第18話 『フローラのカチコミ』
「楓ちゃーん! 俺たちも嬉しいよーっ!!」
「もおーっ! 楓ちゃんじゃなくて、先生って呼ぶ事ー! でもありがとうー!」
クラスメイトの一人がお茶らけて大声を出すと、空霧先生は笑いながらそれを注意する。
生徒側が一方的にからかってるみたいに見えるけど、一人一人とちゃんと信頼関係を築いているからであって、間違った事をすればしっかりと叱ってくれる厳しさと優しさも持ち合わせているんだ。
だから空霧先生はその見た目通りの人当たりの良さもあってか、俺たちクラスメイトだけじゃなくて全校生徒たちに大人気なんだ。
噂ではファンクラブがあって、生徒だけじゃなくて男教師も入っているらしい。
難関有名私立高校も入ってしまえば逆に緩いという事だろうか。
いや、勉強のレベルはとんでもなく高いんだけどさ……。
「そんな優しい皆に、今日は嬉しい発表があるよーっ!」
――ざわっ!
空霧先生が言った言葉で、瞬く間に教室の雰囲気が変わった。
さっきまでは愛らしい担任の先生とまた一年間一緒に過ごせるんだと和気あいあいとしていたのに、そのたった一言で空気がピりついた。
男女問わず、やっぱり留学生が気になっているんだろう。
空霧先生の一言は、この教室に留学生が来ると言っているようなものだからだ。
「…………」
それで何故俺がこんなに冷静かと言えば、職員室に二人を連れて行った時に空霧先生から直接ネタバレを食らっているからである。
◆
『フローラちゃんにフレイアちゃん! 会えて嬉しいよっ! これからよろしくねっ! 困ったことがあったら同じクラスメイトだし、いつでも尾津くんに頼って良いからっ! こう見えて尾津くん、とっても頼りになるクラス委員長なんだよっ!』
『知ってます! ナオツグは凄いんです!!」
『へぇー、やるじゃない。ナオツグ?』
職員室で空霧先生から期待の眼差しを向けられ、それに何故かフローラも同調していた。
当然職員室は他の先生もいるので注目されるけど、そんな多くの視線よりもすぐ隣にいるフレイアのニヤケ顔の方が恥ずかしかったのは、やっぱり親しい仲だからだろうか。
◆
でもやっぱり、朝の時点で二人が同じクラスになるのは確定してた訳だけど、別々にならずに一緒のクラスになれたのは正直に嬉しかった。
そこもまあ、フレイアは医者を目指しているって言ってたし織り込み済みな気がするけど……。
「その様子だと皆知ってるみたいだし、校長先生みたいな長い話は抜きだよっ! じゃあ留学生の二人ともーっ! 入ってきて良いよーっ!」
そんな俺が二人の事を考えている間にも、空霧先生の進行は言葉通り校長先生の話なんかよりもずっと早く進んでいく。
――二人?
何も知らないほとんどのクラスメイトたちは、多分こう思っただろう。
でも、そんな疑問は一瞬で消え去る事になったんだ。
「ジャパニーズ! カチコミ! いざっ!!」
「だからネエサン、それ意味違うって……」
――ガシャアアアアアアアアンッ!!
だって、金髪碧眼の美少女が、フローラが……意味不明な事を言いながら思いっきり教室の扉を引いて入って来たんだから。
激しく扉が揺れる音がして、ふわふわで金色の髪を揺らしながら絶世の美少女が意気揚々と教室に入ってくる。
その後ろに、ほとんど同じ顔のフレイアが苦い顔をしながらついてきていた。
情報量の暴力。
もう一回言おう。
金髪碧眼の美少女留学生が、カチコミという言葉を使って教室の扉を叩きつけるように開いて入って来て、その後ろには更にその女の子とそっくりな顔をしたもう一人の美少女がいる。
空霧先生が前置きを挟んでいたとしても、そのとんでもない情報量を孕んだ怒涛の展開に教室中は喜びよりも困惑に包まれて。
「…………」
ある意味で家と変わらないその姿に、俺は一人教室の隅で頭を抱えていたんだ。
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