第14話

「旅行中ずっと恋人のふりをするの?」

「うん。その方がやりやすいし」

「まあ、そうだけどさ」

「異性の友達と二人きりで旅行の方が目立ってしまうからね」


 揚げ饅頭を食べに行く予定だったが、先程の女性二人と話した結果、暖簾に「茶屋」と書かれた甘味処に来ていた。

 店外に用意された席で田舎の風景を楽しみながらのんびりとお茶を飲んでいる。これでは本来の目的から遠く離れるだけだ。若干の苛つきを混ぜながら流星と会話をする。


「怒ってる?」

「何が?」


 苛つきの色を滲ませる一華をちらりと見ながら、団子を口に入れる。

 出来立ての団子は温かく、特有の粘り気が口の中に残る。


「こんなにのんびりして、怒ってるんじゃないの?」

「分かってるなら早く探そう」


 急かすように流星のコートを掴む。

 流星は目を細めてその手に触れるが、一華はすぐに手を引いた。


「ちょ、何?」

「ほら、一応恋人だから、そういうのも必要かなって」

「要らないでしょ、誰もいないんだから」

「後ろに店主がいるけど」


 そう言われ、後ろを振り向くと店の中からこちらを笑顔で見ている店主と目が合った。手を振られたので、会釈をしておく。


「あの人、大橋さんって言うんだよ」

「大橋さん…お昼ごはんを食べた店で、隣の人が話してたあの大橋さん?」

「よく聞いてたね、そうだよ。この村、遊園地とかパチンコとか、そういうの目立ってないでしょ。あんまりないんだって、そういう娯楽の店が。だから暇な人たちは噂話を楽しむんだってさ」

「さっきのおばさんたちが言ってたの?」

「ううん、別の人の会話で聞いた」


 一華が思っているより、流星は積極的に情報を仕入れているらしい。

 それに比べ、自分は魔女探しを急かすことしかしていない。急かしたところで、どうやって魔女を探すのか、そんなことは一華だって分からない。

 この旅は流星が引っ張ってくれている。それに気づき、苛つきは一華の中から消え去った。


「探すって言っても、手がかりがないんだから。まずその手がかりを掴むところから始めないとね」

「あのさ」

「ん?」

「なんでそんなに手伝ってくれるの?魔女なんて、いないかもしれないのに」


 ぽつりと呟いた一華の頬を片手で触り、ごつんと頭をくっつける。こつん、と優しいものではない。軽く頭突きをされ、頭に小さな痛みが走る。

 流星の予想外の行動に困惑しながら視線を合わせた。


「俺たち友達でしょ。なんでそんなこと聞くの?それに翔真とも友達だから、手伝うのは当然」

「う、うん」

「あと、一華ちゃん俺のこと苦手でしょ」

「え!」

「知ってたよ。だから、仲良くなるきっかけにもなるかな、っていう下心もありました」


 流星は一華から離れ、再び団子を食べ始める。

 思わぬ事実に一華は顔を赤くした。

 苦手というか、気を遣う相手だから、居心地がよくないと思っていたのは本当だった。それを流星に知られていたことが恥ずかしい。ずっと、「この子俺のこと苦手なんだな」と思わせながら一緒にいたというのか。あの時もあの時も、気づいていながら一緒に居たのか。

 急に、恥ずかしくなった。


「この際だから聞いちゃうけど、一華ちゃんって翔真のこと好きなんだよね?」

「えっ!!」


 今度は別の恥ずかしさで耳まで熱くなる。

 茹蛸のような一華を視界に入れると、笑いが込み上げてきたので遠慮せずに噴き出した。


「はは、そんなに驚くかな?だって、好きでもない相手のためにここまで来ないよね」

「そ、そ」

「一華ちゃんって可愛いよね」

「だ、そ、な」

「はは、何が言いたいのか分からないんだけど」


 隣で笑う流星を真っ赤な一華が叩く。

 子どものようなその仕草にまた笑いが込み上げ、スマートフォンを取り出して写真を撮った。


「何撮ってんの!?」

「可愛かったから、つい」

「消して!」


 歯を見せて笑う流星から写真を消そうと奮闘する。

 身長差や体格差により、一華は断念していると、今度は動画を撮られていることに気付く。


「もう!さっきから何!?」

「はは、可愛いから、つい」

「そればっかりじゃん!」


 未だ熱を帯びた顔でぷりぷり怒る一華に。可愛いと言い続ける。

 楽し気な会話は店主にまで聞こえ、青春の一ページだなと温かい目で見守った。。

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