第1章・Smile 2ー①
半年もしないうちに、ヴィンスの家はマーガレットとポリーに乗っ取られてしまっていた。
召使いの中には良心のある者もいたが、少しでもヴィンスに加担すればクビになり、マーガレット達に媚を売るものしか残らなかった。
家は、トリッシュ服飾店からブロックを二つ跨いだ奥まった場所にあったが、そう遠くないのにも関わらず、仕事人間の父は滅多と帰っては来ない。
そうして父不在の家には、父が作った最新の服だけが溢れ返っていく
マーガレットの物だけでなく、ポリーの子供服までも廊下にまで吊るされていて、二人は毎日ファッションショーのように取っ替え引っ替えしていた。
居場所をなくしたヴィンスは、学校以外の時間のほとんどを店で過ごし、家には寝る為だけに帰る。
ポリーがドレスを着て、召使いの前で披露している間、ヴィンスは掃除をさせられた。
マーガレットにバケツの水をひっくり返されては床を拭き、またひっくり返される。
そういった陰湿な嫌がらせが、何度も繰り返される。
特に父のいない日の夕食は、地獄のような食卓だった。
ほんの少しでもマナーを間違えると、マーガレットに棒で殴られる。
それも敢えて、服に隠れて見えない部分を狙って。
その日は、ポリーのコップをひっくり返した水が、ヴィンスの食事の上に振り掛けられ。
鶏肉のソテーも、パンも水浸しになり、フォークを握る手が止まってしまった。
「ごめんなさぁい。ヴィンス。わざとじゃないの。……ねぇ、怒ってるの?」
元よりヴィンスは、咄嗟の事に反応するのが遅い。
だが、たとえ反論しようにも、それはそれで悪く取られてしまい、火に油を注いでしまうのも解っていた。
ヴィンスが何の反応しないでいると、ポリーはうるうると涙を滲ませた。
「ポリーが悪かったの。だから、ヴィンス、怒っちゃったのよね。ポリーが、水を飲まなければ良かったの」
「まぁ!何て事を!ヴィンス!」
「ヴィンスを怒らないで、お母様。ポリーがいけなかったのよ」
「『
「そ、そんな事は言ってないです」
「そんなに思いやりのない子に与える食事なんてないわ!もう食べなさんな!」
マーガレットは、ヴィンスの前に並ぶ料理をなぎ払うように床へ落とし、ぶち撒けた。
それを自分で掃除させられるのにも、ヴィンスは一言も不満を洩らさなかった。
床を拭く上から、尚もポリーは水差しの水を降り注ぐ。
その大きく目を見開きながら、ニヤリと口角をつり上げる笑顔は、愛らしい子供のものとは思えなかった。
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