第15話
甘味処で流星が一華を撮影してからというもの、味をしめたのか、気が付くと写真や動画を撮られるようになった。最初こそデータを消すことに躍起になっていた一華だが、二日目には諦めていた。
撮りたければ撮れと開き直り、ピースサインや決め顔など、カメラを意識した形をとるようになった。
「あ、あそこだ。一華ちゃん見える?」
「え?どこ?」
「ほら、あの端にある」
「あー!」
魔女探しは続けるが、主に観光しながらの情報収集をしようと昨夜旅館で流星と話し合った。流星が一華以上に情報収集してくれていることを、一華は知っている。反対する気はなかったので、素直に頷いたのだった。
二日目は、鳴和山の麓にある和菓子専門店に行くことになった。
麓に小さく佇む店に入ると、店内は登山客が数人飲食をしていた。
二人が入ったことで注目を浴びるが、気にせず和菓子を注文する。
「いらっしゃい。お、観光のお客さんだ?」
「はい。よく分かりましたね」
「観光客は珍しいんや。すぐ分かるでな」
小太りの店員は二人を席に案内し、出来上がった和菓子を持って行く。
ガラス張りになっている店内からは外の景色が楽しめるようになっており、それを背景に村人がこれから登山する姿が見える。老人は登山らしくリュックを背負っているが、若者は軽装で気軽に登りに来たという感じだった。
一華は小さな花柄の可愛らしい皿に乗っている和菓子を食べ、翔真にもお土産を買いたいなとケースの中にある和菓子を遠くから確認する。最終日に買って、流星から翔真に渡してもらいたい。
「登山もできるんだね」
若者たちが楽しそうに登る姿を目にし、一華と登りたくなった。
自分たちの服装でもできるだろうかと悩んでいると、流星の独り言を聞いた小太りの店員が「食べ終わったら行ってみるといいがな」と肩を叩いた。
「僕たち、登山の準備してないんですけど、大丈夫ですか?」
「あぁ、年寄りは大体長い道のコースに行くけんど、若者は緩い道で行くで。友達とわいわいしながら見晴らしの良いとこまで行って戻るんさ。パンフットあっから、持って行くといいが」
そう言って、店内に置いてあるパンフレットを流星に手渡した。
礼を言って一華とパンフレットを覗き込む。険しい道のりではなさそうで、頂上までは行かない。途中にある見晴らしの良い地点まで行って、戻るだけのようだった。
二人はスニーカーで来ているため、問題はない。
「一華ちゃん、行ってみよう」
「えー、疲れるよ」
「いいじゃん。折角だし、ゆっくり行こう」
「しょうがないなぁ」
靴の中に土が入りそうだとぶつぶつ言う一華を撮影すると、それに気づいた一華が両手を両頬にあててポーズを決める。
一華が翔真のことで落ち込むより、この旅行を楽しみつつあることが流星は少し嬉しかった。暗い雰囲気で過ごすよりも、肩の力を抜いて過ごす方が断然良い。翔真を忘れて過ごすわけではないが、気落ちしたまま魔女探しをしても損するだけだ。
和菓子を食べ終え、店を出ると山登りを始めた。
空気が澄んでいて鳥の鳴き声が聞こえる。葉を失い痩せている木が随所にあり、見晴らしの良い場所といっても、この時期はそれ程綺麗に見えないだろう。
それでも登山を提案したのは、純粋に旅行を二人で楽しみたいという気持ちが流星にあったからだった。翔真のことを忘れているわけではないが、一華と二人で満喫したかった。
何故そこに拘るのか、自分でも分からなかった。ただ、二人で旅行する機会なんて、魔女探し以外にもうないだろうと思っていた。
「なんか、急に斜面の角度えげつないよね?これ絶対最初よりきついよね?なんで流星そんなに余裕なの?」
「いや、まだ十分しか経ってないから。一華ちゃん、意外と貧弱だね」
「流星は意外と辛辣だよね」
立ち止まって呼吸を整える一華とは反対に、流星は余裕そうな顔だった。
流星と二人きりで旅行をしていて気づいたが、流星は笑顔で毒を吐く。四人でいるときは意識していなかったが、意外と性格が悪いのかもしれない。
だが、頼りになる面も多くあり、今まで抱いていた流星のイメージが崩れた。それまでは笑いながら突っ立っている、麗奈の面倒をみている、そんな印象だ。自分が見ていたあの流星はほんの一部に過ぎなかった。面白そうにスマートフォンを構えている流星が、翔真と麗奈が知る流星なのだろう。
旅行から帰ったら、流星と一緒に翔真に会いに行こう。
会えない、会いたくないと後ろ向きだった一華は、流星と二人なら会いに行こうと、この瞬間漸く一歩前に踏み出せた気がした。
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