第一話「決闘怪人バーサス・マスカレイド」
ヒーローの強さは個人の資質に由来するところが大きい。
任命時に投入されたヒーローパワー量によって初期能力、成長速度の差が確認されているものの、それは絶対的なものではない。ヒーローが誕生して数年経つが、その適応率、成長性はやはり個人によるものが大きいと考えられているのだ。ヒーローだけでなく怪人側の組織でも、それは同様の見解である。
それにしたってという例はある。最強無敵という評価が冗談にならない日本担当ヒーローマスカレイドに限っては、そんな法則が適用されているかどうかすら怪しい。というか、同じ存在であるかすら怪しい。
A級怪人では歯が立たない。S級でも秒殺される。対ヒーローに限定され、底上げされたアンチヒーローズでも大した違いはなかった。静止軌道ステーションに向かわせないために用意された、倒される事を想定していない特殊イベント個体イカロス・ガーディアンですらまとめて薙ぎ払われる。これ以上どうやって対抗しろというのか。
怪人研究部門は大いに頭を抱えていた。もう日本ごと放置していいんじゃないかなとも思ったが、ルール上そうもいかないのが辛いところである。
怪人は情念を元に誕生する。自然的なものではあるが、それだけではなく個別に制作される事もある。イベント用として用意された爆弾怪人、アンチヒーローズ、イカロス・ガーディアンはその類だ。似たような例では工場産の戦闘員もそれに近いだろう。彼らは怪人が発生するシステムを利用し、ある程度方向性を持たせた上で調整されて誕生したのだ。
しかし、単に強いだけではマスカレイドとは勝負にならない。
制約を付けて強化しようにも、バベルでの戦いを見れば対ヒーローに絞ってもまだ足りない。それも、どれくらい足りないのかすら分からない有様である。
「なら、更に絞る……個人に限定して特化してしまおう」
対マスカレイド用怪人制作という無茶振りをされた開発者はそう考えた。安直で単純な発想だが、他にも研究すべき事はあるのだから、こんな不毛な依頼にかかり切りになるわけにはいかないのだ。
怪人の能力はある程度総合値の決まったレーダーチャートのようなものだ。どこかを強くすれば弱点を付ける必要がある。万能な存在などは作れず、凡庸になるのがオチだ。
ならば、対マスカレイドだけに絞った必殺技、能力を持たせるなら対ヒーローなどという漠然とした制限よりもよほど効果があるのではないか。代わりに特定個人以外を相手にする場合は人間よりも弱くなるかもしれないが、実験だからいいのだ。
しかし、開発は難航した。いくら制限を付けて強化しようが、あの規格外の化け物に傷を付けられる気がしなかった。テスト結果では明確に強化は見て取れるものの、この程度であんな怪物に手が届く気がしない。
端から無茶であると思ってはいるものの、何か参考になる資料はないかと過去の動画を漁るが、結果は芳しくない。
「反逆怪人の例は参考にならんな……むしろ逆にパワーダウンしているし」
戦闘員のプレテスト的な戦闘が行われた際、相手が強いほどに補正を受ける能力を持った怪人がマスカレイドと対峙した。反逆された反逆怪人ゲコKujoeである。形だけ見れば今回のケースの参考になりそうな組み合わせではあるのだが、結果的に何故か戦闘員に下剋上されてマスカレイドの手先になってしまうという悲劇が生まれてしまったのだ。意味は分からないが、マスカレイド自体が意味不明なのでそこは無視する。
たとえ想定以上に能力補正が効いたとしてもマスカレイドに勝つ事はおろか傷を与える事すら不可能だったような気がしなくもないが、それならそれでサンプルとして有用なデータになっていたはずなのだ。
まったくもって役に立たない怪人だと、死体に鞭打つ評価を受けてしまう。
『アンギャーッッ!!』
画面の向こうでは、今は亡き反逆怪人が口に出してはいけない穴から汚い噴水を上げていた。夢に見そうだったので、開発者はそっと動画を停止させた。
そうしてプロジェクトは進んだ。マスカレイド用と考えると進んだ気はしないが、プロジェクト自体は進捗が見られる。
参考にされたのは決闘怪人カルージュという名の、成績を見てもそこそこ程度でしかないA級怪人だ。特定の条件……決闘によってのみ成立する強化能力に注目された。
制限を極限まで詰め、産廃と言われるレベルまで弱点を盛りまくった結果、一対一の決闘専用という特徴は上手く型にハマった。どうせ相手が限定されるならと裏をついたのだ。
化け物に対抗する前段階として、当時怪人にとって脅威と見られていた一線級ヒーローのアンチとなる怪人たち。現実逃避気味な思惑によって製造された彼らは無事ロールアウトし、その性能に期待が寄せられた。
第一号となった、アメリカ最大派閥リーダーを狙い撃ちした決闘怪人バーサス・キャップマンは敗北こそしたものの、一定以上の成果を上げた。
しかし、続く第二号である決闘怪人バーサス・ABマン。一部の怪人からの強い嘆願で創られた彼は、そもそも決闘に応じてもらえなかった。いくら被害を出そうが無視の一手だ。
その他にも本命の前段階として何人ものヒーローに決闘を挑み続ける。一線級だけでは決闘が成立し難い事もあり、地味でいまいち活躍の場がないヒーローにも果たし状を投げつけていく。
果たし状の文面にも気を使い、ちゃんと受けてくれるように仕向ける技術が向上していく副産物もあった。途中で如何に決闘へと持っていくかの研究がメインになりかけたが、頑張って軌道修正した。そもそも特定のヒーローに決闘を受けてもらえないと産廃化する運命なので、そういう場を整える手段は重要なのだと、開発者たちは自分を誤魔化した。
興味のある研究対象が目に入っただけで脱線しがちなのは研究者によくある事なのだ。
そうして予定よりは数も少なく偏りはあったものの、ある程度の結果が得られた。対ABマンのように機能しなかったケースは多いものの、成果が皆無というわけでもない。牛歩の歩みではあるが、確実に進歩が見られていた。
とはいえ、その後も一定の成果は上げるものの、盛った弱点ほどには強化された気がしない。ヒーローの特性なのか、戦闘中に対応してしまうのだ。本命の結果如何では、なんらかのブレイクスルーが必要だろう。
そして肝心の対マスカレイド用怪人……決闘怪人バーサス・マスカレイドはというと……。
「フォルォヴァーッッ!?」
盛りに盛ったアンチ能力のすべてはまったく意味をなさず、一撃の元に葬り去られた。ダメージが計測できないので、他の怪人とまったく同じに見えてしまう。成果どころかダメージ計測すら不可能だ。
一体何を言うつもりだったのかと言わんばかりの断末魔さえ、すでに様式美だ。
「どーすんだよ、こいつ」
新コンセプト怪人開発者たちの苦難は続く。いっそ、マスカレイドの存在自体無視したいのだが、それは許されないのだ。
頑張れ! 怪人たちの心の平穏は君たちの手にかかっているっ!
-1-
『……なんだったんでしょうね、あの怪人』
「さあ?」
年度が変わってから結構日が経ち、初夏にさしかかったある日、怪人からの果たし状が届いた。
それ自体は珍しい事ではないし、むしろ良くある事だ。割とどうしようもない超戦力たるマスカレイドさん相手だと、普通に暴れるよりも決闘という形式で自分の土俵に来てもらったほうが色々と試行錯誤できるからという事なのだろう。THEマーのようにA級怪人を十人連れてくるという、相手を考えなければ反則みたいな勝負ですら成立するのが決闘というシステムなのだから。
気になったのはそれとは別の部分……怪人の名前だ。対戦相手は決闘怪人バーサス・マスカレイドなどというマスカレイド個人を名指しにした、如何にもアンチユニットですといわんばかりの存在である。
ちょっと不安に感じつつも、ここで日和ったらあとに響きそうだなと決闘を受諾し、細心の注意を払って挑んでみたところ、待っていたのは普通の怪人だった。マスカレイドの2Pカラーどころか、造形そのものに関連性がない。ただし、なんかやたらキザで自信満々だった。
困惑しつつも、様子見で攻撃を喰らってあげたのにノーダメージ。別に動きが速いとか、超長距離からの狙撃をしてくるとか、対応不可の攻撃手段を持っているとかではなく、普通に一発で死んでしまった。
怪人が爆発し、帰還転送が始まるまで警戒し続けたのが馬鹿に思えるような展開だ。
『あー、一応ちゃんとマスカレイドさん対策だったみたいですよ。ほら、追加された能力情報見てみたら、バッチリマスカレイドさんだけに特化した怪人です』
「その能力を発揮せずにやられてしまったのか」
様子見で死んでしまったが、今後の事を考えれば、もう少し手加減して実力発揮させてやったほうが良かったのかな。
『いえ、発揮してアレみたいです』
「駄目じゃねーか」
コンセプトが息をしていない。
戦った本人が一切特化された能力に気付けないとか出オチにすらなっていない。マスカレイドって名前が付いてたからちょっと不安だったのにこのザマだよ!
『他の決闘怪人シリーズはそれなりに機能してたみたいなんですけどね』
「やっぱり同じような奴らがいたのか」
似たような名前だったり、そもそも~~怪人の部分がまったく同じだったりと、シリーズモノ的な扱いの奴らはいるが、それと同じパターンって事だ。俺が対戦した相手だと、王墓怪人とか。
コンセプトを考えるなら、決闘怪人なんて別個体がいないほうが不自然だろう。
『ラインナップ的に一線級のヒーローに合わせて作ったみたいですね。ウチのテストケースなのか、苦戦したヒーローもチラホラと。全体的に微妙ですが、まったく効果がないわけでもなさそうです』
そりゃ普通なら完全にメタ張ってくるなら苦戦は免れないよな。
一線級っていうと、東海岸同盟のリーダーとかだろうか。……あの人、弱点とかあるのか? 見た目以外、穴がない汎用的な感じの性能だった気が。
「決闘専用かつ特定のヒーロー専用って制限付きじゃ、受付けないだけで終了な気もするんだが」
『実際決闘を受領しないヒーローも結構な数が。中には決闘場に外から仲間に乱入してもらう作戦を採用したヒーローも』
「あきらかに実験ですって奴に付き合う義務はないよな」
どう見てもまともな怪人じゃない。決闘を受諾しなければそれまでだし、いくらでも対策は思いつきそうだ。
「弱点や制限を付ければその分他が強化できる。前から分かっていた事ではあるが、意識的にそういう事をやってくるって認識はしたほうがいいな。どう考えても自然発生した存在じゃないだろう」
『とはいえ、今回のは調整失敗してる感は否めませんね。決闘以外だとシャレにならないレベルで弱体化するみたいですし。私の作った怪人シリーズみたいな感じって事なんでしょう』
「あの産廃どもか」
『やっぱり、参考にされてしまったんでしょうか』
生みの親であるミナミですら産廃という言葉を否定しようとしない。なんて哀れな連中なんだ。
「どうだろうな。バベル(笑)の時点でアンチヒーローズなんて連中も出てきたわけだし、アンチユニット自体は既定路線な気がしなくもないが」
ミナミ製産業廃棄物でも、一応狙った能力だけ高かったのは確かだからな。それでも拳圧だけでバラバラになってしまったわけだが。
産廃化まで参考にされたのならむしろファインプレーなのかもしれない。今後、ツルペタ・ボディが出てくるかもしれないのはちょっと困るけど。
「ヒーローのライバルキャラとしてアンチユニットを出してくるのは割とポピュラーだから、放っておいても出てきたような気はするな」
『特撮のお約束的な感じですかね。アメコミだとクローンとか』
一発屋的に出すならともかく、継続してキャラが確立されると色々とこんがらがってしまうやつだな。便利だからと乱用すると余計に。
「この分だと合体怪人とか再生怪人的なお約束も踏襲してきそうだ」
『伐採怪人キキール・リバースとか、そんな感じの再生怪人が……』
「運営がネタに困ったらやってくるかもな」
まったく苦戦する気がしない。むしろ、背負った汚名で発狂しそうだ。
再生されたら厄介そうなのもいるにはいるんだよな。ド・エームとかワキノス・メルとか勝敗以前に会いたくないし、Bリンクスが再生されて地下に潜られたら俺のイメージが大打撃を喰らう。
『しかし、今回のケースを見てると、マスカレイドさんのライバルキャラとか出てくる気がしませんね。ヒーロー内でも怪人側でも』
「俺的にはまったく問題ないな」
俺自身良く分かってないのがマスカレイドという存在だ。謎ばかりで解明・解析しようもない奴に対抗できる存在を創り上げるのは、労力の無駄だろう。
むしろ、そんな奴が出てきたら危険信号だ。単純に戦力的な意味でも危機に陥るだろうが、一朝一夕で片付けられない奴を相手にするのは面倒臭い。面倒臭くて放り出したくなってしまう。いつかは解析されて、そんなのが出てくるかもしれないが、それが俺のリミットだろう。
……時間稼ぎが必要だな。ノーブックを通してマスカレイドの成長速度に関する情報をバラ撒いたが、それ以外にも迷彩としてブラフを仕掛けておきたい。ただでさえ謎なところに情報を氾濫させれば、多少は誤魔化せるだろう。
情報迷彩のためには情報の発信が必要。しかし、相手の混乱を目的とするなら、単に情報を流すのは悪手だ。こういったものは、自分で分析したという前提があって成り立つ。自分で出した回答は、あきらかな間違いでもなかなか捨て去る事ができない。間接的に情報を渡せればそれでもいいが、明確にそれができるのはノーブックかカメラマンくらいしかいないし、いざという時のために乱用は避けたいところだ。
そういった手を使わずに極自然に情報だけ増やすとなると、やはり出撃機会を増やすのがベターかな。
「……無作為に海外へ出撃してみるか」
『一体どういう風の吹き回しですか?』
「行動パターンの迷彩だ。ちょっと怪人側を混乱させたい。日本に行かなければ安全って風潮も気に入らないし」
『わー、怪人の悲鳴が聞こえてきそう』
多分、今の状態でも混乱してるんだろうが、収拾つかないくらいにするのが目標だ。海外に出撃する理由とか条件を考え始めてくれたら最高である。
「とはいえ現場を荒らす気はないから、支援要請が出たらって感じで。その内の何件かを無作為に」
『予め担当ヒーローに話を通しておけば、どうとでもなるような気はしますが』
「それは避けたい。ヒーロー間の調整はなしで」
俺はヒーローもあんまり信用していない。そこから怪人に情報が漏れるとは思えないが、人間社会に漏れる可能性は否定できないからだ。
あくまで偶発的な出撃を狙う。それと、できれば遠い国のほうが望ましい。
『となると多少気長に待つ必要がありますが……そういう目的なら、南スーダンとかどうでしょうか。いつでも怪人がいますし、担当ヒーローもすでにいません』
支援要請を待つ事になる関係から、基本的に待ちの体勢になるなと思っていたら、ミナミから意外な提案があった。ヒーローが死んで無政府状態になってる場所なら文句を言う奴はいない……のか?
「暗黙の了解程度ではあっても、手を出さない風潮になってるんだが。どこからか文句来たりしないかな」
『そこはムシャムシャしてやった。今は反省してるって感じで』
「すごい雑」
マスカレイドに正面から文句言えるやつはヒーロー内でもなかなかいないだろうが、ちょっと印象悪くないだろうか。協調性皆無な引き籠もりだからイメージダウンは許容できるものの、自らイメージをダウンさせる気もないぞ。
しかし、南スーダンか……どうだろうか。確かに盲点ではあったが……。
『どうですかね?』
「……アリだな。適当なところで南スーダンを爆走してみよう。一回なら問題ないだろ」
『わーい! 怪人轢殺祭りだぞー』
「轢殺するとは言ってないんだが……まあ、するんだろうな」
『ミラージュの馬力テストって事で、ロープに括り付けた怪人何体引き摺り回せるかとか試してみます?』
「ミナミさんは、一体どこからそんな発想が出てくるのか」
まさか、その乳が発想の根源なのか。確かにそれは俺にはないものだ。
戦略上……なんの戦略だか分からんが、とにかく特に意味のない強襲を敢行する。
大体、ヒーローが死んだからといって怪人がのうのうと闊歩しているというのもムカつくのだ。南スーダンの平和とか知った事ではないが、突発的にマスカレイドが現れるかもしれないという恐怖を刻みつけるのは悪くない手だ。行動パターンの迷彩にもなってお得である。ついでに、ポイントも稼げそうだ。
「というか、現地の扱いってどういう事になってるんだ? 物理的に入れるとしても、勝手に侵入して怒られたりしないかな。中で怪人倒してポイントもらえるかとか」
『あー、それもそうですね。国境付近で怪人を倒した前例はあるのでポイントはもらえると思いますけど……念のため、詳細確認してみましょうか』
そんな感じの問い合わせをミナミから投げてもらった。どこに投げているのかは知らない。
「時期は検討するとして、南スーダンの地形データと突入ポイントの選定も頼む。現状で意味があるかは分からんが」
『了解でっす!』
ミナミさんが超楽しそう。
実を言えば、現在南スーダンがどうなっているのかの情報がない。アトランティス大陸同様、該当の地域全域が衛星から確認できないようになっているのだ。
担当ヒーローが死んだり、事実上の無政府状態になった頃は問題なかったのだが、アトランティスのイベント終了後あたりにはそうなっていたらしい。
別にバリアが張られているわけでもなく、国境から中を見る事はできるが、それが見えているそのままとは限らない。実際足を踏み入れる事もできるが、それをした者の絶対数が少な過ぎて情報がない状況だ。カルロス氏が近寄ったのも国境近くまでである。
とはいえ、国土全体の地形が激変しているというのはちょっと考え難いので、過去のデータを参照するのはアリだろう。必要かは分からないが、頭に叩き込んでいきたいと思う。
-2-
というわけで、時期調整するにも問い合わせの回答待ちだなと考えていたら、数十分程度で回答が返ってきた。予め想定されていた内容なのか、内容も事務的で簡素なものだった。
『ようはアトランティスの未開放エリアと同じって事ですね』
回答としては、ミナミの言うようにアトランティスと同じ扱いになるらしい。中央のバベル跡地や、イタリアやキューバのヒーローがはっちゃけて開放した地域以外の事だ。
怪人の占拠エリア扱い。怪人が自由に出現可能で、ヒーローが直接転送する事はできない敵性エリアというわけだ。
といっても、これは担当ヒーローが不在になったからというわけではなく、バージョン2開始前に限る特例という扱いらしい。本来であれば、占拠率は段階を経て増減し、完全に占拠された時点で切り変わるそうだ。元々存在していた地域にそういう例があったほうがサンプルとして分かり易いとか、そういう事なんだろう。
そういった転送制限はかかるものの、出入りに制限はないし中で怪人を倒せばポイントも入る。支援出撃の時に発生するようなポイントの減算もない。バージョン2のルール上は占拠率に合わせて元の担当ヒーローにもポイントが入る仕組みらしいが、今回の例でいえば丸々獲得できるというわけだ。
とはいえ、怪人側に何も制限のないエリアだ。通常の出現とは違い、怪人がそこら辺にいるとなれば、普通のヒーローは踏み込み辛い。いくらヒーローのほうが強いといっても、袋叩きにされるのが目に見えている。……まあ、俺にはあまり関係ないんだが。むしろ数が多いほうが助かる。
「やべえ、ボーナスステージじゃねえか」
『マスカレイドさん以外にとっては死地だと思いますけど』
だからこそ、気が緩んでいるのである。緩み過ぎて、中でバカンス気分な怪人がいたら爆笑する自信がある。
日光浴してるところに、なんの脈絡もなく爆走するマスカレイドが、なんてコメディである。
「やっぱり一回だけだな。二回目以降は警戒される」
『さっきの問い合わせメールとかで、情報伝わったり……しなそうですね』
「だな」
賭けてもいいが、俺が強襲をかけるつもりな事は相手側には伝わらない。何故ならば、そのほうが面白いだろうからだ。となれば、ほとんど無警戒なところに踏み入って無茶苦茶できるというわけである。
怪人側が自由に転送できるという事は逃げ出すのも可能という事になるが、そんな判断すらさせないまま轢殺するのが理想だろう。
二回目は警戒される。そういう強襲があるかもしれないと思わせる目的もあるが、そんな前例があれば避難マニュアルが徹底されてしまうかもしれない。無制限なボーナスチャンスは一回だけだ。
「これは入念な準備が必要だな。ビーム砲とか使っちゃう? ブースターは多分必要ないし」
『いいんじゃないですかね。タイヤにスパイクとかつけちゃいましょうか』
「普段使わないオプションを試したいな。ポイント収支がプラスになるなら新しく買ってもいい」
バベルでの戦いの時に考えた、威圧重視のオプションが大活躍の予感。
平和な怪人の楽園を突如襲撃するヒーローと聞けば外聞が悪いにもほどがあるが、実際は人類の生存圏を乗っ取った侵略者どもの巣窟だ。やり過ぎという事はないのである。
「バイオロイドたちと拠点改装でポイントに不安が出てきたところだからな、実に美味しいミッションになりそうだ」
『一気に使い過ぎなだけだと思いますけどね。マスカレイドさん、お得なセット販売とか限定品とか、そういう文言に弱過ぎです。私も分からないって事はありませんが、それにしたってという話なので』
「今なら二体購入で三体目が追加とか言われたら、心揺れるだろ」
おかげで、マスカレイドチームが二人体制から一気に五人に増加したのだ。かみさまや長谷川さん、あとはカルロスを含めるなら八人体制だが、彼らを枠内に入れていいか怪しいので除外している。
『まーメイドさんなら分からなくもないですが。ロマンですし』
「それはお前の趣味じゃねーか」
期待の新メンバー三人がすべてバイオロイドのメイドになってしまったのはミナミの趣味だ。
なんの捻りもなく普通の女の子のメイド三人。老女も、幼女も、ショタも、オカマも、性別不詳も、ガイもいない。ついでにウチの母ちゃんが混ざってるというオチもない。メイドという事が特徴と言わんばかりにメイドである。
購入したはいいものの、ミナミの要望であるキャラ付けを三人分考えるのが面倒くさくなって、メイドさんなら別に何人いても不自然じゃないなというイメージに引っ張られたというのはある。
俺個人としては別にメイドさんに特別思い入れはない。嫌いではないが、別段好きでもないというジャンルだ。ギャルゲーなら、攻略キャラの中に一人くらいいてもいいかなという程度である。扱いとしてはメガネやボーイッシュ系、ツンデレなどと同じ扱い。
ちなみに俺の趣味は現実ではまずあり得ない露出度過多なファンタジック衣装である。特に痴女ってわけでもないのに、外を闊歩してたら間違いなく痴女扱いされるくらいがいい。最初から隠す気のないモノや、歩くだけで見えてしまうものはアウト。単に露出度が高いだけではいけないのだ。俺が触手ジャンルを好むのは、そういう非現実的なシチュを好むのに繋がっている可能性もあるな。
その点、メイドは普通。巫女さんでも、シスターでも微妙に掠らない。ならばロングでもミニでもいいやって話にもなろう。
『趣味というか、私とのキャラ被りさえ避ければなーと。いや、メイド服は可愛いと思いますよ。ちょっと着てみたいなーと思わなくもないので、実際着てみましたが』
「着たんかい」
『そりゃ機会があるなら着ますよ。私用じゃないのでサイズ的な問題はありましたが、平均的なサイズなら着れない事もないですし』
その分、胸部以外の布が余るのである。メイドさんたちは大体一六〇センチなので十センチ近く差があるからな。
『でも、なんでバイオロイドにしたんですか? 最初はアンドロイドの予定でしたよね? 今だけ三体セットキャンペーンはアンドロイドのほうもやってましたし』
「……唐突に気が変わったんだ」
非人間型サポート要員として購入可能なのは主にABCの三種類。機械製のパーツで構成されたA……アンドロイド、逆に生身で構成されたB……バイオロイド、その間の子で比率変更が可能なC……カスタムロイドだ。それ以外もあるが、今のところ無難そうなのはその三つである。
この内、俺が購入を予定していたのはアンドロイドだった。ヒーローになった直後、カタログで最初に目に入ったからというのが大きい。
しかし、いざ購入する段になってプロモーション動画を閲覧してみたら、メタリックなボディでポーズを取るアンドロイドがやけに格好いいのだ。デフォルトだから同じ銀色なのに、どうしてこうも違うのかと目を逸らした結果、バイオロイドを購入する事になった。
得手不得手はあるものの、AもBも総合的な面で大差はないし、Cは微妙に高い上にセット販売がなかったので除外。ミナミはメイドロボがーとか言っていたが、すぐに割り切った。
「結果論ではあるが、長谷川さんのサポートなんかを考慮するなら、バイオロイドで良かったんじゃないか?」
出向してきた唐突なメイドに長谷川さんもびっくりだろうが、メイドロボよりはマシだろう。
『私のほうのサポートを考えるなら、直接通信可能なアンドロイドのほうが良かった気はしますけど』
「ちなみに、現時点で不都合は?」
『実は特に問題はなさそうです。研修中なので、私の代わりができるかって言われるとそりゃ無理ですが、無駄に膨張したデータ整理にはうってつけ。私の作業も一割増しくらい早くなりそうです』
そりゃミナミの代わりはできねえだろと思いつつ、一割もアップしたらえらい事になってしまいそうだなとも思った。ようは雑用を任せて本体がフルで稼働可能という事なのだ。
バイオロイドはプラグを繋いで直接情報をインプットしたり、逆にコンピューターに繋いだりはできないものの、通常のインプットデバイスを用いてPCを操る分には問題ないし、俺が当初オペレーターに求めていたくらいの能力はすでにあるのだ。
あと、バイオロイド同士で簡単な無線通信くらいはできるらしい。
「でも、自分の部屋とかPCの中身弄られるのって気持ち悪くない?」
『そういった面はマニュアル作成をしつつ都度最適化ですね。幸いノウハウは世界中に転がってるので』
暗にミナミにPCの中身が見られる事が嫌だというアピールだったのだが、完全にスルーされた。自分がやってる事だからそもそも認識していないという可能性すらあるのが恐ろしいところだ。
デスクトップ上に謎のファイルが置かれたりするのは、親に部屋を掃除されてエロ本を机の上にまとめられているような感覚さえ覚える。
「本来の用途としては? 掃除とか料理とか洗濯とか」
『家事ですか? といっても、そんなに散らかすタイプじゃないし、ここってそもそもサポートは行き届いてますからね。一応、研修プログラムには組み込んでますけど』
「俺の部屋も別に汚くはないしな」
メイドなのに家事をする機会がない。俺の部屋はモノが多いものの、整理はちゃんとされている。ボトラー時代のゴミは大体捨ててしまったし、あえて掃除をしてもらう必要はないのだ。
寝る時間も不規則極まる上に、起こされる時は出撃要請のアラームかミナミの報告なので、朝に優しく起こしてもらうという事もできない。
料理などはまだ一般人の域だから、美味いものを食いたいとなった時はそのままカタログで買うか俺が作ったほうが早いのである。……ああいや、洗濯はしてもらってるな。
-3-
「まあ、とりあえずはお前のほうで色々仕込んでおいてくれ。多分バージョン2になれば手は必要になるだろうが、まだ詳細が決まったわけでもないし……」
「馬鹿兄貴ー、なんか飲み物ちょーだい」
そんな話をしてたら、唐突にクローゼットからウチの妹が入ってきた。文章としておかしい気もするが別に間違ってはいない。
「ノックくらいしろと言いたいが、ちょうどいいといえばちょうどいいな」
「あ、ひょっとして、お仕事モードとか……あれ? 自販機がない。捨てちゃった? やっぱり邪魔だったとか」
「はっはっは……捨ててねーよ!」
自販機を購入した事は、後悔しても反省はしない。捨てたらなんか負けた気になるから、意地でも使い続けるのが俺のポリシーだ。
『まー、自販機とか、私室に設置するようなもんじゃないですしね』
「あ、姉ミナミさんどうも。……お邪魔みたいだし、自販機ないならコンビニに……」
「いや待て。ちょっとお前にも用があった。あと、ヒーロー自販機はまだあるから」
あくまで設置場所を変えただけだから、彼はまだ現役なのだ。
「でも、あの巨体はどこにも……設置してあった場所も広々と……あれ、なんか広過ぎない?」
部屋に入った瞬間は自販機の巨体がない事で錯覚していたようだが、ようやく違和感に気付いたらしい。そう、自販機が撤去された以上に空きスペースがあるのだ。
「拡張したからな。今ではこの部屋は大体十畳くらいある」
「え、ズルい! 私の部屋も広くしたい!」
「いや、拠点オンリーの機能だから、お前の部屋は対象外だ」
俺のポイントで拡張したのだからズルいも何もないのだが、同じく実家の部屋を与えられている身としてはそう感じるのだろう。部屋の名義自体はウチの親だし。
「これ、どーなってんの? 外から見たら飛び出してるとか?」
「いや、空間を歪曲させてるだけらしいから、外から見ても何も変わってないはずだ」
「はー」
窓が覗ければ不自然に見えなくもないだろうが、元々板張りしてるし。最近DIYでカスタムしたが、それは変わらない。
「それで用事って? あと、自販機」
「部屋拡張したみたいに色々変えたから、その説明だな」
最近、ポイントが貯まってきたので、バイオロイド連中の追加に合わせて拠点の拡張と整理を行ったのだ。自販機の移動もその一環だ。その他、妹に説明が必要な分だけでも連絡事項が結構ある。
「まず、お前が入ってきたクローゼットだが」
「あ、良く見たらなんか付いてる」
「入室センサー付きのロックシステムだ。お前の部屋にお前以外が入ってきた場合、自動でロックされてここは通れなくなる。解錠は手動だが、ナンバーは俺の誕生日四桁だ」
主に母ちゃん対策だ。ちゃんと掃除さえしてれば勝手に入ってきたりしないようだが、偶然この通路を発見してしまう可能性は結構高いと踏んでいる。
謎の通路がある事は誤魔化せないが、少なくともこの部屋に入る事はできない。隙間も埋めたので覗けもしないだろう。
解錠の手順は若干面倒だが、誰も部屋に入れないなら鍵もかからないのだから、大した労力にもならんだろう。実際、今はかかってなかったわけだし。
「馬鹿兄貴の誕生日っていつだっけ?」
「……やっぱ、お前出入り禁止な」
「わーわー! ちゃんと覚えてるから! 一月十六日でしょ! こんな語呂合わせ忘れっこないって」
『ヒーローですしね』
116でヒーローだから英雄と、かなり安直な命名なのだ。母ちゃんが読んだ漫画のキャラの由来に基づいているので、実を言えばもっと適当ともいえる。
下手にキラキラネーム付けられるよりはよっほどマシだから、別に問題はないが。
「まーロック時に自動でシャッフルされるが、番号合わせれば開く単純な錠だ。変な仕掛けもない。どうしても外部の人間を招く時はお前が開ければいい」
「予定はないけど、クリスとか妹のほうのミナミさんとか、ないとは言えないしね」
「極力避けては欲しいが、あり得ないとまでは言えないからな。匿ってる時とか、実は内心ビクビクしてたし」
「普通妹が兄貴の部屋に友達連れて行ったりしないだろうけど、普通じゃないからな……」
ガキの頃、この部屋に侵入してきた時も単独行動だったし、バベルで見せた謎の行動力でここが見つかる可能性もある。だからこその処置だ。ミナミ妹のほうにはバレてるみたいだが、クリスには限界まで隠すべきだろう。あいつに情報渡したらあっという間に漏洩しそう。
とはいえ、少なからず関わっているのも確かなのだ。妹を通しての繋がりもある以上、絶対はない。
「一応、お前のほうのクローゼットにも鍵かけとけ。用意はしておいたから」
『私が選びましたー』
「なんかめっちゃ可愛いと思ったら姉ミナミさんのプロデュースなのか。……そうだよね。馬鹿兄貴に任せると、入り口の六連錠みたいな無骨なやつになるよね」
「対母ちゃんだったから、頑丈さがメインだったんだよ」
妹の部屋には行けないのでクローゼット用のダイヤル錠を追加で渡す。あまりゴツいのを付けても不自然なので、ミナミが選んだ可愛い系の錠だ。どこに売ってんだって感じでポップなやつである。
鍵にデザインとかって思ってしまう俺だが、スマホをデコったり、ネイルアートとか意味不明な事に精を出す女の子的にはアリなデザインなのかもしれない。
「それともう一つ紹介するところがある」
「ところ?」
引き籠もりがどこを紹介する気だとか思ってるんだろうが、間違ってないのだ。
「以前、あの押入れの向こう側をトイレにしたと説明した事があったな」
「あったね。私は使ってないけど」
「一度、アレをユニットバス化したんだが、やっぱりなんか嫌だったので隣に独立した個室を造り、そこをシャワールームにしたという経緯がある」
「はあ……あの不自然な扉はシャワールームだったんだ」
構造上あり得ないところに扉があるからな。今は残してあるが、将来的には移動するかもしれない。シャワーというか風呂は別にあるし。
「というわけで普通の個室トイレに戻ってしまった押入れだが、実は今現在あそこに便器は設置されていない」
「意味不明だけど、普通押入れに便器はないから」
なんでや。どこかの失敗物件にはあるかもしれないだろ。キッチンの脇に便器が設置されてる家だってあるんだからな。
「トイレじゃないとなると、何になったの?」
「まあ、そこを紹介しようと思ってたわけだ。開けてみるといいよ」
「……開けたらなんか怖いのが飛び出して来たりしないよね?」
「ミナミとか?」
『なんでじゃっ!?』
実際、ミナミより恐ろしい奴ってそうはいない気がするんだが。はっきり言って、怪人なんかよりよっぽど世界の脅威な気がする。
「そりゃ姉ミナミさんが出てきたらびっくりするけど。……襖だし、普通に開ければいいんだよね……って、何これっ!? え?」
そこまで躊躇する事もなく、あっさりと押入れの襖を開けた妹が、目の前の光景に驚愕する。
そこにあったのはリビングだ。それも二十畳くらいありそうな、広々としたリビングである。
「ようこそいらっしゃいました、妹様」「はじめましてー」
「ど……どうも?」
しかも、出迎えるのは二人のメイドだ。驚かないほうがおかしい。
彼女たちはシルバー04と05。ウチの新メンバーである。長谷川さんのところに出向している03と見た目はほとんど一緒だが、髪型だけ異なる量産型メイドだ。簡単に入れ替えトリックができて便利。
名前はシルバー03がプラタ、04がアルジェント、05がインと、全部銀色である。01のマスカレイドはともかく、02たるミナミに銀要素などないのに。
「え……ちょ……どういう事?」
「サポート要員としてメイドさんを補充したんだが、必須条件として< サポーター待機室 >の設置が必要になってな。トイレと入れ替えた」
「入れ替えたって、そんな簡単に……あ、自販機あった。雑誌の棚もこっちにきてたんだ」
尚、自販機や自動切り替えされる購読雑誌などはここに移設済。トイレ、バスルーム、キッチン、共用のベッドが置かれた仮眠室まで一通り揃っている。というか、最初からセットになっていた。
スペースに余裕あるし、なんなら自販機の追加さえできる。俺は自制が効くからやらないけど。
『まー、妹ちゃんが寛ぐにもこっちのほうがいいでしょう。一旦マスカレイドさんの部屋を中継する必要はありますが』
「なんかでかい姉ミナミさんが」
『いや、それは単に画面サイズの問題なので』
リビングにはでかいディスプレイも設置されている。わざわざ揃えたわけではなく、その他ソファやテーブル、キッチンの調理器具や冷蔵庫、電子レンジやオーブンまですべてセットなのだ。
当たり前だが、この四人用の< サポーター待機室 >の値段は結構高い。一人用ならそうでもないのだが、三人キャンペーンに騙されてあとから人数分の< サポーター待機室 >が必要と知った俺は泣く泣く設置する事になったのだ。一人用、二人用ときて、次が四人用というのもどことなく悪意を感じるラインナップである。絶対、裏で連携してる。
「え、って、ここ使っていいの?」
「常駐されても困るが、俺の部屋を占拠するよりはこっちのほうがいいだろ。メイドに頼めばお茶も出してくれるし、自販機もあるし」
あと、俺が落ち着かないし。
「そりゃまあ、そうだけど……なおさら自販機はいらないんじゃ」
「メイドさんに糸こんにゃくを出す機能はない」
「普通は自販機にもないけどね、そんな機能」
どう考えてもネタ商品な飲料< 糸こんにゃく >だが、自販機の前面に表示されるディスプレイで長々とCMを流されては登録するしかないのだ。中身はおでん缶の糸こんにゃくバージョンって感じで、まずいわけでもなかった。ただ、間違っても飲むモノではないな。今現在広告として表示されている< しらたき >は、多分その亜種である。登録予定はない。
「というか、こんなポイント余ってるなら元に戻れるんじゃ」
「言われると思ったが、対策は考えた。あとで動画撮るから手伝ってくれ」
「動画?」
つい戦闘員相手の訓練に夢中になってしまったが、以前VRで穴熊英雄のアバターを追加したのは母ちゃんへの説明目的だ。
俺の自室をスキャニングしたデータを背景に使い、明日香が話している体で撮影すれば偽物とは思うまい。とはいえ、撮ってすぐに見せるわけではなく、必要と思ったタイミングで出したいところだ。
そんな事を、ソファに対面で座って説明した。
「なんかまた訳わかんない事してるみたいだけど、分かった。……というか、なんでメイドさんたちは立ったままなの?」
「メイドなので」「なのでー」
メイドだかららしい。まあ、メイドなら主人と一緒に座ったりはしないのだろうからそれはいいんだが、どうも彼女たち、ミナミに教育を任せたせいか妙なメイド像が出来上がっているのだ。
彼女たちは知識はあっても経験がない。まっさらな状態だから、邪神ミナミにメイド像を植え付けられればそれがメイドだと認識してしまうのである。結果、良く分からないメイド三体ができてしまった。
メイドへの拘り以外にも色々と特徴づけしようとは思っているのだが、今のところ個々の差はそれほどない。インがアルジェントに追従して喋るようにしているのだって、何か特徴を付けようとしてあえてやっているのだ。
一応、好みの差はあるのか、情操教育として見せている映画はプラタがB級アクション、アルジェントがZ級ホラー、インがサメとお気に入りの差は見られるが、違いとしてはそれくらいだ。あと、メイドが出てくると喜ぶ。
「それで、用件としてはそれくらい? もうお腹いっぱいなんだけど」
やった事といえば部屋を移動して紅茶飲んだくらいなのだが、妹の表情にはすでに疲労の色が見られた。
「でかい用件はもう一つある。メイドたちの役割にも関わるんだが……そろそろ夏休みだよな?」
引き籠もりやってると自信がなくなってくるが、多分合ってる。
「そうだね。今のところ特に用事は入れてないけど……ひょっとしてまた何か変なイベントが」
「イベントじゃないんだが、ちょっと色々あってな」
……さて、どこら辺まで話したものか。
「八月頭に世界のルールが変わる」
そう、バージョン2のリリース日は八月一日で決定したのだ。
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