……ないといえばないんですけど、あるといえばあると言わざるを得ない非常にデリケートな問題でして……』


 そんな難しい問題なのか。


「じゃあ、適当に見繕うからお前チェックしろよ」

『ええ……それもどうなんでしょう……まあ仕方ないか』


 というわけで、カタログから適当にそれっぽい基礎化粧品一式を明日香経由で贈る事にした。

 俺はこの手の知見がないから良さは分からないのだが、後日ものすごい勢いで妹から欲しいとせがまれる事になってしまった。

 その際も何故か同じモノはダメと言われてしまい困惑。つまりミナミと同じ反応なんだが、一体どういう理由でダメなのか分からない。

 違う商品ならいいって言ってるあたり、合う合わない以前の問題だよな? ……謎だ。

 まあ、肝心のクリスはかなり好印象だったらしいので、目標は達成されたという事で良しとしよう。




-4-




 というわけで、世間からみたら割と大イベントだったっぽい記者会見や機関の発足も辛うじて無事といえなくもない範疇の結果で終了した。

 当たり前だが、今回の不祥事はいろんなところで大炎上し、マスコミは関係ないところも含めて株が失墜している。

 だって、どう足掻いても擁護しようがないもの。あえてこちら側の問題点を挙げるなら、クリス……というか広報機関の権力が強過ぎるって点がせいぜいである。実際、ネット上でもそういう声はチラチラ見た。

 そう、確かに一機関が持つ発言力としては強過ぎる。文字通り天下無敵のマスカレイドさんっていうバックボーンがあるから、ある意味仕方ない部分もあるのだが、これがこれまで通り表に関わらないのならまだしも、半分は公的機関なのだ。

 実をいうと、今回の公開記者会見の企画に際して、やらかした連中を転送した先にマスカレイドさんが無言で待っているという案も出したのだが、それは却下されている。マスカレイドさんが撒き散らす恐怖は絶大なる効果を期待できるものの、絶大過ぎるという意見からだ。

 そこら辺の機微はミナミには分からないらしく、頭にハテナを浮かべたままだったが、俺としては確かにそうだなって感じだ。

 メイドたちの出撃やロイドの出向話もそうだが、ヒーロー……特にマスカレイドは国家という枠組みにとって、舵取りを決めかねないほどの劇薬なのだ。その距離感を見失った同業者たちもチラホラ見受けられるが、すでに先行きはかなり怪しいといっていいだろう。

 引き籠もりとしては別に問題ないので、むしろ助かるのだが、実に難儀な話である。


「結局、銀嶺機関の存在は表に出ない方向になるんだよな?」

『秘密組織ってほど隠された機関じゃないみたいですけどね。知る人ぞ知るみたいな? 一応、専用の名刺もあるみたいですし』


 全然隠れる気ないな。そこまで秘密裏に動く存在でもないから別にいいのか。


『マスカレイドさんも名刺いります?』

「えっ、俺のもあんの? 間違いなくないと思ってんだが」

『私が作りました。ついでに自分の分も』

「お手製かよ」


 どうやらデザインだけ流用して作ってみたらしい。背景に銀の山脈が描かれたちょっとオシャレな名刺だ。

 普通、こういうのは俺に事前確認くらいするもんじゃないかとも思ったのだが、見逃していただけでデザイン決定稿の通達だけは届いていた。


「しかし、こういうの見ると本格的に元の日本から逸脱してきた感が出てくるな。省でも庁でもないとはいえ、国家機関だぞ」


 転送で送られてきた、つい今しがた作ったらしい俺用の名刺を見て思う。


『国民の動向見てるとあんまり変わってる気はしないんですが』

「でも、多分未来の教科書には載るじゃろ?」

『すでに載ってる可能性も……怪人とかヒーローについては検討段階みたいですね』


 教科書にそんな単語が載ってしまうのか。恐ろしい時代だ。

 激動の時代ってレベルじゃねーから、未来の教科書は案外この時代の事ばっかりになるかもしれん。


「まさしく時代の転換期に違いないからな。死傷者の数はともかく、動向の大きさはすでに世界大戦超えてるだろ」

『国がなくなって増えて、ヒーローとか怪人が跋扈し始め、科学で説明できないルールまで追加されてと、転換期どころじゃないですね』


 しかも、多分まだ序の口だろう。イベントの傾向見る限り、世界規模のイベントが次で終わる気もしない。

 幹部だって今の二人って事はないだろう。顔出しが終わってさあ最終決戦ですともならないだろうし、そこから色々あるんだろうなとも思う。


「五年くらい意識不明だった奴が目を覚ましたら、別世界に転移した事を疑うな」

『ああ、落ち着いて聞いて下さい』

「それにはまだ短いな」


 衝撃のオープニング過ぎる。だって、説明されても意味分からんし。九年寝てたら跡形も残ってないんじゃねーか?


「というか、マスカレイドさんのセカンドフォームはいつになったら解放されるのか。はよ」

『実は全員がセカンドフォームになる事が次のイベントのトリガーとか?』

「それなら別にいらんかな。困ってねーし」

『マスカレイドさんの変身に合わせて、世界を巻き込んだ狂気のイベントが発動なんて可能性も……』

「普通にありそうだからやめて。なんか俺のせいにされそう。……ゴールドで誤魔化せないかな」


 マスカレイドの立ち位置的に、その可能性は十分に有り得るのだ。飛び抜けた能力はもちろんの事、そもそも最後発で過去のイベントのトリガーになっている感も強い。


『前にマスカレイドさんは時間を稼ぎたいって言ってましたが、稼げてるんですかね? 今のところ音沙汰ないですけど』

「分かんねえな。色々やったからさすがに影響はあると思うんだが……」


 世界規模で暴れた以上まったくの影響なしとは思わんが、それが逆に加速させているって可能性があるのが怖いところだ。


「だいたい、シミュレーションゲームみたいなシステムにするなら、勝利条件とか提示してほしいよな」

『国土拡張って時代でもないですしね』


 全部人間勢力に塗り替えれば勝ちで、もう怪人は出ませんっていうなら、本格的に新大陸へ強襲しかける準備始めるんだが……。なんなら準備とかなしでいきなり吶喊してもクリアできる気がしなくもない。

 ……まさか、それを警戒してるから何も動きがないのか? 分からん。




 そんな俺の思考を読んでか、それとも元々の計画だったのか、このわずか一週間後、アトランティスネットワークに謎のページが公開された。

 殺風景で装飾も最小限な、変動する数字が表示されたカウンターだけのサイト。

 長時間観測していて分かるのは、基本的に数字は一定の速度で減り続けるが、ふとした拍子にこの数字が増減するという事。少なくとも単純なカウントダウンではない。

 ヒーローネットでも情報はないが、公開された場所が場所だけに悪戯という線は薄い。神々や運営の悪戯というなら有り得るが。

 この手のサイトができた時に良くあるソース解析も不可能だ。


 誰が呼び始めたのか、やがてこの数字はアポカリプス・カウンターと呼ばれるようになっていた。

 世界は、この謎の数字を巡って検証や考察を始める事となる。




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