第13話 薬屋の看板娘の白い方
……なんだ、今のは。
剣士は驚愕していた。
たった今、吹き飛ばされたベノムウルフは二体とも泡を吹いて倒れている。
そして、吹き飛ばした張本人のリリスは、剣の握り具合を確かめている最中だ。
その身のこなしからは、剣の扱い自体には慣れていそうだが、その手元は不確かで、
「えっと、このくらいの力でよかったかしら」
しっくりこないのか、剣を振り上げ、確かめている。そんな彼女に対し、
「――!」
後方で様子を見ていたベノムウルフが一斉に近寄ってくる。
「お嬢ちゃん、前!」
剣士は警戒を促すために声を上げ、更に、加勢しよう前に出ようとした。だが、
「もう! ちょっと待ってよ。今、力の調整中なんだから!」
と、リリスが剣を振り下ろした。刹那、
――ドカン!
炸裂音が響き、地面が割れた。
その衝撃は、巨大な土礫が飛ぶほどで、
「グ……!?」
そのまま、ベノムウルフ達に激突し、吹っ飛ばした。
……なんて馬鹿力だ……!
ただ、その代償はあって、
「折れちゃった……。病み上がりだと綺麗に使えないわ」
剣は半ばより折れてしまっていた。
頑丈で有名で、なおかつ自分もその丈夫さをよく知る剣が、だ。
……常人じゃ出来ねえぞ……?!
今までそんなことをした人間は、冒険者の中でもトップクラスの戦士くらいしか見たことがない。化物みたいな体格と筋肉量の戦士だったが、目の前のリリスは到底そうは見えない。
そんな彼女は困った顔で、
「親方さんに申し訳ないわ。それに、まだ、いるのに……」
土くれに当たり、しかしまだ生きて敵意を見せるベノムウルフの方へ向いていた。
確かに、多少は弱りはしただろうが、まだ多勢なのは変わりない。まだ無事な武器を持つ自分が頑張らねば、と剣士が思っていると、
「リリスさん。剣士さん。あとは私がやります」
背後からそんな声が聞こえた。
振り向くとそこには、大きな光の球を頭上に浮かべた少女がいた。
「これは……魔法、か」
「はい。少し離れてくださいね」
スノウと呼ばれていた彼女が前に出ると、頭上にあった光球が急激に圧縮され、彼女の顔前に移動した。そして彼女は、片手で光球を支えるように触れ、息を吹きかけるようにして、唱えた。
「白竜の息吹(ホワイト・ブラスト)」
瞬間、
――ゴウ!
と、彼女の前方を、風圧の大砲が突っ走った。
地面を削り、凄まじい勢いが放射状に進み、
「――!?」
驚きの表情を浮かべるベノムウルフたちを巻き込み、切り裂き、地面に叩きつけた。そして、
「……」
あとに残るのは、まるで巨大な竜がひっかいた爪痕のようなえぐれ方をした地面と、倒れ動かなくなったベノムウルフ達だけだった。
〇
「ふう……」
と、ほっとしたような息を吐くスノウに、剣士は声をかける。
「だ、大丈夫か。今の魔法、すげえ力だったが、消耗とか……」
「はい。破壊することしかできないため、頑張って出力を抑えましたが、ちょっと牧場を削ってしまいました……」
悲しそうにスノウは言う。
……あれで、抑えた……?
自分の視界に移る、破壊の形跡からは、そうとは思えない。
「スノウの魔法、寝る前のお話で聞いてたけど、あんな感じなのねえ」
「はい。壊すだけで、お恥ずかしいものですが。リリスさん、武器を扱えるとおっしゃってましたけど、華麗でしたよ」
「いやあ……本当はもうちょっと上手く動けるんだけどね。武器を壊しちゃったし……」
そんな感じで話し合っているが、二人ともやったことは異常なものだ。
剣を叩き折りながら、ベノムウルフ数体を吹き飛ばす娘と、魔法一発で敵も地形もまとめて破壊する娘。
それは、ギルドでも、トップクラスの戦士や、魔法使いという存在だけが見せてくる光景なのに、
「このすげえ二人が看板娘だって? どんな薬屋になっちまったんだよ、先生……」
――――――――
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