第21話 『作戦と動揺』

 俺が二人に抱いていた気持ちが、速攻でバレてしまった。

 その後はクラス中でてんやわんやのお祭り騒ぎになり、俺は男子達に揉みくちゃにされるし、フローラとフレイアも女子達にキャーキャー言われていて、波乱万丈の始業式が終わったのは昼のチャイムが鳴った後だった。

 フローラとフレイアの噂を聞きつけて他の学年やクラスの人も来ていたらしいけど、教室内がお祭り騒ぎで入っては来なかったらしい。

 

 らしいというのは、渦中の中心である俺達がそれどころじゃ無さ過ぎて、家に帰ってようやく落ち着けたからだった。


「…………」

「…………」

「…………」


 ……しかし。

 落ち着くを通り越して、気まずかった。

 いつものようにリビングのテーブルに座る俺達三人は全員が俯いている。

 俺も、隣に座るフローラも、対面にいるフレイアも……全員。


 何故なら俺が二人の事を本気で好きだと知られてしまったからだ。

 教室ではクラスメイトに囲まれてその続きが出来なかったけど、こうして家に帰って顔を合わせればそりゃあ続きが発生する。

 だけどタイミング的にかなり遅すぎたせいで、こうして気まずさだけが残ってしまっていたんだ。


「アゥ……アゥゥ……」


 チラッと隣を見れば、フローラが真っ赤な顔に両手を添えて俯いていた。

 可愛い……じゃなくて、この状況なら絶対に俺から話した方が良いよな?


「……むぅ」


 しかしその一方で、対面に座るフレイアは何か難しい顔をしている。

 それがまた双子姉妹同士でも対照的で、俺に緊張を走らせた。


「え、えっとさ」

「助かったわ、ナオツグ」

「……え?」


 勇気を出して喋り出したら、フレイアと声が重なってしまう。

 急な言葉にあっけにとられてしまった俺に、彼女はふぅと安堵の息を吐いて言葉を続けた。


「これでアタシの作戦は成功よ!」

「さ、作戦……?」


 かと思えば、フレイアが急にドヤ顔になる。

 何が何だかさっぱりな俺は頭が混乱して、彼女の言葉を待つ事しか出来なかった。


「ほら、アタシもネエサンも同じ顔だし、どっちも美人でしょ?」

「……はい」


 面と向かって言うには恥ずかしかったけど、好きと言ってしまった手前で否定は無理である。

 言ってる事は事実なんだけど、それを自分で言えるフレイアはかなりの自信家だ。


「ウァ、ゥゥ……」


 ほら、姉のフローラはこんなに恥ずかしがってるのに……。

 いや、これひょっとして、俺が頷いたから恥ずかしがってるのか……?


「だから、向こうカナダでもこっちで言うコクハクとか、かなりされてきたのよ。まあ多少の文化は違うけどね、詰め寄ってくる点では似たようなものよ」

「ああ、うん……」

「安心しなさい? アタシもネエサンも、ナオツグが思うオツキアイを、誰かとした事は無いわよ?」

「うっ……」


 こっちの心を見透かしたかのようなウインクに、俺はドキッとしてしまう。

 フレイアは美人で綺麗で可愛いだけじゃなくて、駆け引きでもかなりのやり手だった。


 してやられたけど、安心したのも事実で……。


「だからまあ、留学先でも注目の的になるだろうなってのは分かっていたわよ。日本のアニメとかでもそうでしょ? 美人な双子の留学生だもん、アタシたち」

「まあ、そうだけど……」

「だから助かったのよ。ナオツグが先に牽制してくれてね? アタシはパパ達みたいな立派なドクターになる為に日本へ留学に来たのに、色恋なんかに現を抜かしてられないもの」

「なる、ほど……」


 それで合点がいった。

 そうじゃなきゃフレイアも、急に俺たちの関係でお互いに恥ずかしい所を見せあった仲とか言わない筈だ。


 けれどそれは逆を言えば、遠回しに恋愛はしないと言っていたんだ。


「だ・か・ら、とりあえずアタシたちの関係は周りが想像する事に乗っかっちゃいましょ? もちろん、アタシと違ってネエサンとは本気になっても良いけどね?」

「は、はぁ!?」

「れ、レイアっ!?」

「ふふふ、冗談よ冗談! よし、じゃあアタシは夕飯の買い物に行ってくるから、後は若い二人でごゆっくり~!」

「あ、ちょ、ちょっと!?」


 有無を言わさず、レイアはリビングを飛び出して行ってしまった。

 それを引き止める事は叶わず、俺とフローラは二人っきりになってしまって……。


「あ、えっと……とりあえず……これからも、よろしく……」

「は、ハイ……」


 あんな事を言われて、意識するなという方が無理な話である。

 俺とフローラはお互いに顔を見つめた後、恥ずかしさで同時に顔を逸らしてしまった。


 これは、脈ありという事で良いんだろうか?

 恥ずかしさの中で、そんな事を考えながら……。


  ◆


「っっっっっぅぅ~……」


 そんな俺達が悶々としている中で、リビングを出た扉の先ではフレイアが顔を押さえてその場に座り込んでいた。


「ナオツグのばかぁ……何でネエサンじゃなくて、アタシまで好きなんて言うのよぉ……」


 その顔は姉のフローラ同様に真っ赤になっている。

 それどころかいつもの勝気な瞳も潤んでいて、どこか弱弱しい女の子の一面が見れただろう。


「平常心、平常心……アタシは、アタシの手で、ネエサンとナオツグに幸せになってもらうんだからぁ……!」


 でも当然……部屋と扉を隔てているので、俺とフローラがその顔や本心を知る事は出来なかったんだ。

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