第十三話「月末怪人ラッシュ」
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日本エリア担当ヒーロー、マスカレイドは引き籠もりである。
そう、引き籠もりではあるし世のほとんどには知られていない事ではあるが、ヒーローの責務は十分……十二分……必要以上……いや、過剰に果たしていると言っても良く、本人もそういう認識だった。こんだけやったんだから引き籠もらせろよと。しかし、世間の荒波はそれを許してはくれない。
予告出撃要求や常識を無視した高圧的な要求メール、あるいはとにかく接触を試みようと投げつけられる大量のメールは窓口でシャットアウトされるし、それ以外の接触ルートなど担当神であるかみさまか妹が直接部屋に行く程度しかない。しかし、それらの存在が許しても彼の引き籠もりを邪魔する存在があった。……そう、ヒーローの本来の敵、怪人である。
といっても、マスカレイドの怖さを熟知している怪人連中ではなく新人……それも、たった今発生しました的な新顔が日本に出現すれば、それはもう出撃するしかないのである。何も知らなければ怖いモノも知らないというわけだ。
「怪人! ヒーロー! 人間! 老若男女問わず、最も大切なモノ! それは筋・肉ッッ!!」
そいつは、地方のマイナースポーツ大会会場に唐突に現れた。
別段規模は大きくないし、なんなら公式な成績に影響するようなモノでもない単なる地域復興目的、あるいは誤って建設してしまった大型スポーツ施設が維持費で赤字を垂れ流すのを見かねた管理者が、部下に命令して無理やりねじ込んだマイナーイベントでしかない。
とはいえ、無茶振りされた担当者が死にもの狂いで頑張ってそれなりの知名度の芸能人を呼び、そのおまけでカメラも入っていて、内容次第ではテレビ放送もされるという。ついでにこれくらいのイベントなら上位が狙えてバズれるかもと、お手頃感に騙されて出場を決めたネット実況者もいた。
その程度の認識……まさか、なんの脈絡もなく怪人が出現するとは思っていない。
「我が名は、すぅーぱぁー!! プロテインッッ!! お前ら、タンパク質を摂取するのだっ!!」
ざわめく会場。なんだあれ? 着ぐるみか?
かろうじて人の形をしているように見えなくもないが、部分部分がボトルでできていて中身が透けているようにも見える。まるで筋肉の連結部が関節ではなくボトルになっているような形状だ。突出した卑猥な部分もプロテインボトルである。それは、中身を隠しているのか、万一そのものだったりしたらモザイクをかけなくてはいけないのではないか。というか、なんでそのボトルだけ満タンなんだ。
屋外で昼間なのにスポットライトまで用意した過剰演出は、とても一般参加者とは思えない。勘違いした実況者でもかかる費用には尻込みしてしまいそうだ。
だとすれば大会側のイベントか? そう考えるのが普通だが、企画途中で予算が足りないのが発覚して、広告は最小限、グッズすら用意できず、担当者がデザインしたクソみたいなマスコットが手を振っているだけのこの大会で? 優勝メダルすら用意できなくて、大皿に字を書いただけのこの大会で?
「お、おい、あれひょっとして怪人じゃね?」
さすがにここまで世間の周知が進むと、目の前に変な形状の存在が出てくれば真っ先に怪人と疑う者も出てくる。
それは正解なのだが、あまりにエンカウント率と経験が不足して疑惑止まり。今はそういう時期なのだ。即時行動に移行できるほど、人間はまだ怪人の脅威に慣れてない。これは日本だけでなく世界規模の認識であり、明確な隙となっている。ヒーローとしては頭が痛いところだ。
「いや、さすがにイベントだろ? 確か協賛スポンサーにプロテイン売ってる地元メーカーあったし。ほら、なんかボトル付けてる」
「ねーよっ! 血縁者特権でお願いしたら、協賛はお祈りされたんだよっ! 誰だよ、アレっ!!」
唐突に参加者たちの前に現れ、イベントである事を否定するのは、この大会のクソみたいなマスコットだった。とはいえ、中身は担当者なので信憑性は高い。中身を知らなくとも、ここまで一切声を出していなかったマスコットが突然声を上げ始めれば何事かとは思うだろう。
ひょっとしたらそれ込みでイベントを疑うかもしれないが、どちらにしても似たようなものだ。
「今日はスポーツで汗をかいた貴様らに、特製のプロテインを用意したっ!」
怪人の周りにプロテインボトルの並ぶ長机が出現した。突然の不可解な現象にも、そういう手品もあるかと自己完結で納得してしまうのは、ここが小規模ながらもイベント会場であるからなのか。
なんだ、やっぱり協賛スポンサーのイベントなのかとザワつき始める参加者。確かにアスリートにとってプロテインは重要なのだ。結構高いし。
プロテインが必要なほど蛋白質が不足していない参加者も結構いるが、そういう人もイベント側から用意されたモノなら摂取するはずだ。
「一度摂取すれば、すぐさま二度目の摂取をするために運動したくなるほどの中毒性。しかも今回用意したのは栄養不足にならないよう、必要な栄養はすべて配合した完全食だっ! 味にまで配慮し、もうこれだけでいいとなる事請け合いであるっ! コレにより、運動とプロテインの素敵な無限循環が完成するっ!」
一体、どんなプロテインなんだ。もしそんなモノが実現できるなら、スポーツ界の革命とさえいえるかもしれない。いくら実現し難いコンセプトでも、たとえ目標の10%でも達成できていれば大したモノなのではないか。
まさか、このイベントそのものが、そのためのパフォーマンスとして用意されたというのか。それなら、モノ次第では業界から注目を浴びる事もあり得る。なら、試飲する最初の一人は多少でも目立てる可能性がある。
鳴かず飛ばずでヨゴレを厭わなくなりつつあるハンサム芸能人と勘違いした一部の実況者が、目立つために率先して動こうと考えるくらいには魅力を感じる響きだった。ニセモノでそんな効果がなかったとしても、それはそれで大したマイナスではない。その場合のリアクションは考えておかないと。
いや、絵面としてはむしろそのほうがオイシイかもしれない。『味に配慮したって言ったじゃねーか』と。あのボトル男が芸人ならきっとうまい返しをしてくれるはずだ。
「我が体液から生成されるこのプロテインにより、スポーツ界に革命を起こすのだっ!! さあ、飲むのだっ!」
一気に観客のテンションがガタ落ちする瞬間だった。宣伝文句としては最悪のマイナス。たとえそういうコンセプトで作られたマスコットでも、実際にはそうでないとしても、そんな気持ち悪いモノを誰が飲むというのか。率先しようと動き始めていた者たちの足も止まる。
いや、ネタとしてなら。というかネタじゃない場合ってなんだよ。マジって事はつまり、あいつに付いてるボトルの中身って事だぞ。そういえば、あいつ物理的におかしくね? 着ぐるみにしても無理がある形状のような……。そもそも、あのクソみたいなマスコットと比べて洗練され過ぎている。
ある程度事情通な参加者はこの時点でとうとう逃亡を開始、あるいは自己顕示欲に負け、危険を承知で撮影を開始している。ヨゴレ芸人は、無数のフラッシュの中で未だ飲むかどうか逡巡していた。
「はーハッハッハッ! よかろう! むぉっと撮るがいいっ! この肉体美をなっ! むうんっ!!」
「ナイスバルクッッ!!」
スマホのフラッシュの嵐を受けてポージングを始めたスーパープロテインに向け、筋肉を賛美する声が上がる。
なんと、空気が読めずにノリ始めた参加者ではなく、正義感に溢れた事情通の時間稼ぎだ。一部とはいえ、彼らの中には怪人の傾向についてある程度把握している者もいるのである。これまでの口上、そして撮影行為に応える性格なら、流れに乗ってもおかしくない。
失うモノは一時の時間と声を張り上げる勇気。間違っても笑って誤魔化せばいい。手に入れるモノが安全なら大したデメリットじゃない。
まさしく英雄の気質といえるだろう。そしてその英雄の決死の行動が、この場における奇跡のムーブメントを形成した!
筋肉を見せびらかすようにサービスのポージングを始めた怪人を見て、ひょっとしたらコレで時間稼ぎができるかもと考えた他の参加者が戸惑いながらも賛同。避難をしつつではあるが、サクラのように声を張り上げる。
スーパープロテインは洗脳も何もしていないのに、会場はまさかの大歓声だ。超気持ちいい。出遅れたヨゴレ芸人は特に事情を理解していないのに嫉妬に震えていた。
「やはりっ! 筋肉はすべてを解決するっ! するのだぁっ!!」
「ねーよ」
気分が良くなって、ポージングをしつつ高笑いを続けるスーパープロテインの背後から唐突に出現する銀タイツ。銀タイツもマッチョなので、次元を超えたマッチョ同士の邂逅だ。
マスカレイドが登場し、更に沸く会場内。当然の如く、これで助かるという意味での歓声なのだが、違いの分からないスーパープロテインには、それがマスカレイドの筋肉に対する賞賛に思えてならない。かけ声は『ナイスバルクッッ!』だけなのだから仕方ないのかもしれないが。
実際、中にはマスカレイドの筋肉に目を奪われる者もいたのだ。
「うおっ! おのれマスカレイド、貴様、俺の称賛を掠め取るつもりかっ!」
「いるかそんなもん」
マスカレイドは機嫌が悪かった。何故なら、色々準備して快適な引き籠もりライフを過ごせると思っていた直後に出撃するハメになったのだから。
「よろしい! ならば筋肉対決だっ! この会場の審査員たちの称賛の声で決着をつけようではなっ――!!!!」
セリフの途中で顔を掴まれて黙らされるスーパープロテイン。
スーパープロテインの背のほうが高いため、持ち上げるには至らないものの、両足の踏ん張りがあろうともマスカレイドの手はビクともしない。
「ぬおっ!! な、何をするっ!!」
「いいか、確かに筋肉は結構色々解決してくれる。しかし、決して万能じゃない! 違うというなら、ご自慢の筋肉でこの手を振りほどいてみろ!」
「ぬおおおーーー! なんだこのパワーっ!! だ、だが、それも結局筋肉ではないかっ!!」
「違う! よく分からないヒーローパワーの産物だ」
身も蓋もない正論だった。確かにマスカレイドはマッチョだが、そこにあるのが筋肉であるかどうかなんて本人ですら分からない。
大体、マスカレイドが起こす現象のほとんどは筋肉だけでは再現不可能な事ばかりだ。いくら鍛えても人間は生身で音速を超えられないし、怪人を倒せない。それはマスカレイドだけでなくヒーローすべて、そして怪人すべてにいえる事だった。なんなら物理法則すら超越している。
「つまり、お前の言ってる事は戯言も戯言だっ!」
「うおおおおおおっ!!」
手首の切り返しのみでスーパープロテインを上空に投げ飛ばすマスカレイド。それは傍から見れば怪人が自分でジャンプしたような光景。
異様なスナップを効かせて投げられたスーパープロテインは猛烈な高速回転に負けて球体へと変化しつつあった。
そして、落下してきたボールをマスカレイドがキックした瞬間、跡形もなく爆散する。あっけない勝利であった。
尚、アイアンクローでスーパープロテインの顔が砕けなかったのも、投げ飛ばした瞬間に弾け飛ばなかったのもマスカレイドが日々の修練で獲得した手加減の産物であり、高速回転で形状を保てなくなったのは大観衆の前で人型を爆散させるよりはインパクトが少ないだろうという配慮である。
その瞬間だけ見れば、銀タイツがボール状の何かを蹴って爆散させたようにしか見えない。上手く切り取れば凄惨さは減少するだろう。
超スロー再生したらグロ画像が見えるかもしれないが。
「な、なんだったんだ……」
マスカレイドはそのまま何も言わずに帰還。残された大衆は集団で夢でも見たかのように呆けていた。
大観衆の元で行われたこの惨劇は、マスカレイドの配慮によってグロさが皆無になった事もあって普通にバズった。
クソみたいなマスコットキャラの着ぐるみを着た担当者は歓喜し、イベントとはまったく関係ない取材の嵐に飲み込まれる事となるのだ。
ちょっと目的とは違ったが、担当者は大満足である。
-2-
『何故か世間でサッカー熱が上昇しているらしく……』
「なんでやねん」
原因はマスカレイドが怪人を蹴って爆散させた事にあるのだが、本人としては納得し難い。
あのイベントの出来事は当然の如くヒーローの最新映像としてネットにアップロードされた。一次ソースとして提供される映像に先んじた例としても珍しく、内容もセンセーショナルかつ、グロにも配慮された親切構成である。
その映像を使って切り抜き動画も多数作られ、コラ画像も乱発された。スロー再生を切り抜いた解説動画は普通にBANされた。
特に人気なのは、筋肉怪人スーパープロテインを蹴り飛ばす瞬間の映像に、『筋肉は結構色々解決してくれる!!』と記載されたポスター風の画像である。
『私のお気に入りは、マスカレイドさんが蹴った何かが飛んでいった先で色々破壊しつつ、最後は地球滅亡する動画ですね』
「それ、昔、野球選手の動画で見た事あるぞ」
実際にはそんな強度を持ったボール……というか物質など存在しない。存在すれば似たような事を再現できるかもしれないので、ある意味リアルではあるが、さすがに動画の作成者もそんな事は思ってもいない。
『あと、現地に残されてたプロテインの解析結果も出てます。避難所で有志によって解析してもらっただけなので警察のようにはいきませんが、今回に限っては十分でしょう』
「アレ、なんで怪人と一緒に爆発しなかったんだ?」
普通、怪人が撃破された際は体の一部が分離していたとしてもまとめて爆発する。いつかのタコかイカか分からない怪人を例とするなら、以前の出撃で混入された分離物でさえ一緒に爆発したくらいだ。
『基準は良く分かりませんが、ある程度加工されたりすると対象外になるのかもしれませんね』
「まあ、そういうもんか」
良く考えたら悪臭怪人の臭いなども分泌物の一種だろう。ヒーローネット上の情報を漁った際には討伐されたサウナはあまりの悪臭で廃業になったと書いてあったはずだ。つまり、悪臭の成分は爆発せずに滞留し続けたという事になる。
「どさくさで掠め取って持ち去った奴の対処は?」
『この成分なら別にいいんじゃないですかね? 依存しても自業自得って事で。一応、成分的には高級プロテインとほぼ一緒ですよ』
画面に表示された成分表を見ても良く分からないが、比較として用意されていた普通のプロテインと見比べてもそう違いはないように見える。
「というか、こんなモノ飲みたいか? どんだけいいものでも、あいつの体液が元って時点で摂取したくないんだが」
『まあ、似たような事をやってるのはヒーロー側にもいますし』
「一切擁護できないから困る。というか、そっちも摂取したくないんだが」
『それは私もそうですけど』
似たような事をやっているというのはカナダのヒーロー、シロップマンの事だ。
ヒーローとしての成績は可もなく不可もなくといった感じで目立ったところはないのだが、その特性によって一部では有名なのである。
彼の特殊能力は自らの体液がすべてメープルシロップになるというモノ。常時発動している特性で、血も唾液もなんなら排泄物までメープルシロップ化している一種の怪物である。なんで活動できているのか謎しかないのだが、そこら辺はヒーローパワーの賜物という事なのだろう。
このシロップだが、解析しても成分的には極上のメープルシロップでしかなく、普通に美味いらしい。
そんな体質だけなら不憫だなと思う程度で済むのだが、彼の趣味がそのメープルシロップを女性に摂取させる事というのが問題だ。
それを犯罪というのかどうかすら怪しい。ただひたすら気持ち悪いだけの存在でしかないという微妙な立ち位置故にアンチも多いが、言い方を変えればメープルシロップを分け与えているだけといえなくもないのだ。どこかの自己犠牲の塊のようなヒーローと同じで。
ブログなどで『超興奮する。メープルシロップ出そう』とか言い出しているあたり、確信犯なのは確実であるのだが。
『あの変態とは違って、こちらからは一部解析不能な成分が見つかっています。ラット実験では活性化、および常習性も見られたため、おおよそ本人が言っていた事そのままなんでしょうね』
「知らずに摂取し続けたら、確かにマッチョマンにはなれそうだな」
『ちなみに個人取引したら警察で拘束するよう手配は済んでます』
「それは仕方ない」
常習性がある時点で大問題だが、麻薬よりはマシといったところか。ある意味健康的だし。……強制的に健康なマッチョになるってのは不健全じゃないのかって疑問が残る事は否定できない。
一部の掠め取った奴については確かに自業自得で済ませて良さそうだ。ネットオークションで売って拘束されても自業自得。
『ちなみに、さきほどのポスターやコラ画像は放置していいんですか?』
「別にいいんじゃね?」
悪意のある改変がされてるわけでもないし、なんならマイルドになっている感すらある。
ポスターの煽り文句だって、切り抜いた言葉そのままといえばそのままだしな。前後の言葉がないせいで、福沢諭吉先生のように意味を間違えて使われてるような感じになっているが、まったく意味の違ってくるあの文と違ってそこまで間違ってる気はしないし。
作った人間的には万能じゃないって否定文句がポスターとして使いづらかったのが良く分かる。
個人的には別にマスカレイドが笑われていても、それがコメディ的な笑いなら別にいいのだ。問題は過剰に美化されたり存在自体が貶められる事で、そのほうがずっとまずい。決して完璧超人ではなく、ある程度はマイナスポイントもあると思ってくれるくらいがちょうどいいんじゃないだろうか。
「多分、例によってエスカレートして境界を超えるヤツが出てくるから、対処するならそこからだな」
とはいえ、こんなのは今に始まった話ではなく、素材の少ない時期からずっと続いている事だ。その対処をした時点である程度ラインが引かれているから、今回もそこを飛び越えてくるヤツは少ないと思われる。
ちなみにもっと過激で思想布教やプロパガンダにも平気で利用する人が多い印象の海外だが、マスカレイドさんの存在についてはむしろ及び腰だ。例の知性体共存主義の連中ですら触れかねているらしく、それ以外ではもっと穏健な扱いといえる。
どうも、海外に関しては取り締まる側も過激な連中が揃っていて、極端なところでは正義を気取って一種の言論弾圧さえ行われる始末だ。マスカレイドだけでなく、他のヒーローもである。コレもコレで巨大な問題を孕んでいるわけだが、海外の事なので手も口も出しづらい。
守ってくれるヒーローに対してふざけた事を抜かすんじゃねえって意見ももちろん分かるが、シロップマンの被害に遭った女性が声を上げたらバッシングされましたとかはさすがに不健全にも過ぎるだろう。実質的な被害は一切ないとしてもだ。
『配信のガイドラインとか作ります?』
「下手にラインを引くと、そこに抵触しなければ問題ないって輩が出てくるが……策定するにしても、しばらくは先だな。広報機関正式立ち上げ以降。他のヒーローがやってなかったら作る気はなかったんだが……」
『何人かは堂々とガイドライン発表してる人もいますね。どの道、法律なんて関係ないんですけど』
「やりようによっては過剰な賛美や叩きへの抑制にはなるから、上手く使えるよう策定するしかない」
怪人と戦闘員、ついでに表向きはヒーローも、国籍がなければ戸籍もない存在なので、たとえネットでどんな使われ方しようが関係ないといえば関係ない。少なくとも法に触れたりはしないし捕まったりもしない。フットワークの軽い国だと、急ピッチで法律化を進めているところがあるにはあるが、それでも内容は片手落ちだ。ヒーローが直接関わっているわけでない以上はどうしたって穴だらけの内容になる。
だから、ヒーロー本人の力と世論のみが味方になるわけだが、どうやったら抑止力として機能するかは判断が難しい。
すべての誹謗中傷を排除して言論統制すれば、変に神格化される可能性だって高くなるし、俺もそれは望んでいない。ある程度こき下ろされ、ネタにされ、それでも一定以上踏み込むのは躊躇するようなバランスが望ましい。これが怪人相手なら全面的に恐怖されるだけでいいから楽なのに。
「どうやってそれをデメリットだと理解させるかも難しいところだしな」
『あなたとその周辺はマスカレイドの防衛優先度が下がりましたって警告でも送れば、さすがに肝は冷えると思いますが』
「お前ありきじゃないと成立しないが、それもアリではある」
画面向こうにいるこの巨乳さんは、ネット上に限ってはどんな偽装も効かない怪物だ。その上、かみさまから預かった権限まで駆使すれば大抵の情報は追えてしまう。個人で活動している犯人の追跡など余裕だろう。
確信犯にせよただの愉快犯にせよ、バレっこない、バレたところで何ができると思っていたところへそんな警告が送られたら恐怖だろう。いや、むしろ偽装してる奴のほうが恐怖を感じそうだ。
手紙やメールなど形に残ると変に利用されて拡散される恐れもあるので、実行するならそういうモノが残らない形の警告が望ましい。中にはオークションに流す奴すら出てきかねないからだ。
たとえば、一定のラインを超えた奴のところにある日突然マスカレイドのホログラムが出現して警告、そのまま消えるなんて超常現象なら利用もできず、記録にも残らない。優先度が下がった事を実証するのは日本では難しいわけだが、噂が飛び火すれば同調圧力だって上がるだろう。
人間相手のセオリーは通用しないのだから、最悪度が過ぎるなら晒したっていいわけだし。
「まあ、どの道先の話だ。少なくとも今月中は引き籠もるって決めてるんだし」
『そんな事を言ってるから言霊になって邪魔されるんじゃないでしょうか』
「おいやめろ」
洒落になっていない。
-3-
「ふわははははっ!! 我が名は漆黒怪人ブラック・キギョー!」
そんなある日、またしても唐突に怪人が出現した。大都市のど真ん中、新橋駅前に怪人が出現したというだけでも惨事を予感させる大事件である。
ヒーローはその性質上どうしたって怪人に一歩遅れをとる。その一歩で惨劇を引き起こされれば、マスカレイドとはいえ対処は不可能なのだ。
その点で見れば、この怪人は悪質そのものだった。発生直後なので特に意図したわけではないが、その一瞬で最大効果を発揮する事のできる怪人なのであるっ!!
「くくくくっ! 我が必殺技、《 スレイヴ・スピリッツ 》は周囲数キロにおいてブラック企業体験を脳裏に直接叩き込む技っ! その存在しないはずの恐怖を身を以て体験するがいいわっ!」
「や、やめろーーーっ!!」
周囲から悲鳴が上がる。奇妙な事に特に恐怖を感じているのはくたびれた背広を着たリーマンという特徴が一致しているが、きっと偶然だ。
目の前に怪人がいるという恐怖よりも、この言葉によって想起されるブラックな記憶が彼らを苦しめている! 必殺技はまだ放たれていないのに大惨事。一方で、ブラック・キギョーは自らの存在が恐怖されていると感じてご満悦である。
「さあ、くらえいっ! ちょっとカテゴリから外れた記憶もプラスしたサービスバージョンだ!」
――――《 スレイヴ・スピリッツ 》――
「うわあーーーーっ!!」
「ひいいいいいっ!!」
「うぎゃーっ!」
果たして、比喩なく怪人が避けて通ると言われるこの日本で、怪人がここまでの悲鳴を上げさせた事があっただろうか。悪臭怪人は阿鼻叫喚だったし、その他にも色々あるが、これはこれでかつてない戦果といえるかもしれない。
くたびれたサラリーマンたちを襲う、存在しないはずの記憶。なんか良く似た経験を日常的にしているような気がしないでもないが、それはそれとして苦痛である事は間違いないっ! それは言ってみれば追い打ちのようなモノなのだから。
ブラック・キギョーは自身の力のみで精神ダメージを拡散していると思い込んでいるが、死体蹴りのようなモノでも立派な戦果なのだ!
『えっ、今でさえ限界超えてるのに、こんなスケジュールでなんて……』
『やってやれねえ事はねえんだよっ! 無理ってのは嘘付きの言葉だぞ』
『有給消化しなかったのは個人都合だから、こっちで取得した事にしておくな』
『三徹? そうか、俺は一週間家に帰ってない』
『そんな、宿泊費込みの出張手当が五千円なんて……どこに泊まれば』
『ウチはフレックスタイム制だから、五時から本番だぞ。……コアタイム?』
『仕事終わったから定時上がりねえ。君、周りの人を手伝おうって気はないわけ?』
『リストラ担当課長の話した事は全部録音してあるんで。このまま労基に駆け込みますね』
『タイムカード押したな。これからが本番だぞ』
『飲みニケーションだよ。アルハラとか寝言言ってんじゃねーぞ。当然、男は会費は取るからな。派遣は倍』
『ボーナスってのは本来出ないモノなんだよ』
『なんで電話に出ないの? 休日? 俺は出勤してんだぞ!』
『一人で回せるよね?』
『ほら、後ろに寝袋あるだろ? 早い者勝ちだから、遅いやつはダンボールな』
『いちいちメモなんてとってないでさぁー、言った事くらい暗記しろよ。ほら破棄』
『すいませんっ! 実はこいつが本件の担当でして……私はやめろと言ったんですが』
『ウチで駄目なら通用するところなんてないよ』
『残業代出てるウチはブラックじゃねーんだよっ! みなし残業はあくまでみなし!』
『来季までにこの資格とっておいて。先方に資格持ちいますって言っちゃったんだよね』
『誰が仕事とって来てやってると思ってるんだっ!』
『工数ってさ、ようは人数増やせばいいんだろ?』
『何もしてないのにPC止まったんスけどー』
『あいつ、二日目なのにもう無断欠勤かよ』
『これ判子押しといて。部長のは二段目の引き出しに入ってるから』
『面倒だから、お前一人でダブルチェックしとけよ』
『ヨシッ!』
『タダでやっといてよ。実績積むと思ってさ』
『ご、五次受けですか?』
『あいつ、入院とか言って逃げやがって……』
『電車に飛び込むのと飛び込み営業のどっちがマシか分かるだろ?』
『ちゃっちゃと片付けちゃってよ、簡単でしょ?』
『マクロで自動処理して仕事したつもりになってんの?』
『社内でも判子はおじぎさせんだよっ! やり直し!』
『二時間電車通勤してるって事は往復で四時間分余裕があるって事だよな』
『ウチの出張は鈍行換算なんだよっ!』
『この資料、週明けまでに用意しといてもらえます? あ、俺は上がるんで』
『時給換算するなよ。心が壊れるからな』
『お前、来週から管理職な。管理職手当ない一人部署だけど。つまり俺と一緒』
『前の担当者いきなり退職したんで、引き継ぎ資料ないんですよね』
蘇る、存在しないはずなのに何故か存在している記憶。そんなあるあるが脳内をフラッシュバックした新橋のサラリーマンたちは悲鳴を上げた。
本当に経験のない記憶でも超リアルに想像できてしまうから、そのダメージは計り知れない。
「はーハッハッハッ!! どうだ、存在しないブラック労働の記憶はっ! さぞかし会社を辞めたくなるだろうっ!!」
「だが、俺には効かんな」
「はへ?」
絶叫に塗れ、新橋駅前が酔い潰れたサラリーマンがそこら辺にいた往年を窺わせる光景になっていく最中、ヒーローが現れた。
社会に出る事なく引き籠もったので、ブラック労働の記憶などものともしないマスカレイドさんだっ!!
実際は見せられたらダメージは喰らうけど、ヒーローパワーの差で無効化されているので無意味だ。
――《 マスカレイド・インプロージョン 》――
「ぎょえええええええっ!!」
「くっ、なんてひどい奴なんだ。……いつも精神ダメージを負っている人たちにこんな追撃をするなんて」
精神攻撃故に具体的な被害は不明。きっと、この中の何人かはこのまま病院行きになってしまう事だろう。それはそれとして、今回の件がなくとも入院コースだった可能性は否定できない。
こうして、ある意味過去最大の被害をもたらしたといっても過言ではない、漆黒怪人ブラック・キギョーの魔の手はマスカレイドによって振り払われたのだ!
-4-
『特筆すべき被害はなかったみたいですね。ケガ人はいませんし』
「やめてさしあげろ。あまりに苛烈な記憶のフラッシュバックに、発狂した人や気絶した人もいるんだぞ」
『被害としては誤差ではないかと。というか、その人たち元々限界だったと思いますよ』
「正論だけでブラック企業は回らないんだ」
一体、新橋のリーマンさんたちが何をしたというのか。
いくらブラック労働に慣れているからといって、似たようなダメージを与えていい理由にはならないのに。
ひょっとしたら、今後マスカレイドの姿を見るだけでフラッシュバックしてしまうかもしれない。
『さすがに、今回の件はニュースや新聞などでも大々的に扱われていますね』
「そりゃそうだろうな」
前回のスポーツ施設もそれなりの規模で人の集まる場所での戦いとなったが、ただの地方イベントという特色からかメディアはほとんど入っていなかった。マスコミではカメラを入れていた地方局一局のほぼ独占、参加していたタレントや動画実況者も個別に情報発信していたものの、扱いとしてはやはり限定的だった。
それが今回は新橋なんていう東京のど真ん中、しかも駅前っていう人通りの多い場所だ。どうあがいても目についてしまう。
実際、主要局のほとんどで緊急放送されたし、目撃者の数も比較にならない。中にはインタビューで無茶苦茶言っている奴もいたが、全体の精度はかなり鮮明だろう。
そして、被害らしい被害が出なかった前回とは違い、今回は明確な被害者が続出し、放送までされてしまっている。ここまで形に残った日本の怪人被害はおそらく初だろう。
『おかげで退職する事ができましたとか、インタビューで言っていた入院患者がいましたが』
「ブラック企業の闇を暴くのはやめるんだ。外に出たくなくなってしまう」
『元々出る余地はないと思いますけど』
その闇はちょっと俺には深過ぎる。はっきりと弱点属性で相性も最悪である。
『被害といえば、今回の事件に付随して多くの中小企業に労基のメスが……。しかも全国』
「そりゃそうだろうなと言わざるを得ない」
発覚したブラック体質なんてモノは極わずかだろうが、ここまで大事になって問題が表面化してしまったら、パフォーマンスでも何かやりましたってアピールも必要だろう。報告があっても動いていなかった企業なんて山ほどあるだろうし。
ただ、報酬が出ないとか環境が悪いとかパワハラがなんてブラック代表の要素はともかく、残業が多く休暇が少ないっていうのは今の世の中だとある意味仕方ない面もあるのは理解できる。一番顕著に影響が出ているのは海外展開している商社らしいが、怪人出現や新大陸出現なんて大規模な影響を受ければ忙しくなるのは当然ではあるのだ。あれだけでかい問題があって旧来の体制のまま回そうとしていたところは、たとえブラック体質でなかろうがじきに淘汰されていく事だろう。
今回は、その時計の針を少しだけ早めてしまっただけに過ぎない。多分、潰れる企業が出ても雇用は圧倒的に増えるはず。
あくまで日本国内に限った予想であり、海外の事など保証できるはずもないが、それは俺の責任ではない。
「しかし、恐ろしい敵だった。俺に社会人経験があったら危なかったな。やはり引き籠もりは無敵だ」
『あんまり関係ないような……』
実際にどうなるかは未確認なので、それは未知の危険という事でいいのだ。ヒーローパワーによる精神耐性とか実感した事ないし。
「とはいえ、アレは俺が対処できない数少ない例の一つでもあるからな。たまたま対ブラック労働者向けの精神攻撃しかしてこなかったから良かったものの……」
『確かに、出現直後の無差別攻撃は根本的にどうしようもありませんよね』
それはヒーローである限り、システム的にどうしようもない部分ではあるのだ。
イベントや支配率関連の戦闘は別としても、本来の構図において先手は怪人であり、ヒーローはそれに対抗して出撃するしかないのは大原則だ。怪人の出現予測が不可能な以上、それは不可避な問題である。だからこそ、ウチではそれ以外の要素で怪人の手が止まるよう仕向けている面もある。
怪人たちは当然この穴に気付いているし、なんなら積極的に利用もしているが、マスカレイドに報復として何されるか分からないから日本で実行していないだけに過ぎない。やけっぱちになったり、鉄砲玉が生まれ難いよう、見えないなりのヘイト管理もしているのだ。
死よりも怖いと思わせる演出。怪人ならば普通の死は恐れないという点を見越した印象作りが大切なのである。
とはいえ、それは既存の怪人に対してのみ有効な手段である。今回のようにまったくの新規発生、誕生直後の怪人はマスカレイドというヒーローの情報を持ってはいても実感していない。故に、こういった被害は防ぐ事が困難なのである。
『一応、時間稼ぎとして常にメイドを一人待機させてますが、それだってマスカレイドさんが即応できない場合の保険でしかありませんからね』
「トイレとかな」
引き籠もりの俺は基本的に大抵の場合で即応できるが、それでもどうしようもないタイミングというのはある。まさか脱糞中に出撃するわけにはいかないし、手が離せない作業中という場合だってある。即応できたとしても、どうしたって数十秒はかかってしまう。下手したら出撃演出の転移エフェクトだけでも、その間に攻撃は可能なのだ。怪人なら、その数十秒で被害を出す事は容易だろう。
ミナミの言うようにメイドで時間稼ぎするって手は用意しているものの、対応時間はその数十秒より早いわけではないし、保険以上の意味はない。
「というかだな、なんで俺が引き籠もるって言ってるタイミングに限って、こんなに怪人が出てくるんだよ」
『そんな事を言われても……。出現制限がかかる個体数には達してないなら、そういう事もあるとしか』
「それにしたって、上旬から中旬にかけて暴れ回ったあとなのに、狙ったように出てくるんじゃねーよ。しかも新規」
『既存の怪人なら普通怯えて尻込みしますしね』
マスカレイド安全基準法とかいう頭悪いルールはあっても、毎月毎月制限数以上の怪人が出現するとは限らない。その条件を満たす場合なんてむしろ少ないほうで、ほとんどは数体も出現せずに終わるのだ。なんなら一体も出なかった月すらある。
だからって、引き籠もりタイミングを狙ったように新規ばかりが出現するのは嫌がらせ以外の何物でもないだろう。
「ここは運営に文句の一つでも……」
『単に喜ばせるだけだと思いますけど』
……だよな。その上で俺に対する有効的なノウハウを与えてしまいかねない。せめて確証でもあれば別だが、現時点だと邪推でしかないし。
『偶然でしょうけどね。マスカレイドさんはなんとなくそういう運命の元にあるような気がしますし』
「だから、言霊になりそうな話はやめるんだ!」
-5-
「フハハッハッハッハッ! 我が名は対立怪人キノタケ・ノーコ!! 我が覇道の手始めとして、お好み焼きの呼称で大阪と広島を対立させてくれるわ!」
「そういう地味な嫌がらせはやめろっ!」
――《 マスカレイド・インプロージョン 》――
せめて、名前の通りキノコとタケノコの抗争くらいに留めておけ。それは一部では洒落にならない。
「フォッフォッフォッ! オレは悪臭怪人イカノス・メル! 先輩が大活躍したというこの国でオレサマも……ッ!」
「イカくせーから近寄るな!」
「イカにイカ臭いとはコレ如何にっ!!」
――《 マスカレイド・インプロージョン 》――
大阪メトロ御堂筋線に出現した悪臭怪人ワキノス・メルの同種のカテゴリ怪人は、複数の駅構内に匂いが充満するほどの悪臭を拡散させた直後、マスカレイドの手によって討伐された。触りたくはないので、空気を媒体としたインプロージョンで一撃だ。
「なんで、こうも狙ったように新規の怪人ばっかり出てくるんだよっ! どーなってんだ、この月末!」
『システム上、そういう事もあるかもとしか……』
「やっぱりミナミの言霊のせいか」
『なんでやねん』
しかし、ここまで重なると何かしら見えない力が働いているようにしか思えない。さすがに、本当にミナミのせいだとは思ってないが、無関係な邪推すらしてしまいそうなくらい的確なタイミングで怪人出現が重なるのだ。
「寝ようと布団に入った瞬間とか、対戦ランクが上がりそうな時とか、カップ麺にお湯入れて三分弱とか、しかも、身構えてる時はまったく音沙汰ないときた」
『良くありますよね、そういうの。間が悪いというか』
「あるあるなのは理解できても、当人としてはたまったもんじゃないんだが」
『と言っても、統計にしてみると別に不自然ってほどでもないんですよね。新規ばっかり出てくるのだって、既存の怪人はマスカレイドを怖がってるからっていう理由もあるわけですし。ほら、マスカレイドさんを論破するためにわざわざ資料まで作ったんですよ』
「そんな身も蓋もない証拠出されても……」
そこまでされたら何も言えねえ。
画面に表示される怪人の出現傾向についての資料は、ここ最近の出来事が多少偏りはあっても普通にあり得る範疇の事だと示していた。日本単独だと説明がつかなくとも、世界規模で見ると普通に前例が発見できてしまう。
前例がない出来事といえば、今月前半から中盤にかけて俺がやった事のほうがよっぽど不自然で歪な影響をもたらしている。
……くそ、なんだってんだ。引き籠もりは休むんじゃねえとでも言いたいのか? いや、ただの偶然だっていうのは俺だって分かっちゃいるんだが。
「言霊、言霊か……」
『まだ言ってるんですか、それ』
そして、激動の二月末の事であった。引き籠もり宣言していた期間の最終日である。
「フッフッフ、私の名は言霊怪人パワー・ワーズ……」
「貴様か」
「は? お、お前はマスカレイドッ! もう出撃してきたのかっ!?」
札幌市の路地裏で出現した言霊怪人は、何もしない内から待ち構えていたように出現したマスカレイドに背後をとられていた。
その視線は、こいつだけは絶対に許さないという断固とした決意を窺わせる。なんだか良く分からないが超怖い。恐怖で脚が動かない。
「貴様がこの一連の動きを後ろで操っていたんだな」
「え? ちょっと何言ってるのか意味が……え、ちょ……、近寄らないでっ! 近接能力皆無なのっ!」
肩に手をおかれただけで全身の細胞が死滅していくような恐怖。感受性の高い怪人なら、イメージだけでリアルに崩壊してしまいかねない。
尚、冤罪である。これから言霊能力を使って悪い事をしようとはしていたが、今は発生直後で本当に何もしていないのだ。
しかし、引き籠もりの渇望を邪魔されたマスカレイドがそんな言い訳を聞くはずもない。そもそも、怪人はヒーローの敵なのだから討伐対象である事は前提なのだ。そこに理不尽な怨念が宿ったというだけの話である。
「問答無用っ!」
「えええええええっ!!」
――《 マスカレイド・インプロージョン 》――
悪は成敗された。パワー・ワーズは特に何もしていないが、その後は新規怪人ラッシュも止んだので結果オーライである。
すでに予定していた引き籠もりタイムはないが、ブラック企業の皆さんよりは比べるべくもなくマシだから我慢するんだ。
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