第十四話「人類最後の日」
「残念だったな、オメガマン。乾坤一擲の作戦のつもりだったのだろうが、結果はこのザマだ」
「ク……ソッ!」
とうとう出現した怪人勢力の本拠地。その奥地にて人類の希望というべきヒーローが力尽きようとしていた。
最後に残されたヒーローたちの中から決死隊を募り、強襲をかけたものの、万全の状態で待ち受けた怪人本拠地の中で一人、また一人と倒れ、待ち構えるように現れた怪人幹部Aに手も足も出ずに敗北。今や最後の一人であるオメガマンも瀕死の状態だった。
「まだだ、まだ北米に残ったヒーローたちが……」
「お前たちの作戦に合わせて侵攻を開始した怪人幹部Bから、今正にニューヨーク本部が陥落との連絡を受けたところだ。私がお前らの前に現れたのも、人類最後の希望とやらに華々しくトドメを刺してやろうと思ったからに過ぎん」
「ば、馬鹿な……」
「信じられんというなら、見せてやろう。刮目するがいい」
怪人幹部Aの背後に映る巨大な宙空モニター。そこには炎上するニューヨーク市と、そこを闊歩する怪人の群れが映し出されていた。
抵抗を見せているヒーローもわずかにいるものの、数の暴力の前に膝をつく直前。かろうじて目の前の怪人を仕留めたところで、その後ろには次が控え、もはや見世物となっている有様だ。その横で人間たちが犠牲になっていく。
あり得ない。世界各地が陥落し、北米に集結したヒーローたちが全力で守護に回っているのだ。たとえ戦闘力の上澄みともいえる自分たちがここにいるとしても、こうも容易く陥落するはずがない。そんな事があってはならないのだ。
たとえオメガマン自身に、怪人の強襲によって担当エリア……そしてオーストラリアを失った記憶が鮮明に残っているとしても。
「つまるところ、乾坤一擲の作戦とやらを決行するには判断が遅かった。世界のほとんどが怪人勢力と化した今、それは博打にすらなりはしない。そもそも私に手も足も出ない貴様らが最後の希望だというのが笑わせる。敗残兵の上澄みというだけの事ではないか」
「……くっ!!」
反論の余地すらない罵倒。強がりすらできず、まったく言い返せないのは、オメガマンもまたそう認識していたからだ。
そうだ、かつてヒーローの中で強いと言われた者たちのほとんどはすでにいない。各国が怪人によって崩壊する中で無残にも散っていた。
残された者は、人類社会が崩壊する中で生き残っただけの敗残兵でしかない。
世界が崩壊していく中で文明を維持するのはまっとうな手段では不可能だった。人類とヒーローの支配エリアが陥落する度に収入ポイントは減り、そのなけなしのポイントは人類の保護、そして維持に費やされる。高価なポイントを必要とするヒーローの強化など現実的ではない。そのわずかな強化に使うポイントで残った人類の一ヶ月分の食料が用意できると言われれば、カタログのボタンを押す指も鈍る。
誰もが最善と分かっている選択でも、目の前で餓死者が続出するのを傍観する事などできないのだ。それはヒーローとしての在り方を問われているようでもあった。
強化もなく、補給もままならず、人員不足と激務から休息すらまともにとれない。怪人との戦績が悪化すれば入手ポイントだって減る。負のスパイラルを止める手段がない。……いや、あっても選択できない。
一方で、ヒーロー勢力とは裏腹に怪人は悠々自適ともいっていい環境で強化を続け、両者の均衡は圧倒的に傾いている。
ヒーローは怪人よりも強い。そう呼ばれた戦力評価も、今やヒーローは発生したての怪人よりは強い程度になってしまった。随伴戦力でしかない戦闘員でさえ、上澄みならヒーローを単独で撃退可能となってしまっているのだ。
「ようするにゲームオーバーだ。この状況に至った時点で逆転の目などありはしない。お前たちは我が首領の姿を見る事すらないまま、無残に死に絶えていくがいい」
「…………」
「安心しろ。地球は我々怪人が繁栄させてやろう。かつて栄華を誇った文明として人類の名を残してはやるとも。歴史の一頁というやつだ」
「…………」
「反論すらなしか。……では、もういいなオメガマン。今トドメを刺してやる!」
大きく振り上げられた怪人幹部の腕がオメガマンに迫る。それは正に人類最後の日を告げる一撃となったのだ。
-1-
『ざんねん、あなたのヒーロー活動はここで終わってしまった』
「ヒーロー活動というか、人類が終わっているがな」
『結構頑張りましたよね、オメガマン』
目の前のモニターではオメガマンのHPがゼロになり、デカデカとGAMEOVERという文字が表示されている。何度かテストプレイをする中で最もいい結果となったのは確かだが、それでもコレが限界か。
世界中のほとんどが怪人勢力として支配され、地図上は真っ赤になった上、最後まで抵抗を続けた北米……の一部も一斉攻勢によって陥落。乾坤一擲の大逆転を狙って計画した本拠地襲撃計画も、ほとんどダメージを与えられずに失敗と、散々な結果だ。
プレイヤーの俺としては遠く離れた本拠地にも辿り着く事すら不可能と思っていたので、これでも頑張ったほうだろう。正直、あの堅牢な包囲網を抜けた瞬間は思わず声が出てしまったほどだ。
ちなみに人類敗北はかなり前のターンから避けられない規定路線だと思っていたのだが。
『プレイヤー勢力でオーストラリアを選んだのは正解ですかね。やっぱり早期に動けるというのは違います』
「だな。やっぱりスタートダッシュの差はでかい。序盤に貯金できたおかげで後々まで粘れた感は強いし」
『日本だとどうしても序盤のターン差が大きいですしね。普通に考えればこの差はハンデってレベルじゃありません』
プレイヤーキャラとして日本を選択すると、リアルの日本同様に俺が着任した時期が活動開始となるため、シミュレーションとして見た場合には致命的なロスを背負う事になってしまう。だいたい、ウチのかみさまのせいである。
当然、初動を少しミスっただけでアウト。簡単に日本という国が崩壊し、バージョン2開始から数年で怪人勢力の支配下に。これでも世界全体を見ればマシというのが終わっているな。勢力としての条件は決して悪くないんだが、やはり時間のロスがでか過ぎる。
ただ、日本が厳しいというだけで、オーストラリア以外でも大国なら普通に選択の余地アリだ。大抵の大国はかなり早い時期に参戦開始しているため、時間のロスはそこまでないし、オーストラリアよりもヒーロー活動をし易い国は多い。ここら辺は時間のロスと合わせて一長一短である。
一方で小国スタートはかなり厳しいと言わざるを得ない。参戦タイミングも大国より遅い上に、環境による行動制限が大きくプレイスタイルが限られるからだ。国によっては最後方スタートである日本のほうが、環境が整っている分マシなケースすらある。
『実際、初回プレイの時は世界の動向を確認する以前の問題でしたしね』
「俺が気合入れてメイクしたニートマンが、為す術もなく死んだのはショックだった」
『それはまた別の理由があるような気がしないでもないですが。あのニート、ほとんど出撃しませんでしたし』
「自分ならこうするって行動を演出したつもりだったんだ」
厳密な意味で俺と同じではないし、そもそもヒーローパワーは並だが、ようは俺が凡庸なヒーローだったらを体現しているようでもあった。
おかけで初期設定が一時間以上かかったにも関わらず、プレイ時間はわずかに数ターン。苦戦し続ける他の日本ヒーローを助けるために重い腰をあげて出撃した結果、死亡という結末になった。あまりに容赦ない結末が超リアル。
二回目のプレイはアメリカを選択してみたものの、やはりパッとせず、キャップたち東海岸同盟の影に埋もれていった。
下っ端でも環境の整った勢力内のプレイのため、それなりに強化もできたが、やはり世界勢力が傾き始めたところであえなく死亡するという結果に終わった。当然、世界の行方に絡む余地などない。
それから小国プレイしたり、色々と試行錯誤を重ねる中、最も初期の参戦国であるオーストラリアでオメガマンを作成し、プレイを始めたのが今回。
その結果、一応は最長ターンを記録し、人類絶滅を初体験する事になったわけだ。
プレイして初めて分かるオーストラリア優遇っぷり。あくまでシミュレーションであって実際は色々違うんだろうが、アルファマンたちは相当な下駄を履かされているなと思いました。
俺原案、ミナミ監修、アルジェント監督の元、数人のアンドロイドで制作したこのシミュレーションゲーム『仮面なき舞踏会(仮)』。
日本……というか世界にマスカレイドが存在しないという前提で、可能な限りリアルに情勢をシミュレーションしてみたらどうなるのかというテーマで制作してみたのだが、今のところヒーロー死亡エンドか人類絶滅エンドしか確認できていない。
単に俺のゲームの腕が足りない、ゲームの知識が足りていないというのもあるが、どちらかといえばそういう知識はなしのほうが現実に則しているので、ある意味リアルな結果と言えなくもない。
尚、俺がいない理由は単純な話で、あまりにチートかつバグ過ぎてシミュレーションにならないからだ。どう考えても運営が想定している構図にマスカレイドは含まれていないだろうと。そもそもマスカレイドさんは正確に再現する事すら困難だしな、俺自身正確には把握してないし。
というか、俺を再現できてもミナミは無理。
『やっぱり難易度高過ぎじゃないですかね? このゲーム』
「いや、こんなもんだと思うぞ。むしろ、まだ低めって感じるくらいだ」
難易度調整が甘いという気はない。これでも自分的にはまだヌルい設定だと思っているくらいなのだ。問題は多分別のところにある。
『だって、本来の目的みたいにオートで回しても、大体今よりひどい状態になっているんですけど。マスカレイドさんがいないだけじゃここまでにはならないだろうってレベルで』
「多分、NPCの精度がまだまだ甘いんだ。ある程度再現してるとはいえ、数値だけで見るなら物量で圧倒できる怪人側が動かし易いんだろ」
たとえば、北米が侵攻された際にキャップマンがあっさりと死亡したりするのだが、彼がそんな簡単にやられる気がしない。彼だけではなく、他のヒーローに関してもあっさりと死に過ぎである。
予告出撃の際に色々感じているが、ヒーロー……特に各国のエース的な連中は想像以上に粘り強く、上手く立ち回っている。そういった部分がほとんど再現できていないようにも感じるのだ。
一方で怪人側も正確とは言い難い。敵側故に情報が足りないので、思考パターンの再現がどうしても実例だよりになってしまう。なのに、行動パターンは悪辣なモノを含めて強引に再現しているので、余計に難易度が上がっているように感じるのかもしれない。
「まあ、超常社会学の研究として実験的に作ってるだけなんだ。インプット情報が増えれば精度も上がるだろうさ」
ついでにプレイ回数が増えればバランス調整も進む。
この場合のバランスとはゲームとしてのバランスではなく、よりリアルな再現をするためのバランス調整だ。そもそもゲームは副産物であって本体はシミュレーターだし。ゲームはただの副産物。
『精度が上がれば人間とヒーロー側が勝てる未来も出てくると?』
「勝利条件にもよるが、生存圏を維持するってだけなら割と容易だと思う。もう少し精度上がればいけるだろ」
『怪人の駆逐は?』
「キツイんじゃねーかな。無理とはいわんが」
シミュレートしているのは、ぶっちゃけた話リアルの状況がこのまま進行したとしてどうなるかだ。
再現しているのだって、今のまま……世界情勢的にはアトランティス、ムー、レムリアの三大陸が出現した状況から大規模イベントが行われず、バージョン2のまま、単に時間が経過すればって設定で、その後はあくまでシミュレーションの結果それっぽいイベントを自動的に捏造しているに過ぎない。
怪人の本拠地が出現するのだって、落とし所が必要と強引に付け加えた形だ。怪人幹部だってAとBの二人のみで、実際にはもっといるだろう。
この条件で現実の状況が進行した場合……そんな条件なら、おそらく人類側が勝つ。たとえ俺がいなくとも、最終的に勝ちにもっていける可能性はそう低くないはずだ。
ただし、それは旧来の人類社会の存続とは一致しない。人口は半減し、文明も今とはまったく違ったモノになるのは確実。現在の人類から見れば眉をしかめるような未来が待っている。
このゲームもその前提で制作されている……というか、これからどんなイベントが起きるかなんて想像もつかないのでそうするしかないのだが、精度が上がればそういう未来は導けるだろう。限定的条件下で延々とにらみ合いを続ける条件勝利だ。
天下無敵のマスカレイドさんがいる影響でどの程度盤面に影響が出ているかの判定は難しいが、第二次大型イベントまでならともかく、それ以降……ヒーローボトルをほとんど無制限に配っている事、無数の予告出撃による影響はさすがに世界規模で見ても小さくはない。あくまで今の環境、ゲームの設定と同じって前提なら、最終的な勝率は何割ってレベルが上がっている……と思う。
しかし、ミナミの言う怪人の駆逐となるとちょっと無理が出てくる。だって、どうやったらそれを実現できるかとか分からんし。実際にはどうやったら怪人本拠地が出現するかなんて分からないのだ。
「今やるべきは、このままシミュレーションの精度を上げていって、実際に有効な手を模索しつつ、次の一手を警戒する事だな」
『それでまたとんでもない手でひっくり返されると』
「イベントは結局運営次第だしな。基本後手に回るのもヒーローの特性だし」
今ある情報から未来をシミュレーションする事はできても、盤面ごと壊しかねない大規模イベントは想定もできないし、それを前提にするのは間違っている。それこそ未来予知でもするか、未来から詳細まで把握しているヒーローでもやって来ない限りは対策など打てない。
そして、それで大きく盤面が動くようなら、動いた盤面を前提に調整されるかもしれないというのが困った話である。
「というか、次のイベントがきたら当然大規模アップデートだろ。大規模イベントじゃなくても、何かしら動きがあった時点でデータ追加してるわけだし」
「そうですね。前提が覆るとしても、積み上げたデータは無駄にはならないはずですし」
「まだ処理能力の余裕はあるんだろ?」
「余裕どころか、そもそもラックの半分も埋まってないですしね。サーバー代も東海岸同盟からの支払いで賄ってますし」
まあ、キャップとしてもサーバー代でヒーローパワーが購入できるなら万々歳だろう。サーバー調達の手間はかかっても、ドルでポイント交換しているようなモノだ。ついでに自国企業の商品でもあるから、経済も回るし。
「とりあえず何十回か繰り返しプレイ。ある程度精度が上がった時点で小野教授たちにテストプレイしてもらって、そのまま避難所に広げる形になるかな」
『プレイヤーや試行回数が増えればその分精度は上げられると思うんですが……』
「このシミュレーターの性質上、それは無理だし、妥協するしかないな」
無理な理由は大きく分けて二つ。
一つは、正確なシミュレーションを行うため、マスクデータとして入力したデータに間違っても表に出せない情報を含んでいる事。
ようは世界各国、組織・団体、著名人の裏まで含めたデータであり、本来流出するはずもないモノで、それらを合法とは言えない手段でミナミが掻き集めてきたのが原因である。勢力の動向を正確に再現をするにはどうしても必要だったが、こんなモノを組み込んでいる時点で表に出せるはずもない。
実際には見えないとしても、そこから算出された結果から見えないはずの何かが見えたりする可能性もあるのだ。
もう一つはコレが運営の目に止まる可能性を考慮して。
VRなどのあきらかに運営側が提供しているサービスで情報が抜かれる事はある程度諦めるにしても、プライベートな行動がどこまで把握されているか、その情報がどれだけ活用されているかなんて分からない。
怪人勢力にそれが渡るのは論外。それは運営の性質上、最悪の場合でも露骨にはやってこないだろうという信頼感はある。しかし、運営自身がそれを活用しないという保証はどこにもない。過去のイベントでも、あきらかにそういった情報を元に内容を変更した例は見えるからだ。
これに関してはどこまでやったら目をつけられるかの基準が分からない。下手すれば、こうして俺とミナミ、そして開発陣だけの極少数でテストプレイしているだけでもアウトな可能性もある。基本的に情報が隔離された避難所内でプレイするとしても、ギリギリというのが俺の認識だ。
だから、その結果何かしらの対策を出すとしても、それは極力小さい範囲で留めておく方針である。
『そういえば、サーバー管理者には開放します?』
「あー、アリだな。むしろもう開放してもいいかも。待機中のいい暇潰しにもなるだろうし」
-2-
日本のどこかの山、その山中の地下にある避難所。
正確な場所は明かされておらず、内部で生活する者たちの中にも正式なルートでここに移動した者はいない。おそらく建築に業者も関わっていないだろう。それは住人の管理を行う美濃夫妻でも同様であり、特に詳細も知らないまま業務を行っている。
その避難所の更に地下、通称別館と呼ばれる建物の一室に管理人が訪れたのは三月頭の事だ。
「こんにちは。調子はどうかな」
「あ、ども。えーと、確か管理人の……ミノさんでしたっけ?」
サーバー管理室の扉を開いて姿を見せたのは金髪碧眼の如何にもな外国人だ。背は高くなく、筋肉も脂肪も目立って付いてはいないが出身はアメリカである。
「合ってるよ、的場さん。岐阜の美濃だから発音は違うけど」
「あ、日本の美濃だったのか……てっきり、海外のファミリーネームかと。あれ、という事は例の美濃クリスって」
「ああ、私の娘だね。あ、これお土産の羊羹。ここの担当者で食べて」
「ども。……羊羹?」
部屋の中で彼を迎え入れたのは眼鏡をかけた痩せぎすな男。避難民の中からここに配属された複数のサーバー管理者の一人で、一応責任者を務める的場秀である。まだ三十代前半であり、部下を持った経験もない事から、責任者と言われても実感は湧いていないのだが。
お土産が羊羹なのは本人の和菓子趣味である。
「事前に予定は入ってたみたいですけど、管理人さんだったんですね。訪問理由はその他になってますが、どんなご用で?」
「見学……かな? 一応避難所全体の管理者って事になっているし、職場としてここに推薦する事もあるだろうからね」
「あー確かに」
見た事もない場所に配属する人事は珍しくないだろうが、せっかく近くにあるのだから確認しておこうというのは理解できる。
隣の部署どころか隣の机の人間が何をやっているのかすら知らない以前の職場環境よりは、風通しのいい職場のほうがいいだろうと思う。もちろん、業務上機密性が高い職場では公開できる内容も相手も限られるのだが。
「えーと確か……権限を確認するのでちょっと待って下さい」
いまいち要領が悪いものの、それはある意味当然だろう。なんせ、ここでこうしてゲストを招く事など、これまでなかったのだから。
ほとんど訪問者を受け入れた事のないこの場のマニュアルを思い出し、入室時にカードで読み込んだデータの中に含まれているはずの権限情報を確認する。それを見れば、サーバーへのアクセスが可能な自分たちほどではないが、おおむね自由に見て回れる権限が付与されていた。
とはいえ施設内の情報を持っているわけでもないので、まずは施設案内という事で色々な場所を二人で回る事になった。定時で行う目視チェックのついでだ。本当は管理室にいる別の人員の番だったのだが、ここは管理者である自分が行くべきだろうと。
雑多とした避難所本館とは違い、ほとんど単一の用途で使われる別館の設備は、規模は大きいもののシンプルだ。
先ほど立ち寄った管理人室、休憩室、トイレやシャワー室など最低限の生活環境もあるが、そのほとんどはサーバールームである。
「こりゃすごいね。データセンターみたいだ」
「そこらのデータセンターよりもよほど立派ですよ。まあ、ラックはほとんど空なんですけど」
「将来的な事を考えて箱に余裕を持たせているって事かな?」
「いえ、物理的かつ労力的な問題ですね。サーバーの搬入・設置は俺たちの作業なんで。スケジュール決めて順次やってます」
今のところ、ここの担当者は十人にも満たない。見たところラックにマウントされているサーバーは大型のモノが多く、肉体労働的な意味だけでも設置は重労働だろう。開設されて数ヶ月の施設では何十台も設置するのは不可能だ。
話を聞けば、倉庫にはまだ設置前のサーバーが大量に積まれている状況で、動作確認すらできていないらしい。
「聞くだけでも大変だね。できる限り人数回したほうがいいのかな? でも、労働力目的で完全な素人を放り込むのもな」
「どうなんでしょうね? 今のところは急いではいないって話でしたが、使い道を考慮すると処理能力はいくらでも必要だし」
「用途は聞いているのかな?」
「主にシミュレーションです。さっきのサーバー管理室でもモニターできますよ」
それを聞いて、おそらく超常社会学のシミュレーションだという当たりはつく。少なくとも避難所内で分かる範囲ではそれしか対象がないからだ。
実際、教授本人と話している際に何度か話題には挙がっていた。
「設置作業が業務って事は、ケーブルなんかの配線も? 露出してるケーブルがないから多分ラックと一体化して内部で配線してるんだろうけど、導入はむしろ大変じゃ……」
「一応そうなってますが、すでに配線済です。障害時には専用のマニュアルで保守する必要はありますけど」
「配線済といったって、規格は違うんじゃないのか? 見たところ、サーバーの機種が統一されているわけでもなさそうだし」
「ここにマウントする前に専用のインターフェイスを接続します。なので、ここでやる事は本当にマウントと電源投入だけですね。あと点検」
「障害がない時は余裕があるけど、発生したら大変っていう良くあるパターンか」
直接関わった事はないが、以前の職場でエンジニアから聞いた事がある話だ。飲み会で大規模障害の地獄絵図をつらつらと語られてしまった。
「それが、ここまで運用中の障害は一切発生してません。構築前なら俺たちの不手際で故障させてしまった事はありますけど」
「それは普通の事……ではないよね、やっぱり」
「そりゃそうです。ファンが一つ不具合起こしただけでエラーランプが点灯するんですが、事前の動作テスト以外じゃ見た事ないくらいで」
「まあ、普通のサーバーじゃないって事だよね。普通の大型サーバーにしか見えないけど」
「実際、マシンは普通に売ってるモノですよ。もちろん一般向けじゃないですが、企業向けにカタログが配布されているようなモノです」
そういったモノは導入時に保守・点検サービスを企業と締結するのが普通だ。しかし、ここに企業の保守員がやって来る事はない。
つまり、ここにいる人員のみで対応できる環境として構築しているという事になる。
「美濃さんの権限的に問題ないから話しますが、中身も一見普通のモノに見えるんです。OSも良くあるサーバー用で。でも、パッチの類は当たりません」
「当たらない? それは事前に当てていたというだけではなく?」
ここのネットワークは避難所内で完結しているはずだから、ある程度のバグは許容できる。
もちろんバグがないのにこした事はないが、そんなモノはよっぽど枯れた古いシステムでしかあり得ないのだから。
「それが、搬入時点で致命的なセキュリティホールを含めてバグは修正されてるっぽいんですよね。既知のモノは当然として、未知のモノも含めて」
「未知のモノ?」
「導入されてから発表されたバグ……つまり企業が認識していないようなモノもすでに埋まってるんですよ。提供されてるテスト機使って試してみましたけど、発表されたバグは再現できませんでした」
「それはまた、ヒーロー関連の未知の技術が関わってそうだね」
「説明付きませんからね。というか、ソフトウェア的な部分だけじゃなくハードウェアもそうです。どれも異様に耐久性が高くなるよう改造されてるのかもしれません。でないとさすがにエラーの一つもないのはおかしい。システムログが真っ更過ぎて不気味ですよ」
「それもテストを?」
「はい。一番分かり易いのはオーバークロックですね。どんだけクロックアップしてもCPUが一切熱暴走しないのはさすがにビビりました。……ひょっとしたらですが、ファンすら必要ないのかも」
どんなCPUだ。一般的なパソコンの知識だけでも、それが異常である事くらいは分かる。
「それ以外のパーツも規格以上のスペックで動いてます。なのに見た目は普通に売ってるやつなんですよ」
「このサーバールームは一見普通に見えて、とんだ摩訶不思議空間って事だな。状況だけは良く分かったよ」
正確には理解できていないが、的場の態度や口調はそれがとてつもない異常である事が分かる。
ちなみに、避難所内で配布されている個人PCや携帯端末も似たようなモノと聞かされた事で、一気に異常が身近になってしまった。
-3-
「それで、これが例のシミュレーター?」
「はい」
やたら広いサーバールームを定期点検をしつつ回ったあと、最初のサーバー管理室へと戻ってきた。
そこで確認したのは、サーバー管理用PCではなく管理者用として個別に設置されているPCだ。画面上では何やらゲームのようなモノが動いている。
パッと見では戦略シミュレーションゲームに見えない事もない。
「ゲーム……何かの戦略ゲームに見えるんだけど」
「似たようなモノ……といえば似たようなモノですかね。少なくとも表面上は」
表面上はって事は、つまり実態は異なるという事だ。
「コレ、一応ゲームの体はしているんですが、やってる事は異様に高精度な社会シミュレーションなんです。ここのサーバーをほぼフルで活用した」
「小野教授の言ってたそのままの話って事か。なんでゲームにするかは分からないけど」
シミュレーション結果が目的なら、インプットしてひたすらシミュレーションを繰り返すものだろう。わざわざ外部から未知の情報を追加する必要はない。……それとも、そういう情報を追加して揺らぎを作る事が目的だろうか。
「ヒーロー個別のシミュレーターでもあるらしくて、盛大な社会シミュレーションしている中で一ヒーローとしてプレイできるんです。その中でとった行動によっては戦況にも影響します」
プレイヤーは開始時に担当エリアを選択。そして、そこに所属するヒーローを選択するか、新規のヒーローを作成する事ができる。
既存で登録されているのはすべて実在のヒーローで、可能な限りパーソナル情報もインプットされているらしく、その能力や性格、取り巻く環境によって行動に制限を受ける。
そして、作ったヒーローは実在のヒーローと入れ替えになり、作成可能な能力の幅はその相手に準じたものになる。担当エリアにヒーローの枠がない場合に限り、かなり自由なヒーロー作成が可能となるものの、その枠が空いているのは日本の十枠だけだ。
「日本はなんで全部枠が空いているんだ?」
「マスカレイドがいない前提のシミュレーションらしいので、その代わりみたいですね。日本だけはプレイヤーが作成しなくてもランダムでヒーローが作られます」
「ああ、そういう意図のシミュレーションなのか……ある程度でもリアルを知っている身となると、悲惨な事になる未来しか見えないな」
それはつまりクリスも救助されないかもしれないという事だ。マスカレイドがいない前提なら、そもそも誘拐すらされないかもしれないが、それはそれで別の危険もある。少なくとも、今の日本のように直接的な怪人被害がゼロという状況にはならないだろう。
「実際、日本の動向を見てみるとかなり厳しいんですよね。ヒーローの自由度が高い分難易度が高いというか……そもそも先行有利なシステムで開始時期が遅いのが致命的というか。まあ、もっと難易度が高い国はいくらでもありますけど」
「リアルのヒーローが登場した時期がそのままなのか」
ここに来た時点である程度情報が解禁されているが、日本は最後発らしい。先行の有利性がどの程度かは知らないが口調から見て結構なモノだろう。
「ゲームって事はクリアもある?」
「分かりません。俺も含めて、ここの管理者全員がプレイヤーの死亡か人類絶滅エンドしか体験してないので。長くプレイできた場合でも、現在より五年先が限界でした」
「絶望的な未来しか待ってないってシミュレーションから言われてるわけだ」
「いや、どうもまだインプットが足りてなくて、シミュレーション精度も甘いみたいなので、どこまでリアルかは分かりませんね。アップデートの度にヒーローが強くなってるようにも感じますし」
冷静に考えるなら、悲観的にならないよう誤魔化しているわけではないはずだ。こんな限られた環境でしか知られないシミュレーションで、対外的な印象など取り繕う理由がない。元々の目的を考慮するなら、ゲーム的なバランス調整でもないだろう。
「とはいえ、すでにシミュレーション精度は恐ろしい事になってますけどね。一体どれだけのデータをインプットしてるのやら」
「君がそう思わせた何かがあるって事かな?」
「……このシミュレーション、中に俺も組み込まれてるんですよ」
「ちょっと言っている意味が分からないんだが」
「的場秀って個人もこのシミュレーションの中に含まれていて、中でそれっぽく生活してるって事です。探せば多分美濃さんもいるんじゃないかなーと」
「は?」
なんだそれは。まさか、世界の人間すべてを個々にシミュレーションしてるとでもいうのか。
「近くにヒーローを作って様子を窺っただけで、得られる情報も表面上だけなんですけどね。前提が違うので当然ここにはいないんですが、割とそれっぽい行動をとっているようにも見えます。一年後くらいに婚活パーティに行ったりするのとかめちゃリアル」
「いくらなんでもそれは……」
「さすがに人単位で詳細なシミュレーションまではしてないと思います。あくまで大雑把にある程度重要そうな部分だけかと」
「それにしたってなあ……」
どれだけ途方もないデータや処理能力が必要なのか。それをここのサーバールームだけで賄っている? いや、説明されたように、ここのサーバは普通のモノではないから不可能とは言い切れない。
「俺が開発したわけじゃないんで、詳細なんて分かりませんよ。ここにいる人員はあくまで業務の傍らテストプレイしているだけなんで」
「それはそうだろうが……まさか、プライベートな個人情報までインプットされてるとか」
「あり得ないとまでは言い切れないのが怖いですね。少なくとも各国の法律や文化、モノの値段とか、起こってる問題はかなりの精度で再現されているのは確認してます」
ゲーム内ではヒーローに限らず詳細な情報はほとんど表面的なモノしか表示されない。しかし、その裏では膨大な量の情報が存在していて、それを元にシミュレーションしているらしい。その一部は、中でとった行動によっては目にする事もあるという。
「残念ながらリアルのほうを知らないので、どれくらい正確なのか答え合わせができない事も多いんですけどね。たとえばこんなデータがあります」
と言って的場が見せるのは、ゲーム開始時点での各国の軍事情報だ。その内容は公表されているモノと細部が異なる上、武器の種類や型番まで記載されていた。何度かプレイしていく中で確認できた情報を抜き出してまとめたモノだという。当然正確性は分からないが、こんなモノと比較できる資料を公開しているはずもない。
分かり易いのがコレというだけで、この分ならもっとヤバいデータもインプットされているだろう。もし正確なら命を狙われそうな情報だ。避難所から絶対に出たくなくなるくらいの代物である。
「……この拠点以外じゃ、とても公開できないな」
「普通に殺されそうですよね」
もし本物だとするなら、一体どんな方法で情報収集しているのか。これではヒーローに対して隠し事など不可能だ。
いや、この際ヒーローに対して各国の機密情報やプライベートの情報が露わになるのはともかくとして、何かヒーローを利用しようと暗躍する輩がいてもバレバレという事になる。……それは、実にスリリングな事実だった。
「軽い気持ちで視察に来たつもりだったんだが、とんでもないモノを見せられてしまったな」
「しばらくしたら、本館のほうでもテストプレイの依頼とか来るんじゃないですか? 美濃さんは優先度高そうですし」
「……困った事に興味はある」
元々、ゲームはそこまで嗜んでいないのだが、コレだけのモノを見せられたら興味も湧く。実際に依頼が来たら絶対に手を出してしまうだろう。
そして、あまり知りたくなかった秘密を目にしてしまいそうなところまで目に浮かぶようだ。
その後、本当に依頼が来てテストプレイを実施。
初回プレイはアメリカでヒーローを作り、思った以上に長い間人類は文明を維持していたが、個人としてはほとんど影響は残せずに終わった。ただ生き残っただけだ。
ヒーローなんて立場でも、目に見える何かを残すのは非常に難しい。そんな事実を突き付けられるゲームだった。
「リアル過ぎる……」
-4-
試行錯誤を繰り返す。とても人間には把握できない膨大な情報が日ごとに増えていく中、よりリアルへと近付いていく環境に合わせて最善手、次善手を模索する。目先の影響だけに囚われず、最終的な影響を見据えた上でより良い行動を選択していく。
ミスは何度してもいい。むしろミスの積み重ねこそが、後の最善手に繋がっていく。
引き籠もりだから、と言うつもりはないが、穴熊英雄であった頃から縛りプレイは得意だった。現実でそれをする気はまったくしないが、ゲームであれば限られた環境の中で結果を求めるのは極当たり前の遊び方として受け入れていたのだ。
おそらくミナミも、その手の制限プレイには強い適性がある。そんな二人でひたすら試行錯誤を続けていた。
「難し過ぎるんですけど、このゲーム」
かろうじてテストプレイヤーとしての範疇に入っていた妹が、わざわざ部屋まで押しかけてきてボヤいている。
「ゲームって考えるから難しいと感じるんだよ。リアルの世界情勢まで巻き込んだ大規模シミュレーターって考えるなら、これくらい当然って思うようになる」
「そりゃまあ分かっているんだけどね」
そうは言っても、肌で実感していない明日香は分かっているつもりになっているだけだ。こんなシミュレーションに実感が伴う奴など、世界中見渡してもそうはいない。
『私のほうは、大国スタートなら人類を十年保たせるところまではコンスタントにいけるようになりましたよ』
「俺も似たようなもんだな。その内何回かは自勢力も合わせて維持できるくらいだ」
「どっちもおかしい」
当初言っていたように、ある程度のノウハウを確立すれば人類滅亡エンドはまず避けられるようになってきている。そしてその先は勢力図が大きく動かない安定期に入ってしまうのだ。突発的なイベントがなければ、これが可能性の高い未来という事なのだろう。
実際、完全オートでも似たような結果になる事は多くなってきている。
今の目標としては、可能な限り人間の勢力を残したまま安定期まで持っていく事。ここに大きな難易度の壁を感じている。
「ちなみに肝心の日本プレイだとどうなの?」
「日本残すだけなら割とできるな。今のところどうやってもヒーローの人数は半分くらいになるし、人口も半分くらいになるが」
『序盤の約束された超高難易度期間を超えるのがキツイんですよねー』
「ニートマンじゃ大体死ぬんだよな」
元々、日本だけは既存のヒーロー情報を使っていないので再現精度が甘い傾向がある。そんな中だとプレイヤーのヒーローが頑張らないとどうしても息切れを起こしてしまうのだ。日本以外でプレイしてても、外部から強く干渉しないと勢力の維持が難しい。
だからプレイヤーが引き籠もって生き延びようとしても、先に国と他のヒーローが根を上げてしまうのである。
ランダム性が高い故に、時々何故かあっさりと切り抜けていたりもするのだが。
「コレをやって思ったのが、普通は如何に他人を動かすのが難しいって事だな」
「そんなの当たり前じゃないの?」
『マスカレイドさんは基本パワープレイでのゴリ押しが通用しますから』
「自覚はあったが、いざそれができないとなると大変なのが身にしみる」
ゲームの中のプレイヤーはどこまでいっても一ヒーローでしかない。そんな個人が世界に影響を与えるのは極めて困難で、そもそもの選択肢すら限られるのだ。
マスカレイドが好き勝手できているのは膨大なヒーローパワーを前提としている事が良く分かる結果だ。ついでに、日々ヒーローパワー不足にあえぎ、ヒーローボトルをありがたる者の気持ちも分かるようになった。
基本的にヒーローが怪人より強いのは歴然とした事実だが、それは全力で戦えばの話なのだ。被害を抑え、リソース管理をした上で、いつやってくるか分からない怪人の出現に備えなければいけない。ターン制で最善手に近い手を取り続けられるゲームですらカツカツなのだから、現実ではさぞかしキツかっただろう。リアルの状況は自分で解決してしまったあとなので、それが分かったところで何も変わらないのだが。
「ちなみにコレ、ゲーム内で起きる未来の出来事も実際に起きたりする? そういう方向でもリアルなシミュレーションなんでしょ?」
『起きますよ。あくまで可能性が高く、起こり得るってレベルでしかありませんけどね』
「ニュース見てたら、芸能人のスキャンダルが見事に合致してびっくりしたんだけど」
『まあ、そういう情報自体はインプットされてるので、表に出るかどうかの差でしかありませんし』
今現在このシミュレーターにどの程度の情報が積み重なっているのかは把握していない。おそらくミナミも把握していないだろう。
この辺は日々アンドロイド任せで、インプット量が膨大な問題もあって早々に諦めた部分だ。
俺もプレイ中に驚くような出来事が発生した事は何度もある。ランダム性が高い出来事はやはりランダムなので、事実確認しないと必然であるか分からないのが困った話である。
「難易度高いって文句言うくらいだから、実はお前もやり込んでたりするのか?」
「それなり? 元々あんまりゲームやらないけど、ここまでリアルとリンクしてると気になるし」
「避難所のほうでは?」
「クリスとか小野教授とかは積極的にやってるかな? 全体で見ると……そろそろ飽きてきたのかもって気はしてるけど」
まあ、それもそうか。いくら高精度でもゲームとしてバランス調整してるわけじゃないのだ。元々シミュレーションゲームが好きな人ならともかく、ゲームらしいゲームは他にあるわけだし。
避難所の人も全員が全員このゲームの意図を知っているわけじゃない。ほとんどはそんな膨大なデータと処理能力を使っているシミュレーションとは夢にも思ってないはずだ。
「あ、そういえばクリスのお父さんはかなりハマってるみたいな事は聞いた。顔合わせるといつもやってるらしくて」
一体全体何が琴線に触れたのか、意外といえば意外な結果だった。
『対戦プレイ……はできるか分かりませんが、協力プレイモードとか追加してみます?』
「あ、それいいかも。やってると協力が欲しいケースとかたくさんあるし」
「精度は下がるだろうが、データサンプルが増えて結果的にプラスになるかもな」
こっちとしては結果的によりバリエーションに富んだシミュレーション結果を得られればいいのだ。それによってリアルのシミュレーションも捗る。
なら、それが完全に阻害されない範囲であればゲーム的な要素を増やすのはアリかもしれない。
対戦プレイ……ようは怪人側をプレイヤー勢力として組み込む事だって、かなり強引な手を使えばできない事もないし。
「そういえば、クリスのお父さんは一回作ったヒーローのデータを残して流用したいとか言ってたとかなんとか……愛着湧いたらまた使いたくなるのは分かるかも」
『あー、バリエーションを増やす目的だったから、そういう機能ありませんでしたねー』
「それなら最終的なキャラのデータをとっておいて、対戦プレイとかできたら面白いかもな」
ゲーム的なアイデアなら、サンプルはいくらでもあるのだ。作ってるのはプログラマーとしては化け物みたいな連中なので、実装は容易だろう。
人間の機微とか理解に乏しい連中だから全体的な指揮は必須だが、企画段階で方向性を見失わなれば普通にいいモノになる可能性はある。
……となると責任重大なのはディレクターだな。
「頑張りますっ! 私がプラタやインより優秀なメイドであると証明してみせましょうっ!」
この方針に真っ先に乗っかったのは、今現在も事実上制作指揮をとっているアルジェントだった。
ゲーム制作にメイドの優秀性は一切関係ない気もするが、本人がやる気になっているのに水を差す気もない。
結果的にこの本格ゲーム化計画は残り二人のメイドも巻き込み、次第に大規模なモノへ発展していくわけだが、それはまた別の話。
……いつも思うが、あいつらノリと負けん気だけで生きてるな。
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