第12話 薬屋の看板娘の黒い方
剣士は、剣を構えながら、出てきた狼を見ていた。
……あの槍は……本隊を突破してきたのか……?
思う最中、林のほうから先ほどとは違う鐘がもう一度なった。
「今の鐘は?」
「駆除隊の本隊が巣を見つけたって合図だ、先生。あの二匹はそこから逃げてきたらしいな」
背後に薬師であるカムイを置き、もしもの時は守れる姿勢をとりながら、剣士は答える。
……しかし、やべえな。以前戦った時は、一人で一体相手にするのがやっとだったんだが。
戦争が終わってから、護衛の依頼を受けた時にベノムウルフとやりあったことはある。その時は、ほかにも人員がいて、一対一に持ち込めたのだが。今は一人だ。
……ほとんどの人員を本隊に割いているので仕方ないことだけどよ……。
一対一であれば、軽傷で済んだくらいの敵である。
「二体くらいなら、頑張れるか……?」
自問自答するように声をこぼす。だが、
「剣士さん。逃げてきたのは、二匹どころじゃないみたいだぞ」
「え?」
「ほら、林の奥」
カムイがそんなことを言われ、目を凝らしてみる。すると、そこには、ベノムウルフが姿勢をかがめた状態で潜んでいた。それも4体だ。
「おいおいおい、何体出てきてんだよ……!」
この数はさすがに一人ではきつい。
地主の母屋に逃げ込もうにも、その前に追いつかれる。戦いは必至だ。
その上で、取れる手段は何かないか、と頭を動かしていると、
「私も加勢するわ」
リリスと呼ばれていた少女が、腰に装備していた剣を抜きながら、自分の隣に立った。
「お、おいおい! お嬢ちゃん、無茶だぜ! 相手はベノムウルフの改造体だぞ。そこら辺の剣じゃへし折っちまうくらい強いんだぞ」
「心配してくれてありがと。でも、大丈夫。この剣は、鍛冶屋の親方さんがあの狼用に鍛造した奴らしいから」
そういって見せてくる剣は、確かに自分が持っているものと同じ、頑丈で有名な鍛冶師が作ったものと示す紋章が入っている。
「ここに来るとき、親方から『自衛用にもってけ!』って渡されたものだね」
「ぶ、武器の話を言ったのはたとえでだな……」
カムイもこんなことを言うあたり、止める気はないようだ。そして、
「来るわよ……!」
言っている間に、最初に出てきた2体のベノムウルフが走ってきた。
狙いは自分と、横後ろのリリス。
「く……頑張りすぎるなよ!」
剣士は少女の前に出て、少しでも先に攻撃を受け止めることにした。
もしもの時は、体当たりでも何でもして守ろう、と思いながら、剣を構える。
「ガアア!」
ベノムウルフは叫びと共に、突っ込んできて、そのまま体当たりしてくる。
相手にあたり、倒し、毒の爪で引き裂く。ベノムウルフが持つ戦法故、予想は出来ている。 だから、
――ガシン!
と、剣士は突進を受け止める。
倒されないように踏ん張りながら。だが、
……重てえ……!
以前戦ったことのあるベノムウルフよりはるかに重かった。
足が地面にめり込むくらいに。体格のいい自分でもこれだ。であれば、
「お嬢ちゃん。まともに受け止めちゃダメ――」
とっさの忠告を、そこまで言った瞬間だ。
「――ギャン!」
横合いから、ベノムウルフが吹っ飛んできたのは。そのまま、目の前の一体を巻き添えにして、地面を転がっていく。
そして、吹っ飛んできた方向を見ると、そこには、
「あっ、ごめんなさい。貴方の相手ごと吹っ飛ばしちゃった」
両手で剣を振り抜いた姿勢の、リリスがそこにいた。
――――――――
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