第1章・Smile 1ー②

ヴィンスは、ラリーを見ているだけで幸せだった。

小柄で、美少女のような愛くるしいラリーは、いつも笑っていた。

目が線のようになり、大きく口を開けて笑うのには、ヴィンスもつられて笑ってしまう。

ただ、隣にいてくれるだけで幸福感に満たされていた。


ラリーが好きだ。

ラリーを嫁にしたい。

ヴィンスは、昔からそう思っていた。

この国は同性婚も許されていたし、資産や身分のある者は後継ぎがいなくても、親のいない子と養子縁組をするケースが多い。

身分の低い者が、子供のいない高位の家に養子として引き取られるのは、そう珍しい事でもなかった。

ヴィンスが家を継げと言われても、ラリーは三男なので問題はないだろうし、後継ぎなら養子を貰えば良い。

まだ幼くはあったが、ヴィンスはラリーとの将来をぼんやりと夢描いていた。


「ラリー、いつもこんなにパンを持って来て、怒られない?」


「全然大丈夫だよ。これからもヴィンスの為に、パンを持って来るね」


「俺も、父さんみたいに服が作れるようになったら、ラリーの服を作ってあげる」


「僕の服、作ってくれるの?」


「王妃様よりも豪華なドレス、作ってあげる」


「いや、僕はこれでも男だから、ドレスじゃない方が良いかな……」


「似合いそうなのに、ドレス」


「やだよ!僕はこれから、すっごく鍛えて男らしくなるんだから!ヴィンスよりもおっきくなって、かっこ良くなるんだから!」


「俺よりおっきくなるの?」


「なるよ!いっぱい鍛えて!」


「だったら、沢山食べなきゃだよ」


そう言われて、ラリーはグッと喉を詰まらせた。

毎食のように家族から「もっと食べなさい」と言われるし、しょっちゅう風邪をひいては倒れてしまう。

いつも一緒にいるヴィンスと並ぶと、「まるで妹みたいね」と言われてしまう。


男なのに。

ラリーは自らの弱々しい体や食の細さを、呪わしく思っていた。


「僕、ヴィンスみたいに健康的になりたい。男らしくなりたいよ」


「どんなラリーもラリーだよ」


そう慰めるように言うと、頬を染めて笑う。

ヴィンスにとって、ラリーの笑顔こそ喜びだった。

そうやって二人は、幼いながらに想いを通じ合わせていった。


何事もなく、ただ幸せだった。

ヴィンスが七歳の時に母が病に倒れ。

その翌年に、後妻のマーガレットと、その娘ポリーが、トリッシュ家に迎え入れられるまでは。

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