第六話「アトランティス・ネットワーク」
-1-
そのサイトが発見され、情報が拡散・共有されたのはつい先日の事らしい。正確な公開時期などは分からないが、ミナミがログを辿ってみても世間の初動時期とそうズレていないだろうという回答だった。
発端は複数の掲示板やコメント欄に貼られたリンク。一見すれば誘導リンクにしか見えないそれを踏んでみたら、謎のサイトに飛ばされたのだという。パッと見、ブラクラなどに類似したイタズラにしか見えないが、良く調べてみればどうもおかしい。貼られたリンクは正常なものであり、何か偽装をかけられた様子もない。本来のリンク先にあるサイトも普通に稼働しており、URLをコピーしてみれば普通にそのサイトへと飛ぶのである。
そして、良く見てみればリンク先のサイトでブラウザに表示されるプロトコルやURLが本来存在しないものなのだ。定義付けされてないし、ポート番号も不明、表示されているドメイン名もDNS登録されていない。一応ブラウザの機能でブックマークはできるし、その謎URLを貼り付けたりリンクを作成すればそのサイトに飛べる。しかし、何故これで繋がるのか不思議なサイトだった。
そんな奇妙なサイトでも、ただ不可思議なだけなら一部で興味を引くだけで終わっただろうが、掲載されている情報は非常にセンセーショナルな情報だった。
トップページに表示された世界地図のようなものは極めて微細なレベル……集落単位まで拡大可能で、そこには人類支配率、ヒーロー支配率、怪人支配率という言葉が添えられていたのだ。一般人でもヒーローや怪人という言葉にピンとくるだろうし、エリアの支配権を有し、エリアカタログを持つ者であれば何のサイトなのか瞬時に理解できただろう。
これがエリア分布が国家などの巨大な範囲でしか区切られていなければもう少し展開は遅かっただろうが、支配率が設定された最小のエリアは非常に狭い。村や集落、小島のような、数十人しか存在しないような場所も多く、エリアカタログを持つ者の中には決して権力者と呼べない者もいるのだ。必ずしもそこに人がいる必要はなく、法律上の土地所有者や管理を依頼された契約書でも効果を持つので、先祖代々受け継いだ山を処分できずに死蔵しているような者も支配権を得られる。その内の誰かがネット上で書き込めばあっという間に拡散するのだから、止めようがない。
この一件は、本来有り得ない仕様のサイトとそこに記載されていた情報、どちらか一つであれば埋もれそうな話題が二つ重なった事で爆発的に広まる事となったのだ。
謎のサイトと、サイトに記載されたアトランティス・ネットワークの名が世界へ拡散するまでに大した時間は必要なかった。今ではニュースサイトですら確認できてしまうほどだ。
それに加え、サイトの存在が拡散した時点で各国政府関係者など、限られた範囲でしか共有されていなかった情報が合わせて流出した。それはつまり、エリアカタログという存在の拡散をも意味する。
カタログで購入可能なアイテムのラインナップも含め、真偽織り交ぜて拡散した情報。すでに購入された商品が存在している事もあって、一部権力者のみに付与された巨大な権益はそれを持たざる者の嫉妬を呼ぶ。
トーナメントで配られたカタログもそうだが、エリアカタログで購入できる商品の価格はかなり割増しである。極小エリアの支配権から得られるポイントが少ない事も相まって、商品を購入できたとしてもかなり限定的だっただろう。しかし、どんなに安いものでも独占したいという欲が抑えられない。そして、少ないポイントしかない現状……いや、たとえポイントが潤沢だったとしても、それを他者に分け与えられる者は皆無なはずだ。
それを知った他者は当然の如く暴動を引き起こした。所有者以外が使用できない事を知らずにカタログを奪い取る者、支配率の変動によりカタログの移譲はされたもののポイントが消失して悲鳴を上げた者などを含め、世界中で多数の混乱が発生する。持たざる者は何も変わらず、新たに持てる者が増えただけで問題が表面化したのだ。
かつて世界同時多発テロ、アトランティス浮上時の宣言などの例を挙げて、カタログの使用に危険性を唱える者も多くいたが、歯止めをかけるには至らない。サイトに危険性はなく、拡散した情報も多分に嘘や妄想が含まれているとはいえ、真実もまた含んでいたのだからなおさらだ。
せめて件のサイトをネットワーク的に遮断できれば多少でも拡散速度は抑えられただろうが、件のサイトにアクセスする際に発生しているはずの通信パケットは確認できず、ファイアーウォールで遮断するためのルールも定義しようがない。
ここまで大規模な影響を生むイベントならヒーローネット上で事前公開されそうなものだが、現時点でも対象のサイト、及びそれが存在するネットワークに関しての言及はない。この事によってヒーロー陣営の対応も遅れてしまった。
ひょっとしたら、怪人側でも把握していなかった可能性はある。
「これだけならいずれ発生する問題を先取りしただけなんですが」
俺の言葉に、二人の顔に『え、そんな反応なの』という表情が浮かんだが、構わず続ける。
実際のところ、コレだけなら急激に加速したものの、そこから発生したものは予想済の展開でしかない。
問題は拡散手段と速度だ。……問題はアトランティス・ネットワーク自体にあると言える。
「官僚の目から見て、日本での予想はつきますか? 長谷川さんも何か思いつくなら」
「……専門家ではないので自信はありませんが、まったくの被害なしというのはないでしょう。ただ、それでも極小規模……せいぜい個人間の暴行事件程度に留まるかと思われます。それも、数日中にどうこうという事はない……はずです」
「私のほうは正直予想もつかないというか……正直、専門家ですら領分を超えた展開じゃないかと。暴動に関しては、正直そこまでの規模にはならない気はますが」
まあそうだろうなと思う。カタログや商品の実物が存在するとはいえ、こんな情報が拡散してすぐに暴動に発展するなど、普段からどれだけ不満が溜まっているのだという話だ。ひょっとしたら現在発生中の暴動はただの便乗者で、単に暴れる理由が欲しかっただけなのかもしれないとさえ思う。
暴動やデモ、極端にいえばテロが日常的でないというのは大きい。繰り返し事件が起きていけば意識も変わるだろうが、日本国内だけで短期的に見るなら深刻な騒動は抑えられるはずだ。
「とはいえ、以前からお二人にも共有しているように、これらの情報やルールはほとんどの陣営が把握しているものです。なのでこちらから提案なんですが、さっさと政府から公表してしまいましょう」
「……いいんでしょうか。その……ヒーロー……マスカレイドさん的には」
俺の予定に大々的に公表する展開はなかった。それを促すつもりもなく、公表しようと言い出したら十分以上に内容の精査を促しただろう。
今回のコレは想定外もいいところで、この展開はまた後手に回って選択肢が削られてしまった形になる。しかし、現状取れる手の中ではこれが最善だろうと判断した。ミナミも同意見だ。
「八月末の集計を以て、件のサイト上の情報は正式なものになるでしょうし、公表しないほうがマズい。多少強引でも数日中には……できれば明日にでも公表してもらいたいところです」
「…………」
近藤さんの視線が泳ぐのが分かった。脳裏ではそれが不可能であると瞬時に判断したはずだ。でもやってもらう。地味だが、ここでの初動は今後の展開に繋がる重要なポイントだ。
「以前渡したスキャンダルノートを使ってでも実現して下さい。カタログ商品の実弾が必要なら、言ってくれれば用意します」
「……すいません、何故そこを強行するんでしょうか? 政治的なインパクトであれば、多少前後したところで大差はありませんし、おそらく各国の政府も即時公開は躊躇するでしょう。あえて日本が先行する必要は……」
これまでの日本政府を見ていればそういう対応になるだろうなと思う。実際、これだけで見るなら公表が遅れたところとしても多少バッシングがあるだけで、野党やマスコミからも厳しい追求は受けないはずだ。
情報の精査に時間がかかった、公表時のインパクトを考慮した、状況が把握できていないため確認中ですといった回答はこれまで何度も見てきたし、逆に信用問題の危険を犯して早期公表するメリットは見当たらない。
「理由としては、これ以上後手に回るのは避けたいというのが一つ。今回の件も公表が早いほうがプラスに働くだろうというのが一つ。あとは付け加えたい発表内容が効果的に働くタイミングだからというのが大きい」
この内容を加味するならば、早ければ早いほどいい。受け取る側の印象が天と地ほどにも違う。
「付け加えたい内容とは?」
「私と現与党間で協力関係が成立したという事を大々的に発表して下さい」
「え……その、いいんでしょうか?」
「はい。その際に、だからこれだけ早く正確な情報を発表できたという事と、この緊張下で少しでも政権が揺らぐ事をヒーローが憂慮していると強調して下さい。その時点でどこまで具体的に話すかは別途調整が必要でしょうが、八月中……いや、三十日までには追って詳細も公表したい。政府内には激震が走るでしょうが、手札を切る躊躇は不要です。近藤さん的には、どう動いても危険ですから」
政府としては、マイナスよりはプラスの面が大きいはずだ。ほとんど分かり切っている内容を公表する事で発生するマイナスと、マスカレイドの協力を取り付けたというプラスの比較は天秤にかけるまでもない。
残念ながら政府とヒーロー間で協力態勢を整えた事を公表した例はすでにあるが、それを差し引いてもマスカレイドの存在はインパクトが大きいはずだ。なんなら、ヒーロー側にも怪人側にも激震が走るレベル。
「それは……いえ、分かりました」
思ったよりもはっきりと返答した近藤さんだったが、最低限の情報交換のあとに急いで退出した。発表内容などの調整はリモートで行うので、行動は早いほうがいい。
ついでに、この混乱に乗じて政府内や各省庁の膿も排出してしまいたい。……いくら手札があるからといっても、近藤さんやその周囲にそこまで手腕は期待できないだろうが、そう期待していると匂わせるだけは匂わせておいた。
普通ならそこまでの強行態勢は取り難い。俺がその立場なら不可能と断言できる。しかし、それでもと多少期待している面はある。現時点ですでに近藤さんは個人ではなく複数人の味方をつけて派閥に近いものを構築しているし、今日の雰囲気を見る限りエリートにありそうなタガが外れているように見えるのだ。言葉を取り繕わずに言うなら少々暴走気味だが、この際多少なら暴走気味で構わない。限度はあるが、護身を含む各種手助けはこちらでもフォロー可能なのだから。
-2-
その後、一人残ってもらった長谷川さんと改めて面談を始める。
「バタバタしてすいません。ちょっと急がないといけない案件なので」
「問題ありません。重要なのは理解できますし」
近藤さんとの会話の間、ほとんど口を挟んでこなかった長谷川さんだが、やはり自重していたらしい。その時々は反応していたが、場馴れしたのか今は落ち着いたものだ。
「極力俺が顔を出す気はないので、今後も政府間の調整時には前面に立ってもらう事になると思います。無茶を言ってるのは分かりますが、大丈夫ですか?」
駄目でもやってもらうしかないんだけど、なんとなく大丈夫かなという気はしている。長谷川さんもまた、この荒波に揉まれて常識範囲外の成長している気がするのだ。
「緊張に次ぐ緊張で慣れてきたので大丈夫です。むしろ、大きな案件を扱う事で立場に酔いそうなのが怖いですね」
「まあ、良くある話でしょうし、ある程度ならフォローします」
社会に出てそういう経験をした事はないが、今のこの状態が似たようなものだ。あんまり自分に酔うのはまずい。多分、自制できていないヒーロー連中も多いだろうし。
「それでは、長谷川さんから見た近藤さんの人物評を聞かせて下さい。後日別途に顔合わせの時間を作るつもりですが、しばらく忙しそうですし」
「本人が席を外したあとですが、それもそうですね」
元々、この場は長谷川さんから見た近藤さんの評価を聞く場だったのだ。顔合わせの意味もあるが、どちらかというとそちらのほうが大きい。
「実際に話してみたところ、資料よりも肝が座っている印象でしたが」
「あー、それには理由があって、どうも色々吹っ切れたみたいです。色々枷を取り払った結果、本来のポテンシャルが表に出ているというか。実際エリートなのは間違いないですから」
確かに、官僚という職業は勉強できるだけでは務まらないだろう。当然頭はいいのだろうが、それ以外にも色々な武器を持っているからこそ生き残っているのだ。
とはいえ、想定以上に優秀だと思う。この場合の優秀というのはこちらの思惑通りに動いてもらえるという事だ。狙ったわけではないが、多分当たりクジを引いたという事なのだろう。
詳しく聞いてみれば、吹っ切れたのは長谷川さんと接触してから何度か発生した誘拐未遂・暴行事件が原因らしい。本人もそうだが、身内にまで手を出されたのだから意識改革には十分だろう。
元々そのつもりだったが、彼以外に窓口を用意するつもりはない事を周知してもらう必要があるな。襲撃した者の中には外国だけでなく政府内の息がかかった者もいたのだから。野党だけでなく官公庁や与党もだ。
彼を切った時点でせっかく繋いだ俺とのラインが破断するのを印象付ける必要がある。本人の重要性が増して外国からの刺客が増えそうな気もするが、周りすべてを警戒するよりは一方に集中できるほうがマシだろう。
場合によっては一芝居打って、一時的にラインを凍結する事も検討しないといけない。何度も使える手ではないが、効果的なタイミングを見計らおう。
そんな話を長谷川さんにしたら、今の近藤さんなら向こうから提案してくるかもしれないとの事。……いいね、俺好みの変化だ。自分で行使する分にはブラフとか大好き。
「長谷川さんの方はどうですか?」
「今後忙しくなりそうなのは様子見ですが、今のところはなんとか。増えていた雑事も、プラタが引き受けてくれるようになりましたし」
一から学習させている途中なんで、見た目ほど有能とは言い難いんだが、それでも手助けくらいはできるようになったって事だろうか。コンピューター関連と戦闘は現時点でもあきらかに有能だし。
「恐縮です。やはりシルバー03は梱包作業に放り込まれる05とは格が違う」
入室制限は解除したので、ちょうどそのタイミングでプラタがお茶を持って来た。
「梱包?」
「まあ、中にはそういう作業もあるって事です」
「はあ」
というか、その作業は俺やミナミからの評価が基準でなく、当のメイド三人で決めた罰ゲームでしかないんだが。格ゲーの勝敗結果だぞ。
-Silver05-
どこかの施設内で、一人黙々と作業を続ける金髪のメイドがいた。
補充の終わった分から順に、エネルギーサーバーから装着したエネルギーボトルを取り外し、梱包していく。終わりのない単純作業に嫌気がさしつつも、罰ゲームだから仕方ないと自分を宥めつつ。
「おのれ……あそこでダウン攻撃を躊躇わなければ」
メイド三人で始めた格ゲー対決はちゃっかりとアルジェントが一抜けした。決戦となったプラタとインの対決は華麗とは言い難い泥試合となり、タイムアップでわずかにゲージが勝っていたプラタの勝利となった。起き上がりのカウンターを恐れずダウンを決めていれば、今頃梱包作業をしているのはプラタだったはずた。
同じ型番、同じ意味の名前、似たような容姿で最初は区別が付きにくかった三人だったが、少しずつ特徴が現れ始めているのを感じる。言動はあえて変えていた部分もあるが、映画の好みなどはその結果だ。とりあえず、一番性格が悪いのはプラタだ。それは間違いない。
「というか、やっぱりコレ効率悪いー!」
最大容量のサーバーなのにあっという間に補充されて、そこからボトルに補充・梱包する作業のほうがはるかに長いとか、自分たちのご主人様はどうなっているのか。いくらサーバーからボトルで汲み上げても一向に減らない。ほとんど最低限の知識しかない自分でもコレがおかしい事はさすがに分かる。そこは現実逃避して諦めるにしても、これは手作業でやる仕事でない事は明白だ。こんな事に時間を使うなら、学習に力を入れたい。
「でも、あの二人にもこの苦難を味わってもらいたい」
これだけの量なら本来オートメーション化するのが普通で、初回だけはお試しの工数確認という事で手作業の梱包作業をしているに過ぎない。報告すれば自動化のシステムを導入する事だろう。
しかし、なんと悩ましい事か。自分だけでなく残りの二人にもこの不毛な単純作業を押し付けたいという気持ちもあった。
罰ゲームのノルマはまだ遠い。
-3-
「現状で不安があるとすればカルロスですね。本人はともかく、家族には不安が残ります。近藤さんには永住資格か帰化の許可を出せないかかけ合ってもらってますが、時期的に厳しいようで」
世界的に混乱している中、唯一と言っていいほど安定している日本では、その手の申請が多くなっているらしい。そんな中、特別待遇で許可を出すのは目立つし、やはり厳しいか。せいぜい黙認か、特別な役職を付与して誤魔化す方向になるんだろう。
「直接的な危険は本人のほうが大きいと思いますけど」
「アレで結構な武闘派らしいですし、危険に対する鼻も効くらしいですから」
長谷川さんに会う以前はなりふり構わず危険な場所に行く事も多く、かなりの修羅場を潜っていたらしい。誘拐事件から顕著になったが、それ以前でも結構なものだ。
現在休業中らしい本業のハッカーは裏方だが、記者の仕事はフィールドワークも多く体力勝負なところも関係しているだろう。というか、アルゼンチンって元々そんなに治安良くないし、危険に対する嗅覚は必要なんじゃなかろうか。
「とりあえず、彼の家族に関してはアルゼンチンから避難させたいところです。今、ちょっとどころじゃなく治安が悪いので」
「現在、中南米で氾濫してる麻薬問題は怪人が助長した結果らしいです」
「……ああ、やっぱりそういう話なんですか」
元々、怪人のテコ入れが入るまでもなく麻薬が蔓延り、カルテルが警察よりも巨大な力を持っていると言われた中南米だが、バージョン2以降は怪人が裏で手を引いて更に深刻化している。
ブラジル、メキシコ、コロンビアなどではエリア支配率の多くをそういった組織が確保してしまっているほどだ。ある程度想像可能な話とはいえ、八月の集計で実態が公表されたら大騒ぎになる事だろう。場合によっては麻薬カルテル主導の国家が誕生する可能性まで有り得る。ヒーローと協力できなければ体制を維持する事は困難だろうが、それはそれで怪人の手に渡る危険もあるから困ったものだ。
そこまで顕著ではないが、大小問わずエリアの代表と支配者が一致していない例は多い。そしてキャップマンの懸念と合わせて推測すると、民主主義などクソくらえとばかりに支配権持ちこそが代表であると宣言する者も出てきそうだ。
自分の身が危うくなるという問題もあるので一長一短ではあるが、エリアカタログを保有しているような者はどの道狙われるだろう。ここら辺の動向はさすがに混沌とし過ぎていて予想ができない。
「今のところは麻薬カルテルを隠れ蓑にして表に出てきませんが、このまま規模が大きくなれば……担当ヒーローの手に余るようなら、能動的に介入する必要があるかもしれません」
「……今の時点で介入するというのは?」
「国内なら問答無用なんですが、担当が違うとどうも」
縄張り意識も問題だが、最大の問題は下手に手を出して前例を作ってしまう事だ。介入した結果、半ば俺の担当のように認識されるのは困るし、現地のヒーローが健在な内は対処方法の策定を含めて任せたいところである。この際面倒くさいのは仕方ないにしても、俺が動くのはデメリットが大き過ぎる。それに問題となっている地の一部……メキシコは一応、東海岸同盟の活動範囲だ。キャップならなんとかするだろうし、駄目なら泣きついてくるタイミングを誤ったりはしないだろう。
「怪人も問題ですが、犯罪組織が力を持つというのも危険ですね。性質上表に出たがりはしないでしょうが、カタログやポイントのメリットを考えると支配権は保持し続けるでしょうし」
「実は俺もエリアカタログを持っているんですが、今のところ支配権の移譲を行うためのシステムはありません。あくまで個人に紐付いたシステムだからって事だと思いますが、どうしてもある程度は表に出る必要がある」
「例のサイトでも支配権持ちは表示されると?」
「それは分かりませんが、少なくとも我々なら調べられますし、カタログの中には他の支配者やエリアに干渉する商品もあるので完全隠蔽は不可能です」
そうやって狙われる立場を演出する事も折り込み済のシステムなんだろう。ヒーロー側もそうだし、確認はできていないが怪人側も同じようなシステムって可能性は高い。
「……ちなみに、マスカレイドさんは一体どこの支配権を?」
「南スーダンの一部で10%ほど。怪人を引き廻ししたら支配者って認識になったらしいです」
「あー」
なんだ、そのマスカレイドさんならありそう的な反応は。長谷川さんもそろそろ慣れてきた頃だから、普通に考えてそう。
「そこら辺の世界情勢は今後も高頻度で共有していきますので、適宜確認をお願いします。……あとはこれを。必要に応じて近藤さんにも渡して下さい」
「ベルトと……電池ですか?」
長谷川さんに渡したのは、高級な革ベルトの改造品とボタン式電池……のようなものを一箱だ。バックル部分が開くようになっていて、この電池モドキを装着できる。ちょっと変身ヒーローっぽい機構だ。
「今二人に使ってもらってる汎用ヒーロースーツですが、ヒーローパワーがないのでただの頑丈なスーツでしかありません」
「これがないと怪我をしている場面は多少なりともありましたから、ただのというには過剰な気もしますが、確かにそうですね」
どうしても初戦すら勝てないヒーローや何かしらの理由で専用スーツが破損した場合など、基本使う事はないレベルで最低限の装備とはいえ、ヒーロースーツはその名の通りヒーローが使う事を前提に設計されている。
本来であれば頑丈なだけでなく装着した者の身体能力を補助する機能もあるのだが、ヒーローパワーを持たない者が着るとこれらの機能は有効化されない。顔などの露出部分さえ防御するのだってオマケにしか過ぎないのだ。
この電池はその制限を限定的とはいえ強引に取り払うものになる。
「このベルトに電池を装着する事で、一定時間ヒーロースーツ本来の性能を引き出せます。動作によって消費量は差がありますし、ボタン式電池なので容量の限界はありますが、一分程度は持つかと」
「それは……ヒーローと同等の能力が?」
「いや、傍から見れば超人的な能力ではありますが、ヒーローほどじゃないです。ですが、いざという時の切り札には使えるかと」
「確かに、それが可能ならヒーローに頼らない軍事組織も構築可能になってしまいますからね」
性能的には大体、一級のアスリートを上回れる程度の能力を引き出せるはずだが、その程度の能力では怪人を相手にできるはずもなく、対人向けの護身用として使うのが主になるだろう。ひょっとしたら戦闘員イーくらいならと思わなくもないが、アレと一対一で戦闘になるケースはちょっと考え難い。穴熊英雄モードの戦闘訓練はあくまでシミュレーションだから成立するものなのだ。
「性能もそうですが、無理やり体を動かす関係から反動も大きいので、鍛えている人でも常用できるものではないはずです。事前に試してみるのは必要ですが、それ以外は土壇場でもない限りは使用を避けるべきですね」
「は、はあ……一応鍛えてはいるんですが、それで耐えられるレベルじゃなさそうですね」
試してはいないが、絶対に無理だと断言できる。下手をすれば、PTSDになって土壇場でも使用できない可能性すらあるほどだ。簡単に言ってしまえば反動は強烈な筋肉痛と神経痛なのだが、その度合いは筋トレの比ではない。どれくらい活用するかにもよるが、全力で使えば、しばらく立ち上がる事さえ難しくなるくらいには反動があるだろう。
このボタン式電池は、キャップマンにも説明した俺のヒーローパワーを充鎮したものだ。もっと大容量のモノもあるが、成人男性がギリギリ活用できそうで取り回しし易いだろうとこの形にした。
「支給してもらっている他のヒーロー用装備には使えないんでしょうか?」
「他の支給品は基本的に使い捨てが多いのと、装着できるように改造する必要があるので、とりあえずはそれで様子見をお願いします」
長谷川さんには汎用ヒーロースーツの他にもアイテムを支給している。狙撃や車両事故などの致命的な衝撃から身を護るバリア発生装置や、緊急時の連絡用ツールなどいざという時のためのものが多いが、それらは基本的に使い捨ての消耗品だ。これは元々ヒーローパワーが不要なものという事で厳選した結果だから電池があれば解決できる問題のようにも見えるが、緊急用のために繰り返し使う必要のあるものはそう多くない。それなら数を多くしたほうが安上がりというのもある。というか、はっきり言ってコストパフォーマンスは最悪の部類だろう。
「言ってみれば電池自体が消耗品ですしね。それも使ったらガワごと消滅します」
「ああ、だからこんなに数があるんですね」
「いや、それは単に一箱でワンセットなだけなんで、追加が必要なら箱単位で支給します。本来はもっと巨大な容量で運用する事を目的にしてるので、それでもコスパは悪いくらいで」
一応説明しておいたほうがいいだろうと、テーブルの上に本来の形のものを置いた。ペットボトルサイズの金属っぽい容器だ。中身は満タンだが、重さは容器分しかないのでかなり軽い。
「< エネルギーボトル >といいます。この中にヒーローパワーが入っていて、装着用コネクタさえあれば代用として使用できます。そのボタン式電池のように他の規格もありますが、一番取り回しし易いのがコレですね。大体一人分のヒーローパワーに合わせた容量になってます」
容量的には大体一〇万ヒーローパワーとの事だが、コレはただの目安で、実際どの程度活用できるかは使用方法による。ペットボトルに似ているが飲料ではないので飲んで回復というわけにもいかず、専用のコネクタが必要になるのだ。その際に減衰もする。
サポートメカに専用のタンクを増設してこれを装着できるようにしてもいいし、ベッドに装着して睡眠時の回復効果を増加させてもいい。ただ、ヒーローが直接使用する場合は即完全回復して必殺技連発というわけにはいかず、徐々に回復する仕様だ。どうもヒーローパワーはヒーローそれぞれに細かい特色があるらしく、本人の性質に合わせたものに変換する必要があるためらしい。その辺は輸血の際に一気に注入できないのに似ている。
「この電池も取り扱いには注意して下さい。使いようによってはヒーローですら欲しくなるほどに汎用性が高いので」
「……と、言いますと?」
「長谷川さんに分かり易い例を上げると……件の癌治療薬をカタログで購入する場合、都度ポイントがかかりますが、多少高額な精製マシンを購入した場合、このボトル一つで延々と薬を精製する事ができます」
「つまり、大量に必要な場合は精製マシンとボトルを購入したほうが得という事でしょうか?」
ああ、説明不足だったか。
「いえ、このボトル自体はカタログで購入できますが、ヒーローパワーは売ってません。これは自前です」
「……自前?」
「専用の機器を使って、俺のヒーローパワーを封入したものになります」
「えーと、それでマスカレイドさんがパワー不足になるとかそういう事は……」
「余剰分だけで作ってるので問題ありません」
「は、はあ……」
まあ、ここら辺のさじ加減はヒーローにしか分からないだろう。割ととんでもない事をやっている自覚はある。
多分だが、他のヒーローなら同じ機器を使ってもこのボトル一本を作るだけで結構な負担がかかるはずだ。
たとえて言うなら、ヒーローはポーションも回復魔法も宿屋もないRPGを強いられているわけだ。傷は治療できるとはいえ、それにだってヒーローパワーを消費するのだから、これが如何に重要なアイテムか分かるというものだろう。
さすがに慢性的なパワー不足があそこまでとは思わなかったが、そりゃキャップだって飛びつくさ。
-4-
8月末日となる31日。おおよその想定通り、アトランティスネットワークにて世界全土のエリア支配率について情報が公開された。それは、これまでの体制構造……特に民主主義の名において選挙で選出された基盤が如何に脆弱であるかを浮き彫りにした。
村長レベルの極小エリアならばともかく、市長、知事、国家元首といった者が基盤となるエリアに支配権を持たない事も多く、形だけの代表である事を明確に突き付けたからだ。
もちろんすべてではないが、間違っても稀有な例とは言い難く、特に途上国と呼ばれる国ではエリア支配者が外国にいる例さえ数多く存在した。
実権を持たない代表は元々少ない求心力と権力を更に失う事となり、体制の崩壊が加速する。国家の代表面して踏ん反り返っていた者が、その実外国の傀儡でしかないとシステム的に暴露されてしまえば、求心力など維持できるはずもない。
世界各地で発生していたデモや暴動、クーデター、内戦といった活動は更に活発化し、旧体制の打倒を掲げる組織が多く発足した。
また、エリア支配権を持つ者の中にも早々に失脚した者は多い。既存の基盤を強化できた者はまだ良かったが、単に権利だけ付与された者の中にはそういった政治的な活動の知見を持たない者も多いのだ。アトランティス・ネットワーク上では、誰がエリア支配者かまでは分からないが、カタログを使えばどうしても目立ってしまうため、見せしめのように引きずり降ろされた者も少なからず存在する。
それに加えて怪人の被害は以前よりも拡大している。怪人が多数の戦闘員を引き連れて現れる事が多くなったため、単純な一対一の対決構造でなくなり、ヒーローに要求される対処方法が大きく変化したためだ。
具体的にいえば軽微な被害が激増した。怪人を倒すのに時間をかけていれば、その間に戦闘員が出す被害を止められなくなる。複数人で対処すれば問題ないが、そのノウハウを持ったヒーローは少なかった。怪人を瞬殺できるどこかの引き籠もりヒーローはそんなノウハウなど必要としないが、それはただの例外である。
――《 マスカレイド・インプロージョン 》――
「ほわたぁっ!!」
「ぐぁっ!! い、痛くないっ? ……な、なんだ、一体何をしたっっ!?」
「くくくっ! 今の技はマスカレイド・オーガンバースト。極限の破壊力を貴様の内臓のみを対象として炸裂させるちょっとエゲツない必殺技だっ!」
「えっ……それってただの……ギョエエエエェッッッ!」
そんな中で日本が安定しているのはいくつか理由がある。
打ち合わせした通り……いや、こちらの想定以上に近藤さんが敏速に動いてくれたのか、スムーズにバージョン2についての情報公開に踏み切れた事。
日本の担当が例の最強銀タイツ一人である事が明白になり、対怪人に関しては戦力的な不足がないというイメージが拡散した事。
そのマスカレイドが、全面的ではなくとも現政権と協調するという宣言がされた事。
そのバックボーンを材料に、エリア支配に関するマニュアル構築も早期に統制を始められそうな事。
これまでのように重箱の隅を突くような材料で政府の対応に否を唱える者は野党やマスコミに多く存在したが、現在は非常事態であり、ムダな理由で国家を混乱させる者に遺憾を感じるというマスカレイドの言葉が表明されてしまった事で大々的に動けなくなった。
現在の国防……怪人被害への最大戦力は間違いなくあの銀タイツなのだ。直接的に攻撃を加える事はないとしても、出現した怪人に対してサボタージュされる……いや、わずかに出撃が遅れるだけでも甚大な被害が発生しかねない事を考慮すれば、余計な……ただ不備を追求するだけの声は上げ難い。
加えて、与党内で大々的な粛清ともとれる告発が多数発生したのも大きい。大派閥の幹部にまで手が及ぶそれは与党への溜飲を下げると共に、政権の正常化に向けて動き出したように見えたからだ。実際はマスカレイドが動き易いように反対勢力を粛清しただけなのだが、勘違いとまでは言えないだろう。
――《 マスカレイド・インプロージョン 》――
「ちょえぁっ!!」
「ぐぁっ!! い、痛くないっ? ……な、なんだ、一体何をしたっっ!?」
「くくくっ! 今の技はマスカレイド・ボーンバースト。極限の破壊力を、貴様の骨や外殻のみを対象として炸裂させるちょっと見た目がエグい必殺技だっ!」
「えっ……それってただの……体がっ!? うわああああっ!」
九月一日。エリア支配率を示すマップサイトの公開の翌日、アトランティス・ネットワーク上にて一つのサービスが展開された。世界のどこからでも書き込める掲示板である。
機能としてはただの大規模掲示板で、書き込みをしたエリアや端末が表示されてしまう、一見して時代に逆行したシステムだったが、どの言語にも対応する自動翻訳機能と、国境を問わず一切規制が存在しない事で爆発的に利用者が発生した。
スラングや意訳にまで対応した謎の翻訳システムがどこにも真似ができない水準であれば無視はできない。匿名性が欲しければ既存のサービスを使えばいいのだから単に棲み分けをすればいいのだ。
言語の壁を取り払われた世界規模の情報爆発が始まる。
九月中旬。バージョン2適用後の世界において初の独立宣言を行う勢力が現れた。
支配エリアこそ保有するものの、ヒーローの協力もなかった事から国際上は認められないままあっという間に瓦解したが、それが発端になったかのように各地で独立勢力が声明を上げる事になった。やはり、たとえ失敗例でも先例を作ってしまう事は危険だと強く認識した。
更に後の事になるが、独立・内部分裂により新興国家が複数誕生。そこまでいかなくとも国境線の変動は多く見られた。
人間社会的には大事件なためすぐに気付かない者も多かったが、国境線が変動しても担当エリアはそのままなので、ヒーロー活動にもいくつかの不備を招く事になる。
九月三十一日。支配権変動によるエリアの勢力変更が多数発生する。
主だったところでは大量の怪人オブジェクトが乱立した南極エリア、大陸もないのに何故が定義されている北極エリア、過去最大サイズの怪人である岩石怪人オーガスが立つオーストラリア内陸部、スーダン共和国は怪人勢力圏である南スーダンからの侵攻を受けて陥落した。その他にも世界各地の低密度人口エリアでも多く怪人の支配エリアが誕生してしまった。
また、怪人だけではなくヒーローの支配エリアも誕生している。所属国家から許可を受けて拠点としてのヒーロー支配エリアを確立したもの、暴走か計画的行動なのかヒーロー個人で支配したものなど、誕生理由は様々だが世界中に乱立が見られた。
併せて、それまでも活発だった住人の流出・流入がエリア支配権の変動によって更に大規模化する事となった。世界中どこを見ても難民だらけである。
――《 マスカレイド・インプロージョン 》――
「くらえーーーーっ!!」
「ぐぁっ!! ば、馬鹿なっ!? 避けたはずなのにっ!」
「くくくっ! 今の技はマスカレイド・振動拳。空気を通して極限の破壊力を伝える事で、触れずとも怪人を爆砕させる必殺技だっ! キックでもできるぞっ!!」
「どんだけ反則なんだよっ! ……あぇばぅわああああっ!」
画面外で怪人が雑に散る中、世界は混迷を極めていく。バージョン2がリリースされてからの二ヶ月は、目に見える世界情勢の変化がそれまでとあきらかに違う。去年のクリスマス……アトランティスが浮上してから、まだ一年も経っていないというのに。
「やべえな……何がヤバいって、地味にアトランティス・ネットワークがやばい」
『言語の壁が取り払われた結果、世界規模の情報拡散が高速化、結果的に統制が効かなくなってますね。各国政府の対処が間に合ってません』
自画自賛のようでアレだが、日本は強引に初動でアドバンテージを稼げた分上手くいっているのだ。もちろん混乱は大きいが、それでも出来過ぎだと思うほどに。
しかし、海外が軒並み対処に失敗して失速している。アメリカも例外ではなく、むしろ大国である事が枷になりつつあるのような状況だ。はっきり言ってキャップの対処能力を超え始めているのが見ただけで分かってしまう。
自分の担当エリア以外……それも、主に政府の対処能力不足での失速だからと無視する事はできない。他国で発生した負債は巡り巡って日本の首を締め上げ始めている。
ネット上で『もう鎖国しようぜ』っていう書き込みを見る度に、『あーいーっすね、鎖国』って感じで同意しそうになるが、現実逃避でしかない。というか、色々なモノを犠牲にして無理やり鎖国してもアトランティス・ネットワークが邪魔で成立などしない。
「アレ、ミナミの力でなんとかならんか? いや、ヒーローネットと同じで、どうにもならん仕組みってのは分かっちゃいるんだが」
『どうしようもなさそうですね。少なくとも表面上は、バベルの時のように人間の手が加わった箇所も見当たりません。いや、あの時だって一応外側からは見えないようになってましたけど、今回は内部も対策とられてると考えるべきかと』
一度突かれてる穴をそのままにするはずもないか。それとも、あの時が例外だったのか?
『サーバーの位置が分からなければ、マスカレイドさんが破壊しに行くわけにもいかないですしね。そもそもサーバーの形をしているのかも分かりませんし』
名前だけを参考に考えるならアトランティスにありそうだが、当然そんな保証はない。普通に考えるなら本命は静止軌道衛星かな? 壊してなかったらバベルの塔って線も有力だったが。
今はまだ利便性と話題性が先行している感が強いものの、このまま生活に組み込まれるほどに普及したら下手に壊す事もできなくなる。でも、現状で手出しをする手段はない。
『一応、インターネット全体をダウンさせればアクセスはできなくなりますけど』
「絶対やめろよっ!? ……でも、できるのか。うーん」
『それでも100%は無理ですね。事前に仕込みをした上で、一時的に80%……いや70%の通信手段を不能にするくらいなら……』
「……いや、なしだな。駄目」
大した効果が見込めない上にデメリットが大き過ぎる。一時的にでもそれを上回るメリットがある状況が思いつかない上に、アトランティス・ネットワーク側で対策をとられる可能性も高い。なにより、ミナミにそんな仕込みをさせるのは怖い。
最悪、ゲートウェイへの通信が遮断されててもグローバルIPを持っているだけで接続できるようになる可能性すら有り得るのだ。そういう対処をとられる事を考慮するなら、無闇矢鱈な行動は悪手だ。
「常時、誰でも能動的に全世界へ情報発信ができる方法がある事を前提に動かないといけないのがな……」
『マップとBBSだけで終わるとも思えませんしね』
「それな」
技術的に他にもできる事は山ほどあるだろう。今はまだ、手探りで利用者の反応を見ているだけにしか見えない。少なくとも、インターネット上に存在する全サービスを代行するくらいなら余裕でやってのけそうだ。
『ざっと思いつく限りでも……あ……え?』
「なんだ、どうした?」
そんな事を考えていたら画面向こうのミナミの動きが固まった。
『え……と、その……出現、しました』
「なんだその、一日だけ代理でアルジェントがオペレーターやった時みたいなしどろもどろさは」
ミナミのオペレーター歴ももう二年になろうというのに。
「というか早いな、まだ上旬なんだが……あれ、でも警報鳴ってないぞ」
『いえ、怪人ではなく、大陸が……インド洋と太平洋にそれぞれ出現しました』
「…………はぁっ? なんだ、イベントか?」
前から、アトランティスが出現するならレムリアやムーが出現してもおかしくないとは予想してたが、こんな唐突にか?
『違う……なんの告知もありません。支配率のマップを見ても、単にレムリア大陸とムー大陸が追加されましたとだけ』
「冗談だろ……」
日常イベントかのように巨大な爆弾落とすんじゃねーよ。
……やばい、いくらなんでも対処能力がパンクするぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます