第21話

 一華が恋愛話に花を咲かせ、翔真との思い出話を嬉々として流星にしていると、痛い程刺さる視線により、咲かせた花は落ちていった。

 刺さる視線を辿ると、そこには子どもたちがいた。各々遊びを中断し、ひそひそと集団で話している。

 何の話をしているのか聞こえないため分からないが、出て行ってほしい、と話しているのだろうと一華は予想した。大人がいると遊びにくいのかもしれない。

 流星に小声で「公園から出よう」と耳打ちし、立ち上がると子どもたちの方から「あっ」と声がした。


「何だろう、俺たちの一挙一動が監視されてる」

「余所者だから目立ってるんだよきっと。早く出よう」


 目立っているがこそこそと逃げるように背を向けると、多数の足が砂利を踏む。

 追われているようだが、ここで走って逃げるのは恰好悪いので後ろから聞こえる足音を意識しながら前を向いて歩く。すると、行く道を阻むように数人の子どもが目の前に現れた。


「あの、その、お兄さんたち、観光の人ですか?」


 恐る恐る、一人の男の子が他の子たちに背中を押されながら、上目遣いで話しかけた。

 いくつもの視線が逸らされることなく二人を射抜く。


「そうだよ、俺たちに何か用かな?」


 なるべく怖がらせないよう、膝を折って同じ目線になる。

 子どもは好きでも嫌いでもないが、泣かれると困るので優しいお兄さんという印象を壊さないよう注意する。


「用っていうか、その、外から来る人ってあんまりいないから」

「お兄さんたちどこから来たの?」

「なんで来たの?」

「あのね、これさっき拾った石なの」


 立ち去ってほしいのではなく、話しかけたかったようで、一人が話しかけると我も我もと口から聞きたいことを吐き出す。

 上を向いて口を開く子どもたちが雛鳥のよう。


 一華は流星と同様に膝を折り、会話に入る。


「冬休みだから、遠いところから遊びに来たの。綺麗な石だね、よく見せてよ」


 子どもに慣れているようで、違和感なく溶け込む一華に感心した。

 将来は保育士にでもなりそうだ。

 一華が会話をしてくれているので聞き役に徹していた流星だったが、女の子数人と目が合った。


「えっと、こんにちは」


 挨拶をすると距離が一歩縮まり、女の子数人は珍しそうに流星を囲んだ。


「お兄さんってモデルなの?」

「普通の高校生だよ」

「すっごく恰好いいね」

「はは、ありがとう」

「本から出てきた王子様みたいに顔が綺麗」

「初めて言われたよ」

「背も高いしイケメンだし、この村にお兄さんみたいな人いないよ」

「そうなの?」


 瞳を輝かせて容姿を褒める子どもに、悪い気はしなかった。

 イケメンと言われても、それほど身長が高くないそれほど顔が整っているわけでもない翔真のことを一華が好きなのだから、イケメンであっても良いことはない。

 翔真を軽んじるつもりはなかったが、ついそんな考えになってしまい瞬時に頭から消し飛ばす。


「お兄さん名前は何て言うの?」

「流星だよ」

「すごい!名前も綺麗なんだ!どうして流星なの?」

「俺が生まれた日に父親が流星群を見たから、流星にしたんだって」

「へえ、素敵」


 恐らく小学生であろう女の子から「素敵」という言葉が出て、最近の子どもはマセているなと苦笑する。

 隣では一華が男の子たちと楽しそうに喋っており、微笑ましい画になっている。


「へえ、じゃあ流星、後で一緒に行ってみようよ」

「へ?」


 一華から唐突に話しかけられ素っ頓狂な声が出た。


「子どもたちに人気の駄菓子屋があるんだって。後で行ってみようよ」

「いいよ。駄菓子屋なんて何年ぶりだろう」


 二人で駄菓子屋に行くと決めると、子どもたちは木の棒を持ち、地面に地図を描き始めた。

 数人で描く地図はぐちゃぐちゃになり、最終的にクラスの委員長をしているという女の子が一人で描き上げた。

 流星は念のためその地図を写真に撮る。


「あーあ、俺たちも一緒に行きたかったなー」

「後で母ちゃんたち来るから駄目だってば」

「ちぇー、つまんね」

「あのね、キャラメル棒が美味しいよ」

「ソーダサンドも美味しいんだよ」


 二人が行こうとすると、名残惜しそうに腕や裾を掴む小さな手。

 一華はコートを脱ぎ、「ちょっとだけ一緒に遊びたいな」と言うと、男の子数人は一華の手を引っ掴みボール遊びに誘った。

 子どもに優しい一華は、きっと良い母親になるのだろう。

 流星は見慣れない独特な柄をしたサッカーボールを蹴る一華を動画に収めた。

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