第8話 竜のいる薬屋の患者一人目
扉を開けた先には、筋骨隆々の中年の男がいた。
近場で鍛冶師をやっている男性で、俺は親方と呼んでいる。
「どうしたんだい、親方?」
「ああ、先生。すまねえが、このゴーレムスライムを診てほしいんだ」
そういって視線で示されたのは、彼の背後、横になった状態で台車に乗せられている、表皮が岩石で出来た人型スライムだ。
熱に強いという特性を生かして鍛冶師の手伝いを行っている姿をよく見たのだが、今はぐったりしている。そして台車は、スライムの下敷きになって、半壊していた。
「今朝から動けなくなっちまってな。台車でここまで来たんだが、どうにも重くて車輪が壊れちまって。往来の親切な人が手伝ってくれたんだが、それでも動かなくてな」
なにやらスライムの周りに数人いると思ったが、近所の住民たちだ。
「店の中まで運べない上に、周りの皆にも、入り口の邪魔になっちまって本当に申し訳ねえ。一緒に弟子に新しい台車と、力自慢のやつらを呼びに行かせてるんで、それまで勘弁してくれ」
矢継ぎ早に、親方は言ってくる。随分慌てているようだが、
「気にしない良いよ親方。というか、運んできたってことは、痛くて動けないってわけじゃないんだね?」
聞くと、ゴーレムスライムは僅かに頷いた。
「なら、とりあえず、重量生物用の診察台に運ぼうか。ここで見るより記録も取れるし」
診察台には、体重などを記録する魔法が掛かっているのだが、重量生物用にはそれに加えて保護の魔法が掛かっている。なので、こういった重い召喚獣でも寝かせることが出来るのだが、
「運ぶって……すげえ重いぞ? 弟子と、手伝ってくれた人ら運ぼうとしてもうんともすんともいかねえくらいに」
確かに、大きさ二メートル以上の岩石だ。中身がいくらかスライムで出来ているといっても数人では持ち上げるのはきついだろう。なので、
「大丈夫。コレを使うからさ」
俺は懐から、赤色の液体が入った瓶を取り出す。それを一口飲んでからゴーレムスライムに近づき、
「それじゃあ、慎重に持ち上げて……っと!」
――ゴウッ
という重みのある音と共に、ゴーレムスライムを、両手でお姫様を抱き上げるように持ち上げた。
「すげ……!」
先ほどまで手伝っていた近所の人たちが歓声に近い声を上げる。
「うお、俺たちではびくともしなかったのに……! 流石だぜ先生……!」
親方は目を見開いている。
「……!?」
ゴーレムスライムはゴーレムスライムで微妙に頬を赤らめた気もするが、まあ、気にせず運ぶ。
「先生が飲んでるそれ、パワー増強薬だろ? たまにでっかいのを相手にするとき飲んでるのを見たことあるけど、良いなあ。……俺もあったら、こいつを運べたんだけどな」
「あはは、これは副作用が強いから、薬品慣れしている人以外おすすめ出来ないかな」
毒耐性があればメリットを多めに享受できるけど、一般的には飲んではいけない成分であるとは思う。
毒好きとしては悲しいことではあるが、無理に飲んでもらうのは違うし。
「弱めのものでも、この重さならどうにか運べるものが店で調合できるから、ぜひ買って行ってくれ」
「ああ、帰り際にまとめて買わせてもらうよ。ありがとう!」
親方や近所の人たちに宣伝しつつ、俺はゴーレムスライムを診察台まで運び、今日一日目の患者を相手にしていく。
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