第19話 『フレイアのカイトウ』
「カナダからやってきました! フローラ・L・クロフォードです! みなさんっ、よろしくお願いしま~す!」
「ネエサンと同じく、カナダから来たフレイア・L・クロフォードよ。日本語は沢山勉強して来たから、気軽に話しかけてきてOKよ」
教壇に並んで立った二人がスラスラと自己紹介を始める。
それはカチコミとか言って入って来た時が嘘のようにマトモな自己紹介だった。
「うわぁ、すっごい綺麗……」
「日本語マジで上手だな……」
「双子で美少女って、最強じゃん……」
「俺も二人にカチコミしたい……」
「ジュテーム……(愛してる……)」
「お前それフランス語だろ」
そのおかげか、クラスメイト達の反応は上々というか、ほとんどの生徒が二人に見惚れていた。
この様子なら、二人がすんなり受け入れてもらえそうで安心できる。
……一部、様子がおかしい奴がいる気がするけど。
「はーいっ! と、いう訳で僕たちのクラスにカナダから勉強に来てくれたフローラちゃんとフレイアちゃんだよっ! 皆ーっ、仲良くしてあげてねーっ!!」
そんなクラスの様子を見て、空霧先生も嬉しそうに身振り手振りで喜びを表現している。
フローラとフレイアの背が高くてスタイルが良いのもあってか、隣にいる空霧先生がいつもより子供っぽく見えるのは気のせいじゃないのかもしれない。
「二人は今、直嗣くんの家にホームステイしてるからー、とりあえず直嗣くんの近くの席で良いかなーっ?」
そんな無邪気な子供のような言葉が、教室中に広がって――。
『は?』
――と、誰かの声が重なって聞こえた。
主に、クラスの男子生徒達の声だった気がする。
「はいっ! ワタシもナオツグの隣が良いです! ナオツグ~!!」
「そうね。最初だし、アタシもナオツグの近くの方が安心するわ」
それに追い打ちをかけるように、二人も俺の名前を連呼する。
しかもフローラにいたっては、完全に教室の端の席にいる俺の方をロックオンしてブンブンと手を振っていた。
「直嗣って……尾津の事だよな?」
「ああ、めっちゃ手を振ってる……!」
「美少女二人がホームステイ、だと……!?」
「つまり、一つ屋根の下って事!?」
「俺、尾津にカチコミするわ」
「テュエ(殺す)」
「だからそれフランス語だけど……許す、やれ」
――ざわざわざわっ!!
波紋が波紋を呼び、教室内が一気に混沌と化していく。
クラスメイト達は教壇の前にいる二人と教室窓側一番端にいる俺の顔を見比べながら思い思いの言葉を口にしていて、一部過激な生徒は主に俺をガン見していた。
「み、皆……っ? お、落ち着いてよーっ!」
ある意味で暴徒に変貌しそうなクラスメイト達を目の当たりにした空霧先生が慌て出す。
空霧先生は悪くない、純粋なだけだ。それに二人のことを思っていったのだろう。
俺だって、二人の事を好きになってしまった手前で下手な言い訳はしない。
甘んじてこの暴徒たちを受け入れて戦っていくつもりで――。
「一つ、質問良いかな?」
――そんな中で、すっと手を上げる一人の生徒がいた。
そいつは教室の一番前の席に座っていて、物理的にも一番空霧先生や双子二人と近い位置にいる。
「ゆ、優斗くんっ?」
「ラブハンターだ……」
「あのイケメンが動き出したぞ!」
「尾津っていう新しい敵が出来たと思ったのに、アイツまで動くのかよ……!」
「恋愛戦国時代が始まるって事か……!?」
「セラゲール……(戦争だ……)」
「そろそろ日本語で喋ってくんね?」
そう、俺の幼馴染……優斗である。
クラス、いや学年一のイケメンと言って良い完璧超人の模範的な背筋を伸ばした挙手に、騒いでいた教室中は静まり返った。
優斗は俺の事情を知っている唯一のクラスメイトだ。
何だかんだ言っても、最後に助けてくれるのは幼馴染なのかもしれない。
「ずばり……二人は直嗣と、どういう関係なのかな?」
あ、違う。
これ絶対に本人もこの状況を楽しんでるだけだ。
幼馴染だからとかじゃなくて、単純に興味から聞いてるタイプの質問だ。
でもその質問はクラスメイト達も知りたかった事らしくて、全員がフローラとフレイアの回答を黙って待っている。
つまり、俺の平和な学園生活は完全に二人に委ねられていたんだ。
「……! よくぞ聞いてくれました~! ナオツグとワタシたちは」
「ネエサン、アタシが答えるわ」
そんな運命の質問に嬉々として答えようとするフローラをフレイアが制止する。
た、助かった……。
フローラは油断するとカチコミとか言い出すから、ここはフレイアに任せた方が安心でき――。
「ずばり、ナオツグとアタシたちはお互いに恥ずかしい所を見せあった仲よ!」
――俺の平和な学園生活が、終わった。
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