最終話 自分の人生が終わるまでは


登場人物


山西やまにし太希たいき

性別:男

年齢:25

身長:176





今の季節は少し寒くなってきた秋。

海には誰も居ない。


太希たいきはそんな海を静かな瞳で見渡す。

すると誰も居ないと思っていた海に1人の女子高生を見つける。


その女子高生は制服のまま、1歩1歩、海の中に自分の身体を沈ませていた。


その姿が9年前の水樹みずきとかさなる。


「おい。あんた。自殺ならよそでやってくんないか?こっちは心の傷を癒しにわざわざ車に乗ってここままで来てんだよ。

それなのに、もっと暗くなるような現場を見せんじゃねぇよ。」


そう太希は荒々しい声で女子高生に話しかける。


その女子高生は太希の方へ振り返ると不機嫌そうな表情を作る。


「なんだよ、おっさん。

あんたには関係ないだろ?!」


そう女子高生は苛立った声で言い返す。


「おっさん?…まぁ、あんたからしたら、おっさんか。」


そう納得すると太希は言葉を続ける。


「確かに関係ねぇよ。

お前が死のうが生きようがオレの人生にはなに1つ関係ない。

それでも、気分が悪いもんは悪いんだよ。」


そう太希は言葉を返す。


「私の気持ちも知らないくせに、勝手な事を言うなよ!!」


そう女子高生は怒鳴る。


「だったら、話してみろよ。

おっさん暇だから話ぐらないなら聞いてやるよ。」


そう言うと太希はその場に腰を落として座る。


そんな太希を女子高生は見つめる。


少しの沈黙の後、女子高生は話し始めた。


「今日…初めてできた彼氏に振られたんだ。大人のあんたからしたら、何だそれぐらいの事でって思うかもしれないけどさ…それでも…私にとっては彼氏が人生の全てだったんだよ…。

それが失くなったら…もう私の人生には何も残ってないんだよ…。」


そう女子高生は冷たい声で話す。


「…おじさんも同じさ。」


「え?」


そう女子高生は驚いた顔を太希に向ける。


「3ヶ月前にね…彼女が事故で亡くなったんだ。」


その太希の話を聞いて女子高生は言葉を無くす。


「8年間付き合った彼女だった。

その彼女と出会ったのがこの海だったんだ。彼女もオレと出会った時、今の君みたいに死のうとして、身体を海に沈めていたんだ。」


その太希の話は女子高生の心を強くきつけた。


「その彼女さんは何で死のうとしてたんですか?」


そう女子高生が尋ねる。


「これまた、君と同じ。

初めてできた彼氏に捨てられたから。

自分が親よりも信じていた彼氏に裏切られ、捨てられた…その結果…死のうとした。」


そう話す太希の眼には当時の水樹の姿が映っていた。


「…私より…酷いめにってるんだね。」


そう女子高生は声を暗くして言う。


「でも、そんな彼女が親友にこんな事を言ってたんだよ。自分は世界で1番幸せな女だって。オレと出会った時は…死にそうだった女が…オレと出会って…付き合って…日々を過ごしてるうちに…そんな事を言うようになったんだ。

本当…人生…何があるか…分かんないよなぁ。今は死ぬほど苦しくても…数年後には死ぬほど幸せだって事もあるんだよ。やっぱ…死んじゃダメなんだよな…。自分から…死んじゃ…ダメなんだよ…。」


そう太希は話しながら声を震わせ涙を流す。


そんな太希の様子に女子高生は少し呆れたため息をこぼすと「バカバカしくなってきた」と言って海から出る。


そして、ずぶ濡れになったスカートのポケットからハンカチを取り出すと太希に差し出す。


「濡れてるけど、ないよりはましでしょ?」


「…あぁ。ありがとう。」


そうお礼を言うと太希は濡れたハンカチを受けとる。


そして、そのハンカチで涙を拭く。


「…塩くさいなぁ。」


そう笑いながら言うと太希はハンカチを女子高生に返す。


「うっさい。」


そう微笑みながら女子高生はハンカチを受けとる。


そんな2人をオレンジ色の光が照らす。


その光に2人は目線を向ける。

2人の眼前には海をオレンジ色に輝かせる夕陽が広がっていた。


「さてと。オレは帰るよ。

お前はどうするんだ?」


そう立ち上がって太希は女子高生に尋ねる。


「ん?生きてみるよ。

あんたの彼女さんみたいに、世界で1番幸せな女だって想えるほどの人生が待ってるかもしれないから。」


そう女子高生は子供らしい明るい笑顔を見せて答える。


「そうか。お互い楽しもうぜ。

自分の人生が終わるまでは。」


そう言い残すと太希は女子高生に背を向けて去って行く。


女子高生は少しの間、太希の背中を見送った後にもう1度、夕陽に目線を向ける。


この夕陽が自分の人生を照らしてくれると信じて。

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世界で1番幸せな女 若福清 @7205

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