第17話 『主人公の気分』
ついに高校二年生の学生生活が始まった。
新しい教室、変わらないクラスメイト、既に出来上がった友人コミュニティで集まり、同じようで新鮮な朝の時間を各々が過ごしている。
始業式の今日は二人に学校生活の説明があるので、いつもよりかなり早い時間に登校した。
そのおかげで俺たち三人が一緒に歩いている所は誰にも見られなかったから、騒ぎにはなっていない。
フローラとフレイアの超絶美少女双子姉妹なら、すぐに学校中で注目の的になるのは間違いだろう。
だから無事に始業式が終わり新しい教室に戻った俺は、先生が来るまでの僅かな平和を楽しんでいたんだ。
「おいみんな聞いてくれ! 今年の留学生! すっげー美人らしいぞ!?」
「マジか!? ていう事は女の子なんだな!? そうなんだな!?」
「いやいや待ってくれ! 俺は美人じゃなくて可愛い系って聞いたぞ!?」
「どの国から来たとか分かるか!? 俺、今日の為にフランス語勉強したんだが!」
いや、平和なんてものはなかった。
人の噂とは足が速いもので、きっと何らかの形で職員室に行った誰かがフローラとフレイアを見たのだろう。
教室の男子生徒たちは大興奮で、それを女子たちが冷ややかな目で見ている。
かく言う俺は机に深く座りながら、なるべく無心を貫いていた。
あの二人のことを考えるだけで、頭が痛くて吐きそうだったからである。
「ふふふ、どうだ直嗣? 主人公の気分は?」
「うおっ!? ゆ、優斗!? って、ていうか何だ主人公の気分って……」
そんな俺の心の隙間をついて、いや普通に話しかけてくる男がいた。
コイツの名前は優斗。
春休みにも急に俺がいる公園に現れた、神出鬼没のイケメン幼馴染だ。そんな意味不明な男が俺の机に手をついてニヤけながらイケメンスマイルを向けてくる。
最初こそ急に話しかけられたせいで凄く驚いたけれど、よく見れば見るほど憎たらしい顔だった。
「そのままの意味だが? ラブハンターの俺は古今東西のラブ&コメディを網羅してきているからな、実際にそんなラブ&コメディな状況下に置かれている物語の主人公のような幼馴染の感想が聞きたくてな」
「……緊張で吐きそう」
「エチケット袋はいるか?」
「……何で持ってんだよ」
「俺がお前の友だから、かな」
イケメンが学生服の胸ポケットから綺麗に折りたたんだエチケット袋を取り出して、俺に渡してくる。
学校行事のバス旅行で椅子の網にかかっているような、ちゃんとしたエチケット袋だった。
「病は気からと言うだろう? いや、プラシーボ効果だったか? 何にせよ、このエチケット袋がお前の気持ちを楽にしてくれるだろう!」
「……確かに楽になったけど、お前への困惑のせいだよ」
「結果オーライと言う言葉について語ろうか?」
「いらない」
幼馴染の気持ちだけ受け取って、手渡されたエチケット袋と一緒にそっと返す。
優斗はそれを何も言わずに受け取ると、また同じように学生服の胸ポケットにしまった。
普通そういうのって、ハンカチとかじゃないんだろうか?
「軽口を言う元気はあるのなら大丈夫だな。俺も自分の席に戻るとしよう」
「え? お前それだけの為に来たの?」
優斗はイケメンの顔を余すことなくフッと笑みを浮かべる。
窓側から出席番号順に並んでいる二年生教室の初期配置は、尾津で始まる俺が教室の窓側一番後ろで、河海で始まる優斗が窓側から二列目の一番前だった。
わざわざ俺を心配して、来てくれたんだろうか?
「俺もあの大興奮している男子の集会に混ざりたかったが、ネタバレを食らっているのでな……」
優斗は寂しそうな目で、騒いでいる男子たちを見つめる。
ちょっとでも嬉しくなった俺が馬鹿だったのかもしれない。
「……それに、もう時間だ」
「えっ?」
――パチンッ。
優斗が俺に背を向けながら指を鳴らす。
――キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……。
すると、その瞬間にチャイムが鳴り響いたんだ。
「あ、やべっ!」
「座れ座れっ!」
「楓ちゃんに怒られるぞっ!」
それを合図に騒いでいた生徒たちが大慌てで各々の席に座っていく。
変な所で統率力があるクラスメイト達だ。
そんなクラスメイト達より何も見ていないのにチャイムが鳴る時間をピッタリと当てて指パッチンをしながら颯爽と帰っていったイケメン幼馴染の方が気になるんだけど……。
そんな事を思っていると、ガララッと教室の前にある扉が開いたんだ。
「やあやあ皆ー! おはよーうっ!」
入って来たのは、見慣れた担任の先生だった。
一年生の時と同じ担任の彼女は、上下赤いジャージがトレードマークの先生だ。
丸眼鏡に二つに結んだおさげが特徴的なそのスタイルは、彼女が教師に憧れるきっかけになった人物のものらしい。
「皆がっ! 無事にっ! 二年生になれてっ! 僕もっ! 嬉しいっ! よっ!」
――ピョンピョン!
そんな我らが先生は、教壇に立って教卓に手を置くと、ピョンピョンと飛び跳ねながら席に座っている俺たち一人一人の顔を見ようとしている。
俺たちの担任教師の名前は、
年齢は二十七歳の体育教師で、身長は一四二センチと非常に小柄だ。
その背丈のせいで二つに結んだおさげはツインテールにしか見えないし、ジャージも相まって小学生もしくは中学生にしか見えなかった。
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