序章・Surprise ②
「わたくしは反対ですわよ!殿下!ヴィンセントは、わたくしのデザイナーです!」
「愛しいベアトリス、そうは言うけどね。ローレンスはあれだけの働きをしたんだから、彼にはそれ相応の褒賞を与えないと」
「こんな純真無垢な愛しい子を、黒の騎士団の荒くれ男にくれてやるなんて!」
「純真無垢ってね。ヴィンセントも、もう28にもなる成人男子だよ?貴女は母親かい?」
「母親以上ですわ!この子の才能は、わたくしが見付けて、磨き上げたのですから!」
ヴィンスは、言い争う二人を呆然と見つめていた。
眩しい程に光輝く、見目麗しい金髪碧眼の両人が声を荒げるのには、あまりにも似つかわしくなくて異世界感すらある。
ヴィンスが目を掛けて貰っているベアトリスは、両サイドの後れ毛を婀娜っぽく流し、ハーフアップされた髪は悩ましげではあるが上品さある。
それには、ヴィンスがデザインした格調高い貴婦人のドレスが、貞淑さを持たせているからだ。
バッスルスタイルという、お尻にボリュームを持たせたドレスは、ベアトリスの美しいS字ラインが強調されていた。
ベアトリスのドレスは、工場で作られた量産ドレスとは違い、一つ一つ手縫いで縫製され、そのドレープの美しさには、針子の職人技が申し分なく発揮されている。
そんな美しい最先端のドレスを纏った、気丈なる妃の暴言も、笑顔で受け流すアレクサンダーは、流石未来の国王だけある大物ではあった。
ベアトリスと引けを取らない、女性も羨むような美しい
気性の激しさが分かるベアトリスの美貌とは違い、アレクサンダーは長く被るような睫毛は気怠げで、淑やかな美しさだった。
王族である二人は唯一、ヴィンスの名を貴族の者のように、正式名称で呼ぶ。
「ベアトリス、男でも女でもね。ヴィンセントのような才能を持つ人には、ちゃんとした伴侶がいた方が良いんだよ」
「あら?わたくしがバックに付くだけでは、足りないと仰るの?」
「そうじゃなくてね。法律的にも彼を守ってやれる人が必要じゃないかって事だよ。いくら私達が国王に次ぐ国の頂点にいるとはいえ、もしも何かあった時には、ね?」
アレクサンダーが含みを持たせて言うと、ベアトリスはグッと喉を詰まらせて黙ってしまった。
確かに今の王家には、反対派の貴族や国を取り仕切る機関である元老院などの『
だからこそ、平民出のヴィンスを慮って、アレクサンダーはギルベルト伯爵を傍に付けようとしているのだ。
ローレンス・ランドルフ・ギルベルトは、この度の国への貢献に対する褒賞として、伯爵位を与えられ。
更にはウルスラ王国の半分の農地を有する、三代公爵を上回る資産をも託された。
「ヴィンセント、君は女性でなければ駄目な人かな?我が国の縁付には、異性でなければならないという縛りはないが」
「いえ、どちらでも頼まれれば……」
男女どちらの服も作るのに、嫌も何もない。
ヴィンスは元よりの天然気質から答えたそれは、アレクサンダーの問いからはズレたものであったが、全く気付きもしなかった。
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