第41話

 麗奈は翔真が好きだった。一華に紹介してもらった時から、よく笑う男の子だなと気になっていた。当時はまだ流星に好意を抱いていたが、妹にしか見られていないことと流星が好きなタイプとは真逆であったことから、諦めようとしていた。そんな時に現れた気になる男の子。時が経つにつれ、好きな男の子に変わった。

周りの女子は翔真と呼び捨てにしていたが、自分だけは違う呼び方をしたかった。翔、翔くん、翔ちゃん、はどれも特別を狙っている響きがある。他の女子とは差をつけたい気持ちを捨てきれず、翔真くんと呼んだ。そう呼ぶ女子は自分だけだった。


 一華は気の強い性格だった。翔真とよく言い合いをしていて、仲が良い。幼馴染であれば当然だが、面白くなかった。

 流星を好きになったように、一華も翔真を好きなのではと疑い、何度も恋愛話をしようと持ち掛けてみたが、悉くはぐらかされた。

 翔真を好きだから恋愛話を避けたいのか、それとも恋愛に興味がないのか、結局分からないままだ。


 一華に協力してほしいとは思わなかった。自分の力で捕まえてみせる。一華の協力があったから付き合うことができた、と流星に報告したくない。誰かのお陰ではなく、自分が頑張ったから結果を出せた、そう報告したかった。


 化粧を勉強して、休日に遊ぶ時は常に可愛い自分の姿でいた。学校で化粧をしなかったのは、休日とのギャップを出したかったから。

 香りの使い方を知った。香水も悪くないが、自然に香る方が魅力的で、ヘアオイルに拘った。接近したときにだけ香る方が、印象が良い。

 持ち物を可愛すぎず、女子を感じさせる物に変えた。地味過ぎず派手すぎず、けれど可愛いもの。探すのに苦労した。


 一華は翔真の幼馴染だ。なのに、付き合っていない。どちらかが告白して振られた、ということもない。

 両想いなら高校生になった今、付き合っているはずだ。

 なのに、付き合っていない。

 翔真が一華を好きという感じもない。もし好きなら、あんなにも男友達を優先して、何度も一華との約束をすっぽかしたりしないだろう。


 翔真は一華を好きじゃない。それは頭が悪い自分でも分かった。

 一華はタイプではないということ。ならば、一華と正反対の女子なら好きになるのか。

 翔真を好きになってから観察したが、ちらちらと気になる視線を送る相手は一華からかけ離れている女子だった。


 絶対に、一華にはならない。

 それを目標にこつこつ努力してきた。


 それがようやく、実った。


「ふふふ」

「おい、くっつくなよ」

「どうして?」

「はずいだろ」


 病室で翔真の腕にすり寄ると、弱々しい力で引き離そうとする。

 嬉しい、本当に嬉しい。

 翔真の足が治らなくても、自分がずっと世話をする。治す方法を自分でも探そうと思っているが、もしこのままだとしても、将来は自分が稼ぐから問題はない。看護師は給料が良いと教えてもらったので、看護師になろう。


「一華と流星に連絡入れちゃう?わたしたち付き合いました!って」

「会って言いたいから、四人揃った時にしようぜ」

「そうだね」


 見舞いに来ない一華に、どう連絡をすればいいか分からなかったので、四人揃ったときに伝えるのが一番良いなと麗奈も賛同した。

 流星とは一日に一回の頻度で連絡をとっている。といっても、今日も見舞いに行って来たよと報告する程度だ。何を手土産に持って行ったか写真を送った時もあった。

 友達として一華にも何かメッセージを送りたかったが、何かあればいつでも連絡してきてね、という無難な文章を送った手前、他に送信するものが思い浮かばなかった。


「一華と流星が付き合ったらダブルデートができるね!あの二人、付き合わないかなー」

「なんか似合うよな、あの二人。口煩い一華を優しい流星が受け止める、みたいな感じか?」

「そう!流星と付き合ったら絶対に一華、女らしさ倍増するよ」

「女らしさァ?」

「髪型を変えてみたり、化粧をしてみたり、着る洋服を考えたりしてさ」

「あの一華がそんなことするか?」

「分かってないなぁ。女は恋をすると想像以上に頑張るんだから」


 女らしさ倍増についてはさておき、一華と流星が恋人になったら確かに楽しそうだ。四人でデートに行くのもいいし、困ったことがあれば相談できるし、そのまま結婚までいけば、生涯の縁だ。

 なかなか悪くない。

 幸せな未来を想像して二人はゆっくりと顔を近づけた。

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