第1章・Smile 3ー③

ある日、毎月のように届くラリーからの手紙に『これからは、頻繁には手紙も書けないかも知れない』と書かれていた。

それは、騎士団が出陣するのを意味していた。

ウルスラ王国の隣国、ケンドーン国から宣戦布告された。


ケンドーン国は資源に乏しく、また内陸である国土の多くが山岳地帯なのもあって、農作物も育ちにくく、富んだウルスラ王国を妬んでいた。

同じ地続きでありながら、どうしてこうも地下資源にも、農産物な海産物にも恵まれないのか。

ウルスラ王国の地を手に入れれば、自国もさぞ潤うだろうと、これまで友好的だった国交を断絶し、攻め入って来たのである。


ラリーもまた卒業と同時に、参戦する事が決まっていた。

前線には、平民が集う黒の騎士団が向う。

貴族や資産家の息子で構成されている白の騎士団が、出陣する事はない。

上流騎士の彼らが敵国と戦うとなれば、それは都にまで侵攻され、国土を占領されているのも同じだった。


出陣式で、多くの人混みの中で犇めきながらも、ヴィンスはラリーを懸命に探した。

一番若手の筈だから、先陣を切る飾り立てた馬には乗ってはいない筈だ。

そうして人で溢れ買った広場で、もみくちゃになりながら探していたら、案の定、ラリーは若い騎士達の集まりの中にいた。


飛び抜けて、発光するようにその美しさが際立っている。

ヴィンスの知らない内に、いつの間にか大人の男に成長していた。

フワフワと長めだった髪は、短く襟足を整えられ、騎士団の黒い隊服がより男らしさを際立たせ。

右目下の泣き黒子が色気を増し、一人だけ貴族の子息が紛れ込んでいるようにすら見えた。

あの太陽のように明るく朗らかな笑顔は消え失せ、まるで別人のように厳しい表情をしていた。


「ラリー!」


「ヴィンス?!」


「必ず、帰って来て!待ってるから!」


ヴィンスの声が届いて、ラリーがいつもの眩しい笑顔を向けて来た。

この笑顔を絶対に忘れない。


死なないで。

必ず生きて帰って来て。

そして、またその笑顔を見せて欲しい。

自分はラリーあなたがいてくれたから、これまで生きて来れた。

あれだけ虐げられても、悲観せずにいられた。

お互いに強くなろうと言ってくれたから、頑張って来れた。


いつの頃からか愛していた。

貴方を愛さずにはいられなかった。


「ラリー……死ぬな……」


堪えきれない感情が涙となって溢れ、ヴィンスは崩れるようにして座り込んだ。

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