第1章・Smile 3ー①

ラリーはその後、騎士団の入隊テストを受ける為に、王宮のある中央へ都上りした。


騎士団へ入るのには、それ程難しくはなかったが、入隊後の厳しい訓練に耐えられない者が多い。

入って五日で半分は挫折し、一か月後には二割を残すのみとなり、その中でも役職に就くまでに上り詰めるのは、限られた人間だけとなる。


ラリーは、一か月経っても帰っては来なかった。

それにはポリーが大泣きして落胆し、マーガレットからは「友人ならば、何故、妹の婚約者が危険な仕事に就くのを止めなかったのか」と言われて、更に家での虐待が苛烈を極める。

何につけても、ポリーがまるでヴィンスがしたかのように悪事へと誘うので、召使いからも嫌がらせをされるようになり。

遂には耐えかねて、店の物置きとなっている屋根裏部屋で過ごすようになった。


ラリーは三ヶ月後、一時的に帰宅した。

過酷な訓練を一通りクリアして、騎士専門学校を続けて通えるようになっただろうと判断された者は、それから毎月末に帰宅を許される。

たった三ヶ月しか経っていないのに、ラリーは少女のような中性的な容貌から一皮剥けて、男らしくなっていた。


「ラリー、何だか大きくなった?」


「まだまだ、ヴィンスの方が背が高いし、体は薄っぺらいけどね。でも、何とか訓練にも慣れて来たよ」


「そんなに厳しいんだ」


「夜明け前から訓練だし、普通に学校で勉強もさせられるよ。終わったらまた訓練で、晩御飯食べたら気絶するみたいに寝ちゃうんだ」


「す、すごいね」 


「ヴィンスなら、あそこのご飯だけじゃ足りないかも?……今、ご飯足りてる?」


「うん。最近は俺も父さんの仕事を手伝うようになって、店で職人さん達と食べてるし、ラリーの家の前を通ると、おじさんかおばさんか、お兄さんが出て来てパンをくれるんだ」


「みんな、約束を守ってくれてるんだ?」


「約束って?」


「ヴィンスが前を通ったら、パンを持たせてやってって言ってあるんだ」


「えーー?!そ、そうだったの?!」


途端に、罪悪感が湧き上がる。

ラリーには自分が大食らいなのを知られてはいたが、その家族にまで食事が足りているのか心配させれていたのかと、今更ながらに知った。


「……何だか申し訳ないよ……」


「うちの両親は、ヴィンスを家族だと思ってるから。兄さん達も可愛い弟が増えたって嬉しそうにしてたよ」


「何か、お返ししたいな」


「そんなの考えなくても良いから」


その後、ラリーは忙しさの余り、ほとんど家に帰って来れなくなった。

毎月、近況を書き連ねた手紙だけは届いていたが、元々が虚弱なラリーには騎士としての鍛錬は限界ギリギリだったのだ。


ヴィンスはラリーの家族へのお返しに、余り切れにレースをあしらったハンカチや、男性用スカーフに刺繍を入れたりしてプレゼントした。

その頃にはヴィンスも、服飾の仕事にやり甲斐を感じていくようになっていく。

友人達と一切遊ばずに、学校と店を往復する毎日は、彩りある青春時代とは言い難かったが、ヴィンスにとっては有意義な日々だった。


そして十五になる頃には、縫製の技術だけではなく、刺繍やレース編みなどの職人技を身に着け、元よりの優れたデザインの才能を開花させるようになっていった。

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