第14話 『双子式セラピー』
「ナオツグ、力抜いてくださいね~」
「リラックスしてて良いからね?」
「お、おう……」
双子姉妹から声をかけられる。
当然、リラックスなんて出来る訳が無かった。
右手側には姉のフローラが、チアガール衣装を着て俺の手を揉んでいる。
左手側には妹のフレイアが、薄桃のナース服を着て俺の手を揉んでいる。
そして間にいる俺は、上半身裸でベッドの縁に座っていた。
何だこの状況……何だこの状況!?
誰がどう見ても、俺の部屋がいかがわしい空間になってしまっていたんだ。
「ナオツグの手、おっきいです……」
「本当ね。男の子の手って感じ……」
「お、うお……」
左右から双子美少女が呟きながら俺の手をマッサージしてくる。
双子だからか触る場所や順番は同じなのに、伝わる感触はまるで違っていた。
フローラは優しく包み込んでくれるように慎重な触り方。
フレイアは的確にツボを押していて気持ちいい触り方だ。
そんな二人が間にいる俺に左右から囁きながらマッサージをしてくれている。
この状況だけで頭がどうにかなりそうだった。
「ナオツグ、癒されてくれていますか~?」
「そうよ? 気持ちよくなってくれてる?」
「あ、あぁ……すごく……気持ちいいよ」
何ですかこれは、本当に何ですかこれは。
いつも献身的な姉のフローラに影響されてか妹のフレイアも距離が近くて、逆にフレイアの積極性に影響されてかフローラからグイグイ来る。
これが双子の相乗効果ってやつなのだろうか。
双子姉妹が俺を気遣ってくれているその姿に嬉しい反面、心が汚れてしまっている俺は興奮を我慢する事に精一杯だった。
「声、我慢しなくて良いんですよ~?」
「気持ちいい時はちゃんと声だして?」
「は、はい……」
あ、無理だこれ。
マッサージならギリギリ……本当にギリギリ何とかなったかもしれないけど、二人の囁き付きだと本当に無理だヤバいこれ。
何かもう言ってること全部意味深に聞こえるし、耳がずっとゾワゾワしてるし、何より距離が近くて俺の部屋じゃないみたいに良い匂いなんだ。
何故出会って数日しか経ってない俺にこんな尽くしてくれるのか分からない。
でも、二人のマッサージに、その献身的な姿に、どんどん癒されていく俺は――。
「……ありがとう」
「えっ!?」
「えっ!?」
――気づいたら、何故か涙を流していたんだ。
そんな俺に、二人の驚きの声が左右から聞こえてくる。
「え? あれ? な、何で……?」
でも俺は、それどころじゃなかった。
自分でもどうして涙が流れ出したのか分からない。
二人に良くしてもらって嬉しい筈なのに、癒された筈なのに、何も悲しくないのに、自分が泣いていると自覚した瞬間にどんどん涙が溢れてくる。
この気持ちは、いったい何なのだろうか……。
「……ナオツグ、大丈夫ですよ~」
「……ええ、アタシたちがいるわ」
「……あっ」
そんな突然涙を流し出した俺に、二人は訳を聞く事もせずに両側から抱きしめてくれたんだ。
それは抱きつくと言うより泣く俺の顔を隠すように胸で抱くに近い。
でもその優しさと柔らかさが、二人の温もりが俺を包んでくれてどんどん心が安らいでいくんだ。
「このままゆ~っくり、癒されてくださいね~」
「静かに目を閉じて、心臓の音に耳を澄ませて」
両側から二人の声が、そして心音の鼓動が聞こえる。
フローラの方が少し……いやかなり早くて、双子なのにこんなに違うんだと少し楽しい気分になった。
でも俺を包んでくれるこの胸の音が本当に心地良い。
どうして突然涙を流してしまったのかという不安と混乱が二人に包まれていくみたいで、このまま意識を失って眠ってしまったら、どれだけ幸せなんだろうか。
「ナオツグ……おやすみなさい」
「ゆっくり、楽しい夢を見てね」
そう思った瞬間に睡魔が襲ってきて、それに背中を押すようにフローラとフレイアの優しい声が聞こえる。
定期的に聞こえる心臓の音が、日差しの良い春なのにそれ以上にあたたかな温もりが、まるであの日のように冷たい水の中にいた俺を包んでくれる。
――あれ? あの時も、確か……。
まどろんでいく意識の中で何かを思い出そうしたけれど、それは眠りと一緒に沈んでいく。
だけど、この事がきっかけで、俺にある変化が訪れたんだ。
フローラとフレイア。
そっくりだけど全然違う。この双子二人の事を、本気で……。
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